パワーハラスメントを行う社員への会社側の対応方法について弁護士が解説

パワーハラスメントを行う社員への会社側の対応方法について弁護士が解説

文責:石居 茜

1 パワーハラスメントとは?

(1)パワーハラスメントとは?

以下の①~③までの要素の全てを満たすものが職場におけるパワーハラスメントです(パワハラ防止法30条の2第1項)。

① 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

③ 労働者の就業環境が害されること

すなわち、業務上の指導の場合、②の「業務上必要かつ相当な範囲を超えているか」どうかがポイントとなります。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうか」の判断は、社会通念によって判断されます。「平均的な労働者の感じ方」、すなわち「同様の状況でその言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とします。相手が嫌だと感じればすべてパワハラに該当するわけではありません。

パワハラ防止法が施行され、中小企業も令和4年4月1日からパワハラ防止対策の義務がありますので、対応が必要となります。

また、具体的場面において、同僚へのパワハラ、部下から上司へのパワハラもあり得ます。

裁判例では、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」等と定義されています(F事件・大阪地判平24・3・30・判タ1379号167頁 )。「組織・上司が職務権限を使って、職務とは関係ない事項あるいは職務上であっても適正な範囲を超えて、部下に対し、有形無形に継続的な圧力を加え、受ける側がそれを精神的負担と感じたときに成立するものをいう」と定義する裁判例もあります(K事件・東京地判平21・10・15・労判999号54頁、S事件・東京地判平20・10・21・労経速2029号11頁 )。

(2)パワハラの6類型

パワハラには、以下の6類型があると言われています(厚労省ホームページ)。

① 暴行・傷害(身体的な攻撃)

② 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)

③ 隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)

④ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)

⑤ 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)

⑥ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

この中で、一番多く相談が寄せられるのは、業務上の指導が、②の暴言や言動としてパワハラに当たらないかということです。

先ほど述べたように、相手が嫌だと感じれば業務上の指導がすべてパワハラになるわけではなく、「平均的な労働者の感じ方」において、「業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうか」が判断基準となります。

ただ、次のような態様の言動は、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動としてパワハラに該当する可能性が高いので注意が必要となります。

  • 皆の前で、大声で𠮟責
  • 「死ね」「バカ」「アホ」「辞めろ!」「クビだ!」「給料泥棒」などと発言
  • 必要以上に長時間・継続的に叱責
  • 会議中執拗に責める、つるし上げる
  • 人格を否定する発言、性格の非難、侮辱、劣等感を刺激する発言
  • 感情的な発言・感情のコントロールを失った発言
  • 他の従業員の前で、本人の名誉を踏みにじる態様での注意指導(メール等でも同じ)

2 パワーハラスメントが起きた場合の会社の対応方法

(1)パワーハラスメントが起きたときの会社の法的責任

会社は、加害者を業務の執行につき使用していたことに対して使用者責任を負います。使用者責任は加害者従業員と連帯責任で同額の損害賠償責任が認められ、「業務の執行につき」は広く認められるので、ハラスメントが起こると、会社は使用者責任を免れないケースが多いです。

また、会社は、従業員に対し、雇用契約上従業員の生命・身体の安全に配慮する義務を負っていますので(労働契約法5条)、パワハラを防止する対策を取らなかったり、ハラスメントが起きてしまった際に、適切な対応を取らず、隠蔽したり、見過ごしてしまったりすると、雇用契約上の安全配慮義務違反として、損害賠償責任を負う場合があります。

(2)パワーハラスメントが起きたときの会社の対応方法

会社は、ハラスメント被害を察知した場合には、放置せず、事情聴取や必要な調査を行った上で、事実関係に応じた適切な対応を取ることが必要です。

被害者が加害者に自分が被害申告していることを言わないでほしいというケースもあるので、二次被害にならないよう被害者の意向は尊重する必要があります。また、プライバシーを保護する措置もとる必要があります。

