【弁護士が解説】カスタマーハラスメントとは?介護業でよくある事例を弁護士が解説!

【弁護士が解説】カスタマーハラスメントとは?介護業でよくある事例を弁護士が解説

文責:岩出 誠

概要

ハラスメントの中で、精神障害の労災認定の多さからや労働局の相談等からも注目されているのがカスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」という)です。カスハラについては、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令2・1・15厚労告」(以下、「パワハラ指針」という)により他の事業主の雇用する労働者等からのパワハラや顧客等からの著しい迷惑行為として言及され、厚労省かも、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(以下、「カスハラ・マニュアル」という)も公表されています。その中で望ましい取組み事例が多数紹介されています。

カスハラによる精神疾患への労災認定事例も多く、カスハラに対処した精神障害の労災認定基準(「心理的負荷による精神障害の認定基準」令5・9・1基発 0901 第2<以下、改正精神基準)という>)も出ています。 これに伴い「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」基発0914号第1<以下、「改正脳心基準」という>」も改正されています(同基準で利用されている業務による心理的負荷評価表の変更に伴う改正。令5・10・18基発1018第1)。その中で、特に、介護現場での多様で深刻なハラスメントが起こっています。厚労省も、「介護現場におけるハラスメント事例集」(以下、「介護事例集」という)を公表し、これを踏まえつつ、令和4(2022)年3月改訂「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(以下、「介護マニュアル」という)を公表しています。そこで、これらを踏まえて、カスハラ全般を解説しつつ、介護業でよくある事例対応への実務的留意点を解説します。

Ⅰ カスハラに関わる法令・裁判例・労災認定基準の現状

1 パワハラ指針による他の事業主の雇用する労働者等からのパワハラや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組

パワハラ指針7は、他の事業主の雇用する労働者等からのパワハラや顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)であって、就業環境が害されるもの。以下、「カスハラ」という)に関しても、

  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、
  • 被害者への配慮のための取組、
  • 被害を防止するための取組

等の取組を行うことが望ましいとしています。

既に、行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取組を行うことに関して、前述のカスハラ・マニュアルが公表されています。

2 職場環境調整義務違反による損害賠償責任が発生する場合もあり得ます

しかし、民事損害賠償等においては、この努力義務が職場環境調整義務の一環とされてその違反に対して雇主事業主のみに対して、あるいは加害者やその所属する事業主も含めて、損害賠償が請求されることがあり得ます。

最近の裁判例では、NHKサービスセンター事件・横浜地川崎支判令3・11・30労ジャ120号28頁において、法人において,わいせつ発言や暴言,著しく不当な要求を繰り返す視聴者に対して現場のコミュニケーターに電話を受けさせないようにする義務,わいせつ発言や暴言,著しく不当な要求を繰り返す視聴者に対して刑事・民事等の法的措置をとる義務をそれぞれ有していたにもかかわらず,これを怠って,安全配慮義務に違反した旨主張がなされ、カスハラ防止措置義務違反が問われましたが、裁判所は、法人は,NHKから業務委託を受けている立場にあり,法人の判断のみでは,受信料を支払っている視聴者に対して刑事告訴や民事上の損害賠償請求といった強硬な手段をとることは困難であること,また,視聴者によるすべてのわいせつ発言,暴言,理不尽な要求等についてかかる強硬な手段をとることは不可能であり,仮にそのような手段に出たときには視聴者の反感を買ってかえってクレームが増加し,コミュニケーターの心身に悪影響を及ぼすおそれすらあることなどを考慮すると,わいせつ発言や暴言,著しく不当な要求を繰り返す視聴者に対し,法人が直ちに刑事・民事等の法的措置をとる義務があるとまでは認められないこと等から,法人について元職員に対する安全配慮義務を怠ったと認めることはできない、として請求を棄却しました。

しかし、今後は、カスハラ・マニュアルへの違反や後述の精神障害の労災認定基準の心理的負荷表における下記カスハラ事案の整理と処理が、企業としての職場環境調整義務の内容を確定する際に参考となり、企業の責任が問われる事態も起こり得ます。

