業務上横領・窃盗が発生した場合に企業側が採るべき対応方法について弁護士が解説!

文責:木原 康雄

1 業務上横領とは

他人から委託を受けて占有している他人の物品について、委託の権限外の処分を行うことを(単純)横領といいます。刑法では、刑法252条1項に規定されており、その法定刑は5年以下の懲役刑(2025年6月1日以降は「拘禁刑」、以下同様です)と定められています。

上記の委託関係が業務に基づく場合には、業務上横領となります(刑法253条)。ここでいう「業務」とは、法令、契約、慣習等を根拠に、反復・継続して行われる事務をいい、労働契約もこれに該当します。したがって、従業員が、職務上保管を任されていた物品を、無断で第三者に転売したり、換金したり、または、金銭や預金を自己の用途に費消した場合には、業務上横領と評価されることになります。

個人的な委託(信頼)関係に基づく単純横領よりも、業務に基づく業務上横領の場合には、通常多数の者との間の委託(信頼)関係を破ることになり、法益侵害の範囲が多岐にわたり、社会の信用を害する程度が大きいことから、10年以下の懲役刑と重い法定刑が定められています。

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2 窃盗とは

以上に対し、委託を受けて保管していたわけではない物品について、他人の占有を排除して自己の用途に利用した場合は、窃盗となります(法定刑は10年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑、刑法235条)。

したがって、たとえば商品を保管すべき地位にない労働者が、会社の倉庫から無断で商品を持ち出して換金した場合や、会社の備品であるUSBメモリに、会社の秘密情報を記録して持ち出し、それを第三者に売却した場合は、業務上横領ではなく窃盗と評価されることになります(後の例では、それ以外に不正競争防止法違反も検討されることになります)。

3 対応のポイント

業務上横領や窃盗が疑われる場合は、まず、パソコンの記録や、通帳、取引記録、保管記録、請求書、領収書、小口現金、伝票、帳簿等、防犯カメラの記録、金庫や倉庫への入退出記録等の客観的な証拠を徹底して調査することになります。

会社貸与の携帯電話やタブレット端末、パソコンの場合、一定の疑いがあれば、従業員の許可なくパソコン等を調査することも合理性があります。システム関係の担当者や情報セキュリティ関連の会社に依頼して調査をしてもらうこともあります。

調査の間に本人による証拠隠滅の具体的・現実的な危険性がある場合には、自宅待機命令を行い、出社して証拠に触れさせないようにする必要があります。

客観的な証拠を十分に収集・確認できた段階で、本人や共犯者へのヒアリング・事情聴取を行います。客観的な証拠と供述との突き合わせや、矛盾点があればその説明を求めるなどします。

本人が業務上横領や窃盗を認めた場合には、WH質問をして、その行為の具体的内容、金額、経緯などを、できるだけ詳しく、具体的に述べさせた上、顛末書を作成させます。

本人が否認する場合には、他の客観的証拠や、他の従業員の供述等から、慎重に事実認定を行うことになります。

4 会社として避けるべき行動

逆に、客観的な証拠を収集・確認していないうちに本人にヒアリングすること、特に疑いを抱いていることを前提とした取調べのようなものは避ける必要があります。

この時点では、会社に立証資料が揃っておらず、非違行為の具体的内容についても分からない点が多いため、本人は言い逃れをすることが可能であり、その間に証拠隠滅をされてしまうおそれがあるからです。証拠隠滅としては、領収書や会社の保管記録・倉庫への入退出記録の廃棄・消去、関係者とのメールの削除、関係者との口裏合わせといったものが考えられます。一旦、(たとえば物品の移動や金銭の流れを証明するような)重要な証拠が隠滅されてしまえば、責任追及は極めて困難になってしまいます。

したがって、まずは、本人のヒアリング・事情聴取ではなく、客観的な証拠資料の確保、他の従業員へのヒアリング(嫌疑を抱いていることが本人に分からないようにするため、ヒアリング対象者から、ヒアリングされたこと自体及びその内容を秘密に保持する旨の誓約書の取得も検討されてよいと思います)を先行させるべきでしょう。

