
文責:石居 茜
1 産業医と主治医の意見が異なる場合、企業はどう対応すべきか
(1)産業医判断で迷ったら、早めに弁護士に相談
ア 休職とは
休職とは、従業員を就労させることが不適当な場合、または不能な場合に、会社が、雇用契約を継続しながら、従業員の就労を一時免除し、または就労を禁止する制度をいいます。
法令による規制はなく、代表的なものとして従業員が私傷病により就労できない場合に、本来は、その従業員が心身の故障のため業務に堪えられないと認められる状況であれば解雇事由に該当する可能性がありますが、解雇は解雇権濫用法理によってその有効性が判断されることから(労働契約法16条)、多くの会社において、解雇猶予の福利厚生的な制度として就業規則等により休職制度が置かれています。
法令や公序良俗に反しない限り制度設計は会社の自由であり、休職の対象事由や、給与の有無、休職期間なども会社によって様々です。
私傷病休職だけでなく、私的な事故を理由とする事故欠勤休職、他社への出向に伴う自社での不就労に対応する出向休職、留学や公職への就任に伴う自己都合休職、組合の役員に専念する場合の専従休職、特別な理由を限定しない会社都合の休職などが定められている場合もあります。
私傷病休職については、休職期間は勤続年数によって異なる設計とされていることが多く、大企業などで2年程度の休職期間が設けられている場合もあれば、中小企業などでは、3カ月~1年程度の休職期間となっている例もあります。また、健康保険から傷病手当金が支給されることも多く、無給としていることが多いです。
以下、実務上問題が発生することの多い私傷病休職について解説します。
イ 休職に関する諸問題
まず、よくあるご相談として、就業規則等の休職制度が使いづらい規定になっていたり、運用に不備がある場合などが散見されます。
休職規程は、一定の要件に当てはまると会社が休職を命じる規定となっていることが多いのですが、「私傷病により連続して1カ月以上欠勤したとき」などの連続した欠勤が要件となっている場合があります。
しかしながら、特に精神障害については、出勤・欠勤を繰り返すことも多く、連続欠勤の要件では、なかなか連続して1カ月欠勤することがなく、従って休職を命じることができないということに陥りがちです。
また、休職制度では、休職期間の通算について明確な規定がないことも多く、そうすると、一度の休職で休職期間が満了しなければ、また同じ期間休職できると解釈することが一般的であり、同一又は類似の傷病による休職の場合でも通算規定がないなどの場合に、解釈に争いが生じることもあります。
自社の休職規程を見て不安があれば、すぐに労働問題に精通した弁護士に規定を見てもらい、アドバイスを受けるべきです。
加えて、休職制度では、休職を会社が命じる規定となっていることも多いのですが、運用上、従業員から診断書を提出して休職届が出されてから休職を命じていて、従業員から休職届の提出がないため休職命令が発令されていないまま欠勤が続いていたというようなケースもありました。
休職を命じる規定となっている場合、休職期間の満了の起点が休職を命じたときからになりますので、休職命令を発令し、従業員に通知しておくことが必要となります。
休職規程やその運用に不安を感じたら、当事務所にご相談ください。
ウ 復職可否の判断
実務上紛争になることが多いのは、私傷病(精神障害)で休職していた従業員が、休職期間満了直前になって、主治医による復職可の診断書を提出して、復職を求めるケースです。
復職可否の判断は、休職規程において医師の診断を踏まえ、休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に傷病等が回復しているかどうかを会社が判断しますが、医学的な専門知識が必要となってくることも多く、事実上、医師の診断書の内容を根拠として判断することになります。
また、主治医だけでなく、会社の指定医や産業医の診断書の提出を受け、判断材料とすることも多いですが、主治医と産業医で判断が異なることも多く、判断が難しくなります。
多くの会社の休職制度で、休職期間満了時に傷病が治癒していない場合は退職とするという規定となっていることが多く、会社は、主治医又は産業医の診断に基づき治癒していないと判断すれば、就業規則の規定に従って退職とするのですが、この扱いが違法であるとして従業員が会社に対し、地位確認請求をして争うことがあります。
エ 企業内判断だけで対応することの危険性
復職可否の判断に関する裁判例については、2において解説しますが、傷病によって、ケースによって裁判所の判断も分かれますし、医学的にも法的にも判断が難しいです。また、復職不可として復職を認めないと、納得しない従業員から地位確認請求の訴訟等を提起されることがあります。
オ 労務トラブル予防には「事前の弁護士連携」が有効
以上のことから、特に精神障害で休職中の従業員で、主治医と産業医の診断が分かれるなどのケース、会社として復職不可の判断をして退職にするケースにおいては、労務紛争のリスクがある場合も多く、判断の前から、労働問題に精通した弁護士に対応を相談し、連携しつつ対応することをお勧めします。
