文責者:岩出 誠
概要
心理的負荷による精神障害については、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平23・11・26基発 1226 第1号、令2・5改正、令・8改正。以下「旧精神基準」という)に基づき労災認定が行なわれてきましたが、同認定基準の改正から約12 年が経過する中で、近年の社会情勢の変化や労災請求件数の増加等に鑑み、裁判例の中でも同基準より柔軟に労災認定する動きもある中で(後述Ⅵ1参照)※1、厚労省「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」(以下「検討会」という)において、令和3年12月から最新の医学的知見や法律学等の専門的見地から認定基準について検討がなされ、令和5年7月16日「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(以下、「報告書」という)が公表され、令和5 年9 月に「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が改正され、業務による心理的負荷評価表の見直し、精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲の見直し等がなされました(「心理的負荷による精神障害の認定基準」令5・9・1基発 0901 第2<以下、改正精神基準)という>)。同基準は令和5年9月1日から施行されています※2。
これに伴い「令和3年9月14日付「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」基発0914号第1<以下、「改正脳心基準」という>」も改正されています(同基準で利用されている業務による心理的負荷評価表の変更に伴う改正。令5・10・18基発1018第1)。
精神障害等の労災認定が増える中で、企業としては従業員に対する安全配慮義務および社会的責任・リスク回避の観点から、“予防策”が重要になってきている※3。
そこで、以下、改正精神基準の基本的な考え方や枠組みを踏まえた上で、旧基準から改正精神基準への労災認定の評価方法の変更点と実務への影響を報告書、関連裁判例等を概説しつつ、これらを踏まえて、精神障害等を発症させない職場環境整備など予防策や企業として取るべき姿勢について解説してみる。
※1 裁判例の動向については岩出誠「労働法実務大系」第2版〔民事法研究会・2019年〕483頁以下参照
※2 精神障害認定基準改正の経緯に関しては、報告書2頁の表1参照
※3 改正脳心基準については岩出誠「脳・心臓疾患の労災認定の評価方法の変更点と実務への影響」ビジネスガイド2021年.11月号6頁以下参照
Ⅰ 改正精神基準の改正概要と企業実務に関わる点
1 改正点の概要
旧精神基準から改正精神基準への労災認定の改正点の概要は、厚労省によれば、以下の通りとなります。
(厚労省HP掲載)
2 業務による心理的負荷評価表の見直し
(1)具体的出来事の追加、類似性の高い具体的出来事の統合等
(ア)「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスハラ)
旧精神基準でも、「顧客や取先から無理な注文を受けた」と「顧客や取 引先からクレームを受けた」が「②仕事の失敗、過重な責任発生等」の中で例示されていましたが、改正精神基準の心理的負荷評価表では、「⑥対人関係」の中に、類型27として「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」ことが追加・明示されました※4。
厚労省の令和4年度の「過労死等の労災補償状況」においても、精神障害の認定数の中で、顧客関係の類型は、合計35件に及んでいたことや、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令2・1・15厚労告5<以下、「パワハラ指針」という>)7でも、「他の事業主の雇用する労働者等からのパワハラや顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)であって、就業環境が害されるもの。以下、「カスハラ」という)に関しても、相談体制が望ましいとされたことに対応している。
裁判例においても、カスハラ的事情を考慮して業務起因性を認めた例も出ていたことも考慮されていますい※5
※4 著しい迷惑行為とは、類型27によれば、「暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等をいう」、とされています。
※5 国・宇和島労基署長事件・福岡地判令元・6・14労経速2391号3頁では、取引先との業務に行ける精神的負荷等が急性心不全による死亡の原因として業務起因性が認められています。
(イ)感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した
コロナ禍での医療従事者の精神障害の多発状況等を踏まえ※6、「③仕事の量・ 質」中に類型14として「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」が追加されました※7。
