会社側にとって労災認定されるリスクとは?弁護士が解説!

会社側にとって労災認定されるリスクとは?弁護士が解説!

文責:織田 康嗣

1 労働災害が発生したとき

労災には、①高所から転落するような事故型労災と、②過労自殺・過労死のほか、メンタル不調により休業になった場合など、業務上の理由により疾病に罹患した場合の疾病型労災に区分できます。

いずれの場合も、労災認定がなされると、会社側にどのような影響が生じるのか、どのようなリスクが生じるのか、本稿で検討していきます。

2 労災認定された場合の会社側の4つのリスク

(1)被災従業員や遺族からの損害賠償リスク

労災認定がなされたからといって、直ちに会社側に賠償責任が認められるわけではありません。ただし、労災の業務起因性の判断は、会社の過失行為や安全配慮義務違反と損害(傷病)との間の因果関係の判断に大きく影響します。

また、労災認定がなされても、労災保険は全ての損害をカバーするものではありません。死亡事故等の場合に、近親者に固有の慰謝料が発生することもあり得ますが、こうした慰謝料も労災保険でカバーされるものではありません。特に重度の後遺症、過労自殺、過労死などに至った場合には、1億円を超える高額な損害賠償請求が認められることもあります。

労災認定がなされれば、会社側に被災従業員やその遺族からの賠償リスクが生じます。

(2)刑事罰のリスク

労働安全衛生法では、会社側に対して、労災防止の安全管理措置を求めており、罰則をもってその遵守を義務付けています。そのため、転落防止措置を講じなかった、必要な安全装置を設けなかった等、会社側が労働安全衛生法に違反する対応を行った場合、検察庁に送検され、刑事罰を受けるリスクが生じます。また、状況によっては、労働安全衛生法違反にとどまらず、刑法上の業務上過失致死傷罪に問われるリスクもあります。

(3)行政措置のリスク

国や地方公共団体などから許可等を得て業務を行っている場合には、会社側が業務停止や許可等の取消しなどを受けることがあります。さらに、国や地方公共団体などからの業務を受注する際の入札において、会社側が指名停止、指名回避されるリスクも生じます。

(4)レピュテーションリスク(社会的な信用低下)

 重大な労災事故、過労死・過労自殺が発生した場合、それが報道されて、社会的に認知されることがあります。特に、インターネット・SNSで拡散することになれば、会社側の受ける社会的な信用低下は重大です。これは、取引先からの受注等の減少リスクに加えて、就職活動において敬遠されるなどして、人材確保が困難になってしまうリスクに発展することも想定されます。

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3 会社側に生じるその他の影響

(1)解雇制限

業務災害によって負傷したり、病気になったりした場合、その療養のために休業する期間及びその後30日間は、原則として解雇することができません(労基法19条1項)。

こうした解雇制限は、休業を安心して行えるようにする趣旨もしくは、解雇後の就業活動に困難を来す場合に一定期間解雇を制限する趣旨です。あくまで、業務災害の場合の規定ですので、私傷病による休業期間には適用がありません。また、通勤災害の場合にも適用がありません。

(2)メリット制

一定規模以上の会社においては、当該事業場の労働災害の多寡に応じて、一定の範囲内で労災保険率または労災保険料額を増減させる制度が採用されています(メリット制)。そのため、労災事故が発生すると、保険料が引き上げられるリスクがあります。

労災事故が発生した場合に、メリット制適用による保険料引き上げを回避すべく、労災隠し(労働者死傷病報告を提出しない、虚偽の報告をする)をしようとする場合がありますが、労災隠しは犯罪であり、罰則が適用されますから、決して行ってはなりません(安衛法100条1項、120条5号、122条)。

4 労災認定と民事賠償の関係

労災保険は業務起因性等を判断して支給されるものであって、会社側の過失を問題にするものではないことから、必ずしも労災認定された場合に、会社側が民事賠償責任を負うという関係にはありません。仮に訴訟になった場合には、裁判所が安全配慮義務違反の有無、因果関係の有無など、独自に認定することになります。

これは、労災認定されなかった場合(不支給決定)であっても、損害賠償が認められる可能性もあるということですから、会社側にとって注意が必要です。

(1)労災認定されたとしても安全配慮義務が否定される場合

 労災認定されたとしても、直ちに会社側の安全配慮義務違反が肯定されるものではありません。例えば、労働者の異常な行動によって事故が発生した場合には、安全配慮義務の前提となる予見可能性を欠く場合があります。個別具体的な状況に応じて、求められる安全配慮義務の内容が定まるということです。

○三菱重工業ほか事件(長崎地判平成22・4・13労経速2071号27頁)

作業中に発生した火花によって作業服が燃えてしまい、上半身に火傷を負った従業員が死亡した事案について、当該作業は特に危険性が高い作業ではなく、本件作業によって、作業服が燃え、火傷を負うことを予見することは出来なかったと言わざるを得ないとした事例

○アイシン機工事件(名古屋高判平成27・11・13労経速2289号3頁)

プレス事故について、安全教育を徹底していた等の理由から、会社の安全配慮義務違反を否定した事例

(2)労災認定されたとしても業務起因性(因果関係)が否定される場合

パワハラを理由とする自殺事案において、労災認定基準を参考にしつつ、相当因果関係を認めた事案もあるように(加野青果事件・名古屋高判平成29・11・30労判1175号26頁)、業務起因性の判断と相当因果関係の判断は、実質的に重複するところがある点は否めません。もっとも、訴訟において、時間外労働の時間数や、業務における強度の心理的負荷の不存在を詳細に主張・立証し、労災認定と異なる結論に導かれることもあります。また、疾病以外の要因の存在から、自殺との因果関係を否定した事例もあります。

