1 労働審判とは
労働審判とは、個々の労働者と事業主(会社、個人事業主等)との間の労働関係の紛争を迅速、実効的に解決するための手続です。
労働審判手続は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会が行います。労働審判員は,雇用関係の実情や労使慣行等に関する詳しい知識と豊富な経験を持つと認めれる者の中からあらかじめ裁判所によって任命されています。労働審判員は、中立かつ公正な立場で審理・判断に加わります。
労働審判の対象となる事件は、個々の労働者と事業主との間に生じた紛争です。例えば、解雇に不満を持つ労働者が解雇の効力を争ったり、労働者が残業代の支払を求めるなどして手続きが利用されています。このほか、ハラスメントなどについても労働審判で争われることがあります。
労働審判は、申立⇒期日指定・呼出⇒答弁書等の提出⇒第1回労働審判手続き実(原則として第3回まで)という順序で進行します。
当事者の話し合いでまとまれば調停成立となり、事件解決となります。
話し合いがまとまらない場合には、労働審判委員会が、審理の結果認められた当事者間の権利関係と手続きの経過を踏まえ、事案の実情に即した判断(労働審判)を示します。労働審判に対し2週間以内に異議の申立てがなければ,労働審判は確定し、その内容によっては強制執行を申し立てることもできるようになります。 一方、労働審判に対し2週間以内に異議の申立てがされれば、労働審判は効力を失い、訴訟手続に移行します。
原則3回以内で手続きが終了し、平均3.5か月で終了するとの統計があります(令和5年に発表された雇用終了事案に関する統計。以下、基本的にこの統計に拠っています。)。
労働審判の手続は非公開となります。
2 あっせんとは
あっせんとは、紛争調整委員会が当事者間の調整を行い、話し合いを促進して、紛争の解決を図る制度です。
紛争調整委員会は、弁護士、大学教授、社会保険労務士等の専門家で組織された委員会であり、都道府県労働局ごとに設置されています。具体的事件においては、この委員会の中から指名されるあっせん委員が、紛争解決に向けてあっせんを実施します。
あっせん手続は、迅速に行われ、また、審理も簡便なことに特徴があります。
原則1回で終了し、あっせんの申請が受理されてから結論が出るまでの平均処理期間はおよそ2か月となっています。
あっせんでは、双方の言い分を聴取し、主張の要点を確認するものの、権利関係に関する心証形成のための審理は行われません。あっせん案の提示は、当事者の話し合いに方向性を示すために行われます。
3 労働審判のメリットデメリットと注意点
労働審判手続きのメリットとしては、訴訟と比較して迅速に解決できることがあげられます。労働審判は、原則3回以内で手続きが終了することとなっており、平均3.5か月で終了するとの統計があります。
訴訟の場合、統計によると、第一審で和解ができる場合であっても平均13.8か月を要することになります。さらに、和解できない場合には、第一審だけでなく控訴審、場合によっては最高裁への上告等まで紛争が続くことがあり、解決までさらに長引くことがあります。
そのため、訴訟の場合と比較して、労働審判では迅速に解決することが期待できます。
また、労働審判段階で事件を解決する方が、訴訟になる場合と比較して解決金額を抑えられる可能性があります。労働審判で調停または審判によって解決した場合の解決金の金額と、訴訟で和解によって解決した場合の解決金の統計があります。これによると、訴訟上の和解で解決した場合の解決金の金額は、平均値がおよそ613万円、中央値がおよそ300万円となっています。これに対して、労働審判では、平均値がおよそ450万円、中央値がおよそ230万円となっています。また、上記を労働者の月収で表記すると、訴訟で解決した場合の平均値が月収の11.3か月分、中央値がおよそ7.3か月分です。同じく、労働審判の場合には、平均値が6.0か月分、中央値がおよそ4.7か月分です。なお、平均値は一部の高額の事案に引き上げられて実態を反映したものではないとの指摘もあり、中央値の方がより紛争解決の実態を反映しているものと思われますので、金額を見る際にはその点に留意する必要があります。
以上からすると、訴訟の場合と比較すると、労働審判で解決する場合の方が、統計上は解決金を抑えられる可能性があり、その点が労働審判で解決するメリットと言えます。
また、労働審判は、手続きが非公開であるため、公開で審理される訴訟と比較すると、レピュテーションリスクが低いという点もメリットと言えます。例えば、有効とは言えない解雇をしてしまった場合、ハラスメント関連、労災関連などでは、レピュテーションリスクにも配慮しつつ解決した方が望ましい場合があります。
