文責:石居 茜
1 はじめに
同一労働同一賃金は、日本において近年重要な労働問題の一つとなっています。法制度の整備により、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇差を是正するための取り組みが進められていますが、現状では多くの課題が残されています。特に、裁判での判例が増える中で、定年後の再雇用者や正社員・非正規社員間の待遇差をめぐる争いが大きな注目を集めています。
本記事では、同一労働同一賃金の定義とその法律的背景を説明し、具体的な判例を交えて現状の問題点や課題について解説します。また、企業が同一労働同一賃金を実現するために直面している実務的な問題や、今後の展望についても触れていきます。
2 同一労働同一賃金とは
(1)同一労働同一賃金とは
ア 「均等待遇」「均衡待遇」
「同一労働・同一賃金」とは、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用のフルタイム労働者)の待遇と、非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣雇用労働者)との待遇について、不合理な相違を禁止する法律です(パートタイム・有期雇用労働法8条)。
パートタイム労働者は、1週間の所定労働時間が、正規雇用労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者をいい、有期雇用労働者は、事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいいます。
事業主は、パートタイム労働者、有期雇用労働者について、正規雇用労働者と①職務の内容(「業務内容及び業務に伴う責任の程度」をいいます。以下同じ。)、②職務内容・配置の変更範囲が同じである者については、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをすることが禁じられています(均等待遇。パートタイム・有期雇用労働法9条)。
また、事業主は、パートタイム労働者・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の個々の待遇について、①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理な待遇差別を行うことが禁じられています(均衡待遇。パートタイム・有期雇用労働法第8条)。
イ 「均衡待遇」の内容
「職務内容」とは、「業務の内容」と「業務に伴う責任の程度」をいうとされており、例えば、同じ業務を担当することがあっても、正規雇用労働者には業績目標があるがパート・有期雇用労働者にはない場合、正規雇用労働者は繁忙期の急な出勤にも対応しなければならないが、パートタイム労働者・有期雇用労働者にはそのような対応は必要がない場合は、「業務に伴う責任の程度」が異なります。
不合理な差別かどうかは、個々の待遇(基本給、賞与、役職手当、食事手当、福利厚生、教育訓練など)ごとに、その待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断すべきとされています。
厚生労働省は、正規労働者と有期雇用労働者との待遇差について判断した最高裁判例(ハマキョウレックス(差戻審)事件・最高裁二小平成30年6月1日判決・労判1179号20頁、長澤運輸事件・最高裁二小平成30年6月1日判決・労判1179号34頁)の判断を踏まえ、同一労働同一賃金ガイドラインを策定し、個々の待遇ごとにどのような取扱いが問題となるかを示しています。
(2)待遇に関する説明義務
パートタイム・有期雇用労働法では、待遇の決定についての事業主の説明義務が定められています(パートタイム・有期雇用労働法14条)。
そのため、事業主は、有期雇用労働者の採用時には、賃金制度、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用、正社員転換推進措置などについて説明する必要があります。
また、パート、有期雇用労働者から求めがあった場合、正規雇用労働者との間の待遇差の内容・理由等を説明しなければなりません。
「パートタイム労働者・有期雇用労働者だからこの待遇である。」という説明では説明義務を果たしたことにはなりません。「職務内容」「職務内容・配置の変更の範囲」等の観点から、正規雇用労働者と比べて異なる点を説明し、待遇も異なることを説明する必要があるとされています。もっとも、パートタイム労働者・有期雇用労働者が納得するまで説明することが求められているものではありません。
また、事業主は、パートタイム労働者・有期雇用労働者が待遇差の内容・理由の説明を求めたことを理由として解雇その他の不利益な取り扱いをしてはなりません(パートタイム・有期雇用労働法14条3項)。
3 同一労働同一賃金の主な判例
(1)長澤運輸事件(最高裁二小平成30年6月1日判決・労判1179号34頁)
ア 事案の概要
