製造業者が注意したい労務のポイントについて弁護士が解説!-雇用・労災におけるポイント-

製造業者が注意したい労務のポイントについて弁護士が解説!-雇用・労災におけるポイント-

文責:難波 知子

Q 当社は、製造業者で、国内にいくつか工場を持っています。そこで働く従業員の国籍や雇用形態も様々です。当社のような製造事業者は、労働契約に関しどのようなトラブルが発生し易いのでしょうか。具体的にどのような事態を想定し、どのような点に注意するべきなのか、教えてください。

A 製造業者で、工場作業がある場合、非正規雇用者や外国人労働者が多く、同一賃金、同一労働の問題や、雇止めや無期転換の問題が発生しえます。また、他社の従業員を自社工場に受け入れたり、他社の工場内で自社従業員が作業する場合は、偽装請負の問題も発生しえます。さらに、労災の発生が多い業種ですので、労災防止、労災が発生した場合の適切な対応や補償も望まれます。これらの点に注意して対応する必要があります。

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1 製造業において特に留意した方がよい労務問題

 製造業においても、他の業種と同様、労働法規を守り、労務環境を整備する必要があることに変わりはありませんが、特に留意した方がよい労務のポイントにつき、以下解説します。

2 均等待遇・均衡待遇(同一労働、同一賃金)

製造業では、例えば、工場や作業場で、同一または類似のものを大量に製造したり加工をしたりする場合、パートやアルバイト等の非正規労働者を中心に雇う事業者が多い現状があります。

そして、作業について、正社員と非正規社員が混在して一緒に対応する場合、作業内容については同一となることが多くあります。この結果、正社員と非正規社員との待遇差を根拠づけるだけの業務上の差異を確認しづらいという実態があります。

この点に関し、「働き方改革関連法」によって改正されたパートタイム・有期雇用労働法により、2020 年4月から、正社員とパートタイム・有期雇用・派遣労働者との間の不合理な待遇差が禁止されており、さらに、2021 年4 月からは中小企業にも同法が適用されています。

パートタイム・有期雇用労働法は、同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに、不合理な待遇差を設けることを禁止しています。その中心となる考え方が、「均等待遇」と「均衡待遇」です。

均等待遇とは、待遇決定にあたって、短時間・有期雇用労働者が通常の労働者と同じに取り扱われること、つまり、短時間・有期雇用労働者の待遇が通常の労働者と同じ方法で決定されることを指します。ただし、同じ取扱いのもとで、能力、経験等の違いにより差がつくことは問題ありません。

また、均衡待遇とは、短時間・有期雇用労働者の待遇について、通常の労働者の待遇との間に不合理な待遇差がないこと、つまり、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲、③その他の事情、の違いに応じた範囲内で待遇が決定されることを指します。

事業主が、均等待遇、均衡待遇のどちらを求められるかは、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲が同じか否かにより決まります。①と②が同じ場合には、短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いが禁止され、「均等待遇」で あることが求められます。それ以外の①あるいは②が異なる場合は「均衡待遇」であることが求められ、短時間・有期雇用労働者の待遇は、①と②の違いに加えて「③その他の事情」を考慮して、通常の労働者との間に不合理な待遇差のないようにすることが求められます。

このように、「均等待遇」と「均衡待遇」を実現することが、法が求める不合理な待遇差の解消の具体的な内容です。

したがって、正社員と仕事の内容や配置転換の範囲、仕事内容の変更の範囲が同じパート社員、契約社員、派遣社員について、正社員と比較して差別的な賃金とすることは禁止されます。また、正社員と仕事の内容や配置転換の範囲、仕事内容の変更の範囲が違うパート社員、契約社員、派遣社員については、正社員と異なる待遇とすることも許されますが、正社員と比較して不合理な待遇差を設けることが禁止されます。

実態に即して、また、判例も踏まえ、均等待遇、均衡待遇が図られているか、確認する必要があります。

3 外国人労働者

製造業に従事する人手が不足していることから、近年は外国人労働者を積極的に受け入れて業務従事させる製造事業者も多くなっています。外国人の方を雇入れる場合、在留資格の確認が必要となることは当然です。

