近年、働き方改革をはじめとして、労働関係法令は目まぐるしく動的な状況にあります。
当事務所においても、企業の方々から、「当社の労務管理の体制が働き方改革に対応できているか」、「当社の就業規則が○○法の改正に対応できているか」など、働き方改革やその他法改正への対応について、多くのご相談を受けております。
1 働き方改革とは
働き方改革とは、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現するための改革をいいます。
このような働き方改革を推進するために、2018年に国会で成立したのが、「働き方改革関連法」(正式名称:「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)です。
働き方改革関連法は、労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法など、8つの法律の改正を内容とする法律であり、働き方改革による新たなルールに関しては、これら各法律に定められています。
2 働き方改革が推進されている背景
日本では、少子高齢化に伴い、生産年齢人口(15以上65歳未満の人口)が減少し続けており、将来においても減少し続ける見通しです。このような中では、現にある生産年齢人口を労働力として確保し、また有効に活用するためことが求められます。そのために、労働者の就業環境を整備し、女性や高齢者等の多様な生活に応じた多様な働き方を促進し、また公正な待遇を実現すべく、働き方改革は推進されてきました。
▼関連記事はこちら▼
3 働き方改革のために取り組むべき施策
⑴ 働き方改革関連法の改正内容について
働き方改革関連法の改正内容としては、主として、以下のものがあります。
①長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等を目的として
・時間外労働の罰則付きの上限規制
・月60時間超の時間外労働に関する割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止
・年次有給休暇を毎年5日取得させることを使用者に義務化
・高度プロフェッショナル制度の創設
・労働時間の客観的方法による把握を使用者に義務化
②雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目的として
・短時間・有期雇用労働者の均等・均衡待遇
・派遣労働者について、①派遣先均等・均衡待遇方式、②労使協定方式のいずれかを確保することの義務化
・時間外労働の上限規制
従前、いわゆる36協定で定める時間外労働の限度に関しては、厚生労働大臣の告示で定めていました。告示においては、罰則等による強制力がない上、臨時的な特別の事情に基づく特別条項により、限度時間を超える時間外労働を上限なく可能としており、実効性を欠くものでした。
働き方改革関連法による労働基準法の改正は、このような告示を法律に格上げした上、よりその内容を厳しくしたものとなっています。
すなわち、改正労働基準法においては、時間外労働の上限が、原則として、月45時間かつ年360時間であることが、法律上定められています。
また、臨時的な特別の事情による特別条項に基づき、上記原則的な上限を超えて労働させることは認められているものの、その限度が設けられています。年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)が限度とされています。
そして、これらのルールに違反し、時間外労働の上限を超えて労働させた場合には、刑罰の対象となります。
▼関連記事はこちらから▼
働き方改革関連法における36協定の改正点とは?何が変わるのか?
・月60時間超の時間外労働に関する割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止
大企業においては、2010年から、月60時間を超えた時間外労働の賃金の割増率について、50%以上とすることが義務付けられていました。他方、中小企業に関しては猶予期間が設けられ、割増率が25%以上に据え置かれてきました。
しかし、働き方改革関連法による改正により、上記猶予期間が廃止され、2023年4月1日から、中小企業においても、月60時間を超えた時間外労働の割増賃金について、通常の賃金の50%以上とすることが義務化されています。
・年休について毎年5日取得させることを義務化(年次有給休暇の時季指定義務)
年休取得率の低迷状況を改善するため、働き方改革関連法による労働基準法改正により、いわゆる年次有給休暇の時季指定義務が定められました。すなわち、年休の付与日数が10日以上である労働者を対象に、年5日については、使用者が時季指定することにより、付与することが義務付けられています(労働基準法39条7項)。
なお、使用者が時季を指定するに際しては、労働者の意見を聴取する義務があり、また使用者はその意見を尊重する努力義務があることに注意する必要があります。
・高度プロフェッショナル制度の創設
働き方改革関連法による労働基準法の改正により、高度プロフェッショナル制度が設けられました。
高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる一定類型の業務に関し、労働基準法上の労働時間・休憩・休日・割増賃金等の規制の対象外とすることを可能とする制度です。