※6 たとえば、國井泰人「コロナ禍におけるメンタルヘルスの実態と 科学的根拠に基づく対策の必要性」学術の動向2022.01号40頁以下
※7 【「強」になる例】としては、類型14によれば、「新興感染症の感染の危険性が高い業務等に急遽従事することとなり、防護対策も試行錯誤しながら実施する中で、施設内における感染等の被害拡大も生じ、死の恐怖等を感じつつ業務を継続した」ことが挙げられています。
(2)心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例の拡充
パワハラの6類型すべての具体例、性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含むことが類型22で、明記されました※8
その他、 一部の心理的負荷の強度しか具体例が示されていなかった具体的出来事について、他の強度の具体例が明記されました※9。
なお、類型22で、“「上司等」には、職務上の地位が上位の者のほか、同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合、同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合も含む。”ことが明記されています。
※8 6類型すべての具体例の中で実務的に最多となり得る精神的攻撃で「【「強」である例】」の例として、類型22にて、「・上司等から、次のような精神的攻撃等を反復・継続する などして執拗に受けた ▸ 人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃 ▸ 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」を挙げています。
※9 たとえば、類型23「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」、同24「上司とのトラブル」、同25「同僚とのトラブル」、同26「部下とのトラブル」などについても、より具体的な例示がなされています。
3 精神障害の悪化と症状安定後の新たな発病の業務起因性が認められる範囲の見直し
(1)精神障害の悪化とその業務起因性
精神障害を発病して治療が必要な状態にある者については、旧精神基準では、悪化前おおむね6か月以内に別表1の「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がなければ 業務起因性を認めておらず、これが労災認定の高いハードルとなっていました。しかし、報告書を踏まえて改正精神基準の第5の1では、悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により 悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める」ことが明示されました※10。同様の判断を示す裁判例の多発※11も斟酌されたものでしょう。
※10 「特別な出来事がなくとも、悪化の前に業務による強い心理的負荷が 認められる場合には、当該業務による強い心理的負荷、本人の個体側要因(悪化前の精神障害の状況)と業務以外の心理的負荷、悪化の態様やこれに至る 経緯(悪化後の症状やその程度、出来事と悪化との近接性、発病から悪化までの期間など)等を十分に検討し、業務による強い心理的負荷によって精神 障害が自然経過を超えて著しく悪化したものと精神医学的に判断されると きには、悪化した部分について業務起因性を認める。」とされました。ただし、「既存の精神障害が悪化したといえるか否かについては、個別事案ごとに医学専門家による判断が必要である。」と付記され、慎重な態度が垣間見えます。
※11 国・岐阜労基署長(アピコ関連会社)事件・名古屋地判平27・11・18労判1133号16頁(「特別な出来事」に当てはまる出来事がない場合でも,認定基準で「強」と判断される出来事がある場合には,業務による心理的負荷とうつ病の増悪による自殺との相当因果関係が認められるとした)、国・岐阜労基署長(アピコ関連会社)事件・名古屋高判平28・12・1労判1161号78頁、国・三田労基署長事件・東京高判令2・10・21労経速2447号3頁、国・北九州東労基署長(TOTOインフォム)事件・福岡地判令4・3・18労判1286号38頁等
(2)精神障害の悪化とその業務起因性
症状安定後の新たな発病に関しては、旧精神基準では言及がなかったのですが、改正精神基準第5の2では、既存の精神障害について、一定期間、通院・服薬を継続しているものの、 症状がなく、又は安定していた状態で、通常の勤務を行っている状況にあっ て、その後、症状の変化が生じたものについては、精神障害の発病後の悪化としてではなく、症状が改善し安定した状態が一定期間継続した後の新たな 発病として、前記Ⅱ1,2の認定要件に照らして判断されます。
4 医学意見収集方法の効率化
医学意見の収集方法につき、旧精神基準では、自殺事案や「強」かどうか不明な事案では、専門医3名の合議による意見収集が必須とされていました。改正精神基準では、特に困難なものを除き、上記部会の合議によることなく、専門医1名の意見で 決定できるよう変更されました。労災認定時間の短縮化に大いに資することが期待されます。
