人材派遣会社・人材紹介会社の労働問題

1 人材派遣・人材紹介会社の労務における特徴

 当事務所では、人材派遣業、人材紹介業を営んでいる会社との顧問契約も多く、人材派遣会社、人材紹介会社特有の労働問題にも精通しています。また、派遣先企業から労働者派遣法についてのご相談を受ける機会も多いです。

 人材派遣会社も、人材紹介会社もプロパーの従業員を雇用していますので、一般の会社と変わらない労働問題も発生します。

 人材派遣会社において相談が多い労務問題としては、派遣先が休業となった場合の派遣労働者の労働問題、派遣先から派遣労働者の交代を要請された場合の派遣労働者への対応、派遣労働者の解雇・雇止めの労働問題、派遣法改正による同一労働同一賃金への対応の労働問題などです。

 人材紹介会社特有のご相談としては、職業安定法等関連法規や厚労省の職業安定法に関する指針への抵触の有無などのご相談が多いです。事案によっては、行政指導や勧告、企業名の公表、罰則などの余地もありますので、適法に対応することが必要となります。

 

2 人材派遣業特有の労務問題

(1)派遣先が休業となった場合の派遣労働者の労働問題
(2)派遣先から派遣労働者の交代を要請された場合の派遣労働者への対応
(3)派遣労働者の解雇・雇止め
(4)同一労働同一賃金
(5)労基法等関連法令の派遣元と派遣先の責任分担

 

3 人材紹介業特有の労務問題

(1)職業安定法の遵守
(2)厚労省の職業安定法に関する指針の遵守
(3)職業安定法の改正に伴う対応(契約書・求人求職サイトの規約等の点検)
(4)求人情報の的確な表示

 

4 人材派遣会社の労働問題

(1)有期雇用・無期雇用

 認識しなければならないのは、人材派遣会社も派遣労働者と有期雇用・無期雇用の労働契約を結んでおり、派遣労働者に対し、労基法、労働契約法、労働安全衛生法等、労働関連法規上の責任を負っているという点は、通常の雇用契約と異ならないということです。

 最近は、優秀な派遣労働者の獲得という観点から、いわゆる登録型派遣の有期雇用契約ではなく、無期雇用契約の派遣労働者を増やしている会社もありますが、無期雇用の場合は、派遣先との契約が終了した場合も解雇等は難しいことが多いため、派遣先が見つからない場合に休業手当の支払い等が必要となる場合もあります。人材派遣会社は、有期雇用・無期雇用のメリット・デメリットをきちんと理解した上で、人材派遣市場の需要と供給も考慮し、多角的観点から人事制度を設計し、採用計画を立てていくことが重要となります。

 このほかにも、派遣法に関連する人材派遣会社特有の労働問題も生じます。

(2)労働問題が発生したときのリスク・弊害

 解雇や雇止めなど、労働問題が紛争化すると、派遣労働者は、弁護士による内容証明送付から始まる交渉、労働局のあっせん、派遣法違反等であれば労働局への申告、労基法違反であれば労基署への申告、調停、労働審判、訴訟、外部の労働組合に加入し、団体交渉の申入れなど、紛争の内容にかかわらず、派遣労働者によって複数の手段を選択でき、どの手段を取るかは、派遣労働者次第という問題があります。

 派遣法違反や労基法違反の場合、行政指導や勧告、企業名の公表、事案により罰則などの適用もあり得ます。また、これら行政への申告の場合、申告した派遣労働者1名の問題ではすまなくなり、全従業員に影響を及ぼす問題に発展することもあります。

 外部の労働組合への加入・団体交渉を選択した場合、交渉に慣れた外部の労働組合との団体交渉を余儀なくされ、精神的にも、時間的にも非常に多くの労力を取られます。本業に影響するような大きな紛争になってしまった会社もありました。

 また、紛争の予防のためには、派遣先との労働者派遣契約書や、派遣労働者との労働条件通知書兼雇用契約書、その他派遣法に基づき交付すべき文書の内容を整備することが重要である側面もあります。