事情聴取は、弁護士等がついた交渉、裁判などに発展する可能性も見据えて行う必要があります。被害者と加害者の話が食い違うケースもあり、会社の人事部等の方のみでは、なかなか難しく、判断に困るケースに該当することも多々あります。なるべく早い段階から、当事務所のような労働問題に精通した弁護士と連携しながら進めることが、紛争の早期の的確な解決にとって有効です。

当事務所では、事情聴取のやり方のご相談から、事情聴取過程で、連携していつでも相談できる体制を整えてご支援したり、ご要望によって事情聴取を行ったり、立ち会ったりといった対応も可能ですので、いつでもご相談いただければと思います。

調査の結果、ハラスメント被害が認定できない場合も、会社は、被害者の職場環境を調整したかどうか債務不履行責任を問われますので、被害者に調査結果を真摯に説明して理解を得るよう努め、最低限被害者と加害者を離す措置を取るなど、会社として、そのときの事実関係において、中立的で合理的な対応を取ること、また、被害者に最大限配慮した措置を取ることが重要です。

3 パワーハラスメントを行った社員への懲戒解雇・懲戒処分

(1)懲戒処分上の留意点

懲戒処分は、裁判例において、下記の要素が満たされていないと無効と判断されることがありますので、注意が必要です。

処分の重さの相当性も含めて、当事務所のような労働問題に精通した弁護士に事前に相談してから進めるほうが無難です。当事務所でも、懲戒処分の手続、処分の重さの相当性のご相談は非常に多いです。

【懲戒処分手続のポイント】

① 就業規則等の根拠規定

懲戒処分は、就業規則・懲戒規程等に懲戒処分を科すことの根拠規定があり、就業規則等により、懲戒事由が事前に従業員に対して明確になっている必要があります。また、就業規則はあっても、従業員に周知されていない場合、就業規則に基づく懲戒処分の効力を否定した判例がありますので、就業規則や懲戒規程は、すべての事業場の従業員が見られるように周知手続をしておくことも重要となります。

② 懲戒事由に該当していること

①の就業規則や懲戒規程の懲戒事由にセクハラやパワハラ等のハラスメントの禁止の規定があり、実際の言動が懲戒事由に該当していることが必要となります。

③ 懲戒処分が重すぎないこと(相当性)

会社の他の懲戒事例と比較して、懲戒処分が重すぎないこと、処分の相当性が必要となります。また、同様の事例に関する他の裁判例と比較して処分が相当であることもポイントとなります。

④ 適正手続

就業規則等で定めた懲戒処分の手続に則っていることが必要となります。

例えば、懲戒処分を科す際には懲戒委員会を招集してその審議を経ることが就業規則や懲戒規程等に定められている場合、定められた手続を経ていることが必要となります。また、これらの細かい手続の定めがない場合でも、加害者とされている従業員に対し、処分の前に弁明の機会を付与することが必要となります。これらの手続を経ていない場合、懲戒の事実が認定され、処分が相当であると判断されても、手続違反だけで懲戒処分が無効と判断されることがありますので、注意が必要です。

(2)懲戒解雇・懲戒処分

パワハラを行った従業員に対して、懲戒解雇はできるでしょうか。

裁判例では、懲戒解雇は、就業規則等により退職金が不支給となるなど従業員にとって非常に厳しい処分であることから、その有効性の判断には慎重であることが多く、パワハラ行為が暴行・傷害・脅迫など刑法犯に該当し被害が重大な場合や多額の横領などの金銭的被害、ハラスメントが悪質かつ被害が深刻であったり、会社の再三の指導等を受けても改まらない悪質な行為である等の場合でなければ、いきなりの懲戒解雇処分は重すぎるとして無効と判断される可能性があります。また、懲戒解雇の場合には、就業規則等により、退職金の全部又は一部が不支給となっている規定が多いですが、退職金は、これまでの勤続・功労に対する賃金の後払い的性格を有することを指摘し、事案の軽重・悪質性にもよりますが、懲戒解雇が認められる事案でも、退職金の全額不支給は不当であるとして、退職金の返還を認めた裁判例も多数ありますので、その判断は、慎重に行うべきです。