Ⅱ 業務による心理的負荷の判断の仕組み
1 認定要件の基本的判断枠組
心理的負荷による精神障害の労災認定に関する基本的判断枠組は、以下のようになされ、この点は、旧精神基準と改正精神基準との間に差異はありません。
(1)対象疾病
労災の対象となるうつ病や重度ストレス反応等の対象疾病は、「『国際疾病分類第10回修正版』(以下「ICD-10」という。)第Ⅴ章『精神および行動の障害』に分類される精神障害であって、器質性のもの及び有害物質に起因するものを除く。対象疾病のうち業務に関連して発病する可能性のある精神障害は、主としてICD-10のF2からF4に分類される精神障害で……いわゆる心身症は、本認定基準における精神障害には含まれない」。とされています。
(2)認定要件
次の①、②及び③の3要件のいずれをも満たす精神障害を業務上と認める、とされています。
①対象疾病を発病していること。
②前記疾病の発病前おおむね6カ月の間に客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること。
③業務以外の心理的負荷および個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと。
2 心理的負荷の強度の判断手法‐心理的負荷表、評価期間
判断手法の基本は、改正精神基準別表1「業務による心理的負荷評価表」を指標として「強」「中」「弱」の3段階に区分し、総合評価が「強」と判断される場合には、認定要件を満たすものとされます。まず、発病前おおむね6カ月の間に、「特別な出来事」に該当する業務による出来事が認められた場合には、心理的負荷の総合評価を「強」と判断する。特別な出来事としては、発病直前の1カ月におおむね160時間を超えるような、またはこれに満たない期間にこれと同程度の(たとえば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った(休憩時間は少ないが手待時間が多い場合等、労働密度が特に低い場合を除く)場合が「極度の長時間労働」とされ、この場合には、他に私的な出来事が存在しても、全体評価を「強」とされ、労災認定されます。また、「特別な出来事」に該当しないで「強」、「中」、「弱」の諸事情から、総合評価する場合、6か月間、月100時間の時間外労働となる恒常的長時間労働が認められる場合(以下、「労働時間基準」という)には、心理的負荷の総合評価を「強」とされ、労災認定に傾くことになります※12。
※12 厳密には、類型12「1か月に 80時間以上の時間外労働を行った」では、【「強」になる例】 として、・発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね 120時間以上の時間外労働を行った ・発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね 100時間以上の時間外労働を行った場合が例示されています。
Ⅲ 改正脳心基準の労災認定基準の一部改正
1 改正脳心基準とは
「はじめに」で前述したように、脳・心疾患については、改正脳心基準が告示され、同基準は令和3年9月15日 から施行されています。
2 認定要件における「心理的負荷を伴う業務」の評価について
この中で注目すべきは、旧基準の「心理的負荷を伴う業務」につき、「別表1 日常的に心理的負荷を伴う業務」に加えて、旧精神基準」の「業務による心理的負荷評価表」の「具体的出来事」と同一の「別表2 心理的負荷を伴う具体的出来事」のリストを採用することにより(改正脳心基準第4の2(4)ウ(エ))、同出来事19のパワハラや同出来事12の「顧客や取引先からクレー ムを受けた」こと(いわゆるカスハラ的事情)などが重視されることになったことです。※12 改正脳心基準における「心理的負荷を伴う具体的出来事」利用の意義の詳細については、岩出・前掲ビジネスガイド10頁以下参照。
裁判例においても、既に、心臓疾患において、パワハラが原因となっている事案も増加し(パワハラを考慮した例として、亀戸労基署長(千代田梱包)事件・東京高判平20・11・12労経速2022号13頁、国・島田労基署長事件・東京高判平成26・8・29労判1111号31頁、カスハラを考慮した例として、国・宮崎労基署長(宮交ショップアンドレストラン)事件・福岡高宮崎支判平29・8・23労判1172号43頁等も現れていました。
3 改正精神基準の施行に伴う改正脳心基準の一部改正
改正精神基準の施行に伴い、改正脳心基準において援用されていた「心理的負荷を伴う具体的出来事」が改められた関係で、この改正に伴い、改正脳心基準における「心理的負荷を伴う具体的出来事」も改正精神基準に従って改められ※13、運用されることになりました。※13 令5・10・18基発1018第1
Ⅳ 改正精神基準の実務的影響と留意点-精神障害労災認定の緩和化による企業リスクの拡大
改正精神基準による前述の改正点、具体的出来事の追加、類似性の高い具体的出来事の統合等、心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例の拡充、精神障害の悪化や新たな発症等の業務起因性が認められる範囲の見直し、医学意見収集方法の効率化等のいずれも、従前よりは柔軟かつ迅速に精神障害の労災認定が容易となった可能性が高いため、企業においては、以下のような各リスクを見据えた対応が必要です。