定年後再雇用後も、嘱託乗務員として、定年前と同じドライバー業務に従事していた従業員が、正社員は基本給、職務給、能率給が支給されていたのに対し、嘱託乗務員について、基本賃金、歩合給が支給されていて(職務給、能率給は支給されていない)、両支給額に最大約12%の差があった事案で、不合理な差別であると主張しました。
イ 最高裁の判断
最高裁は、定年制の下における無期契約労働者とは異なり、使用者が定年後再雇用として有期契約雇用する場合、長期間雇用することは通常予定されていないこと、定年退職後に再雇用される有期契約労働者は、定年退職するまでの間、無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されていること等から、有期契約労働者が定年後再雇用者であることは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、改正前労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されるとしました。
その上で、以下の①~⑥の事情の下では、正社員と嘱託社員の基本給等の相違は不合理ではないと判断しました。
① 基本賃金の額は定年退職時の基本給を上回っていること
② 嘱託乗務員の歩合給の係数が、正社員の能率給の係数の約2倍から約3倍に設定されていること
③ 団体交渉を経て、嘱託乗務員の基本賃金が増額され、歩合給に係る係数の一部が有期契約労働者に有利に変更されていること
④ 嘱託乗務員の賃金体系は、乗務する車の種類に応じて額が定められる職務給を支給しない代わりに、①により収入の安定に配慮するとともに、②により労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫されたものであること
⑤ 正社員の基本給、職務給、能率給の合計と、嘱託乗務員の基本賃金・歩合給の合計の差が2~12%にとどまること
⑥ 有期契約労働者は、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができるうえ、その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間、調整給(2万円)の支給を受けることができること
(2) 東京メトロ(メトロコマース)事件(最判令和2年10月13日・労判1229号90頁)
ア 事案の概要
有期雇用の契約社員が、無期雇用の正社員との間の本給、手当、賞与、退職金等の待遇差について不合理な相違であると主張して争った事案です。最高裁での争点は、退職金支給の有無が不合理な相違にあたるかどうかでした。
イ 最高裁の判断
使用者における退職金の性質や支給目的を踏まえて不合理かどうかを判断すべきとしました。そして、正社員は様々な部署等に配置され、業務の必要により配置転換を命じられることがあり、正社員の退職金は、職務遂行能力や責任の程度を踏まえた労務対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有することや、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し支給していることなどを踏まえ、正社員と契約社員の職務内容や組織再編等の当該事案の事情を考慮したうえで、契約社員の10年前後の勤続期間を考慮しても退職金について支給しなくても不合理ではないと判断しました。
ウ 留意点
同判例は、退職金の性質や支給目的を踏まえ、当該事案での事情を踏まえて、当該事案では、契約社員に退職金を支給しなくても不合理とはいえないと判断したものであり、一般的に有期雇用労働者には賞与や退職金を支給しなくても不合理ではないと判断したものではありませんので、その点は注意が必要です。
(3)大阪医科大(大阪医科薬科大学)事件(最判令和2年10月13日労判1229号77頁)
ア 事案の概要
正社員には賞与が支給されていたがアルバイトには支給されていなかった事案で、不合理な相違に当たらないかが争点となりました。
イ 最高裁の判断
最高裁は、下記事情を踏まえて、不合理ではないと判断しました。
① 正職員の賞与は労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれること
② 正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から支給されていたこと
③ アルバイト職員の業務は正社員の業務に比べて相当に軽易であること
④ アルバイト職員と同じ内容の仕事をする正職員は数年前からアルバイトへの置き換えが進んでおり、他の正職員に比べて極めて少数となっていたこと
⑤ アルバイト職員には、契約社員及び正職員への段階的な登用制度が設けられていたこと
⑥ 正職員に準ずる契約社員には正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと
ウ 留意点
同判例は、賞与の性質や支給目的を踏まえ、当該事案での事情を踏まえて、当該事案ではアルバイトに賞与を支給しなくても不合理とはいえないと判断したものであり、一般的に有期雇用労働者には賞与を支給しなくても不合理ではないと判断したものではありませんので、その点は注意が必要です。