3  改正精神基準におけるカスハラの重視‐「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスハラ)

心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平23・11・26基発 1226 第1号、令2・5改正、令2・8改正。以下「旧精神基準」という)でも、「顧客や取先から無理な注文を受けた」と「顧客や取引先からクレームを受けた」が「②仕事の失敗、過重な責任発生等」の中で例示されていましたが、改正精神基準の心理的負荷評価表では、「⑥対人関係」の中に、類型27として「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」ことが追加・明示されまた(著しい迷惑行為とは、暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等をいう、とされています)。

厚労省の令和4年度の「過労死等の労災補償状況」においても、精神障害の認定数の中で、顧客関係の類型は、合計35件に及んでいたことや、パワハラ指針7でも、「他の事業主の雇用する労働者等からのパワハラや顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)であって、就業環境が害されるもの。(以下、「カスハラ」という)に関しても、相談体制が望ましい」とされたことに対応しています。

裁判例においても、カスハラ的事情を考慮して業務起因性を認めた例も出ていたことも考慮されています(国・宇和島労基署長事件・福岡地判令元・6・14労経速2391号3頁では、取引先との業務に起因する精神的負荷等が急性心不全による死亡の原因として業務起因性が認められています)。

4 改正脳心基準の労災認定基準へのカスハラの影響

「概要」でも前述したように、脳・心疾患については、改正脳心基準が告示され、同基準は令和3年9月15日 から施行されていますが、この中で注目すべきは、旧基準の「心理的負荷を伴う業務」につき、「別表1 日常的に心理的負荷を伴う業務」に加えて、旧精神基準」の「業務による心理的負荷評価表」の「具体的出来事」と同一の「別表2 心理的負荷を伴う具体的出来事」のリストを採用することにより(改正脳心基準第4の2(4)ウ(エ))、同出来事19のパワハラや同出来事12の「顧客や取引先からクレー ムを受けた」こと(いわゆるカスハラ的事情)などが重視されることになったことです(改正脳心基準における「心理的負荷を伴う具体的出来事」利用の意義の詳細については、岩出・前掲ビジネスガイド10頁以下参照)。

裁判例においても、既に、心臓疾患において、パワハラが原因となっている事案も増加しパワハラを考慮した例として、亀戸労基署長(千代田梱包)事件・東京高判平20・11・12労経速2022号13頁、国・島田労基署長事件・東京高判平成26・8・29労判1111号31頁、カスハラを考慮した例として、国・宮崎労基署長(宮交ショップアンドレストラン)事件・福岡高宮崎支判平29・8・23労判1172号43頁等も現れていました。

改正精神基準の施行に伴い、改正脳心基準において援用されていた「心理的負荷を伴う具体的出来事」が改められた関係で、この改正に伴い、改正脳心基準における「心理的負荷を伴う具体的出来事」も改正精神基準に従って改められ(令5・10・18基発1018第1)、運用されることになっています。

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Ⅱ 介護業におけるハラスメント対策

 介護業におけるハラスメントの深刻さ

     改正精神障害認定基準の基となった令和5年7月16日「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」8頁以下によれば、「平成 23 年度から令和4年度までの 12 年間に業務上として支給決定され た事案(累計 6,130 件)について、…業種別では、12 年間の累計では「製造業」が 17.0%で最も多く、次いで 「医療,福祉」、「卸売業,小売業」と続き、これらの業種で 46.8%を占めて いる。近年は「医療,福祉」の割合が上昇し、令和4年度では当該業種が最多(23.1%)である。」とされています。

