従業員による業務上横領とは

文責:中村 仁恒

1 従業員による業務上横領とは?

(1)業務上横領とは

企業組織において、従業員による業務上横領は単なる金銭的損失に留まりません。組織運営の基盤である信頼関係を根底から破壊する深刻な背信行為です。

刑法第253条に規定されており、「業務上自己の占有する他人の物を横領」した場合に成立する犯罪です。知人から借りた物を売却するような単純横領罪(刑法252条)よりも重く処罰される理由は、業務上の地位に伴う高度な信頼を裏切る点にあります。

(2)業務上横領の成立要件

業務上横領罪が成立するためには、4つの客観的要件があります。

①業務性

社会生活上の地位に基づき、反復・継続して行われる事務のこと。公私の別や報酬の有無は問いません。

②自己の占有

財物を事実上、または法律上コントロールできる状態にあること(例:経理担当者が預金通帳を預かっている状態)。

③他人の物

会社や顧客が所有している現金、物品、有価証券など。

④横領行為

委託の趣旨に反して、所有者でなければできないような処分(着服、売却など)を行うこと。

また、「不法領得(ふほうりょうとく)の意思」という主観的な要件も不可欠です。これは「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用、処分する意思」(最判昭和26・7・13刑集5巻8号1437頁参照)を指します。そのため、単なる管理ミスや不注意で紛失した場合には、横領罪は成立しません。

(3)関連する犯罪との違い

一般に、混同されやすい犯罪との違いは以下のように整理できます。

①業務上横領罪(刑法253条)

法定刑:10年以下の懲役(拘禁刑)

内容:業務上(仕事として)預かっている物を着服する行為。

②単純横領罪(刑法252条)

法定刑:5年以下の懲役(拘禁刑)

内容:業務外で委託を受けて占有している物を着服する行為。知人からの借用品を勝手に売る場合などが該当します。

③遺失物等横領罪(刑法254条)

法定刑:1年以下の拘禁刑、または10万円以下の罰金など

内容:拾得物など、占有を離れた物を着服する行為。委託関係(預けた・預かった)がないのが特徴です。

④窃盗罪(刑法235条)

法定刑:10年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金

内容:他人が占有している物を勝手に奪う行為。横領は「自分が預かっている」物を取る点が異なります。

⑤詐欺罪(刑法246条)

法定刑:10年以下の拘禁刑

内容:相手を欺いて(だまして)、勘違いさせた上で、財物や経済的利益を差し出させる行為です。そのため、当初は被害者(会社等)に占有があることが横領との相違点です。最初から着服する目的で経費を申請する場合などが該当します。

2 業務上横領の具体例

横領行為は、最初は小さな誘惑から始まり、内部統制の隙を突いて常態化・長期化する傾向があります。

(1)中小企業で多い手口

一人の担当者が長年、経理や総務を一手に引き受けているケースは、不正の温床となりやすい傾向があります。権限集中により死角が生じた際に発生しやすくなります。

①預金の不正引き出し

ベテラン社員が会社の口座から繰り返し現金を引き出し、私的に流用するケースなどがあります。

②商品の横流し

在庫管理を担当している従業員が、商品の一部を無断で持ち出して転売し、代金を着服するような手口です。

(2)少額を繰り返すケース

①レジ金の「抜き取り」

飲食・小売業で数千円単位で現金を抜き取る行為。

②集金横領

集金した金銭を着服するなどがあります。これくらいならばれないという心理により、繰り返す傾向があります

③備品の換金

郵便切手や収入印紙、換金性の高い備品を持ち出し、金券ショップなどで売却する手口です。

(3)専門知識の悪用:巧妙な隠蔽工作

①帳簿操作

売掛金の入金を架空の損失と相殺させたり、計上時期をずらしたりして現金を着服します。

②領収書の改ざん

既に使用した領収書を再利用したり、金額を書き換えたりして差額を得る行為です。

3 少額・初犯でも厳しい処分が可能

「少額だし、本人が反省しているから解雇までは……」と躊躇される経営者や、「日本では労働者は保護されているので、このくらいの金額で解雇は難しいのでは?」の思われる方もいらっしゃいます。しかしながら、金額の多寡よりも行為の性質性が重視されます。業務上横領は重大な背信行為であり、初犯や少額であっても懲戒解雇が有効と判断される可能性が高いのです。会社に対する業務上横領や詐欺、窃盗等は、会社に対する直接的かつ故意の背信行為であって、裁判所が最も厳しく見る類型であると言って過言ではありません。実際、後述のとおり、少額の事案や初犯であっても、厳しい処分が有効とされています。

①ぱぱす事件(東京地判令和6年1月25日)