1 改正精神基準施行前の事案への適用の可能性
旧精神基準の公表の際にもあったように、労基署長による認定場面ではなく、訴訟においては、改正精神基準施行前の事案にも同基準が適用されるリスクが相当高いです。
即ち、「具体的出来事」は以前にさかのぼるものの疾病の発病は改正後の精神障害の労災認定基準の適用後である場合の考え方については、行政処分取消請求事件の性質上、法論理的には整合性に問題がありますが、実際には、今までの労災認定基準の改正の際にも、脳心基準でも※14、旧精神基準についても※15、遡及適用した裁判例は少なくなく、実務的な対応に当たっては、かかる事態の発生を前提とした対応が必要となります。
※14 国・足立労基署長(クオーク)事件・東京地判平23・4・18労判1031号16頁等)
※15 国・大田労基署長(羽田交通)事件・東京地判平27・5・28労判1120号5頁<認定基準は、精神障害の発病と業務との関係について、判断指針と比べ、より最新の知見を反映したものと考えられるから、これに基づいて業務起因性の有無を検討するのが相当である>等と判示されています。
2 労災民事賠償事件増加への懸念
法理論的には精神障害の労災認定が企業の安全配慮義務違反による損害賠償を当然に導くものではありません※16。しかし、現実には、労災認定により、相当因果関係や安全配慮義務違反について、事実上の推定が働き、企業側に、事故発生、事故と損害との間の因果関係の欠如等につき、積極的な主張立証の必要が発生することは否めず、企業の健康配慮義務の高度化と相まって、今や、ほぼ確実に過労自殺等の精神障害を招いた企業の健康配慮義務違反を理由とする損害賠償請求を不可避とする事態に陥っていると言って過言ではありません※17。旧精神基準施行の際にもそうであったように、改正精神基準による労災認定基準の緩和が、過労自殺等の損害賠償請求事件の増加を加速させ、健康診断の結果等に応じた労働環境の整備・業務の軽減ないし免除などの健康配慮義務違反による賠償責任を認める請求とこれを認容する判決の増加というリスクが高まります。最悪の過労自殺の場合には賠償額も億単位の高額に跳ね上がるところから、改めて、損害保険などを利用した労災上積補償制度※18等の導入・整備・見直しを検討すべきです。
※16 労災災認定と安全配慮義務違反の存否とは直接には関係しないとの法理については、レンゴー事件・最一小決平13・2・22労判806号12頁が明言しています。確かに、行政機関の行う労災認定と、民事訴訟手続での使用者の安全配慮義務違反の認定とは、何ら連動するものではない。相当果関係や安全配慮義務違反の存否は、裁判所が独自に認定すべきものであるから、労基署長のなした労災認定をもって、事故の発生や後遺障害の事実が推定されるものではな、とされます。詳細は岩出・前掲大系489頁参照
※17 最近の過労自殺等の民事賠償認容例として、パワハラ事案の池一菜果園ほか事件・・高松高判令2・12・24判時2509号63頁、兵庫県警察事件・神戸地判令4・6・22労経速2493号3頁等、過重労働と叱責と等を考慮した事案として、青森三菱ふそう自動車販売事件・仙台高判令2・1・28労経速2411号3頁、アクセスメディア事件・大阪地判令2・1・31LEX/DB、北海道事件・仙台高判令3・2・10判時2492号55頁、新潟市事件・新潟地判令4・3・25 LEX/DB、奈良県事件・奈良地判令4・5・31 LEX/DB、国・陸上自衛隊事件・大津地判令5・2・21 LEX/DB等、過重労働を中心として認容した事例として、日和住設ほか事件・札幌地判令3・6・25労判1253号93頁等
※18 岩出・前掲大系498頁以下参照
3 レピュテーションリスクや企業内のモラール低下
特に、企業にとって、考慮すべきは、レピュテーションリスクです。特に悲惨なパワハラによる自殺事案などでは、世間の耳目を集め※19、企業全体のステークホールダー全体からの信用だけではなく、リクルートメントにも深刻な影響を与えることは明らかです。
企業内での従業員のモラール低下への影響も図り知れません。多くの退職者を生み出している例も少なくありません※20。
※19 古くは過労死に関する第一次電通事件、第二次電通事件、豊田章男社長の遺族への対面謝罪を招いたトヨタパワハラ自殺事件(2021.6.7朝日新聞WEB記事等)
※20 ビッグモーターでの大量退職等(2023.7.23Business Journa WEB記事)
Ⅴ 改正精神基準への対応について当事務所でサポートできること
改正精神基準への対応として、下記のような具体策の実施が必要となります。これらの点については、労働事件・労務管理について多くの経験を有する弁護士に相談するのが有益です。
前述の多くのリスクを顕在化させないため、例えば、パワハラへの相談対応が懈怠し、精神障害の労災認定を回避するための紛争を予防する労務管理体制を構築するためにも、当事務所にご相談いただければと思います。また、その一環としての管理職、階層別等の各段階でのセミナー講師などにおいても、ご相談いただければと思います。
1 従業員が精神障害(および脳・心臓疾患)を発症するリスクと企業の予防・対応実務について