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5 業務上横領や窃盗が起きた場合にとり得る手段

(1)刑事告訴

客観的証拠が収集できた場合で、被害額が大きいときなどは、刑事告訴の検討が必要な場合があります。

ただし、十分な客観的証拠が準備できていなければ、警察等が受理しない可能性があります。

また、刑事告訴の結果、労働者が逮捕・起訴されれば、報道等により事実が社外に広まる可能性もあります。このようなレピュテーションリスクも踏まえる必要があります。

(2)損害賠償請求・不当利得返還請求

業務上横領・窃盗行為により会社が被った損害の填補のため、労働者に対し、損害賠償請求(民法709条)または不当利得返還請求(民法703条)を行うことが考えられます。

ただし、横領・窃盗にかかる物品や金銭を本人が既に費消してしまっているような場合には、賠償能力が十分でないことも想定されます。

(3)懲戒処分

業務上横領や窃盗は、会社の物品等を不正に自己のものとする非違行為であり、これに対して懲戒処分を行うことが可能です。裁判例上も、これらは犯罪行為であり、会社・従業員間の信頼関係を破壊する程度も大きいものであることから、金額の多寡を問わず、懲戒解雇等の重い処分が相当であるとされる傾向にあるといえます。

たとえば、近時の裁判例で、業務上横領に対する(懲戒処分ではありませんが)普通解雇処分の有効性が争われた中央建物事件・大阪地判令5・10・19労ジャ143号28頁があります。これは、総務部における勤務中、上司から、担当業務であった酒類購入によって貯まったポイントを酒類の購入に充てるように指示があったにもかかわらず、私用の美容用品や家電製品等の購入のために費消し、その額が208,006円に及んだという事案です。裁判所は、当該ポイントには現金に類似する通用性・利便性があったと考えられることからすると、業務上委ねられていた現預金を私的に利用することと同等の経済的損害を会社に与え、同等の信頼関係の破壊をもたらすものであり、本件の性質及び経緯、費消額及び用途並びに回数及び期間に照らすと、普通解雇には客観的合理的理由があり、社会的相当性を欠くということもできず、有効であると判断しています。

また、窃盗に対する懲戒解雇処分を有効と判断したものとして、坂口事件・東京地判令4・12・7労ジャ135号62頁があります。これは、酒類等の配送業務に従事していた従業員が、会社の倉庫から商品(ウイスキー)を権限なく持ち出したという事案についてのものです。裁判所は、持出行為は刑事罰に該当する行為である上に、反復継続して行われており、持出行為が発覚していなければ今後も継続して行われた可能性があること等からすると、従業員が自認していること、被害額が18,700円と多額とはいえないこと、被害弁償が完了していることを考慮しても、会社が懲戒解雇を選択したことは相当であるとしています。

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6 業務上横領や窃盗を未然に防ぐ方法

業務上横領・窃盗が起こる背景には、経理担当の従業員に金銭や通帳、帳簿の管理などを任せきりにし、長年チェックされていないという体制であることがあります。長年同じ体制のため、金額が膨れ上がってしまったというケースもあります。

また、会社の金銭・商品等の管理体制(入退室のチェック、金銭の金額や商品の個数の頻繁なチェック、権限ない者のアクセス禁止)が不備であるか、ルーズになっていたというケースも多いものと思われます。

そこで、担当責任者を選定し、定期的・頻繁にチェックさせる、担当者も複数として、相互チェックできる形をとる、監視カメラやアクセス記録といった客観的・機械的記録装置を整備するといった措置を講じ、そもそも不正や犯罪が起きにくい体制を作る、もし不審な点があれば早期に発見できる体制を作るということが重要となります。

7 当事務所がサポートできること

当事務所では、労働問題に精通した弁護士が多数在籍しており、業務上横領・窃盗が起きたときの事実関係の調査や、従業員に対する懲戒処分、金銭等の回収、刑事告訴の可否や留意点等についてアドバイスやサポートを行うことができます。

初期の段階から対応を誤ることなく事案に取り組み、適正な解決を導くために、まだ疑いがあるという段階であったとしても、早期にご相談いただければと思います。

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Last Updated on 2025年3月4日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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