ドラッグストアの店長が、販売目標達成のために商品の不正な購入・返品を繰り返し、約4,000円相当のポイント利益を得た行為について、懲戒解雇が有効とされました。

②日本郵便事件・高松地丸亀支判令2・10・19

2万円弱相当の切手の着服事案について、懲戒解雇が有効と判断されました。

裁判所は、この種の犯罪行為については、金額が少額であっても、行為の背信性を重く評価し、懲戒解雇等についても労働者に対して厳格に判断しています。

4 時効の基本知識

横領が発覚した際、「いつまで責任を追及できるか」という時効の問題に直面します。これに関連して、民事・刑事の時効について確認します。

(1)刑事告訴の時効(公訴時効)

業務上横領罪を刑事事件として起訴できる期間は、最後に行為が終わった時から7年です。

(2)民事(損害賠償)の時効

被害金の返還を求める権利は、以下のいずれか早い方で消滅します。

①3年(主観的時効)

会社が「損害および加害者」を知った時から3年間。例えば、初犯の場合など、本人に温情をかけるといった趣旨で、その後の更生をみつつ請求するか検討する、といった場合、この期間が過ぎてしまうリスクもあります。請求して賠償を得るためには、時効前の対応が不可欠であることは常に意識する必要があります。

②20年(客観的時効)

横領行為が行われた時から20年間。

(3)時効を止めるための主な手段

民事の時効にかけないための手段として、以下のものがあります。

①承認

本人に横領を認めさせ、支払いを誓約する書面(念書など)を書かせること。これにより期間がリセットされます。

②催告

内容証明郵便などで支払いを求めること。6ヶ月間、時効の完成が猶予されます。

③裁判上の請求

民事訴訟を提起すること。時効前に裁判上の請求を行えば、時効にかかることがなくなります。

5 会社として取り得る対応策 

不正発覚時、会社は被害回復(金銭)と処罰を検討することとなります。

(1)懲戒処分

業務上横領を行った従業員に対して懲戒処分を行い、企業秩序の回復を図ります。ただし、量刑を誤ったり、適正な手続きを欠くと「不当な懲戒処分」または「不当解雇」として会社側が窮地に立たされるリスクがあります。そのため、以下の点に留意する必要があります。

①就業規則への規定・周知

懲戒事由が定められ、周知されているか

②弁明の機会の付与

本人の言い分を聞く場を設けること

③他の事例との均衡(平等性)

業務上横領等については、裁判所が極めて厳しい態度で臨むことは上記のとおりですが、他方で、企業内での他の事例との平等性という観点があります。仮に、企業内で甘く処分してきた実態などがある場合には、この観点から足元をすくわれるリスクがありますので、検討が必要です。

④十分な裏付け資料

行為や被害金額を立証できる十分な裏付け資料(書面、録音、映像、履歴、証言など)を揃えること

⑤遅きに失しないこと

懲戒処分については、既にみた民事・刑事の時効のように、いつまでに行わなければ時効にかかるという明確な期限はありません。ただし、事件発生からあまりに間が空くと、今更処分することに裁判所が厳しい目を向ける場合があります。そのため、処分が遅くなるとことで、処分の有効性が揺らぐ要素になってしまうリスクがあることにも留意が必要です。

(2)民事での損害賠償請求

交渉(裁判外でのやり取り)、まとまらない場合には裁判と進めることが一般的です。また、分割払いの場合は、強制執行が可能な公正証書にしておくべきです。

刑事処罰にこだわらない場合には、刑事に関する事項を交渉材料としつつ、解決目指すこともあり得ます。

(3)刑事告訴の判断

犯人の処罰を求める強力な手段ですが、会社側にも証拠提出や事情説明の手間が生じます。また、事案によっては、警察の受理がなかなか進まない場合もあります。

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6 弁護士を通じた対応で後手に回らない対処を

横領事件で最も重要なのは、証拠保全等の初期対応です。本人が不正を察知して口裏合わせ、証拠隠滅等をする前に、先手を打って、客観的な資料や本人や周囲に対して事情聴取する必要があります。以下のようなポイントがあります。

①デジタル調査

ハードディスク、PC操作ログや削除されたメールの復元(フォレンジック)を行います。

②事情聴取のタイミング・内容、突きつける証拠関係

③自認書の作成

本人が認めた際、速やかに、具体的な内容(日時、金額、方法)を記載させます。また、後に「強要された」という反論を防ぐために、ヒアリング内容の検討や面談内容の証拠化も必要となります。

7 当事務所のサポート内容

当事務所では、横領の初期調査から合意書面等の作成、処分の量刑等の決定、法的手続き、事件解決後の再発防止まで、包括的なサポートを提供しております。

解雇や懲戒、示談交渉、刑事告訴までワンストップで対応します。

また、同様の不正が起きないよう、ガバナンスの強化(職務権限の分散など)の支援も可能です。

従業員による横領は、放置すれば組織を腐敗させ、他の真面目な社員の士気を下げます。発覚した瞬間こそ、企業が毅然とした姿勢を示すべき時です。経営者の皆様のパートナーとして、迅速かつ厳正な対処を全力でバックアップいたします。

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Last Updated on 2026年3月16日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。