就業規則は定期的な改定が必須?弁護士に依頼すべき理由と自分で作成する場合の注意点を解説

文責:岩出 誠(弁護士・東京都立大学法科大学院非常勤講師)

Ⅰ 就業規則を作成する目的

1 コンプライアンス遵守

労基法は、「常時10人以上の労働者を使用する使用者」に就業規則の作成を義務付けていますので(89条)、コンプライアンス遵守の目的があります。

しかも、最近の労働法の動きは、正に激動という他ありません。最近の新立法、法令改正はおびただしいものがあります。

令和7年に新たな改正が具体化する予定の主なものだけでも、下記内容があります。

①  ハラスメント法制の対象拡充と強化

②  労安法の保護対象の拡大と内容強化

③  公益者通報者保護法の改正強化

ところが、人事・労務分野を専門とする私たちが日常的な人事労務コンサルテーションや、案件処理に際して目にする各企業の就業規則等の人事諸規程の内、これらの立法・改正に完全に対応できているのを見るのは極めて稀と言うほかありません。

コンプライアンス(法令等遵守)の中でもっとも遅れているのが労働分野であり、CSR(企業の社会的責任)が叫ばれる中でも、労働CSRの具体的内容を聞いてみるとコンプライアンスがトップに位置するのが実態です。

この是正は、正に喫緊の課題です。

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2 付帯規程利用の実態・性格と留意点

なお、人事・労務管理の複雑化・高度化、育介休法等をはじめとする頻繁な法令の改正に伴う就業規則の変更への対応などから、個々の規定内容ごとに、別規則化することに対する要請が高まり、現在の多くの企業、特に大企業では、89条の必要的記載事項だけでも、すべてが1つの就業規則に記載されていることは少なくなっています。

賃金規程、退職金規程、災害補償規程などだけではなく、服務規律規程、倫理規程、懲戒規程、人事異動規程、出向規程、職務発明規程、育児介護規程、情報管理規程、ハラスメント防止規程、定年後再雇用規程、人事考課規程など、実に多くの付帯規程に枝分かれしています。

しかし、これらの別規則、諸規程も就業規則としての各種の規制を受けます。少なくとも、労基法上は、「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」(同条10号)の限りで同法の規制を受けるうえ、その要件なき諸規程も、少なくとも労契法7条、9条ないし12条の規制を受けます。

しかし、実質的周知なき、文字通りの、人事・総務部内のみのさまざまな運用細則、人事考課運用規程等は、労基法上のみならず、労契法上も就業規則とは解されません。

ただし、その適用・運用実績等から、労使慣行として法的に一定の拘束力をもつことがあり得ます。

この中で、郵便事業(連続「深夜勤」勤務)事件・東京地判平21・5・18労判991号120頁は、深夜労働に関する本件運用細則の改定には就業規則の不利益変更が適用ないし類推適用されるとして、同判例法理で求められる合理性があるとしました。

この点で、退職功労金の支給基準が、一般的な就業規則の形式とは異なり、届出,意見聴取が行われていなかったこと,内規と明示されていたこと等の点から,会社が就業規則とする意思をもって定めたものではないと総合的に判断したANA大阪空港事件・大阪高判平27・9・29労判1126号18頁には、労契法⒓条の観点からは重大な疑問があります。

3 就業規則作成の実践的な意義

さらに、判例では、就業規則に懲戒規定がないと懲戒処分、懲戒解雇もできないことになっています(フジ興産事件・最二小判平15・10・10労判861号5頁。ただし、懲戒に関する特別な個別合意によることもあり得ます)。

さらに、労働条件の変更が必要になったような場合に、個別の個々の労働者との合意がなくとも、就業規則の変更により労働条件の不利益変更ができることが、就業規則作成の大きな実践的意義としてあげられます(労契10条、48頁以下参照)。

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Ⅱ 就業規則の作成を専門家に依頼する際の留意点

前述のように、最近の労働立法の動きは、正に激動という他なく、現実の多くの企業で、これらの立法・改正に完全に対応できているのを見るのは極めて稀です。

多忙を極める企業の人事・労務担当者など人事労務に関連した業務の関わる方々が、各企業において遅れを取っている法改正等につき、就業規則の改正を中心として、どのように対応すべきかを、各改正法等の実務対応上の留意点のポイントと、これに関連した法的・実務的留意点と、それらに対応した就業規則等の改正点と作成上の留意点を示すことができるのは、極めて専門化してきた労働法分野での経験豊富な弁護士等の専門家に依頼することは、今や必須な事態となっています。