外国人の方は、出入国管理及び難民認定法(入管法)で定められている在留資格の範囲内において、我が国での就労活動が認められています。

就労するために在留資格がないにもかかわらず業務に従事させた場合、製造事業者は不法就労助長罪で処罰されるリスクがあります。

事業主は、外国人を雇い入れる際には、外国人の方の在留カード又は旅券(パスポート)等により、就労が認められるかどうかを確認する必要があります。

外国人労働者を雇用する事業主は、外国人が我が国の雇用慣行に関する知識及び求職活動に必要な雇用に関する情報を十分に有していないこと等にかんがみ、その雇用する外国人がその有する能力を有効に発揮できるよう、職場に適応することを容易にするための措置の実施その他の雇用管理改善を図るとともに、解雇等で離職する場合の再就職援助に努めるべきものとされています(労働施策総合推進法7条)。

事業主が適切に対処するために必要とされる措置の具体的内容については、労働施策総合推進法に基づき、厚生労働大臣が定める「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(以下「外国人雇用管理指針」という)」(平成19年厚生労働省告示第276号)に定められています。

労働施策総合推進法に基づき、外国人労働者がその能力を適切に発揮できるよう、外国人を雇用する事業主には、外国人の雇入れ、離職の際に、その氏名、在留資格などについて確認し、ハローワークへ届け出ることが義務づけられています。

外国人を雇い入れる場合はこれらの観点を忘れないことが重要です。

4 無期転換、雇止め、派遣切り

ア 非正規社員保護

製造業は、非正規社員に業務を担当させることが多いようです。

非正規社員については、正社員よりも雇用の保護がされない状態にはありますが、下記無期転換、雇止め等の場面で非正規労働者を守る法律の規定があります。昨今は正社員も非正規社員もできるだけ区別なくという考え方になっておりますので、これらの点につき留意する必要があります。

イ 無期転換ルール

無期転換ルールは、同一の使用者(企業)との間で、「有期労働契約が5年を超えて更新された場合」、「有期契約労働者(契約社員、アルバイトなど)からの申込み」により、「期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換」されるルールのことです(労働契約法18条)。
   有期契約労働者が使用者(企業)に対して無期転換の申込みをした場合、無期労働契約が成立します。この申込みを使用者は断ることができません。

ウ 雇止め法理

民法上、有期雇用契約は期間満了によって当然に終了するのが原則です。そして、雇用期間の満了に際し、使用者が契約の更新を拒絶することを「雇止め」といいます。しかし、この原則を貫いた場合、有期雇用労働者の地位や生活が不安定になってしまいます。そのため、判例において、有期雇用労働者の保護を図る観点から、雇止めの場合であっても、解雇権濫用の法理を類推適用するという「雇止め法理」が形成されていきました。そして、労働契約法19条により、有期雇用契約が過去に反復して更新されたことがあり、雇止めをすることが無期雇用契約の解雇と社会通念上同一視できる場合(労働契約法19条1号)、もしくは、②労働者が、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合(労働契約法19条2号)には、労働者申込みをした場合、解雇の場合に準じ、使用者側が当該申込みを拒絶することに客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められなければ、従前の有期労働契約と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされることになっています。

したがって、事実上自動更新となっているような状態の場合に、雇止めをする場合には、期間満了時の雇止めは難しい状態にあります。

ウ 派遣法の3年ルール

派遣社員についても、派遣法の「派遣先は、同一の事業所等ごとの業務について、3年を超えて派遣労働者を受け入れることができない。」、「派遣先は、事業所等における同一の組織単位において、3年を超えて同一の派遣労働者を受け入れることができない。」(派遣法40条の2、40条の3)。という3年ルールにより保護されています。

期間を超えても当該労働者の就労を望む場合には、部署を変えたり、派遣先である製造会社側が直接雇用したりすれば問題は解決しますので、積極的に協力することが望まれます。

エ 整理解雇

工場自体が閉鎖され、大量の従業員を人員整理の対象とせざるを得なくなる場合も想定されます。整理解雇にあたっては、正社員よりも先に非正規社員に対する人員整理を行ったかを検討している裁判例も存在し、一般論として、正社員に先立って非正規社員を人員整理の対象とすること自体は、直ちに違法となるとはいえません。

整理解雇は、①人員削減の経営上の必要性、②整理解雇回避努力義務の実行の有無、③合理的な選定基準の設定と公正な適用、④労使間での誠実な協議の4要件が必要です。その中で解雇回避義務の履行や合理的な選定基準として、まずは非正規社員からの解雇を検討することが直ちに違法となるわけではないという状況です。