    改正前の平成 31(2019)年3月介護マニュアル「介護現場における利用者や家族等によるハラスメントの実態」によれば、「施設・事業所に勤務する職員のうち、利用者や家族等から、身体的暴力や精神的暴力、セクシュアルハラスメントなどのハラスメントを受けた経験のある職員は、サービス種別により違いはあるものの、利用者からでは4~7割、家族等からでは1~3割になって います。この1年間(平成 30 年)で見ると、利用者からのハラスメントを受けたことのある職員は、割合が高いサービスで6割程度、低いサービスで2割程度となっており、いずれのサービス種別においても、ハラスメントを受けている実態がうかがえます」。さらに、「利用者からのハラスメントの内容をみると、訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーショ ン、通所介護、居宅介護支援等では、「精神的暴力」が最も多く、特定施設入居者生活介 護や介護老人福祉施設、認知症対応通所介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多 機能型居宅介護では、「身体的暴力」が最も多くなっています。 訪問系サービスは、「精神的暴力」の割合が高い傾向がみられ、入所・入居施設は、「身体的暴力」及び「精神的暴力」のいずれも高い傾向となっている。」とされています。「(2)ハラスメントによる職員への影響」については、「ハラスメントを受けたことにより、けがや病気になった職員は1~2割、仕事を辞めた いと思ったことのある職員は、2~4割となっています。」

    2 介護事業者にも求められる対応

    (1)概要

    介護事業者にも求められる対応の概要と介護マニュアルの求めるカスハラ対象の関係は以下の図解のようになります。

    介護マニュアル

    (2)介護マニュアルが対応を求めるカスハラの具体的内容

    介護マニュアルでは、身体的暴力、精神的暴力及びセクハラをあわせて、介護現場におけるハラスメントとしています。 具体的には、介護サービスの利用者や家族等からの、以下のような行為を「ハラスメント」と総称しています。 利用者や家族等の「等」とは、家族に準じる同居の知人または近居の親族を意味します。

    1)身体的暴力 身体的な力を使って危害を及ぼす行為。 例:コップを投げつける/蹴られる/唾を吐く

    2)精神的暴力 個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為。 例:大声を発する/怒鳴る/特定の職員にいやがらせをする/「この程度できて当然」と理不尽なサービスを要求する

    3)セクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」という) 意に添わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等、性的ないやがらせ行為。 例:必要もなく手や腕を触る/抱きしめる/入浴介助中、あからさまに性的な話をする

    (3)介護事例集を踏まえたカスハラ対応上の具体的留意点‐ハラスメント対応として施設・事業所が具体的に取り組むべきこと

    介護現場での様々なハラスメントに対して、介護事例集を踏まえつつ、策定された介護マニュアルでは、カスハラ全般への対応策を紹介し、解説しています。

    以下では、介護マニュアルの中から、カスハラへの実務的留意点を紹介していきます。

    介護現場におけるハラスメントの予防や対策においては、個々の努力や対応に任せるのではなく、組織として対応するための必要な体制を構築し、予防や対策に向けた基本方針や具体的な対 応を検討すること、基本方針や具体的な対応策を周知し、これに基づき職員 1 人 1 人が日々の予防や対応を行うことが重要です(下図参照)。 また、施設・事業所内だけで対応することが難しい場合には、地域の関係者と連携して対策や 対応をとることが必要です。

    介護マニュアル
    (ア)施設・事業所自身として取り組むべきこと
    ① ハラスメントに対する施設・事業所としての基本方針の決定・周知

    ⚫ 施設・事業所の、ハラスメントに対する基本的な考え方やその対応について事業運営の基本方 針として決定するとともに、それに基づいた取組等を行うことが重要です。具体的には、例えば、「ハラスメントは組織として許さない」、「職員による虐待と職員へのハラスメントはどちらもあってはならない」といった考え方です。

    ⚫ こうした基本方針を職員と共有するとともに、職員が、管理者等に相談した場合に、誰に相談 しても、施設・事業所として同じ対応ができるように、施設・事業所内での意識の統一が必要です。

    ② マニュアル等の作成・共有

    ⚫ ハラスメントを未然に防止するための対応マニュアルの作成・共有、管理者等の役割の明確化、発生したハラスメントの対処方法等のルールの作成・共有などの取り組みや環境の整備を図っていくことが求められます。

     相談しやすい職場環境づくり、相談窓口の設置

    ⚫ ハラスメントの発生に限らず、様々なトラブルやリスクを職員が抱え込むことなく、管理者に相談したうえで、施設・事業所の事案として捉えて対応することが重要です。施設・事業所と して、職員の相談を受け付けるフローを明確にし、相談窓口の設置等体制を整え、職員に周知 しましょう。

