就業規則作成を自分で行うデメリットについて弁護士が解説!

文責:木原 康雄

1 就業規則とは

就業規則とは何かについて、労働基準法などで定義はされていませんが、一般に、事業場の労働者集団に対して適用される労働条件や職場規律に関する明文化された規則類をいいます(ジブラルタ(旧エジソン労組)事件・東京地判平29・3・28労判1180号73頁)。

そして、労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成して行政官庁(所轄の労働基準監督署長)に届け出なければならないとし、違反には罰則も置かれています(同法120条1号)。

上記の「常時」とは、常態としてという意味です。

また、「10人」には、正社員だけでなく、有期契約労働者やパートタイマーも含まれます。

2 就業規則制定の手続き

就業規則制定までの手続きは、以下のようになります。

① 定めるべき事項を網羅した就業規則を作成

② 事業場の過半数代表者からの意見を聴き、その結果を書面にして就業規則に添付

③ 所轄の労働基準監督署長宛てに届出

④ 労働者への周知

上記②の意見聴取(労働基準法90条)は、文字どおり、いかなる意見があるかを聴取するにとどまります。過半数代表者が、就業規則の内容に反対の意見を表明したとしても、その反対意見を記した書面を添付して届け出ることになります。

また、上記④の周知の方法は、(ア)常時各作業場の見やすい場所への掲示または備付け、(イ)書面の労働者への交付、(ウ)磁気ディスク等への記録により各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器の設置(労働者が必要なときに容易に当該記録をパソコン等で確認できる、社内LANによる閲覧もこれに該当します)のいずれかとなります(労働基準法施行規則52条の2)。

3 雇用契約書との違い

労働者との労働契約の内容が定められているものとして雇用契約書がありますが、それとは別に就業規則を作成しておくべき理由はどこにあるでしょうか。

就業規則は、その内容が合理的で、労働者に周知されていた場合には、それが各労働者との間の労働契約の内容となります(労働契約法7条)。

つまり、雇用契約書も就業規則も、労働契約の内容を定めるものという点では共通しています。

また、雇用契約書で明示すべき労働条件(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条1項)と、後記の就業規則で定めるべき事項は、多くの部分で重なりますので、その範囲では大きな違いはないといえます。

しかし、すべての労働者に公平・統一的に適用されるべき労働条件・職場規律には様々なものがあり、それらをすべて各労働者との間で締結する雇用契約書に盛り込むということは実際上困難です。

そこで、使用者が、効率的で公平な事業経営のために、多数の労働者に適用される統一的な労働条件や職場規律を、一方的に定め、それを就業規則というルールブックにまとめて記載しておくことが必要になるのです。

他方で、政策的理由等から、ある特定の労働者については、就業規則上の労働条件より有利な条件で雇用・処遇したいという場合もあり得ます。そういう場合には、就業規則より労働者に有利な労働条件を雇用契約書で定めておけば、それが当該労働者の労働条件となります(労働契約法7条但書。ただし反対に、就業規則よりも労働者に不利な労働条件を定めることはできません、労働契約法12条)。

このように、就業規則が作成されている場合、個別の取扱いを可能にするという点に雇用契約書の意義があるといってよいでしょう。

4 就業規則の記載事項

就業規則の記載事項について、労働基準法89条は、使用者が必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、当該項目に該当する制度がある場合には記載すべき「相対的記載事項」を定めています。

各事項は以下のとおりです。

(1)絶対的必要記載事項

① 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項

いつ(日・時間)、労働義務が発生するのか(または免除されるのか)を具体的に労働者に明示するという趣旨に基づくものです。

なお、交替制の場合、交替期日や交替順序等を定めることになります。

② 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の方法並びに昇給に関する事項

労働契約において最も重要な賃金の支払条件等を具体的に労働者に明示するという趣旨に基づくものです。

③ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

どういう場合に労働契約が終了するのかを具体的に労働者に明示するという趣旨に基づくものです。

合意退職、自然退職扱い、定年、解雇、契約期間の満了等、すべての終了原因を記載することになります。

(2)相対的必要記載事項

① 退職手当が適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

退職金のことであり、たとえば退職金の不支給・減額事由なども記載する必要があります。

② 臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額に関する事項

臨時の賃金等とは、賞与など労働基準法施行規則8条に規定されているものをいいます。

③ 食費、作業用品その他の負担に関する事項

業務を遂行する上で必要な費用は原則として使用者負担となりますので、これを労働者に負担させるのであれば明示しなければなりません。

④ 安全及び衛生に関する事項

労働安全衛生法が求める事項等を定めることになります。

⑤ 職業訓練に関する事項

訓練の内容・期間・受講者資格や修了者への特別待遇などを規定します。

⑥ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

労働基準法、労災保険法、健康保険法、厚生年金法に基づくものや、それを上回る補償・扶助を行う場合に規定します。

⑦ 表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項

制裁とは懲戒処分のことです。就業規則に懲戒事由と種別を定めていなければ、懲戒処分を行うことができません(フジ興産事件・最二小判平15・10・10労判861号5頁)。

⑧ その他、当該事業場の労働者のすべてに適用される事項

たとえば、人事異動、福利厚生、出張旅費などに関する定めがこれに該当します。

(3)任意記載事項

なお、労働基準法89条の上記(1)(2)以外にも、たとえば企業の理念や目的を記載することも可能です。

これらの事項を、任意記載事項と呼んでいます。

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5 就業規則について当事務所でサポートできること

以上のとおり、就業規則に定めるべき事項は多岐にわたりますが、インターネットや書籍に色々なサンプルが掲載されています。また、厚生労働省も、詳細な解説付きのモデル就業規則を公開していますので、これらを参考にしながら自分で就業規則を作成してみることも、もちろん可能です。

もっとも、厚生労働省のモデルは適宜改訂がなされていますが、その他のサンプルを参照している場合、項目の漏れが生じてしまったり、法改正への対応ができていなかったりするおそれがあります。

また、会社の規模、労働者の雇用形態や勤務時間などは様々でしょうから、サンプル・モデルが必ずしも自社に適合するものとはいえない場合があり、その場合は自ら工夫して改変しなければなりません。

さらに、法律が一定の選択を許容している場合に、どれを選べばよいか判断に迷うときもあるでしょう(たとえば、年次有給休暇を取得した際の賃金額は、通常の賃金、平均賃金または標準報酬日額のいずれかを選択して規定することになります)。

そして、裁判例の知識を活用しなければ、その規定に期待したとおりの効果が生じないということも起こり得ます(たとえば、「自宅待機を命じた場合、その間は賃金の6割を支給する」という規定をよく見かけますが、裁判上、この文言では6割の支払で済むことにはならない可能性があると思われます)。

個々の会社の業務内容や賃金制度の特殊性にも目配りしつつ、関係法令・裁判例に則った就業規則を整備する際には、多数・多業種の会社の労務管理について多くの経験を有する弁護士に相談するのが有益です。

会社の特殊性に応じた適正な労務管理体制を構築するため、当事務所にご相談いただければと思います。

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Last Updated on 2024年12月4日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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