文責:中野 博和
1 労使紛争(トラブル)がもたらす危険性
労務トラブルの具体的な内容にもよりますが、労務トラブルが発生した場合には、会社には様々なリスクが発生します。以下では、簡単にではありますが、リスクの内容をご紹介します。
(1) 多額の金銭支払いのリスク
まず、労働者から多額のお金を請求されるリスクがあります。
例えば、解雇事案であれば、解雇以降給料を支払っていないわけですから、解雇した時点から解決に至った時点までの給料相当額を支払わなければならなくなる可能性があります。その事案が訴訟にまで発展していた場合、解雇してから少なくとも1年以上経過していることが多いです。仮に、解雇時点から1年以上経過して不当解雇であると裁判所に判断されてしまった場合、解雇した労働者の1年分以上の給料に相当する金額を解決金として支払わなければならなくなってしまいます。
残業代請求事案の場合には、訴訟において労働者の請求が認められたときには、認められた残業代に加えて、これと同額の「付加金」というものを支払わなければならなくなる可能性があります。つまり、請求が認められた残業代の2倍の金額を支払わなければならなくなる可能性があるということになります。
労災事案においては、労災認定がなされた場合、労働者に対して労災保険金が支給されますが、これは労働者の全ての損害をカバーするものではありません。そのため、労災が起きてしまった場合、労災認定後に会社に対して損害賠償請求がなされることが多く、この場合、1億円以上の損害賠償請求が認められることもあります。会社としては、大切な従業員の生命・健康を損なってしまうだけでなく、賠償金という形で多額の損害を発生させてしまうリスクがあります。なお、被災者が下請会社の従業員であるなど、直接の雇用契約関係がない場合においても、会社が被災者に対して安全配慮義務を負う場合もありますので、このような場合にも、損害賠償請求が認められる可能性がある点には注意が必要です。加えて、例えば、取締役等の会社の役員が、社内において長時間労働が頻繁に行われている実態などを把握しながらこれを放置していたような場合、会社だけでなく、役員個人の賠償責任が認められることもあります。
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(2) レピュテーションリスク
例えば、労災事案やセクハラ事案、マタハラ事案などが発生してしまったことが報道機関により報道された場合、このことが、社外にも伝わってしまいます。特に、インターネットで報道されてしまうと、検索等により、すぐに労災事案やセクハラ事案、マタハラ事案などが発生したことが第三者に分かってしまいます。
このような場合、近年ではSDGsの考え方が重要視されていることとの関係から、取引先からの受注等が減少ないし無くなってしまうリスクがあります。また、就職活動をされている方々にとっては、労災事案やセクハラ事案、マタハラ事案が発生しているような会社への就職を避けようと考えることも想定され、新入社員採用が困難になってしまうリスクもあります。
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(3) 刑事罰のリスク
残業代の未払いなど労働基準法違反や、労災事案における労働安全衛生法違反などが認められる場合、事案によっては刑事罰が科される可能性があります。
特に労働安全衛生法違反については、会社は、従業員が労働災害により亡くなったり、休業したりしたときは、遅滞なく、所轄の労基署長に報告書を提出する必要があり、これを怠るといわゆる労災隠しとして刑事罰の対象になりますが、疾病等が発生した直後の段階では、それが労災であるのか否か、ひいては報告書を提出しなければならない事案であるのかについて明確には分からないことも多いと思います。
(4) 行政上のリスク
国や地方公共団体などから許可等を得て業務を行っている場合において、労働基準法違反や労働安全衛生法違反などが認められるときには、営業停止や許可等の取消しなどがなされることもあり得ます。また、国や地方公共団体などからの業務を受注する際の入札において、指名停止、指名回避などがなされることもあり得ます。
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(5) 生産性低下・人材流出のリスク
例えば、パワハラ事案やセクハラ事案が発生してしまった場合には、労働者の就業環境が悪化しますので、業務効率が落ちて生産性が低下してしまったり、転職等により、貴重な人材が流出してしまったりするリスクもあります。
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2 労務トラブル予防
(1) 就業規則を整備する
常時10名以上の労働者(いわゆる正社員に限らず、アルバイトなども含まれます。)を使用する使用者は、一定の事項を定めた就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければなりません(労働基準法89条)。
したがって、「常時10名以上の労働者を使用する使用者」に該当しなければ、就業規則を作成する義務はありません。
しかしながら、就業規則は、職場でのルールや労働者との契約の内容を定めるものであり、これらが曖昧なままですと、何か問題が発生したときに、上手く解決することができずにトラブルに発展する可能性もあります。事前に就業規則を整備しておけば、トラブルに発展せずに解決することができたり、仮にトラブルに発展したとしても、会社に有利な条件で解決を図ったりすることなどが期待できます。
そのため、「常時10名以上の労働者を使用する使用者」に該当する場合はもちろんですが、これに該当しない場合であっても、トラブル予防の観点から就業規則を整備する必要があるでしょう。
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(2) 社内研修・勉強会等の実施
労務トラブルとして最も多い類型の一つにパワハラがあります。セクハラなどにも同じようなことがいえますが、パワハラについては、どこまで許されるのかが人によって異なる場合があります。
過去にあった裁判例などを基に、どのような場合にパワハラであると判断されるのかについて、社内研修等を通じて社員教育を行う必要があるでしょう。加えて、パワハラは、上司が部下に対して行う事案が典型例ですので、管理職に就任する際に研修を実施することはもちろんですが、同僚同士の間でパワハラが行われることなどもありますので、入社時や、入社後一定の期間ごとに研修を行うことも有益でしょう。
また、労務トラブルを防止するには、会社側が労働関係法令の内容等をきちんと知っておくことが重要です。育児介護休業法などをはじめとして、労働関係法令は、頻繁にその内容が改正されますので、随時キャッチアップしておく必要があります。
(3) 社内相談窓口の設置
問題に気付いた労働者が、これを会社に相談できるようにしておくことも、トラブル予防の観点からは重要です。
問題に気付いたけれども、これを会社に話すことができないような状況であれば、労働者の就業環境は改善されないままですので、労働者の不満が溜まります。
社内相談窓口を設置するなどして、風通しをよくしておくことで、労働者との適切なコミュニケーションを図ることが有用でしょう。
(4) 顧問弁護士の必要性
労務トラブルを未然に予防するには顧問弁護士を活用することが効果的です。
就業規則の整備、社内研修等の実施、及び社内相談窓口もトラブル防止に有用ですが、これらだけでは、種々の労務トラブルの予防をカバーするのは難しいでしょう。
普段から相談している顧問弁護士であれば、会社の事業の内容や実情等にも通じているため、労務トラブル予防のための適切な対応等について回答してくれることが期待できます。
▼当事務所の顧問プランについて▼
3 労務トラブルについて当事務所でサポートできること
当事務所は、140を超える企業・団体様との間で顧問契約を締結させていただいており、日々、顧問様からのご相談対応等をさせていただいております。また、労務トラブルに関する交渉、あっせん、調停、訴訟、労働組合との団体交渉などの豊富な解決実績もございます。
これらの実績等を活かして、労務トラブルの防止に関するアドバイスはもちろん、実際に労務トラブルが発生してしまった場合においても、可能な限り顧問様に有利な形で解決することができるようにアドバイス等をさせていただくことが可能ですので、お気軽に当事務所にご相談ください。
Last Updated on 2024年10月1日 by loi_wp_admin