 そのため、人材派遣会社は、当事務所のような労働問題に精通した弁護士に、紛争が起こっていない段階から相談し、連携し、文書等のチェックを行い、紛争が現実化してしまったときには、紛争が拡大せずに解決に導くために、顧問契約等を通じて、労働問題に精通した弁護士との連携をお勧めします。

 また、いわゆる登録型の人材派遣業をメインとしている人材派遣会社ではなく、取引先に労働者を派遣する需要が発生するなどして、本業に加えて人材派遣業の許可を取得して派遣をしている会社の場合、派遣先は取引先に限られるし、大きな労働問題に発展することはないだろうと考えていらっしゃることもありますが、労働者を雇用している以上労働問題は起きるときは起きますし、人材派遣業をしていることにも変わりがないので、人材派遣業特有の労働問題も起きることはあります。

 特に、人材派遣業の場合、派遣労働者は、派遣元である自社と派遣先の両方に訴訟提起したり、団体交渉の申入れなどを行う場合が多く、取引先も巻き込んだ紛争になりかねません。

 紛争の種類によっては、すべてを事前に防ぐことはできませんが、労働問題に精通した弁護士と事前に連携し、予防しておくことによって、事前に防ぐことができる紛争もありますし、紛争化した時も、慌てずに冷静に対処し、紛争を大きくしないで解決することを期待できます。

 ぜひ、何も起きていない段階から、当事務所のような、労働問題の経験豊富な弁護士と連携しておくことをお勧めします。

(3)労基法等関連法令の派遣元と派遣先の責任分担

 労基法、労働安全衛生法等労働関連法令上の責任は、原則として使用者である派遣元が負っていますが、労働者派遣では、派遣先が派遣労働者に指揮命令し、業務を行わせるため、一部の規定について、派遣先も責任を負います。

 例えば、労働時間、休憩、休日などの規定の責任は派遣先が負っており、派遣先が派遣労働者に時間外労働・休日労働を行わせるためには、派遣元で36協定を締結し、労基署に届け出ている必要があります。

 36協定の範囲を超えて時間外労働を行わせた場合、派遣先は労基法違反となりますので、派遣先は、派遣元の36協定の内容を把握しておく必要があります。

 また、派遣元も、労働者派遣法により、労基法に抵触している派遣先に労働者を派遣した場合、派遣元も労基法に違反したものとみなされます。休憩時間を与えられない派遣先に労働者を派遣していた事例で、労基法に抵触しているにも関わらず、派遣を停止しなかったとして派遣元が送検された事例もありますので、注意が必要です。

 

5 人材紹介会社の労働問題

(1)職業安定法の遵守

 当事務所では、人材紹介業を営んでいる会社との顧問契約も多く、人材紹介会社特有の労働問題にも精通しています。

 人材紹介会社もプロパーの従業員を雇用していますので、一般の会社と変わらない労働問題も発生します。

 人材紹介会社特有のご相談としては、職業安定法等関連法規や厚労省の職業安定法に関する指針への抵触の有無などのご相談が多いです。事案によっては、行政指導や勧告、企業名の公表、罰則などの余地もありますので、適法に対応することが必要となります。

 人材紹介は、職業安定法において規律されていますので、求人情報の的確な表示、個人情報の適切な管理等、現場の営業や担当従業員も含めて、これら関連法規や指針などを遵守して運営を行っていく必要があります。

 求人情報の的確な表示については、令和4年1月1日施行の職業安定法の改正により、求人企業に対して、求人等に関する➀~⑤の情報すべての的確な表示が義務付けられました。