(1)予防対策
従業員が精神障害(および脳・心臓疾患)を発症するリスクと企業の予防策としては、脳心基準及び改正精神基準の認定要素を踏まえて、企業業務において、精神障害(および脳・心疾患)を発症し得るリスクをできる限り減少させることです。具体的には、「業務による心理的負荷評価表」の「特別な出来事」や、「特別な出来事以外の具体的出来事」の「強」になるような事態の発生を徹底的に防止することです。具体的には、労働時間基準に達するような長時間労働、連続勤務、各ハラスメント等の防止、異動時の心理的負荷への配慮としての丁寧な引継ぎ、ガイダンス、研修等の実施も必要となります。
過重労働に対しては、罰則付き上限規制が導入された労基法の遵守、36協定の上限時間や特別条利用回数の厳守※21、安衛法上のストレスチャックや面接指導等※22の徹底が先ず求められます。
各ハラスメントの防止に関しては、各ハラスメント指針等※21が求めているハラスメント防止措置義務の確実な履行が最低限必要です。即ち、❶事業主の方針の明確化及びその周知・啓発、❷相談(苦情を含む)に応じ適切に対処するために必要な整備(相談窓口、担当者、人事部門との連携など)の整備、❸事後の迅速かつ適切な対応(事実関係の迅速・正確な確認、行為者・被害者に対する適正な措置、再発防止措置)、❹相談や事後対応におけるプライバシーの保護、相談や事実確認への協力を理由とする不利益取扱い禁止の周知・啓発が求められています。
これらの履行の実効性を高めためには、1on1ミーティングなどによる上司と部下のコミュニケーションを円滑化し、上司がフォローしてゆくことが必要です。過労死等の民事賠償事件で和解の際に合意された再発防止措置なども参考となります※24。ハラスメント防止には、各指針や厚労省の啓発用パンフ※21で掲載のハラスメント防止規程等の整備が不可欠です。
精神障害の早期発見と増悪防止のためには、上記和解でも取り上げられた「健康診断受診のための特別有給休暇制度の創設」や定期健診に加えて受診義務規定を整備する必要があります。
※21 岩出・前掲大系227頁~235頁、さしあたり厚労省HP掲載の「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」参照
※22 さしあたり、厚労省HP掲載の「長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル」、「医学的知見に基づく ストレスチェック制度の高ストレス者に対する 適切な面接指導実施のための マニュアル」、岩出・前掲大系457頁~460頁参照
※23 パワハラ指針、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指」(平18・10・11厚労告615、最終改正令和2・1・15厚労告6。以下「セクワハラ指針」という)、「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」平28厚労告312、最終改正令2・2・10雇均発02104。以下、「マタハラ指針」という)、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるよう にするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平21厚労告509<平成29年 1月1日適用>第2の14「職場における育児休業等に関するハラスメント」、パワハラ指針7は、他の事業主の雇用する労働者等からのパワハラや顧客等からの著しい迷惑行為((暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)であって、就業環境が害されるもの。以下、「カスハラ」という)に関しても、同様の防止態勢を取ることが望ましいとして、既に、行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取組を行うことに関して。「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル作成事業検討委員会(顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連携会議)「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」厚労省HP掲載(以下「カスハラ・マニュアル」という)が公表されています。なお、テレワークガイドライン(令3・3・25厚労省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」)では、「事業主は、職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント等 (以下「ハラスメント」という。)の防止のための雇用管理上の措置を講じる ことが義務づけられており、テレワークの際にも、オフィスに出勤する働き方 の場合と同様に、関係法令・関係指針に基づき、ハラスメントを行ってはなら ない旨を労働者に周知啓発する等、ハラスメントの防止対策を十分に講じる必要がある。」と指摘しています。