    ⚫ 相談しやすい職場環境づくりのために、管理者等は、職員の変化を的確に把握できるように、 日頃から職員との良好な関係を築いていくことが重要です。職場の風通しを良くするための 取組を行うとともに、相談しやすい場を定期的に設けることなども必要です。

     ④ 介護サービスの目的及び範囲等へのしっかりとした理解と統一

    ⚫ 介護サービスの目的、範囲及び方法についての誤った認識や理解不足が、利用者や家族等とのミスコミュニケーションにつながる恐れがあります。施設・事業所による契約締結時の説明や、利用者やその家族等の理解が不十分だったことが原因となり、苦情に発展し、さらには暴言にエスカレートすることも考えられます。

    ⚫ そのため施設・事業所は、介護サービスの目的、範囲及び方法を理解し、施設・事業所内で対応や説明方法の統一等の取組を図ることも重要です。また、介護サービスの目的、範囲及び方 法に係る契約内容の理解を図り、契約範囲外のサービスが強要されないようにすることも重要です

    ⑤ 利用者・家族等に対する周知

    ⚫ 介護現場における職員へのハラスメントの予防に向けて、また、介護サービスの継続的かつ円滑な利用に向けて、利用者・家族等に対し、理解を求めておきたい事項、ご協力いただきたい事項を周知します。 例えば、重要事項説明書や契約書により、どのようなことがハラスメントに当たるのか、 ハラスメントが行われた際の対応方法、場合によっては契約解除になることを適切に伝え ていくことが重要です。 職員の安全確保、トラブル防止のためにご協力いただきたい事項(例:ペットがいる場合 にはゲージに入れる等)がある場合には、適切に分かりやすく伝えることが必要です。

     ⑥ 利用者や家族等に関する情報の収集とそれを踏まえた担当職員の配置・申送り

    ⚫ ケアマネジャーや他に利用している施設・事業所等を通して、また、施設・事業所が行うアセ スメントにより、利用者・家族等の情報を施設・事業所として可能な範囲で適切に収集することが必要です。その情報に基づき、ハラスメント発生の可能性が高いと考えられる場合などには、担当職員の配置や申し送りなどを的確に行うことが求められます。

    ⚫ 例えば、訪問系サービスでは、訪問先である利用者宅等において身体等の危険を回避するために速やかに外に出ることができる経路等を確認し、担当職員間で共有することも重要です。

    ⑦ サービス種別や介護現場の状況を踏まえた対策の実施

    ⚫ ハラスメントのリスク要因としてどのようなものがあるかを踏まえた上で、対策を講じることが必要です。

    ⚫ 例えば、1 対 1 や 1 対多の関係や状況といった環境面のリスク要因に対し、訪問系サービスであれば、利用者や家族等の居住場所で 1 対 1 や1対多の状況にならないような職員の安全 確保、精神的負担の軽減のための対策を予め講じることが求められます。また、施設系サービスや通所系サービスについても、ケアの内容、提供場所、時間帯によっては、1 対 1 や 1 対 多の関係や状況になる可能性があるため、そのようなリスク要因をできるだけ回避するための環境整備や対策を講じることが求められます。

     ⑧ 利用者や家族等からの苦情に対する適切な対応との連携

    ⚫ 利用者や家族等からの苦情は、サービス提供の改善を図るうえで必要な情報でもあります。しかし、こうした苦情に対し不適切な対応を行ってしまったために、不信感を募らせ、暴言等のハラスメントに発展するケースがあります。

    ⚫ このため、職員個々人に対応を委ねるのではなく、組織として迅速かつ統一的な対応を図るための体制構築が必要です。また、苦情に対し、統一的に対応するための窓口や担当者を設置す る際は、ハラスメント対策の窓口等と連携して的確に対応していくことが重要です。

