【2026年義務化予定】50人未満の中小企業にもストレスチェック義務化で企業に求められる対応策と注意点を弁護士が解説

文責:村林 俊行

1 ストレスチェック制度とその設立趣旨

ストレスチェック制度とは、心理的な負担の程度を把握するための検査(以下「ストレスチェック」という。)及びその結果に基づく面接指導の実施を事業者に義務付けること等を内容とした制度です。このようなストレスチェック制度を設けた趣旨は、厚労省の資料(職場のあんぜんサイトより引用)によれば「2006年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が公表され、事業場におけるメンタルヘルス対策の措置が進められてきましたが、厚生労働省の労働者健康情報調査結果(2012年)において、仕事や職業生活に強い不安や悩み、ストレスがある労働者は約6割という結果が出ており、更に2014年の精神障害による労災請求件数(1456件)及び認定件数(497件)は過去最多となっております。このような背景を踏まえ、新たにストレスチェック制度が創設され、職場において定期的にストレスチェックを行い、その結果により労働者が自らのストレスに気づきストレスに対処すること、ストレスチェックを通じて職場環境を見直し、ストレスの要因そのものを低減させ、メンタルヘルス不調のリスクが高い者を早期に発見し、医師による面接指導につなげることにより、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目指しています」とのことです。

ストレスチェックの導入に際しては、厚労省のホームページにてマニュアル、規程例(ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等|厚生労働省)や事業者がストレスチェックに用いる調査票(stress-check_j.pdf)等が公開されているので、そちらをご参照ください。

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2 改正労働安全衛生法の概要と改正の背景事情

(1)  改正労働安全衛生法の概要

現行の労働安全衛生法では、従業員50名以上を使用する事業場に対しストレスチェックの実施を義務付けており(同第13条1項、第66条の10、労働安全衛生法施行令第5条等)、50名未満の事業場についてはストレスチェックの実施を努力義務としていました(労働安全衛生法附則第4条)。50名未満の事業場についてストレスチェックの実施を努力義務としていたのは、体制が整備されていないことも多い小規模事業場では情報管理等が適切に実施されないという懸念があるためとされていました。

しかし、2025年5月8日に、ストレスチェックを50名未満の事業場でも義務化する労働安全衛生法等の改正案(労働安全衛生法附則第4条を削除)が衆議院本会議にて可決・成立し、公布から3年以内に施行される予定となっているので、最長でも2028年5月までに施行される見込みとなりました。公布から3年以内の施行とされたのは、小規模事業場では、ストレスチェック実施のための体制整備や費用負担などが課題となる可能性があるため、その負担等に配慮し、施行までの十分な準備期間を確保することとしたためです。つまり、小規模事業場では、①産業医の選任義務がないため(労働安全衛生法第13条1項、同施行令第5条)、専門職が不在であることが多いこと、②従業員が少ないため個人のプライバシーの保護が難しいこと、③人的・予算的リソースが限られていること等を考慮したもので、厚労省の検討会における議論からすれば、後日厚労省により小規模事業場用のマニュアルを作成するものと思われます。

なお、今回の改正法においても集団分析・職場環境改善については事業場の規模にかかわらず努力義務であることに変わりはありません(労働安全衛生規則第52条の14参照)。

(2)  改正の背景事情

この法改正がなされた背景事情としては、メンタルヘルス不調を抱える労働者の増加が挙げられます。ストレスチェック及び面接指導の実施により、自身のストレスの状況への気付きを得る機会は、全ての労働者に与えられることが望ましく、個々の労働者のストレスを低減させること、職場におけるストレスの要因そのものを低減するように努めることなど、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することの重要性は、事業場規模に関わらないものです。しかるに、精神障害の労災支給決定件数は、883件超(2023年度)と過去最も多くなっており、「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業又は退職した労働者がいる事業場割合は、13.3%(2022年調査)、13.5%(2023年調査)となっています。しかしながら、労働者数50人未満の小規模事業場においては、メンタルヘルス対策に取り組む割合が30~49人の事業場で71.8%、10~29人で56.6%(50人以上の事業場においては91.3%)と低い水準であり、十分な取り組みがされているとは言い難い状況となっています(2023年労働安全衛生調査)。こうした現状の改善のため、今回の50人未満の事業場でもストレスチェックの義務化が進められることとなりました。