(4) 日本郵便(大阪)事件(最判令和2年10月15日労判1229号67頁)
契約社員が、正社員に支給されている扶養手当が支給されないこと、年末年始勤務手当、祝日給、夏季冬季休暇などが与えられないこと等が不合理な相違であるとして争った事案です。
最高裁は、扶養手当について、正社員が長期継続勤務を期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のあるものの生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保する目的によるものと考えられるとし、その趣旨は反復更新する契約社員にも当てはまるといえ、契約社員に扶養手当を支給しないことは不合理としました。
この事案では、契約社員に年末年始勤務手夏季冬期休暇夏季冬期休暇などを与えないことも不合理と判断しています。
(5) 日本郵便(東京)事件(最判令和2年10月15日労判1229号58頁)
契約社員が、年末年始勤務手当、夏季休暇及び冬期休暇を与えられないこと、私傷病による病気休暇について、正社員には有給休暇を与える一方で、契約社員に対しては無給の休暇のみを与える等の相違は不合理であるとして争った事案です。
契約社員に年末年始勤務手当、夏季休暇及び冬期休暇を与えないことを不条理と判断し、私傷病による病気休暇について、正社員には有給休暇を与える一方で、契約社員に対しては無給休暇のみを与えるという相違は不合理であると判断しました。他方、外務業務手当、早出勤務手当、祝日給、夏期年末手当、夜間特別業務手当、郵便外務・内務業務精通手当については、不合理な相違に当たらないとした原審の判断が維持されました。
(6) 日本郵便(佐賀)事件(最判令和2年10月15日労判1229号5頁)
契約社員に夏季冬季休暇を与えないことは不合理と判断しました。他方、外務業務手当、早出勤務手当、祝日給、夏期年末手当、作業能率評価手当、基本賃金、通勤費については、不合理な相違に当たらないとした原審の判断が維持されました。
4同一労働同一賃金の最近の裁判例
(1)名古屋自動車学校事件(最高裁一小令和5年7月20日判決・労判1292号5頁)
ア 事案の概要
自動車教習所の正職員と定年後再雇用の嘱託職員の基本給等の給与の相違の適法性が問題となった事例で最高裁判例が出ました。
自動車教習所の教習指導員の業務に従事し、定年後再雇用された際に基本給や賞与等を大きく引き下げられた有期労働者が、会社と無期労働契約を締結している労働者との間の基本給、賞与等の待遇差が同一労働同一賃金の原則に違反するとして、不法行為等に基づき、上記待遇差に係る差額について損害賠償等を求めた事案です。
従業員は、定年後嘱託職員となった以降も、従前と同様に教習指導員として勤務しており、再雇用にあたり主任の役職を退任したこと以外、定年退職の前後で、その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(「職務の内容」)に相違はなく、職務の内容及び配置の変更の範囲(「職務内容及び変更範囲」)にも相違はないという事案でした。
- 正職員と嘱託職員の給与の違い
賃金項目 | 正職員 | 嘱託職員 |
基本給 | 基本給(一律給と功績給から成る) | 賃金体系は勤務形態によりその都度決め、賃金額は経歴、年齢その他の実態を考慮して決める |
役付手当 | 主任以上の役職に支給 | |
賞与 | 夏期および年末の2回支給 基本給に所定の掛け率を乗じて得た額に10段階の勤務評価分を加えた額 | 勤務成績等を考慮して、「嘱託職員一時金」を支給することがある |
- 定年時と再雇用後の原告らの給与の違い
賃金項目 定年時 再雇用後 基本給 月額18万1,640円 再雇用後1年間は月額8万1,738円 、その後は7万2,700円 賞与(1回あたり) 約23万3,000円(定年退職前の3年間) 8万1,427円~10万5,877円 賃金項目 定年時 再雇用後 基本給 月額16万7,250円 再雇用後1年間は月額8万1,700円、その後は7万2,700円 賞与(1回あたり) 平均約22万5,000円 7万3,164円~10万7,500円
(2)第一審及び控訴審の判断
定年後再雇用の嘱託職員の基本給と賞与について、定年時と定年後で減額幅が大きく、労働者の生活保障の観点からも看過し難い等を理由に、60歳定年時の6割を下回る限度で不合理であると判断しました。
イ 最高裁の判断
最高裁は、有期労働契約の労働者と無期労働契約の労働者の相違が基本給や賞与の支給に係るものであるとしても、均衡待遇に違反すると認められる場合があり得ること、その判断に当たっては、使用者における基本給や賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて、法所定の諸事情を考慮するべきであるとした上で、正職員・嘱託職員のそれぞれの基本給・賞与の性質・目的について、下記(ア)(イ)のように検討し、控訴審判決は、基本給につき一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を有するものであったなどとするにとどまり、基本給等の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま不合理な相違であると判断したことから違法であるとして差し戻しました。