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2 従業員の休職判断に企業が慎重になるべき理由
(1)休職命令・復職拒否で訴訟リスクが生じるケース
前述したように、精神障害で休職していた従業員について、主治医が休職を要するとの診断のまま休職期間満了した場合は、就業規則等の規定に従い、退職という取り扱いをしても紛争とはならないことが多いですが、休職期間満了直前に主治医が復職可の診断書を提出して復職を求めるケースでは、しばしば紛争となるケースがあります。
特に、主治医の判断と、会社指定医や産業医の判断が分かれる場合です。
主治医は、本人をずっと診察していることから病状やその経過については詳しいですが、本人の職場環境や業務内容を理解しているわけではないため、「休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に傷病等が回復しているかどうか」という判断においては、職場環境や業務内容を理解せずに、傷病が治癒したと判断することがあります。
他方で、会社指定医や産業医については、会社から職場環境や業務内容について説明を受けることができるため、「休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に傷病等が回復しているかどうか」という点において、適切な判断が可能であるという面があります。ただし、産業医が心療内科医や精神科医ではなく、内科医であることなども多く、病状について専門的な判断が難しいケースもあります。
裁判例としては、精神障害の種類や病状、業務内容、職種などに応じて、様々な判断や争点がありますが、いくつか紹介します。
最高裁判例として、従業員が職種や業務内容を特定せずに雇用契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、その企業の規模、業種、企業における従業員の配置・異動の実情及び難易等に照らしてその従業員が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当であるとして、病気のため従業員の復職を認めなかった会社の判断を違法とし、賃金請求を認めた判例があります(片山組事件・最一小判判平成10年4月9日・裁判集民事188号1頁参照)。
この判例の影響により、職種限定なく採用し、配転可能な部署を持つ企業においては、従業員が軽減業務での復職を求めるのであれば、軽減業務での復職が可能かどうかの検討を要し、可能であれば復職させる必要性が高くなりました。また、休業または休職からの復職後、直ちに従前の業務に復帰できない場合でも、医師の診断を基にして、比較的短期間で復帰可能である場合には、短期間の復帰準備期間の提供等が信義則上求められ、これらの措置を取らずに退職・解雇等した措置は無効とする裁判例が増えました(全日本空輸事件・大阪高判平成13年3月14日・労判809号61頁、キャノンソフト情報システム事件・大阪地判平成20年1月25日・労判960号49頁等)。
他方、復職を認めなかった近時の裁判例としては、双極性感情障害で休職し、休職前に営業担当部長であった従業員の事案で、主治医により復職可能との診断はされましたが、産業医との面談結果等から復職が認められなかった裁判例があります(ホープネット事件・東京地判令5・4・10労判1324号37頁、労経速2549号3頁)。
この事案では、裁判所は、就業規則の「休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に回復」したといえるかどうかについて、休職制度は、私傷病を発症した従業員に対し、休職期間において治療ないし健康状態回復の機会を付与するとともに、労務への従事等を免除しながら雇用関係を維持しつつ、解雇を猶予する趣旨の制度であると解され、また、休職の事由が消滅したというのは、いったん免除した労務の提供を再度求めることを意味するものであって、その場合は雇用契約の債務の本旨に従った履行の提供が必要となることから、休職前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうとしました。また、傷病の「治癒」が復職可否の事由とされている就業規則等も多いですが、この裁判例では、疾病類型によっては「治ゆ」の判定が困難なものがあるものと解され、一方で、「治ゆ」に至らずとも雇用契約の債務の本旨に従った履行の提供が可能となる場合も存するものと解されるから、「治ゆ」の意味については、休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に傷病等が回復すること、あるいは、復職後ほどなく上記の程度の回復が見込まれることをいうものと解するのが相当であるとしました。
そして、休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に傷病等が回復することの立証責任は従業員側にあるとしました(日本ヒューレット・パッカード(休職期間満了)事件・東京高判平成28年2月25日・労判1162号52頁、伊藤忠商事事件・東京地判平成25年1月31日・労判1083号83頁等も同様です。)。