そもそも、加害者従業員が事実関係を争っている場合、裁判ですべてが認定されるとは限らないこともあるので、懲戒処分を科す場合、当事務所のような労働問題に精通した弁護士に事前に相談してから進めることを推奨いたします。

4 パワーハラスメントを行った社員への配置転換等人事上の処分

配置転換等の人事異動に関しては、就業規則上に根拠があれば、会社の人事裁量として基本的には可能です。ただし、降格等従業員に不利益を科す人事処分については、不利益の程度によって慎重な判断が必要となりますし、そもそも、降格の根拠規定がない場合もありますので、事前に労働問題に精通した弁護士に相談してから行うべきです。なお、配置転換についても、従業員が、裁判で権利濫用の事由(不当な目的、従業員の被る不利益等の比較衡量)を立証した場合には、配置転換命令が無効とされることはあり得ます。

ハラスメントの申告があったものの、調査の結果ハラスメントの事実が認定できないものの、加害者と被害者をそのままにすると安全配慮義務の観点から不都合である等の事情で、人事上の異動等を命ずることにより一応の措置を取ることもよくあります。

注意点としては、被害者が望んでもいないのに、被害者だけを異動させる等の措置を一方的に取ると、二次被害を訴えられる場合がありますので、注意が必要です。

5 パワーハラスメントを行った社員への退職勧奨

調査の結果パワハラの事実がある程度明らかになった場合、懲戒処分ではなく、退職勧奨をすることも考えられます。

退職勧奨は、会社から従業員に対する「強制を伴わない退職の働きかけ」であり、社会通念上違法と言われる態様で行わない限りは、退職を勧める行為であり、従業員が自由な意思で任意に退職を決めた場合は問題ありません。

上記のように懲戒解雇や解雇の判断はリスクを伴うことから、事案によっては、加害者の従業員が退職することによって解決を図ることもあります。

6 問題社員対応について当事務所でサポートできること

当事務所では、労働問題に精通した弁護士が多数在籍しておりますので、ハラスメント問題の交渉、あっせん、調停、裁判、労災申請への対応、労働組合との団体交渉などを多数担当しております。

また、多数のハラスメント問題解決の実績を活かして、ハラスメントが起きないように予防するため、及び、初期対応の誤り等による二次被害を防ぎ、会社の職場環境調整義務違反を防ぐため、事前対応として、周知・啓発、社内ハラスメント防止研修、相談窓口設置、窓口対応従業員の研修や指導、マニュアル作成などのご依頼を受け、行うことが可能です。

実際に被害申告があったときには、相談窓口担当の人事部などの従業員と常に連携して相談に乗りながら進め、事案の早期解決を目指します。

事案によって、弁護士が事情聴取を行ったり、立ち会ったりといった対応も可能です。顧問契約でもよいですし、顧問契約でなくても、案件ごとのスポット対応のご提案も可能です。

加害者の懲戒処分についても、対応を誤ると無効となるリスクが潜んでいるので、事前に相談を受け、裁判例や当事務所実績に基づいてアドバイスし、随時相談に乗りながら進めます。

当事務所では、交渉や裁判等の案件の代理人となるだけでなく、人事部等と常に連携し、助言しながら、被害者との示談や、加害者への適切な懲戒処分、異動といった措置に至り、紛争を解決する事例も多くあります。

顧問契約、スポット案件サポートパックなどによる随時の連携、助言や、代理人としての紛争解決、ハラスメント防止のための研修や窓口対応従業員の研修など、多方面からサポートが可能ですので、ハラスメント問題に不安がある企業は、当事務所にご相談ください。

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Last Updated on 2024年3月29日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。