(ア)正職員の基本給の性質・目的
① 管理職以外の正職員のうち所定の資格の取得から1年以上勤務した者の基本給の額について、勤続年数による差異が大きいとまではいえないことからすると、正職員の基本給は、勤続年数に応じて額が定められる勤続給としての性質のみを有するということはできず、職務の内容に応じて額が定められる職務給としての性質をも有するものとみる余地がある。
② 他方で、正職員については、長期雇用を前提として、役職に就き、昇進することが想定されていたところ、一部の正職員には役付手当が別途支給されていたものの、その支給額は明らかでないこと、正職員の基本給には功績給も含まれていることなどに照らすと、その基本給は、職務遂行能力に応じて額が定められる職能給としての性質を有するものとみる余地もある。
(イ)嘱託職員の基本給の性質・目的
① 嘱託職員は定年退職後再雇用された者であって、役職に就くことが想定されていない。
② 嘱託職員の基本給は正職員の基本給とは異なる基準の下で支給され、勤続年数に応じて増額されることもなかった。
③ 嘱託職員の基本給は、正職員の基本給とは異なる性質や支給の目的を有するものとみるべきである。
ウ 最高裁判決の意義
今回の最高裁判決は、①定年後再雇用時の正規雇用労働者と、定年再雇用後の有期雇用労働者の基本給の相違についても均衡待遇の観点から違法となり得る場合があると明示したこと、②原審やこれまでの裁判例が基本給の減額幅(定年時の6割を下回る)等のみを重視する傾向にあったところ、基本給等の目的や性質を考慮して判断すべきと判断したこと、③労使交渉の結果、合意に至らなかったとしても、労使交渉の経緯自体が「その他の事情」として考慮される可能性を示唆したことについて、意義があるといえます。
本件は高裁に差し戻されたので、高裁が、どのような性質及び目的等の相違であれば、どの程度の待遇差が許容されると判断するのか、差戻審の判断や今回の最高裁判決を踏まえた、同様の事例の裁判の判断が注目されています。
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(2) 非正規労働者の処遇向上のための正社員賃金の引下げの可否(恩賜財団済生会(山口総合病院)事件・山口地判令5・5・24・労判1293号5頁)
ア 事案の概要
病院を運営する社会福祉法人において、従業員が就業規則・給与規程の不利益変更による賃金減額について、労働契約法10条所定の合理性を有しないとして、就業規則等の変更は無効であると主張して差額賃金等の支払を求めた事案です。
法人は、正規職員と非正規職員の不合理な待遇差を禁止するパートタイム・有期雇用労働法8条(均衡待遇)への対応を契機として格差是正のための変更であるなど主張して、変更は合理性を有し、有効であると主張しました。
イ 裁判所の判断
裁判所は、就業規則等変更の合理性判断において、変更による労働条件の不利益変更は、不利益を労働者に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた内容でなければならないところ、就業規則変更が高度の必要性に基づいた合理的な内容かどうかは、諸般の事情を総合的に考慮して判断しなければならないとしましたが、就業規則変更は、使用者の事業存続といった極めて高度の必要性が常に求められるものでもなく、その必要性が財政上の理由のみに限定されるものでもないとしました。
そして、労働者の受ける不利益の程度については、病院の総賃金原資(人件費総額)に占める本件変更による減額率は約0.2%であり、原告らの月額賃金あるいは年収の減額率は5%を下回ることから、不利益の程度は大きくないとしました。
変更の必要性については、パートタイム・有期雇用労働法8条の改正を契機として、扶養手当及び住宅手当を正規職員のみに支給し続けることが不合理な相違に該当しないか否かを検討することは、法の趣旨に沿ったものであるといえるところ、その検討の前提として、公平・平等な賃金(手当)の支給という観点から、旧規定における手当を見直し、手当の支給目的を納得性のある形で明確化することにつき必要性が認められ、目的に適合する職員に手当が支給されるように手当に係る規定を変更することについても、必要性があったとしました。
さらに、本件病院の今後の長期的な経営の観点から、人件費増加抑制に配慮しつつ、持続可能な範囲での手当の組替えを検討する必要性もあったとしました。
ウ 本判決の意義
本判決は、パートタイム・有期雇用労働法への対応のために就業規則・給与規程等を変更する場合の変更の合理性について、同目的での変更の合理性を許容した点、および病院の長期的経営の観点からこれを是認した点に意義があり、また、変更内容の相当性についても、扶養手当や住宅手当の廃止や別の手当の新設について、その目的や内容から合理性・相当性を認めた点について、先例的な意義を有しているといえます。