①求人情報
②求職者情報
③求人企業に関する情報
④自社に関する情報
⑤事業の実績に関する情報

 また、求人企業は、虚偽の表示・誤解を与える表示をしてはならず、以下の措置を行う等して、求人情報・求職者情報を正確・最新の内容に保つことが義務付けられました。

・募集を終了・内容変更したら、速やかに求人情報の提供を終了・内容を変更する。
・求人メディア等の募集情報等提供事業者を活用している場合は、募集の終了や内容変更を反映する よう依頼する。
・いつの時点の求人情報かを明らかにする。
・求人メディア等の募集情報等提供事業者から、求人情報の訂正・変更を依頼された場合には、速やかに対応する。

 求人企業だけでなく、人材紹介会社も、求人に関する情報について、虚偽の表示・誤解を与える表示をしてはならず、求人情報・求職者情報を正確・最新の内容に保つことを義務付けられました。

 職業安定法の遵守や、法改正に伴い、人材紹介契約書などのチェック・求人求職サイトの規約等のチェックの必要があり、ご相談があります。また、人材紹介会社は、求職者の個人情報についての取り扱いについて十分に注意する必要があるため、個人情報の取扱自体や、個人情報保護方針(プライバシーポリシー)のチェックなどに関するご相談があります。

(2)紹介手数料に関するトラブル

 また、よくあるご相談としては、顧客である求人企業との人材紹介契約のリーガルチェックや、顧客とのトラブルに関する相談が多いです。

 人材紹介契約では、紹介した人材が3か月など早期に自己都合退職してしまった場合に紹介料の何割かを返還する約定を結んでいることが多いですが、このような約定の解釈をめぐって紛争が生じ、紹介料の返還請求が起きたり、未払いが起こったりすることがあります。

 多くは、契約上の約定が不明確であることに起因することが多いので、事前に当事務所のような人材紹介業に精通した弁護士と連携し、契約書をチェックしておくことをお勧めします。

 紹介した人材の退職や内定辞退(内定取消)をめぐっては、その退職理由が自己都合なのか、会社都合なのか等の紛争のご相談もあります。

 また、顧客が、人材紹介契約を交わし、人材を紹介したことから採用に至ったにもかかわらず、人材紹介会社を介せずに紹介した人材と雇用契約し、紹介手数料を支払わない場合に対する違約条項やその定め方などが問題となり、ご相談になるケースも多いです。最近では、顧客の求人企業が、複数の人材紹介会社と契約しているケースも多いので、そういった場合も想定した契約条項などのご相談も多いです。

 そのほか、多いご相談としては、求職者を紹介してくれた紹介者への謝礼や、人材紹介が成立して入社した場合の求職者へのお祝い金などが指針に抵触するかどうかなどのご相談です。

 厚労省は、指針を改正し、人材紹介会社が、「就職お祝い金」などの名目で求職者に金銭等を提供して求職の申し込みの勧奨を行うことを禁止しました。職業紹介事業者が、自ら紹介した就職者に対し転職したらお祝い金を提供するなどと持ちかけて短期間でさらに転職を勧奨し、繰り返し紹介手数料収入を得ようとする事例があるためです。

https://www.mhlw.go.jp/content/000747063.pdf

 人材紹介会社についても、何も起きていない段階から、当事務所のような、経験豊富な人材紹介業の労働問題に精通した弁護士と連携しておくことをお勧めします。

 

6 人材紹介・人材派遣業の方にロア・ユナイテッド法律事務所がサポートできること

 当事務所では、平成16年から、事務所の所属弁護士により、主として人材派遣業や人材紹介業の法律問題や労務問題についてQ&A方式で解説した、第一法規株式会社の加除式出版「人材サービスの実務」を共著で執筆しており、同書は、年2回ほど補正や新規Q&Aを追加していますので、当事務所の所属弁護士は、人材派遣業や人材紹介業の新しい問題について、常に執筆しています。紛争解決実績に加えて、人材派遣業界、人材紹介業界の労働問題に精通しています。

 トラブルは起きてからでは、手遅れになります。ぜひ、何も起きていない段階から、当事務所のような、経験豊富な、人材派遣業界、人材紹介業界の労働問題に精通した弁護士と連携しておくことをお勧めしますので、ご相談ください。

Last Updated on 2023年8月22日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。

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