○ヤマダ電機事件(前橋地高崎支判平成28・5・19労判1141号5頁)

月100時間を超える時間外労働からうつ病を発症し、自殺したとして労災認定されたが、訴訟では、直近1か月の時間外労働を94時間と認定されたうえで、医学的知見に照らし、時間外労働時間数をもって、極めて強い業務上の負荷を受けていたとは直ちに評することは出来ない等とした事例

○協和商工事件(長崎地判令和5・3・27)

業務に起因する精神障害を発病したとしても、自殺直前の状況や、未収金の私的流用の事実などの諸事情を考慮したうえで、自殺と当該傷病との間に因果関係は認められないとした事例(私的流用の事実は、横領などの犯罪行為に該当するものであり、金額の多寡にかかわらず重大な問題となることを考慮すれば、これが自殺の要因であったと考えるのが合理的と判断された)

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5 労働災害発生時の初動対応

(1)死傷病報告書の提出

労災事故が発生してしまった場合には、当然ながら、被災従業員を病院に連れていくなど、必要な治療を受けさせることが必要です。加えて、労働災害が発生した場合には、労働者死傷病報告を管轄の労基署に提出する必要があります。労働者死傷病報告には2種類あり、①死亡及び休業4日以上の場合には、遅滞なく提出する必要があり、②休業4日未満の場合には、一定期間ごとにとりまとめて提出する必要があります。

(2)社内調査

事故型労災であれ、疾病型労災であれ、災害発生時の証拠を保全しておくことは重要です。特に重大な事故、死亡・自殺事案等であれば、客観的な記録の保全にも注意すべきです。長時間労働が問題になる場合、タイムカード等の記録はもちろん、PCログの記録は残っているのか、記録期間はいつまでなのか等を確認しつつ、状況に応じてそうした客観的な記録の保全も検討すべきです。

また、ハラスメント等を理由とした労災を主張されている場合、関係者にヒアリングを実施することも検討されます。特に重大事案においては、社内で調査委員会を設置したうえで、ヒアリング調査などを実施する場合もあります。

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(3)被災従業員・遺族対応

基本的な対処としては、被災従業員のお見舞いに行き、被災従業員が亡くなった場合には葬儀等の法事に参列するなど、被災従業員または遺族に対し、誠意を持った対応をするべきです。特に重大事案では、会社に対する不信感が強まっているケースが少なくなく、被災従業員や遺族感情に配慮した対応を行う必要があります。

ア 労災申請への対応(事業主証明)

被災従業員もしくは遺族から、労災申請されることが想定されますが、申請書類には事業主の証明欄があります。

当該証明の対象には、「災害の原因」や「発生状況」が含まれる場合があり、被災従業員側の記入内容によっては、会社側の認識と異なり、そのまま証明することが困難なケースもあります。

労災保険法施行規則23条2項では、「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。」と定められているところであり、事業主証明自体には応じつつも、証明できる範囲で証明し、会社側の認識と異なる部分はその旨を付記するなどの対応が検討されます。

イ 会社側への調査・証拠開示要請

過労死・過労自殺などの事案においては、遺族がその原因を明確に把握できていないケースも少なくなく、会社側に対し、関連資料の開示や調査の要請がなされることがあります。

遺族に寄り添った対応をすべきではありますが、会社側が資料を開示等した場合、遺族にとっては、会社側に民事賠償請求をする際の資料(証拠)になり得るリスクに注意が必要です。

その一方で、正当な理由なく開示を拒否した場合、遺族から証拠保全の申立て(民訴法234条)がなされることもあります。証拠保全とは、主に訴え提起前に、正規の証拠調べを待っていたのでは、その証拠の利用が困難となる事情がある場合に、あらかじめ証拠調べを行い、その結果を保全する手続のことをいいます。具体的には、裁判官や申立代理人らが事業場に現れ、その場で証拠調べが行われます。

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6 労働災害について当事務所でサポートできること

労災が発生した場合、被災従業員・遺族対応、当局・労基署対応、社内対応、マスコミ対応など、多方面への対応が求められます。また、労災民事賠償請求を見据えた初動対応が重要になる場合も少なくありません。

当事務所では、労災事案の各段階に応じて、様々なリーガルサービスを提供しております。

〔例〕

・社内調査やヒアリングに関するアドバイス

・労災申請への対応に関するアドバイス

・労基署対応に関するアドバイス

・被災従業員や遺族対応に関するアドバイス

・被災従業員や遺族との民事賠償の交渉、労働審判・訴訟対応

・労働組合との団体交渉

・労災事故が刑事事件化した場合の対応(刑事弁護) 等

労災事案には、重度の後遺症や死亡事案でなくても、例えばハラスメントを理由とする休業等を理由に、従業員から労災の主張がなされるケースも相当に多いです。このように労災事案には様々なものを含みますが、いずれも紛争化する可能性が十分にあり、弁護士と緊密に連携したうえでの慎重な対応が必要といえます。

当事務所では、労災事案について、その初動対応、労災申請への対応(労基署対応)、労災民事賠償の交渉、訴訟、労働組合との団体交渉などの豊富な解決実績があります。適切な解決が得られるようサポートさせていただきますので、是非当事務所にご相談ください。

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Last Updated on 2024年7月31日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。