【弁護士が解説】逆パワハラとは?会社側が取るべき対応について弁護士が解説!

【弁護士が解説】逆パワハラとは?会社側が取るべき対応について弁護士が解説!

文責:岩出 誠

概要

パワーハラスメント(パワハラ)の中で、今、話題になっているのは、逆パワハラです。

逆パワハラについては、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令2・1・15厚労告」

(以下、「パワハラ指針」という)においても、部下からのパワハラの存在が指摘され、逆パワハラによる精神疾患への労災認定裁判例も出ており、逆パワハラに対処した精神障害の労災認定基準(「心理的負荷による精神障害の認定基準」令5・9・1基発 0901 第2

<以下、改正精神基準)という>)も出ています。 これに伴い「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」基発0914号第1

<以下、「改正脳心基準」という>」も改正されています(同基準で利用されている業務による心理的負荷評価表の変更に伴う改正。令5・10・18基発1018第1)。

即ち、パワハラの加害者となる“「上司等」には、職務上の地位が上位の者のほか、同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合、同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合”にはパワハラとなり得ることが明記され、これが、逆パワハラに該当します。

したがって、企業は、逆パワハラに対しても、パワハラ指針に沿ったパワハラ防止措置義務と労働契約法5条に基づく職場環境調整義務を負い、それらの違反により発症した心身の障害に対する労災認定、損害賠償、加害者に対する懲戒等の人事上の措置等をなすことが求められます。これらを踏まえて、裁判例、パワハラ指針、各労災認定基準等を踏まえての逆パワハラ対応への実務的留意点を解説します。

Ⅰ 逆パワハラに関わる法令・指針・裁判例・労災認定基準の現状

1 逆パワハラとは何か

逆パワハラとは、典型例が、部下らに指示を無視され、舌打ちされたり、集団で誹謗中傷メールを送信されたりすることです。

パワハラは通常上司からの行為が問題とされますが、実は、パワハラ指針でも、逆パワハラを想定しています。即ち、パワハラ3要素たる、「①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③その雇用する労働者の就業環境が害されること」の内の「①職場において行われる優越的な関係」について、当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者(以下「行為者」という)に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものをいう(パワハラ指針2(4))としたうえで、「・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの/・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの」も明示されています。

裁判例においても、部下から上司に対する例として、国・渋谷労基署長(小田急レストランシステム)事件・東京地判平21・5・20労経速2045号3頁では、部下の中傷ビラ(売上を着服している、金庫から金を盗んだ、部下の女性職員にセクハラをした、倉庫から窃取されたビールを飲んだ等)を労働組合に持ち込んだり、会社上層部に送付したりされたこと等によるうつ病自殺につき労災適用を認めた例があるように、たとえば、部下のもつさまざまな優位性の中には、事業所内外の人脈・企業施設の操作ノウハウ等実に多様なものがあり得ます。

同僚間の例として、国・京都下労働基準監督署長事件・大阪地判平22・6・23労経速2086号3頁では、「Xに対する同僚の女性社員Y1らのいじめやいやがらせが個人が個別に行っ たものではなく、集団でなされたものであって、しかもかなりの長期間継続してなされたものであり、その態様もはなはだ陰湿であり常軌を逸した悪質なひどいいじめ、いやがらせともいうべきものであってそれによってXが受けた心 理的負荷の程度は強度であるといわざるをえないこと…等を踏まえると、Xが 発症した『不安障害、抑うつ状態』は同僚の女性社員Y1らによるいじめやいやがらせとともにY社がそれに対して何らの防止措置も採らなかったことから 発症したものとして相当因果関係が認められる」として労災認定され、しまむら事件・東京地判令3・6・30労判1272号77頁では、同僚がけしかけ上司と共同でなされたいじめにつき、同僚ら及び会社に対する慰謝料等請求が一部認められています。

2 逆パワハラに対して企業に求められる対応

以上のように逆パワハラが、労働施策法30条の2第1項のパワハラに該当し得る以上、パワハラ3要素の他の2要素である「②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③その雇用する労働者の就業環境が害されること」に該当すれば、企業としては、パワハラ指針に沿った以下のような逆パワハラ防止措置義務を負っています。即ち、

■相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、
■被害者への配慮のための取組
■被害を防止するための取組

等の取組を行うことが必要です。

職場環境調整義務違反による損害賠償責任や人事上の措置が求められる場合もあり得ます

さらに民事損害賠償等においては、この措置義務が職場環境調整義務の一環とされてその違反に対して雇主企業、あるいは加害者も含めて、損害賠償が請求されることがあり得ます。