※24 外食チェーン「ラーメン山岡家」の過労死民事賠償事件の和解では、再発防止策の一環で「11時間以上の勤務間インターバル(終業から次の始業までの休息)制度の導入の検討」「健康診断受診のための特別有給休暇制度の創設」などで合意されたと報じられています(2021.4.13朝日新聞WEB版記事)。
※25 さしあたり、令和5年度版「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」掲載諸規程例等参照
(2)ハラスメントにおける相談後の対応の重要性
予防策の延長として、特に、ハラスメントにおいては、相談後の対応が重要です。
改正精神基準類型29セクハラや同22パワハラ、同27のカスハラや、同23「同僚等から、暴行又はひどい いじめ・嫌がらせを受けた」に共通して、【「強」になる例】として、「心理的負荷としては「中」程度の迷惑行為を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった」点が指摘されていることです。即ち、上記各相談に対して、適切な対応、改善がなされていれば、「強」の評価を受けず、労災認定を回避できる可能性が高まり、引いては、民事賠償等のリスクも下がるということです。
(3)労災申請・認定後の対応
精神障害等の発生後に労災申請・認定がなされた場合には、労災保険法施行規則23条によって、事業主の助力義務(同条1項)及び証明義務(同2項)が規定されています。しかし、裁判例でも、同条2項は、事業主が労災該当性を争っている場合にまで上記のような義務を負わせるものとまではいえないと判断しています(建設技術研究所事件・大阪地判平24・2・15労判1048号105頁)。そこで、企業が、脳心基準や改正精神基準に照らして、業務起因性を争っている場合には、事業主証明を拒否したり、客観的事実のみを証明したり、企業としての意見書を提出することも認められているので(同23条の2)、これらをなすことも検討すべきです。
2 業務による精神障害を発症し得る可能性が高いケース別の予防策と留意点
(1)精神障労災認定件数から見える傾向
(ア)労災認定件数が多い「業種」
実際に労災認定されている件数が多い「業種」の傾向などにつき、報告書8頁~9頁によれば、平成 23 年度から令和4年度までの 12 年間に業務上として支給決定された事案(累計 6,130 件)について、業種別では、12 年間の累計では「製造業」が 17.0%で最も多く、次いで 「医療,福祉」、「卸売業,小売業」と続き、これらの業種で 46.8%を占めています。近年は「医療,福祉」の割合が上昇し、令和4年度では当該業種が最多(23.1%)です。
そこで、労災認定件数が多い「業種」においては、特に、前記Ⅳの2の予防策の徹底が必要です。
(イ)労災認定件数が多い「時間外労働時間」「具体的出来事」
厚労省の令和4年度の「過労死等の労災補償状況」によれば、時間外労働時間別(1か月平均)の傾向としては、「20時間未満」が87件で最も多く、次いで「100時間以上~120時間未満」が45件です。
出来事別の傾向としては、支給決定件数は、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」147件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」89件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」78件の順に多くなっています。
そこで、前記Ⅳの2の予防策を徹底し、労災認定件数が多い「時間外労働時間」「具体的出来事」の発生事態を予防すべきです。
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(2) 業務による精神障害を発症し得る可能性が高いケース別の予防策と留意点
(ア)顧客や取引先対応業務を行う社員が対応困難な要求を受けている場合(カスハラ対策)
前記「カスハラ・マニュアルに沿った防止対策が必要です。
(イ)特定の社員が恒常的に長時間労働をしている場合
面接指導や前記健診休暇などを利用し、勤務間インターバルなど、を導入し、労働時間基準での過労死ラインを超えていなくても認定基準に該当する場合があり得ることを踏まえ、前記Ⅳ2で詳述した防止策を遂行すべきです。
(ウ)社外で副業している場合(二以上の事業の業務における労働時間管理)
厚労省の令和4年度の「過労死等の労災補償状況」によれば、複数業務要因災害(事業主が同一でない二以上の事業に同時に使用されている労働者について、全ての就業先での業務上の負荷を総合的に評価することにより傷病との間に因果関係が認められる災害)に関する脳・心臓疾患の決定件数は12件(うち支給決定件数4件)で、精神障害の決定件数は10件(うち支給決定件数2件)でした。
改正精神基準は、複数業務要因災害につき修正をしておらず、旧精神基準と同じ判断がなされる。心理的負荷を評価する際、異なる事業における労働時間、労働日数は、それぞれ通算されることに留意する必要があります。労働時間の管理については厚労省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」平 30 ・1策定 (令2・9改定))の3(2)に留意すること必要です。