3 メンタルヘルス対応を怠った場合のリスク(法的リスク、実務リスク、社内トラブル)と留意点

ストレスチェック制度は、職場において定期的にストレスチェックを行い、その結果により労働者が自らのストレスに気づきストレスに対処すること、ストレスチェックを通じて職場環境を見直し、ストレスの要因そのものを低減させ、メンタルヘルス不調のリスクが高い者を早期に発見し、医師による面接指導につなげることにより、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目指しています。また、それだけにとどまらず、従業員のストレス状況の改善及び働きやすい職場の実現を通じて生産性の向上にもつながります。しかるに、事業主がメンタルヘルス対応を怠った場合には、以下のリスクが発生します。

① メンタルヘルス不調者が出ることによる労災請求、事業者への損害賠償請求が行われる可能性がある(法的リスク)。

② メンタルヘルス不調者が休職する場合には、その者の業務が円滑に遂行できず業務への悪影響が出ることが懸念されます(実務リスク)。

③ メンタルヘルス不調者が休職する場合には、他の従業員にしわ寄せが行き、職場の人間関係の悪化することが懸念されます(社内トラブル)。

事業主としては、これらのリスクを回避するためには、以下の方策を検討する必要があります。

① ストレスチェック制度の実施責任主体は事業者であることから、事業者は、社内において、ストレスチェック実施義務があることを周知し、その管理体制等(ストレスチェックの実施者を誰にするか(小規模事業場では外部機関を活用することも選択肢)・いつ実施するか、どの質問票を使うか、ストレスの高い人の判定基準、面接指導の申出先・実施体制、結果の保存・管理方法等)を構築する必要があります。

② 実施方法等については、衛生委員会で調査審議を行い、実施方法等を定めた規程を策定します。

③ ストレスチェックを行うに際しては、実施者(医師・保健師)との連携を図り、その進め方等について協議する必要があります。

④ ストレスチェック結果の取扱いや本人からの同意取得のフローを整備することが必要となります。

⑤ ストレスチェックの結果の通知を受けた労働者のうち、高ストレス者として面談指導が必要と評価された労働者から申出があった際には、 医師による面接指導を行うことが事業者の義務となっています(労働安全衛生法第66条の10第3項、労働安全衛生法施行令第52条の16第1項、第2項)。また、事業者は、面接指導の結果に基づき、医師の所見を勘案し、必要があると認めるときは、就業上の措置を講じる必要があります(労働安全衛生法第66条の10第5項、第6項)。そのため、事業主としては、面接指導が行われた後、遅滞なくストレスチェックの実施者(医師・保健師)から意見聴取をした上で(労働安全衛生法施行令第52条の19)、対応方針(就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置、休職・人事判断との整合性に留意等)を決定しなければなりません。

⑥ 個人の結果や個人の結果を一定規模のまとまりの集団ごとに集計・分析の上、必要であれば規程改定(就業規則/メンタルヘルス内規等)を行うことになります。

なお、労働者に対する不利益な取り扱い防止のため、面接指導の申し出を理由として、労働者に不利益な取り扱いを行うことは法律上禁止されています(労働安全衛生法第66条の10第3項)。加えて、ストレスチェックを受けないこと、事業者へのストレスチェックの結果の提供に同意しないこと、高ストレス者として面接指導が必要と評価されたにも関わらず面接指導を申し出ないこと等を理由とした不利益な取り扱いや、面接指導の結果を理由とした解雇、雇止め、退職勧奨、不当な配転、不当な職位変更等も行ってはいけないものと解されています。

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4 弁護士に相談するタイミング

会社におけるメンタルヘルス対策については、何から手を付ければよいか悩まれている事業主の方も多いかと思いますが、①制度導入時の規程整備のとき、②メンタル不調社員への対応判断に悩んだとき、③万一訴訟リスクが生じた際の初動アドバイスが必要なときには、是非当事務所までご相談ください。

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Last Updated on 2025年7月7日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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