    ⚫ 組織として迅速かつ適切に苦情対応を行ったにも関わらず、解決しない場合は、市町村だけで なく、国保連に苦情を申立てることができる旨を事業者から利用者に情報提供して、国保連の苦情対応を通じて、言動の激化を防止することが考えられます。

    ⚫ また、事故が発生した場合も、不適切な対応をとってしまったために暴言等のハラスメントに発展するケースがあります。苦情対応と同様、組織として迅速かつ適切に対応する体制を構築する他、損保会社への連絡等によって解決の道筋を速やかにつけることが、言動がエスカレートすることの防止につながると考えられます。

    ⑨ 発生した場合の対応

    ⚫ ハラスメントが発生した場合、職員の安全を第一に、即座に対応をすることが必要です。その ために、「初動マニュアル」のようなものを事業所として用意し、管理者が責任をもって職員 とともに対応する体制を整備することも有効な対策です。

    ⚫ 職員の安全を確保した後、管理者等はハラスメントの状況を確認し、ハラスメントを受けた職 員への対応、行為者への対応等を指示します。必要に応じて外部の関係者、例えば、ケアマネジャーや地域包括支援センター、医師、行政、警察などに連絡・通報します。

     的確に状況を判断した上で、できる限り早く、職員はもとより、関係する利用者や家族等に対しても、対応していくことが求められます。早期に対応することは、状況のさらなる 悪化を防ぐことにもなります。

    ハラスメントが発生した際は、経緯を把握し、問題の原因を分析し、明らかにすることに 努めます。介護業務は利用者と職員が1対1となる場面が多いことから、ハラスメントかどうかの判断が難しいケースが数多く生じています。具体的には、例えば「言ってな い」、「やってない」等の事実の否定、「そんなつもりではない」等の言動の正当化、「受け 止めの問題」、「その前に失礼なことをした」等の責任転嫁等が発生するケースもあります。

    ⚫ 発生状況の把握や対策の検討と合わせて、ハラスメントを受けた職員に対する心のケアや従業上の配慮等もしっかりと行うことが必要です。

    ⑩ 管理者等への過度な負担の回避

    ⚫ ハラスメントが生じた場合には、管理者等が、ハラスメントの当事者と相対することになりま す。なかには、ハラスメントを生じたあるいは生じる懸念のある利用者や家族等を、管理者等 が担当することになるケースもあります。

    ⚫ 職員が一人で抱え込んでしまないようにすることはもちろん、相談や報告を受けた管理者等が 一人で抱え込まないよう、また、ハラスメント対応で過度の負担がかかることのないよう、各 事業を統括する法人の代表や法人本部が組織的に関与する体制を構築することが重要です。 ž 対応チームを作る等、組織として問題に対応する体制作りをしましょう。多職種から構成 される施設・事業所であれば、多職種で相談対応のチームを作ることも一例です。 ž マニュアルでは、ケアマネジャーや地域包括支援センター等に相談する等、管理者等の負 担感に寄り添った指針・対応方法を示しましょう。

    ⑪ PDCAサイクルの考え方を応用した対策等の更新、再発防止策の検討

    ⚫ 施設・事業所として、ハラスメントの未然防止等に対し取組体制の構築や対策を実施している場合でも、ハラスメントが発生することが考えられます。このため、発生したハラスメント事案について、背景(発生の原因)などをできるだけ把握し、それを踏まえて、体制や対策等を 適宜見直していく、PDCA サイクル※考え方(PDCA サイクル:Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)を継続的に行い改善するこ と。)を利用していくことも重要です。

    ⚫ また、普段のサービス提供を通して、ハラスメントの現状やその対応などの事例を組織として 蓄積し、二度三度と同じようなハラスメントが発生しないよう、再発防止の取り組みを行っていくこと、再発を防ぐため、あるいは再発した場合を考慮したマニュアルやフローチャートが 適切に作成されているか、点検することも重要です。

    (イ)職員に対して取り組むべきこと
    ① 組織としての基本方針や必要な情報の周知徹底

    ⚫ 職員に、施設・事業所としてのハラスメントに対する基本的な考え方をわかりやすく、適切に伝えることが重要です。あわせて、施設・事業所として整備している未然防止や発生時の対応等のマニュアル、設置している相談窓口などの情報などを伝えます。