(エ)精神障害を発症後に復職した場合
改正精神基準では、前述の通り、悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により 悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める改正がなされ、労災認定される可能性が高まっていることに留意して、前述Ⅳ2の予防策を徹底すべきです。
(オ)部署の異動、昇進時など仕事内容が大幅に変化する場合
令和4年度「過労死等の労災補償状況」によれば、「精神障害の労災認定」数全体1986件中で、「具体的出来事」別では、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」183件、「配置転換があった」89件、「転勤をした」13件に及んでおり、前述Ⅳ2のように、負荷量の調整・軽減、異動時の心理的負荷への配慮としての丁寧な引継ぎ、ガイダンス、研修等の実施、赴任手当、帰省旅費手当、赴任期間の上限や目安を示すなどの工夫も検討されるべきです。
(カ)私生活上の事情や病気などが発生した場合
私生活上の事情や病気など業務以外の心理的負荷又は個体側要因は認められる場合にも、精神障害の発病が業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合には、労災が認められ得る点、特に、前述Ⅱ1(2)のように、「特別な出来事」に該当する業務による出来事が認められた場合には、他に私的な出来事が存在しても、全体評価を「強」とされ、労災認定される点には留意が必要です。
3 精神障害の労災認定に関する最近の裁判例
(1)認定基準より緩和された起因性の判傾向
精神障害の労災認定に関する最近の裁判例の動向を紹介しておきます。
裁判例も、おおむね、従前の裁判例を反映した労災認定基準を引用してそれに沿った判断を下すなど同基準を尊重していますが※26、過労自殺民事損害賠償においてはより顕著ですが※28、労災認定においても、同基準より緩和された要件をもって判断する動きがあり注目しておかねばなりません※30。
※26 近時の例として国・三田労基署長(シー・ヴイ・エス・ベイエリア)事件・東京高判平28・9・1労判1151号27頁、国・半田労基署長(医療法人B会D病院)事件・名古屋高判平29・3・16労判1162号28頁、国・中央労基署長(読売新聞)事件・福岡地判平30・6・27労経速2358号14頁等
※28 国・半田労基署長(医療法人B会D病院)事件・名古屋高判平29・3・16労判1162号28頁/国・さいたま労基署長(ビジュアルビジョン)事件・東京地判平30・5・25労判1190号23頁/国・萩労基署長事件・広島地判令元・5・29労経速2390号3頁等
※29 岩出・前掲大系495頁~496頁参照
※30 本人基準説の例として、国・福岡東労基署長(粕屋農協)事件・福岡高判平21・5・19労判993号76頁/国・名古屋西労基署長(ジェイフォン)事件・名古屋地判平23・12・14労判1046号42頁等がある)。さらに過労自殺の業務起因性につき発症時期を特定することなく柔軟に起因性を認めた国・中央労基署長(日本トランスシティ)事件・名古屋地判平21・5・28労判1003号74頁もある。
(2)パワハラによる精神障害の業務起因性認定状況
相当性を欠いた叱責等による業務起因性肯定した近時の例として、国・敦賀労基署長(三和不動産)事件・福井地判令2・2・12労判1224号57頁<亡労働者の適応障害は代表取締役の叱責(大声で長時間怒鳴り続けており、その叱責の態様も、退職勧奨を含むもの)等の業務に関連するものを原因として発症したと認めるのが相当であるから、国の指摘する事情が適応障害発症に関与したとは認められず、亡労働者が適応障害を発症したこと、亡労働者の適応障害発症前の業務による心理的負荷の総合評価は「強」であることが認められ、反面、亡労働者の適応障害発症の原因となる業務以外の心理的負荷又は個体側要因を認めることはできないから、亡労働者の適応障害の発症及びその後の本件自殺は、亡労働者の業務に起因するものであると認めるのが相当である>/国・福岡中央労基署長事件・福岡地判令3・3・12労経速2450号19頁<①亡労働者は発病前6か月にわたって,恒常的に長時間労働に従事しており,とりわけ,発病前2か月間は100時間前後に及ぶ残業をしていたことが認められるところ,特に,年末年始の休暇等があった平成22年12月12日から平成23年1月10日までの時間外労働時間数が36時間であったのに対し,その後1か月間(平成23年1月11日から同年2月9日)の時間外労働時間数が106時間30分となっており,1か月間で時間外労働時間数が倍以上に増加しており,このように,繁忙期に入ったことにより,亡労働者は,業務量の著しい増加に伴う時間外労働の急激な増加を余儀なくされ,その後うつ病エピソードの発病に至るまでのおよそ1か月間においては,優に月100時間を超える時間外労働を継続して行っており,多大な労力を要したことが認められるから,亡労働者には大きな心理的負荷がかかったことが認められ,これを認定基準に即して判断すると,「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」に該当し,その心理的負荷は「強」と判断すべきであるとされ、② 