1 教育機関・学校の労務に関する特徴
教育機関・学校に特有の労務問題としては、業務についての広い裁量や特殊な勤務実態等を原因とする長時間労働、教職員同士や教職員から生徒に対するハラスメント、保護者からのクレームや長時間労働に起因する教職員のメンタルヘルス不調に関する問題などが挙げられます。
また、学校は、民間企業と比較して管理職の人数が少なく、校長と教頭の2人しか管理職がいないというケースも多いです。その校長や教頭も、教員出身であることから、労務管理については未経験です。したがって、教育機関・学校においては、上記のような労働問題に対して適切に対応することは特に難しい側面があります。
以下では、教育機関・学校において特に問題となる労務問題について解説いたします。
2 学校特有の労務問題
⑴ 教職員の長時間労働
教育機関・学校における労務問題としては、まず、教職員の長時間労働が挙げられます。
長時間労働の傾向がみられる原因としては、教職員は、授業やその準備以外にも、生徒指導、行事活動、保護者対応、部活動の顧問等、様々な業務を抱えていることにあります。
全日本教職員組合(全教)が発表した「教職員勤務実態調査2022」によれば、校内での時間外と持ち帰りを含めた教職員の時間外勤務の平均は、月96時間を超えており、これは厚生労働省の発表している過労死ライン(発症前2か月ないし6か月にわたって1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働)を超えています。また、文部科学省は、公立学校の教職員について、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」(以下「上限ガイドライン」)を定め、その中で1か月の「在校等時間」、すなわち校内に在校している在校時間と校外で職務に従事している時間及びテレワーク等の時間を合算した時間を45時間以内としていますが、それも大幅に超えています。
また、国私立学校の場合には、他の民間企業の労働者と同様労働基準法が適用され、労使間で三六協定を締結した上で残業を命じる必要がありますが、実際には三六協定を締結していないケースや、固定残業代を支払っているものの、その額が実際の残業時間に見合っていないケースも散見されます。
このような状況は、教育機関・学校にとって、教職員から残業代請求を受けるリスクがあるのみにとどまらず、教職員の過労死により損害賠償義務を負ったり、労基署から指導・勧告を受けたり、レピュテーションの低下により教職員の求人が集まらなかったりするリスクもあります。
教職員の長時間労働を抑止するために考えられる措置としては、まず残業許可制の導入が考えられます。残業許可制の導入により、事前の許可のない残業を禁止することで、時間外労働が抑制されることが期待できます。ただし、労基法上の「労働時間」には、残業を黙示的に命令した場合も含まれるので、仮に事前の許可なく残業をした場合でも、学校側がその教職員に所定労働時間内に終わらない業務量を配分していたような場合には、黙示的な残業命令があったものとして、時間外労働が発生し、残業代を支払う義務があります。
また、変形労働時間制の導入も有効です。労働基準法上、労働時間の原則は1日8時間以内、1週間に40時間以内と定められていますが、例えば1か月の変形労働時間制を導入すれば、その月の所定労働時間が平均で週40時間以内に収まっていれば、時間外労働は発生しません。
⑵ 教職員や学生のハラスメント被害
また、教職員同士のハラスメントや教職員から生徒に対するハラスメントも教育機関・学校において特に多い労務問題です。
事業主は、セクハラやパワハラに関する労働者からの相談に適切に対応するために必要な体制を整備し、実際に相談があった場合に適切に対応する義務を負います。かかる義務は、教育機関・学校についても同様です。
仮に教職員からのセクハラ・パワハラの相談に対して適切に対応せず、被害が拡大してしまったような場合には、教育機関・学校が相談者に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負う可能性もあります。また、学生が教職員からハラスメントを受けた場合でも、教育機関・学校は加害者である教職員との間の雇用関係にあることから、被害者である生徒に対して使用者責任に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
上記のハラスメントを防止するためには、就業規則(ハラスメント防止規程)においてハラスメントを許さないという方針を教職員に対して明確に周知し、ハラスメント相談窓口を設けるという形式的な整備だけでなく、相談窓口の担当者に向けたハラスメント相談対応についてのマニュアルの策定やハラスメント防止研修の実施といった措置をとることが望ましいです。
⑶ 教職員のメンタルヘルス不調を巡る問題
上記のとおり、教職員は、長時間労働やハラスメント被害といった問題を抱えることがあります。また、一時期モンスターペアレントというワードがトレンドとなったように、保護者からのクレーム対応に苦慮することも多くあります。
これらのような就業上のストレスを原因として、教職員がうつ病や適応障害といったメンタルヘルス不調に陥るケースも多くあり、この場合、教育機関・学校は、教職員から労災申請がなされたり、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を受けたりするリスクがあります。
うつ病や適応障害といったメンタルヘルス不調は、他の疾患と比較して病気であるかの判断が難しく、また一度治癒しても再発する可能性が高いため、休職と復職を繰り返すといったことも多くみられます。また、メンタルヘルス不調の診断名や病状について医師の見解が分かれることも多く、教育機関・学校にとって対応が難しい問題と言えます。
メンタルヘルス不調を抱える教職員が発生した場合には、その症状を悪化させないため、なるべく早く専門の精神科又は心療内科の医師の診断を受けさせて病状を適切に把握し、必要に応じて業務負荷を軽減もしくは休職などの適切な措置をとることが肝要です。
2 教育機関・学校の方に当事務所がサポートできること
上記のような教育機関・学校における労務問題を防止する上でまず重要なことは、長時間労働やハラスメントを防止するため適切な内容の就業規則を整備することです。当事務所は、事務所創設から40年以上にわたって労務問題に積極的に取り組んでおり、就業規則の整備について経験豊富な社会保険労務士及び弁護士が数多く在籍しているため、残業許可制や変形労働時間制の導入も含めた就業規則の点検・作成や、ハラスメント防止規程の作成を行うことが可能です。
また、教育機関・学校は、校内で起きたハラスメントに対して適切に対処する必要がありますが、当事務所では、ハラスメント相談に対する初動対応、関係者への調査、加害者への懲戒処分・配置転換等の是正措置等に関するアドバイスもご提供することが可能です。
さらに、メンタルヘルス不調を理由として教職員から労災申請を受けた場合の対応方法についてもアドバイスすることができます。
教育機関・学校の労務問題に悩んだ際には、是非一度当事務所にご相談ください。
Last Updated on 2024年8月30日 by loi_wp_admin