5 裁判例をふまえた対応策
同一労働同一賃金については、裁判例や厚労省の同一労働同一賃金ガイドラインの内容を踏まえ、正規雇用労働者と非正規雇用労働者、それぞれに対する基本給、賞与、各種手当、退職金、その他の待遇や各種制度(法律を超えた福利厚生制度も含む。)の性質や支給目的を明確化することが重要です。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者の①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲の違いを整理し、明確に説明できるようにするとともに、基本給や賞与、従業員に適用される各種制度の1つ1について、その性質や支給目的を明確に説明できるようにして、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で差異を設ける場合には、不合理とならないように両者の差異を説明できるようにすることが重要となります。
6 同一労働同一賃金の課題と今後の展望
(1)企業の対応
同一労働同一賃金に対応するため、企業は就業規則や賃金体系の見直しを行う必要があります。しかし、非正規雇用者との待遇差を解消するために、正規雇用者の手当を廃止するなどの対応が合理的かどうかについては、依然として議論が続いています。例えば、山口総合病院の事例では、非正規職員との格差是正を目的とした正社員の賃金引き下げが争点となり、その合理性が問われました。
(2)待遇差を解消するための具体策
企業は、以下のような措置を取ることで、同一労働同一賃金を実現するための努力が求められます。
- 職務評価制度の導入:労働者の職務内容や責任の程度に応じた適正な賃金設定を行う。
- キャリアパスの整備:非正規雇用者にも正規雇用への転換制度を設け、公平なキャリア形成の機会を提供する。
- 福利厚生の見直し:正規雇用者と非正規雇用者の間で不合理な差が生じないよう、福利厚生制度を調整する。
(3)今後の展望
同一労働同一賃金の原則は、労働者の権利を守るために重要な役割を果たしていますが、実際の企業現場での実行には多くの課題が残されています。特に、定年後再雇用者や派遣労働者に対する適用が難しいケースが多く、これに対する明確な基準が求められています。
また、今後は労働市場全体の流動化が進む中で、企業がどのようにして柔軟かつ公平な労働条件を整えるかが問われることになるでしょう。裁判例の蓄積と共に、同一労働同一賃金の実現に向けた取り組みがさらに進展していくことが期待されます。
(4)結論
同一労働同一賃金の問題は、正規・非正規の労働者間の待遇差を是正し、公平な労働環境を実現するための重要な課題です。日本における法整備や裁判例を通じて、この原則の具体化が進んでいますが、まだ多くの課題が残されています。企業は適切な対応を行い、労働者に対する説明責任を果たしながら、持続可能な労働環境を整備することが求められています。
7 同一労働同一賃金について当事務所でサポートできること
当事務所では、労働問題に精通した弁護士が多数在籍しており、同一労働同一賃金に関する法律、裁判例やガイドラインを踏まえた、制度の整備、アドバイス、個別事案への対応などについて、サポートすることが可能です。
定年後再雇用制度について、同一労働同一賃金を踏まえたサポートも相談に乗ることができますので、同一労働同一賃金対応に不安がある会社、定年後再雇用に対応しきれていない会社は、当事務所にご相談ください。
同一労働同一賃金に関する問題は、法的な知識だけでなく、企業の運営や労働環境に関する深い理解が求められます。当事務所では、労働問題に精通した弁護士が多数在籍しており、企業が同一労働同一賃金に対応するための多様なサポートを提供しております。具体的には以下のサービスを提供しています。
(1)就業規則や賃金制度の見直し
企業が同一労働同一賃金の原則に則った賃金制度を構築できるよう、現行の就業規則や賃金体系を診断し、必要な改定を支援します。正規・非正規の待遇差が不合理とならないような制度設計をお手伝いします。
(2)労使間の協議支援
待遇差を是正するためには、労働組合や従業員との協議が欠かせません。当事務所では、労使間の交渉が円滑に進むよう、法律的な助言や協議の進め方に関するサポートを提供します。
(3)法的トラブルの対応
同一労働同一賃金に関するトラブルや訴訟が発生した場合、豊富な判例に基づいた的確なアドバイスを行い、企業側のリスクを最小限に抑えるための法的サポートを行います。
(4)従業員向け説明義務への対応
企業が労働者に対して待遇差の合理性を説明する際に、法的に適正な手続きを踏まえるようサポートします。書面の作成や説明内容の準備に関するアドバイスも行い、紛争予防に貢献します。同一労働同一賃金の対応に関して、企業ごとの状況に応じた最適な解決策を提案いたします。お困りの際は、ぜひ当事務所にご相談く
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Last Updated on 2024年10月29日 by loi_wp_admin