もっとも、そもそも、当事者が訴訟を選択するか労働審判を選択するかは事件によって異なります。弁護士が労働者から相談を受けた際には、事実関係や証拠関係に照らして、訴訟と労働審判のどちらが適しているかを選択します。そのため、訴訟になる事件と労働審判になる事件では、そもそもその性質が異なるという面があるため、一概に労働審判で解決する方が金額が少ないと断定することはできません。場合によると、訴訟でしっかりと事実認定をすれば、原告の請求が認められず、解決金がゼロないしそれに近い金額になることもあります。労働審判では、訴訟の場合よりはざっくりとした認定になるため、ある意味では事実関係が曖昧なまま解決となることもあります。その場合には、訴訟でしっかりと裁判所に事実を認定してもらい、それを前提に判決や和解にした方が解決金を抑えられるということもあり得ます。そのため、そうした事件の場合には、労働審判段階で解決すると、訴訟で解決する場合と比較して高額の解決金の支払となることもあります。この点は、労働審判手続きのデメリットと言えるでしょう。こうしたデメリットに対してどのように対処すべきかは後述します。
4 あっせんのメリットデメリットと注意点
あっせんの場合には、早期に解決できることがメリットと言えます。上記のとおり、あっせんは原則として1回で終了となり、期間も平均でおよそ2か月と早期に終了します。
この段階で終了することができれば、訴訟はもちろん、労働審判と比較しても早期解決が可能であり、この点はあっせんのメリットになります。
また、あっせんの場合には解決金の水準がかなり低くなっています。そのため、あっせん段階で解決する方が、解決金額を抑えられる可能性があり、この点もメリットになります。訴訟や労働審判まで手続きが進行してしまった場合には、あっせん段階で提示されていた解決金よりもかなり高額になる可能性もあります。
半面、あっせんでは、証拠に基づく事実認定や心証形成ということはほとんどなされません。そのため、会社側に落度がないような事案であっても、解決するためには解決金の支払いが必要になる場合があります。そのため、会社側に落度がない事案においては、訴訟や労働審判などで事実認定に基づく解決案の提示を受けた方が良い場合もあります(労働審判では、訴訟ほどではありませんが、事実認定がなされます。)。しっかりと事実認定を受けられない点があっせんのデメリットになることがあります。
5 会社側で注意すべき点
労働審判では、審理が原則3回までとなっています。実際には、第1回期日で事実認定をほぼ済ませてしまい、労働審判委員会の心証を前提としつつ、第1回期日の後半から解決に向けての話し合いがなされます。そのため、第1回期日に先立って提出する答弁書において、会社側の重要な主張・証拠は整理して全て提出しきることが大切となります。会社側の主張を出し切ることができない場合には、不利な事実認定に基づく和解案を提示され、労働審判段階で有利に解決する機会を逸してしまいます。そのため、労働審判に精通する弁護士に速やかに依頼することが必要になります。実際、労働審判の会社側では、弁護士を選任するのはおよそ96%となっており、ほとんどの事件で弁護士が選任されています。
また、解決案の検討において弁護士の関与は欠かせません。ここまで見たきたように、労働審判でもあっせんでも、訴訟になった場合と比較すると、早期解決の期待があり、また、解決金を低額に抑えられる可能性があります。
ただし、労働審判では訴訟と同程度には精密に事実認定がなされるわけではありませんし、あっせんでは心証形成のための審理が行われません。そのため、手続きが決裂し、訴訟に至れば事実認定が変更になる余地もあることや、訴訟になった場合の金銭的・時間的負担等を考慮して、いわば双方が歩み寄る形の解決案を提案されることがあります。
そうした提案が会社にとって有利であるか否かを見極めるためには、訴訟になった場合にはどのような事実認定がなされ、裁判所がいかなる判断を行う可能性が高いのかといった点について、正確な見通しを立てる力が必要不可欠です。
訴訟になった場合と比較して有利に解決できるのであれば、早期解決することがメリットになりますが、逆に、訴訟になった場合の方が有利であるならば、解決を急がず訴訟を選択することも合理的な選択肢になり得ます。
どちらが有利かを判断するためには、正確な見通しを立てることが不可欠なのです。
6 当事務所がサポートできること
当事務所は、労働審判やあっせんについて、豊富な解決実績を有しています。
専門的な知見を活かし、労働審判で効果的な主張・立証を行い、最大限有利な解決案を引き出していきます。併せて、当該事件をいずれの法的手続きで解決することが最善なのかといった点について大局的に分析して、依頼者の利益の最大化に向けて尽力します。
事件を有利に解決するためには、初期の対応が非常に重要になりますので、お早めに当事務所にご相談ください。
Last Updated on 2023年12月18日 by loi_wp_admin