建設業の労災で元請け責任を問われる場合とは?ケース別に弁護士が解説!

文責:福井 大地

建設業の労災で元請け責任を問われる場合とは?ケース別に弁護士が解説!

Q 当社は建設業を営む会社であり、元請として工事を発注し、他の企業に下請を依頼しています。下請企業が行う作業中の事故によりその従業員が負傷、死亡した場合に、当社は当該下請企業の従業員に対し、何らかの責任を負うのでしょうか。

1 労災発生時の元請のリスクとは?

そもそも、下請企業の従業員の雇用関係については、あくまで下請企業との間のものであり、下請企業の従業員と元請企業との間には何らの契約関係もありません。加えて、いわゆる偽装請負(形式的には元請と下請との請負契約であるものの、実質的には下請から元請への労働者派遣と評価されるもの)でない限りは、工事において下請企業の従業員に対し現実に指揮命令をするのも下請企業です。

そうだとすれば、下請企業の従業員の事故について、元請企業が責任を負わないとも考えられそうです。

しかし、現実には、元請企業は事業全体を統括し、直接的又は間接的に下請企業の従業員の作業に影響を及ぼすことの方が多いと考えられます。また、下請企業が、その従業員の事故について補償するための十分な資力を有していないことも少なくありません。

ゆえに、法律や裁判例上は、下請企業の従業員の事故について、元請企業も、法的責任を負う場合があるものとしています。

以下では、元請企業が負い得る責任について詳述します。

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2 労災補償責任が問われるケースとは

労働基準法上、使用者は、労働者の業務上の傷病・死亡について、使用者の過失を問わず、その損失の一部を補償(治療費に関する療養補償や、休業に関する平均賃金の6割の休業補償など)する責任を負います(いわゆる「災害補償責任」)。その上で、同業務上の傷病・死亡については、同時に労災保険の対象ともなっており、労災保険に基づき国から補償された場合には、その補償に相当する部分について、使用者は上記災害補償施金を免れます。

以上の災害補償責任に関しては、下請企業の従業員との関係において、直接の雇用主である下請企業のみならず、元請企業についても、同責任を負う主体とされています。

ゆえに、下請企業の従業員が作業中の事故により死亡又は負傷を負う等に至った場合、元請企業もその損害の一部について災害補償責任を負います。

なお、建設業の場合には、事業全体を一括有期事業として、下請企業の従業員等についても、元請企業を事業主とした労災保険に加入し、同保険により補償されることが多いかと考えられます。

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3 損害賠償責任が問われるケースとは?

そもそも、使用者は、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(いわゆる「安全配慮義務」)を負います。つまり、作業内容や作業環境等から予測される死亡や負傷等の危険を防止するための措置を講ずる必要があるということです。

使用者が安全配慮義務に違反した結果として労働者に事故が生じた場合には、使用者はその損害について損害賠償責任を負います(債務不履行責任、民法415条)。ここで賠償すべき損害の範囲は、前述の災害補償責任や労災保険給付がカバーしていない部分も含め、因果関係のある損害の一切となります。

安全配慮義務の主体に関しては、下請企業の従業員との関係では、安全配慮義務を負うのは雇用主たる下請企業のみであって、元請企業は義務を負わないのが本来です。

もっとも、裁判例上は、その例外を認めており、元請企業にも安全配慮義務があると判示する例が多数あらわれています(陸上自衛隊八戸車両整備工場事件・最判昭和50年2月25日民集29巻2号143頁・労判222号13頁、三菱重工神戸造船所事件・最判平成3年4月11日労判590号14頁など)

裁判例上は、安全配慮義務は「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者関係において、当該法律関係の付随義務として…信義則上負う義務」とされており、雇用契約それ自体がなくとも、実質的な使用関係、あるいは直接的又は間接的な指監督関係があるなど雇用契約に準ずるような関係があれば、特別な社会的接触の関係があると認めているようです。

そのような関係があるかについて、おおむね次のような要素を総合考慮して判断されていると考えられます。

①現場事務所の設置、係員の常駐ないし派遣

②作業工程の把握、公邸に関する事前打合せ、届出、承認、事後報告

③作業方法の監督、仕様書による点検、調査、是正

④作業時間、ミーティング、服装、作業人員等の規制

⑤現場巡視、安全会議、現場協議会の開催、参加

⑥作業場所の管理、機会・設備・器具・ヘルメット・材料等の貸与・提供

⑦管理者等の表示

⑧事故等の場合の処置、届出

⑨専属的下請関係か否か

⑩元企業・工場の組織的な一部に組み込まれているか、構内下請けか。

たとえば、三菱重工神戸造船所事件では、⑥元請企業の設備・工具の利用、③事実上の指揮・監督、⑩本工労働者との作業内容の同一性の3点を特に指摘した上、

下請企業の従業員の作業について、元請企業が人的・物的にどの程度関与しているかが肝要であり、これを検討する必要があります。

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4 元請と下請の負担割合について

下請労働者の労災について、元請企業の損害賠償責任を肯定される場合の元請企業と下請企業間の責任割合に関し、元請企業、下請企業の共同不法行為等によって、各業者の連帯責任を認め、その割合も、各業者同士の協議ができない限り、民法の原則により平等と見る場合も少なくなくないと考えられます

しかし、最近、最高裁は(大塚鉄工・武内運送事件・最二小判平成3・10・25判時1405号29頁)で、A社→B社→C社の順序で下請関係にあった建設現場でのC社の労働者DがB社の労働者Eの過失によりクレーンからの落下物により死傷した事故の場合について、事故発生への関与の程度を実質的に考慮して責任割合を判断して、直接の加害者Eが10%、その使用者であるB社において30%、元請であり現場で現実的な監督をしていたA社が30%、直接のDの雇用主のC社において30%という責任割合を認めています。

同判例は、責任割合を検討する上で参考になると思われ、事故発生への関与の程度が要素として重要になると考えられます。

5 労働災害について当事務所がサポートできること

上記のとおり、下請企業において発生した労災の影響は、元請企業にも及び得ます。ゆえに、下請の事故は下請だけの責任であるという意識は捨て、下請企業の従業員に対する責任を負担することがあることを前提にした対策が必要です。

当事務所では、労災事案について、その初動対応、労災申請への対応(労基署対応)、労災民事賠償の交渉、訴訟、労働組合との団体交渉などの豊富な解決実績があります。

また、そうした発生後の問題のみならず、平時における労働者の作業内容、作業環境等について、労働安全衛生の予防的な観点から相談を受けてきた実績があります。

適切な解決が得られるようサポートさせていただきますので、是非当事務所にご相談ください。

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Last Updated on 2024年5月7日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。