もっとも、実際の整理解雇が問題となる場面で、ただ単に「非正規社員だから」特段の理由もなく解雇対象になることが許容されるわけではないことに留意が必要です。非正規社員を整理解雇の対象とする場合には、何故非正規社員が解雇対象となるのか、根拠が日露ですので、それを整理の上、説明できる状況にしておく必要があります。近年の非正規社員の不安定な身分に対する社会的関心の高さを踏まえると、法律上のルールを超えた配慮が必要となっていることが、会社の評判を維持するためにも必要であることに留意が必要です。

5 偽装請負

自ら工場を保有することなく、注文主の工場内スペースを借りて製造加工業務に従事する製造事業者も存在します。他方、工場を保有している場合、自社で製造加工する部品のうち、一部の業務フローについて、自社以外の製造事業者を受け入れて行っている場合もありえます。

請負事業者は、発注者から独立した事業者です。労務管理及び請け負った仕事について、原則として、発注者から指示を受けてはいけません。また、仕事に必要となる資金は、自ら準備し、発注者に頼らず、発注者と混在せずに、自ら独立して仕事を請け負う必要があります。

これらが満たされないと偽装請負の可能性が生じます。偽装請負か否かは、契約の名称にとらわれず、実態に即して判断されるものです。

 「請負」「業務委託」と、いわゆる「偽装請負」の違いの詳細は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業 との区分に関する基準(昭和61年労働省告示 第37号)」にあります。また、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」 (37 号告示)に関する疑義応答集」も大変参考になります。

この点に関しては、工場内でのスペースが独立しており、当該製造事業者が機械設備を持ち込んだうえで、注文主(自社)の介入を受けることなく製造加工業務に従事している状態であれば、偽装請負の問題は発生しないということになります。他方、発注者側から、労働者に対する業務の遂行方法に関する指示や管理がなされていたり、業務時間の管理、指示がなされていたり、資金や道具を自ら調達を受けている場合には偽装請負の疑いが高まります。

契約書等の取り交わしをはじめとした形式面の整備は当然ですが、現場での指示の出し方、時間の管理や備品や道具の準備や利用の仕方を含めたルール作りが必要となってきます。

6 労災の発生

 製造業は労災発生の頻度が高く、雇主は労災防止のために最大限の力を尽くさなければなりません。

 製造業で労災が多い理由としては、工場作業そのものの危険性が高い場合はもちろんですが、パートタイマー・アルバイト等非正規社員の入れ替わりが激しく、また、シフト制もあり、教育の効果をあげるのが難しいこと、働く高齢者や言葉の通じない外国人労働者が増えていることなどが挙げられます。

 具体的に想定される労災は、「転倒」、「動作の反動・無理な動作」、「はさまれ、巻き込まれ」、「墜落・転落」、「切れ・こすれ」などです。

 労災が発生してしまうと、従業員の休業による人手を補うため、採用の手間とコストが かかる、複数の従業員が休業し、稼働不可となる、ベテランの技術やノウハウの多くを失う、代わりの人が嫌がり、人員補充が困難となる、報道やSNSで拡散されたことで売上が減少で従業員も集まらない、労災保険で賄われない支出が発生する、労働安全衛生法違反で書類送検される、などの様々な事態の発生が想定されます。

 労災が発生した場合には、まずは労災の報告、申請をし、労災認定を待つことになります。

 また、労災ではカバーされない損害で、会社に安全配慮義務違反等の責任が認められれば、損害賠償義務を負う可能性もあります。重度障害や死亡という重大な結果を発生させた場合には、使用者側は、何千万円や何億円という多額の賠償責任を負う可能性があります。保険等に加入し、対策を立てておくことも有用です。

8 製造業に関する法律相談は当事務所にお任せください。

当事務所は、製造業、また、非正規労働者に関わる相談を常時受けております。

雇止め、無期転換のトラブル防止、偽装請負回避のための点検等、労災を発生させた場合の対応等様々なサポートをさせていただいております。特に、労災については、使用者側でかなりの数の対応をしており、複雑、重大な事案でも、和解や勝訴(請求棄却という形が通常です。)にて終結した事案も多数あります。

当事務所にご依頼いただいた場合、過去の和解経験、実際の裁判例の分析をもとにした今後の見通しを提供し、依頼者の会社様に最大限メリットがある対応につきアドバイス致します。判決での終結のみならず、早期の有利な条件での和解にて事件を終了させ、会社へのダメージを最小限に収めることを目指して対応しておりますので、是非ご相談ください。

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Last Updated on 2024年5月3日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。