Ⅲ 就業規則を弁護士に依頼するメリット

就業規則の作成や改正に当たっては、上記のような法令改正等への対応だけではなく、最近続出している人事労務に大きな影響を与える最高裁判例や下級審裁判例や、そこで検証された就業規則の文言解釈への理解も求められます。

例えば、固定残業手当と歩合給の関係では、熊本総合運輸事件・最二小判令5・3・10労判1284号5頁(通常の賃金と法定時間外労働手当とを判別できない賃金支払いが法定割増賃金の支払いに当たらないとされた例)、同一労働同一賃金関係では、メトロコマース事件・最三小判令和2・10・13労判1229号90頁(無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例)、名古屋自動車学校事件・最一小判令5・7・20労判1292号5頁( 無期契約労働者と有期契約労働者との間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違の一部が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例)等や、事業場外労働に関する協同組合グローブ事件・最三小判令6・4・16労判1309号5頁(外国人の技能実習に係る監理団体の指導員が事業場外で従事した業務につき、労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例)、職種限定契約における配転命令に関する滋賀県社会福祉協議会事件・最三小判令6・4・26労判1308号5頁(労働者と使用者との間に当該労働者の職種等を特定のものに限定する旨の合意がある場合において、使用者が当該労働者に対してした異なる職種等への配置転換命令につき、配置転換命令権の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例)等を踏まえた就業規則の整備が重要です。

検証された就業規則の文言解釈への理解の点では、受診義務規定や休職制度の就業規則の解釈により諭旨解雇が無効とされた日本ヒューレット・パッカード事件・最二小判平24・4・27労判1055号5頁などが典型例でしょう。

これらへの知識・理解と係争化した場合への対応をも視野に入れての就業規則の作成や改正等の整備は、正に、労働法に通じた弁護士の独壇場と言って過言ではないでしょう。

Ⅳ 就業規則の作成を弁護士に依頼しないデメリット

就業規則の作成を弁護士に依頼しないデメリットは、正に、上記Ⅲの裏返しで、人事労務に大きな影響を与える最高裁判例や下級審裁判例や、そこで検証された就業規則の文言解釈への理解、これらへの知識・理解と係争化した場合への対応をも視野に入れての就業規則の作成や改正等の整備が、労働法に通じた弁護士以外では困難ということです。

Ⅴ 就業規則の作成は自分でできる?

なお、就業規則の作成自体は、企業の人事担当者の方々が自分でもできます。多くの場合、厚労省がHPに掲載するモデル就業規則や育介規程、ハラスメント規程等を参考に作成すれば、少なくとも、法令違反の責めは回避できるでしょう。

しかし、注意すべきは、厚労省が、政策的に推進したい施策が、法令上は努力義務にとどまっているにもかかわらず、就業規則に規定化されていて、そのまま利用すると、これが権利化してしまうリスクが、上記モデル規程利用の最大の危険です。

また、この場合は、人事労務に大きな影響を与える最高裁判例や下級審裁判例や、そこで検証された就業規則の文言解釈への理解、これらへの知識・理解と係争化した場合への対応をも視野に入れてのモデル就業規則等は提供されていないことにも留意すべきです。

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Ⅵ 就業規則は作成した後も重要です

最後に就業規則は作成した後も重要です。誰が作成したかは別として、その前提は、作成時点での法令、最高裁判例や下級審裁判例を踏まえて作成されたものです。

しかし、前述のように、法令は毎年のように改正され、あるいは新法が現れ、最高裁判例や下級審裁判例も続出しています。

したがって、常に、就業規則のアップデートを怠らないことが不可欠です。

Ⅶ 就業規則について当事務所がサポートできること

以上のように、就業規則の作成や改正に当たっては、最新の法令改正等への対応だけではなく、最近続出している人事労務に大きな影響を与える最高裁判例や下級審裁判例、そこで検証された就業規則の文言解釈への理解が不可欠です。
これらの点については、労働事件・労務管理について多くの経験と研究実績を有する弁護士に相談するのが有益です。
係争化することを防止し、かつ、係争化した場合への備えを図る堅固な労務管理体制を構築するためにも、当事務所にご相談いただければと思います。
また、法令改正や最新判例に対応した就業規則改正、整備に向けた各段階でのセミナー講師などでにおいても、ご相談いただければと思います。

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Last Updated on 2025年3月25日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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