この事案では、従業員の精神疾患は、6年間余りの長期間にわたって要治療の状態にあり、期間満了時点でも薬効の強い薬剤が多種類投手されているなどの治療が継続されていて、従業員は休職に入って以降の1年6か月余りの期間、ほとんど外出しないまま自宅療養を続け、その間、復職に向けた生活リズムの改善や外出訓練といった復職に向けた取組は一切図られないままであったこと等から、復職可能な程度に回復、あるいは、復職後ほどなく回復する見込みがあるとは診断し難いとした産業医の判断に合理性があるとしました。
そして、前述の片山組事件最高裁判決を引用しましたが、この事案では、従業員は、総合職として採用され、職種や業務内容は限定されていませんでしたが、本人から就労可能であればどのような仕事であっても復職したいとの趣旨の申し出はなかったことから、復職を不可とした会社の判断を適法としました。
この事案では、休職期間を1か月延長し、その間2回産業医面談を行い、産業医が復職不可の判断をしています。
また、伊藤忠商事事件(東京地判平成25年1月31日・労判1083号83頁)も従業員が双極性障害で休職していた事案で、総合職として営業職、管理系の業務遂行するためには対人折衝等の複雑な調整等にも耐えうる程度の精神状態が最低限必要とされ、それができるほど回復していないとして復職を認めなかった会社の判断を適法としています。
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(2)安全配慮義務違反が認定される典型パターン
以上は、従業員が私傷病で休職した場合についてですが、労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定め、使用者の安全配慮義務を定めています。最高裁判例(電通事件・最二小判平成12年3月24日)も、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」としています。
すなわち、従業員が精神障害に罹患した原因が過重労働など労務環境にある場合、あるいは、職場におけるパワーハラスメントなどによる場合で会社がそれを知りながら、あるいは過失により察知せずに従業員が精神障害に罹患したり、悪化した場合には、会社が安全配慮義務違反により従業員が被った損害の賠償責任を問われる場合があります。
精神障害による休職の場合、最初は私傷病として休職していても、のちに従業員から職場のパワーハラスメントが原因である等の訴えがあるケースも多く、そのような場合は、客観的に事実調査をした上で、労働問題に精通した弁護士と早めに連携を取りながら、事案に対応していくことが重要となります。
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3 産業医の意見を適切に活用するために企業が整備すべき体制
(1)企業がとるべきリスク回避策と弁護士の活用場面
これまで述べてきたように、私傷病休職については、特にうつ病等の精神障害においては、休職期間満了の直前に主治医の復職許可の診断が出る場合や会社指定医、産業医と主治医の判断が異なる場合など、復職可否の判断を巡って紛争になることが多く、判断も難しく、裁判例を踏まえた判断が必要となってきます。
そのため、労働問題に精通した弁護士・医師と連携しながら慎重に判断していくことが必要となります。
(2)弁護士に相談すべき具体的なタイミングとは
上記の通り、医師の診断、裁判例を踏まえ、紛争になることを想定した判断が必要となってきますし、復職不可の判断、自然退職までの会社の対応、経緯などもその後の裁判等で重要な要素となってきますので、できるだけ早いタイミングから経過を弁護士に相談することをお勧めします。少なくとも、復職不可の判断をする前に相談することが望ましいです。
4 訴訟・労基署対応を想定した社内文書の整備
最初に述べたように、そもそも休職に関する規定に不備があったり、休職命令の発令がされていない等の不備がある場合があるので、それらについて不安があれば、早めに労働問題に精通した弁護士に相談し、規程や社内文書、運用の見直しを図った方が良いでしょう。
労災申請、安衛法上の措置など労基署対応が必要な事案になるケースもありますので、経過はなるべく文書で残しておき、これらの面でも労働問題に精通した弁護士に相談しておくことが望ましいです。
5 当事務所のサポート内容
休職規程の不備や運用の見直しについても多く就業規則の整備、アドバイスを行っています。
いずれもご相談内容に応じて、スポット相談、顧問契約、就業規則等の点検、案件の代理人など、用途に見合ったご提案をいたします。
精神障害で休職する従業員がいる場合、特に安全配慮義務違反やパワーハラスメント等を訴えてきた場合、休職期間満了が近い場合などには、これらの経験豊富な当事務所に早めにご相談ください。
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