人事上の措置に関しては、宴席の場での逆パワハラ事案ですが、空知土地改良区事件・札幌高判平19・1・19労判937号156頁では、慰労会の二次会および懇親会後の宿泊室において、X(総務部長兼出納責任者)が、Yの監事、理事に対し、「あんたは後ろから石をぶつけられるぞ」「お前なんか理事を辞めろ」等と発言したことを理由とする係長への4階級降格が有効とされた事案が示されています。酒席とはいえYの費用で運営されている懇親会等であって、出席者等も理事、監事および職員であることからすれば、職務執行に関連性がないとはいい難く、また発言は極めて不穏当で、事務部門の長として部下職員を指導監督し、上部団体または関係団体との折衝をする職務を担う総務部長として必要な適格性を欠き、職場秩序を乱すもので、服務規程「職務に必要な適格性を欠く場合」に該当するとされています。企業が出捐した二次会での管理職の上司に対する暴言が問題とされた例ですが、監事、理事に対し総務部長兼出納責任者としての一定の優越的関係を背景として発言したものと考えれば逆パワハラ事案となります。実務的には多発し易い事案として参考とされます。

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3 改正精神基準における逆パワハラ

改正精神基準においても、「業務による心理的負荷評価表」の「具体的出来事」22のパワハラを具体的に明記する中で、「心理的負荷の総合評価の視点」の注)として“「上司等」には、職務上の地位が上 位の者のほか、同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困 難な場合、同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合も含む。”ことが明記されています。 

また、同認定基準の「具体的出来事」26では、パワハラにまで至らない「部下とのトラブルがあった」が指摘され、「業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の部下との間に又は頻繁に生じ、その後の業務に大きな支障を来した」場合が心理的負荷「強」に当るとされています。この場合も逆パワハラに近い状況が発生していることが想像できます。

厚労省の令和5年度の「過労死等の労災補償状況

における精神障害の労災申請では、パワハラの中で逆パワハラは分類されていませんが、「部下とのトラブルがあった」についてもは、申請が25件で、認定例も5件に及んでいますので、ここから推定するに逆パワハラの労災認定例も相当数あることが想定されます。

逆パワハラが不当労働行為に関連する事例も出ています

なお、逆パワハラが不当労働行為に関連した事例も出ています。全国健康保険協会不当労働行為再審査事件・令和5・3・27交付中労委HP掲載では、組合員による上司への言動、“協会に対する、組合員Aと組合からの逆ハラスメントになるのではないか。万が一、 このような非日常的な対応で職員がメンタルに的に追い詰められたら大変なことになる」、「交渉態度も協会の職員に対する逆ハラスメントにあたる」との書面上の記述が、“パワハラ問題に関する組合の交渉態度を強く非難する表現であること、これが第3回団体交渉の直前に組合に送られたことを考慮すると、組合によるパワハラ問題追及活動を抑制する効果を持つものであり、実際に、 組合は、本件記述について、協会が組合に対するパワハラ追及活動において争う方針を転換するよう強要するものと受け止めている。」「また、組合の交渉態度は一方的でハラスメントの問題を理解しようとしない不適切なものと受け止めた面があるとしても、本件記述は、パワハラ問題に関する組合の交渉態度を強く非難して、 団体交渉において組合が従前のような交渉態度を取ることのないように牽制するものであり、支部が組合のパワハラ問題追及活動を萎縮させることを意図して行われたことが推認されるので、 組合の運営や活動に対する支配介入として労組法第7条第3号の不当労働行為(支配介入)に当るとされています。

労働組合との団交などに当っては、逆パワハラとの非難は、前述のパワハラ3要素を客観的に充足している場合に限って発言すべきことを示した好例です。

Ⅲ 逆パワハラへの対応について当事務所でサポートできること

逆パワハラへの対応については、逆パワハラも視野に入れて

のハラスメント関連諸規程やマニュアルの整備、既存の就業規則の人事考課、降格、懲戒規定との整合性の確保、不利益変更などの非難を回避したり、そのリスクを軽減するためのアドバイスや諸規程やマニュアルの策定自体と従業員への説明会への助言、指導が必要です。また、前述のような労働組合とのトラブルも発生するリスクへの対応の必要もあります。

これらの点については、労働事件・労務管理について多くの経験を有する弁護士に相談するのが有益です。

前記のリスクを顕在化させないため、例えば、逆パワハラへの相談対応が懈怠し、精神障害の労災認定を回避するための紛争を予防する労務管理体制を構築するためにも、当事務所にご相談いただければと思います。

また、逆パワハラ防止のための各段階でのセミナー講師などでにおいても、ご相談いただければと思います。

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Last Updated on 2024年9月12日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。