亡労働者は,上司から連日にわたって,「腹黒い」,「偽善的な笑顔」などと言われたところ,上記上司の発言は,入社2年目の亡労働者にとっては相当程度の心理的負荷があったものと認められ,これを認定基準に即して判断すると,当該出来事は「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」に該当し,当該出来事自体の心理的負荷は「中」程度であっても,その出来事前に月100時間を超える残業時間(恒常的長時間労働)が認められることから,心理的負荷の程度を「強」と修正すべきであるとされ、③亡労働者のうつ病エピソード発病前6か月の間に,心理的負荷「強」となる出来事が2つ認められるから,その心理的負荷の総合評価は「強」と判断すべきであり,亡労働者は,業務上,心理的負荷「強」となる出来事に複数遭遇して,平成23年3月19日ないし同月20日頃にうつ病エピソードを発症したものと認められ,その発症に個体側要因や業務外の心理的負荷の明らかな関与は認められないから,亡労働者のうつ病エピソードの発症は業務に起因するものと認められ,そして,亡労働者のうつ病エピソードの発症が業務に起因することが認められる>/国・豊田労基署長(トヨタ自動車)事件名古屋高判令3・9・16LEX/DB<本件会社に勤務していたP5(本件労働者)の妻である控訴人が、本件労働者が自殺したのは、本件会社における過密・過重な業務、上司からの継続的なパワーハラスメントによって本件労働者がうつ病を発病した結果であり業務に起因すると主張して、豊田労働基準監督署長(処分行政庁)に対して労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、処分行政庁から、本件自殺は業務に起因するものとは認められないとして、遺族補償給付及び葬祭料をいずれも支給しない旨の処分を受けたため、被控訴人・国に対し、本件各処分の取消しを求めたところ、原審が控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が控訴した事案で、本件労働者は、新型プリウス関連業務により心理的負荷を、また2020年ビジョン関連業務により心理的負荷を受け、その後TFAP関連業務により心理的負荷を受けており、この間、長期間にわたり反復継続して、上司から心理的負荷を受けていたところ、上記TFAP関連業務はそれ自体も相当に困難な業務であり、上司の対応にも変化がなかったことから、同業務の担当となったことを契機として本件発病に至ったものと認めるのが相当であり、上記各出来事の数及び各出来事の内容等を総合的に考慮すると、平均的労働者を基準として、社会通念上客観的にみて、精神障害を発病させる程度に強度のある精神的負荷を受けたと認められ、本件労働者の業務と本件発病との間に相当因果関係があると認めるのが相当であるとして、原判決を取り消し、豊田労働基準監督署長がした遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消した事例>/国・津労基署長事件・名古屋高判令5・4・25KEX/DB<亡労働者が上司からしばしば業務指導の範囲を超え人格等も否定するような発言をされており、それによる心理的負荷の程度が少なくとも「中」に該当することをベースとして、亡労働者が平成22年4月1日付けで本件会社に入社してから本件自殺までの聞に担当した業務のうち、 A案件により亡労働者が受けた心理的負荷の程度は「中」に、 B案件により亡労働者が受けた心理的負荷の程度は「強」にそれぞれ該当すると評価し得ることを総合考慮すれば、亡労働者が本件会社における業務により受けていた心理的負荷の程度は、全体評価としても「強」に該当する>等があります。
(3)セクハラよる精神障害の業務起因性認定状況
セクハラに関しては、一連の行為は、「胸や腰等への身体接触を含むセクハラであって、行為は継続していないが、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった又は会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合」に該当し、他の諸点も合わせ考慮すると、その心理的負荷の評価は「強」となるとされ、アルバイト従業員に対するセクハラの存否とうつ病発病の業務起因性が認められた国・札幌東労基署長(紀文フレッシュシステム)事件・札幌地判令2・3・13労判1221号29頁、派遣先上司からのセクハラにかかる業務起因性肯定例として国・函館労基署長(NTT北海道テレマート)事件・札幌地判平27.3.6労判1126号46頁等があります。
(4)業務以外の心理的負荷による発症として業務起因性否定例
国・八王子労基署長事件・東京地判令3・10・14KEX/DBでは、業務外である本件組合の活動により一定程度強い心理的負荷があったことが認められるところであり,本件疾患の発病と業務との間の相当因果関係を認めることはできないとされました。
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Last Updated on 2024年5月3日 by loi_wp_admin