    ⚫ 施設・事業所としての基本的な姿勢や取り組みを職員に伝えることにより、職員が安心して働ける環境であると感じられるようにすることが重要です。 特に、精神的なハラスメントは各人で受け止め方も異なり、声をあげにくいことがあります。まずは些細なことでも相談を受け 付ける姿勢を示すことが大切です。

    ⚫ 重要事項説明書や契約書の内容を十分に理解できるように伝えるとともに、特に、ハラスメントに関連した内容をどのように記載しているのか、その背景と目的などについても、的確に伝えることが重要です。

    ⚫ 日々の業務が忙しく、情報の周知に十分な時間を確保できない場合でも、職員の安全を確保する観点から日々の業務に優先して周知することが必要です。資料を配布するだけでなく、基本的には対面で説明を行い、質疑や意見交換を十分に行うことが重要です。

    ② 介護保険サービスの業務範囲の適切な理解の促進

    ⚫ 介護保険サービスの業務範囲の誤った認識や理解不足が、利用者や家族等とのミスコミュニケーションにつながる恐れがあります。

    ⚫ 施設・事業所による契約締結時の説明や、利用者やその家族等の理解が不十分だったことが原因となり、苦情に発展し、さらには暴言にエスカレートすることも考えられます。契約締結時や事前の説明時に留意すべき点などとして、例えば以下が考えられます。

    ⚫利用者が受けられる介護保険のサービスの範囲(契約内容)について、利用者や家族等と 施設・事業所の認識が合っているか確認する。

    ⚫ハラスメントは職員の安全を損なうものであると同時に、介護サービスの提供を困難にすることで、場合によっては契約解除となる可能性があることを明確に伝える。

    ③ 職員への研修の実施、ハラスメントに関する話し合いの場の設置

    ⚫ 職員を対象としたハラスメントの予防や対策に関する研修を実施することが求められます。 また、一過性に終わらせることなく、職員のハラスメントへの意識を喚起するためにも定期 的に行っていくことが重要です。

    ⚫ 研修の一環として、ハラスメントに関する話し合いの場を職場内に設置し、定期的に開催す ることも必要です。 ハラスメントは許されない行為であり、職員が我慢するべきものではな いこと、ハラスメントを受けたらすぐに報告・相談のできる職場の雰囲気をつくっていくことが重要であることを、みんなで確認していくことが大切です。

    ④ 職員のハラスメントの状況把握のための取組

    ⚫ ハラスメントの有無やその影響を把握するため、例えば、職員を対象にアンケートやストレスチェックなどを行うことも考えられます。

    ⑤ 職員自らによるハラスメントの未然防止への点検等の機会の提供

    ⚫ ハラスメントの未然防止には、職員一人ひとりが、利用者・家族等に対し、的確な基本的対応をしっかりと行っていくことが重要です。

    ⚫ そのために、研修等を行う一方で、職員が自ら点検する振り返ることのできる機会を提供することも重要です。

    ⑥ 管理者等向け研修の実施、充実

    ⚫ 管理者等を対象としたハラスメントに関する研修を実施することが求められます。管理者等 向け研修では、職員に対する未然防止のための指導内容やハラスメントが発生した場合の対応、ハラスメントを受けた職員への対応、利用者・家族等の事前の情報収集の必要性、疾病 による影響などに関する専門的な知識の習得などの内容が考えられます。

    ⚫ また、関係団体、自治体等が実施するハラスメント防止に向けた研修に参加します。

    (ウ)関係者との連携に向けて取り組むべきこと
    ① 行政や他職種・関係機関との連携(情報共有や対策の検討機会の確保)

    ⚫ サービスの提供を開始する前に、過去に利用者が利用していた施設・事業所、ケアマネジャー、主治医(かかりつけ医)等の関係者から情報を収集します。生活歴に起因するリスク、 病気又は障害に対する医療や介護等の適切な支援を受けていないことに起因するリスク等、 何らかのリスク要因を抱えている、あるいは、その可能性がある場合には、関係者と相談し ながら、適切なケアの内容や体制、リスクをできるだけ回避するための対策等について検討 します。