ただし、そのような強力な効果に対応して、導入には厳格な要件と、労使委員会による決議等の十分な手続が要求されています。
導入するに際しては、要件の該当性や手続に関し、慎重に検討する必要があります。
・労働時間の客観的方法による把握を使用者に義務化
従前より、厚労省による労働者の労働時間の把握に関するガイドラインはありましたが、法律上は規定されていませんでした。
しかし、働き方改革関連法による労働安全衛生法の改正により、労働者の労働時間を把握すること及びその方法が、使用者の義務として、法律上定められました。
すなわち、使用者は、タイムカード、PCの使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握する義務があります。労働者本人による自己申告の場合でも、事前の十分な説明や実態調査等により正確性が担保されているのであれば問題ありませんが、可能であればタイムカード等の客観的な記録の導入が望ましいでしょう。また、労働基準法上、労働時間規制の適用を除外される管理監督者についても、健康管理の観点から、労働時間を把握することが求められていることに注意する必要があります。
そして、その把握した労働時間の状況に関する記録については、3年間の保存義務があります。
・短時間労働者・有期雇用労働者の均等待遇・均衡待遇
いわゆる同一労働・同一賃金には、均「等」待遇(職務の内容等が同一の労働者間で同一の待遇をすること)と均「衡」待遇(職務の内容等に差異がある労働者間でその差異に応じた待遇をすること)の2つの考え方があります。
従前より、均等待遇、及び均衡待遇の両者について、短時間労働者に関しては、パートタイム労働法において規定されていました。他方、有期雇用労働者に関しては、労働契約法上、均衡待遇が定められていたものの、均等待遇については定められていませんでした。
働き方改革関連法による改正では、パートタイム労働法に関し、パートタイム・有期雇用労働法に改称した上、短時間労働者と有期雇用労働者の待遇等に関し、同一の法律で規定しており、両者について均等待遇、及び均衡待遇を要求しています。
また、均衡待遇に関し、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されることを明確化しています。
・派遣労働者について、①派遣先均等・均衡待遇方式、②労使協定方式のいずれかを確保することの義務化
働き方改革関連法による改正労働者派遣法では、同一労働同一賃金の観点から、原則として、派遣労働者の待遇について、①派遣先均等・均衡待遇方式をとることを求めています。①派遣先均等・均衡待遇方式とは、派遣先の通常の労働者との間で均等・均衡である方式を言います。
もっとも、常に派遣先の労働者との均等・均衡を考慮し派遣労働者の待遇を決定することは、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わり、派遣労働者の所得が不安定になる等の問題が生じます。
そこで、代替策として、②労使協定方式を認めています。②労使協定方式とは、派遣労働者の待遇に関し一定の要件を満たす派遣元の労使協定に基づき決定する方式であり、派遣先の労働者との均等・均衡原則は適用除外されます。ただし、②労使協定方式において、労使協定に定める派遣労働者の賃金額については、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金」と同等以上であることが求められており、具体的な金額は職業安定局長通達により公表されています。
▼関連記事はこちらから▼
名古屋自動車学校事件を弁護士が解説~定年後再雇用における同一労働同一賃金における注意点~
同一労働同一賃金に対する会社の対応方法とは?-弁護士が対応すべきポイントについて解説!-
⑵ 企業が取組みを怠った場合のリスク
上記の働き方改革関連法の改正について対応を怠った場合には、各規制に応じて、刑事罰の適用を受ける場合があります。
また、割増賃金請求や、過労死等の損害賠償請求のいずれについても高額な請求を受ける危険があります。
さらには、厚労省による企業名公表制度があるため違反事実と共に企業名が公表され得、またSNS等による拡散のおそれもあります。そのため、社会的にレピュテーションリスクも相当にあります。
以上のように、改正内容に対応しないことによるリスクは多様かつ重大であることから、リスク回避の観点からも、企業としては、やはり働き方改革には適切に取組む必要があります。
4 働き方改革・法改正対応について当事務所でサポートできること
労働分野の法令は、他分野の法令に比較しても、日ごとに変化するものであり、働き方改革関連法の成立以降も、法改正は種々行われています。そのため、企業としては、情報感度を常に高めておく必要があります。
また、法改正の対応方法は一義的に定まるものばかりでなく、企業の実情に応じた形で個別具体的な対応を検討する必要があります。
当事務所は、労働事件専門の事務所として、働き方改革関連法を含め、各種法令の改正等の内容に精通し、各企業の実情に応じて、制度の見直し、就業規則の点検、改正内容についてのセミナー等を行ってきた実績があります。
また、顧問契約においては、随時、お客様に最新の法改正や判例等に関する情報を提供し、最新の法改正や判例等に関するセミナーも行っております。
働き方改革関連法含む法改正に対応できているか不安な方は、一度ご相談ください。
Last Updated on 2024年10月1日 by loi_wp_admin