    ⚫ ハラスメントを繰り返す利用者や家族等に対し、特定の事業者のみがその影響を過度に受けることは望ましくありません。ハラスメントの背景には、利用者や家族等の置かれている環境や状況、施設・事業所との関係性等、様々な要素が絡み合います。このため、個々の施 設・事業所だけで適切に対応することが困難な場合もあります。

    ⚫ 事案に対して適切に対応するためにも、ケアマネジャー、近隣の他の施設・ 事業所との情報 共有の機会を作る、地域ケア会議で共有する、医師等の他職種、保険者、地域包括支援センター、保健所、地域の事業者団体、法律の専門家又は警察等へ相談・連携する等、日頃から地域の関係者と連携し、相談や地域全体で対応できる体制を築いておくことが重要です。

     ⚫ハラスメントが発生した世帯が複合的な課題を抱えている場合には、その状況や課題を行政等に連絡することも必要です。その上で、利用者・家族等にどのように対応・支援を進めていくのか、関係機関が連携して共通理解と方針を検討し、対応することが大切です。

     ⚫可能な場合には、ハラスメントにより対応が困難な事例などについて、例えば、地域ケア 会議等でケースワークとして取り上げるように働きかけ、状況を共有していくことも考えられます。

     ⚫ 地域におけるハラスメント対策の取組に対しては、都道府県に設置する地域医療介護総合確保基金が活用できます。

    介護マニュアル

    (4)改正精神基準を踏まえた安全配慮義務上の実務的留意点

    改正精神基準を踏まえた安全配慮義務上の実務的留意点として、特に、ハラスメントにおいては、相談後の対応が重要であることを強調しておきます。

    改正精神基準の別紙「業務による心理的負荷評価表」の「具体的出来事」の類型29セクハラや同22パワハラ、同27のカスハラや、同23「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」に共通して、【「強」になる例】として、「心理的負荷としては「中」程度の迷惑行為を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった」点が指摘されていることです。即ち、上記各相談に対して、適切な対応、改善がなされていれば、「強」の評価を受けず、労災認定を回避できる可能性が高まり、引いては、事業者が民事賠償等のリスクも下がるということです。

    ▼当事務所の解決事例について▼

    精神疾患で休職していた従業員が休職期間満了時に復職不可と判断され退職となったことから、地位確認訴訟を提起した事案で、産業医の判断等から復職はできなかったとの主張が認められ勝訴した事例

    うつ病で休職していた従業員が、パワハラを主張して労災申請したが、事実調査を行った結果、パワハラの事実は発見できず、むしろその従業員が周りの従業員と協調して仕事ができないことが判明し、労災認定されなかった事例

    Ⅲ カスハラ、特に介護業におけるカスハラ対策への対応について当事務所でサポートできること

    カスハラ、特に介護業におけるカスハラ対策への対応については、介護マニュアルでも、豊富な書式例等が提供されています。しかし、具体的作業においては、同マニュアルに沿った諸規程やマニュアルの整備、既存の規定との整合性の確保、不利益変更などの非難を回避したり、そのリスクを軽減するためのアドバイスや諸規程やマニュアルの策定自体と従業員への説明会への助言、指導が必要です。また、職員や施設利用者等とのトラブルも発生するリスクへの対応の必要もあります。

    これらの点については、労働事件・労務管理について多くの経験を有する弁護士に相談するのが有益です。前記のリスクを顕在化させないため、例えば、カスハラへの相談対応が懈怠し、精神障害の労災認定を回避するための紛争を予防する労務管理体制を構築するためにも、当事務所にご相談いただければと思います。また、介護マニュアル遂行のための各段階でのセミナー講師などでにおいても、ご相談いただければと思います。

    ▼弁護士によるサポート内容についてはこちらから▼

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    Last Updated on 2024年2月21日 by loi_wp_admin


    この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
    当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。

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