横領を行う社員への対応方法について弁護士が解説

横領を行う社員への対応方法について弁護士が解説

文責:福井 大地

当社の経理責任の従業員が、会社の口座から自身の口座に送金し、会社の資金を着服していたことが判明しました。会社としては、当該従業員に対し、どのように対応すればよいでしょうか。

1 横領とは?窃盗との違いについて

「横領」とは、刑法上の定義によると、他人の物の占有者が委託の趣旨に反して権限がないのに所持者でなければできないような処分をすることをいいます。

例えば、職務上金銭を管理する地位にある者(経理担当者など)が、会社の金銭を着服していたような場合には、業務上横領罪が成立します。

他方、職務上金銭を管理する地位にない者については、会社の金銭について占有を有しないことから、それを着服した場合には横領罪ではなく、窃盗罪が成立します。

また、領収書を改ざんすることにより、経費の水増精算をし、金銭を得たような場合には、経費であるかのように会社を欺いていることから、詐欺罪が成立します。

これらどの類型においても、会社に直接の経済的損失を与える行為であって、会社としては厳正に対処する必要があります。

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2 業務上横領を行った従業員への対処法とは?-懲戒解雇にできる?-

⑴ 懲戒処分について

業務上の横領を行った従業員に対しては、懲戒処分を行うことが考えられます。

懲戒処分を行うには、横領行為が

①就業規則に定められた懲戒事由に該当すること

②懲戒権の濫用(労働契約法16条)に当たらないこと

が必要です。

① 就業規則に定められた懲戒事由に該当すること

まず、横領行為について、就業規則に定められた懲戒事由に該当することが必要です。

この点、「横領を行ったとき」といった直接的に規定された事由もあり得ますが、そうでなくとも、「故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき」といった事由に該当し得るでしょう。

また、明確な事由が規定されていなくとも、「前各号に準ずる行為があったとき」といった包括条項に該当する場合が多いと考えられます。

ゆえに、①については、問題となる場合はあまり無いと考えられます。

② 懲戒権の濫用(労働契約法16条)に当たらないこと

加えて、懲戒処分を行うには、懲戒権の濫用に当たらない必要があります。すなわち、当該懲戒処分を行うことに客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる必要があります。

具体的には、懲戒処分の重さが、横領行為の非違行為としての重大性等と均衡している必要があります。

すなわち、

・金額の大きさ

・回数・期間

・動機の悪質さ

・当該従業員の地位・業務

・被害弁償の有無

といった事情に照らし、懲戒処分の有無・種類を検討することとなります。

横領は、会社に直接の損害を加える重大な非違行為であることから、多くの場合、懲戒解雇を含む重大な処分が検討されます。

⑵ 民事上の損害賠償請求について

従業員が横領した場合、会社に対する不法行為が成立します。したがって、会社は、横領された金額について、民事上、損害賠償請求をすることができます。

もっとも、横領の発覚時においては、既に金銭が費消されている場合が想定されます。

このような場合の対応方法として、

①身元保証人に支払いを請求すること

②給与から天引きすること

が考えられます。

① 身元保証人に支払いを請求すること

身元保証については、従業員が会社に与えた損害を身元保証人が保証すること等を内容とするものですが、その期間および範囲に限度があることに注意する必要があります。

すなわち、身元保証期間は、原則として、成立日より3年間であり、期間を定める場合には最長5年とされています(身元保証法1条・2条)。期間満了後に自動更新はされないことから、当該期間が満了した後は、新たに身元保証契約を締結しなければ、身元保証の効力は消滅します。

また、身元書証には、賠償の極度額を定めることが求められており、極度額の定めのない身元保証契約は無効です。

横領による損害についても、このような期間・範囲内で、身元保証人に賠償を求め得ることに注意する必要があります。

② 給与から天引きすること

給与からの天引きについては、労働基準法上、賃金全額払原則(使用者は労働者に賃金の全額を支払わなければならないという原則)があることから、原則として禁止されています。

もっとも、例外的に、給与からの天引きについて、労働者自身の同意がある場合には、許容されます。

ただし、その同意については、単なる形式的なものでは足りません。すなわち、その同意が労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときでなければならないとされています。そして、同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行わなければならないものとされています。

横領等による損害について給与から天引きにする場合には、

・横領等による損害額、天引き前の給与の金額、天引き額や天引きを行う必要性等に関する十分な説明

・分割払いや賞与・退職金からの天引き等生活に打撃を与えない配慮

・天引きについての合意書の作成

など慎重を期すべきでしょう。

⑶ 刑事上の告訴について

告訴とは、警察官や検察官に犯罪事実を申告し、犯罪者の処罰を求める意思表示をいいます。

業務上横領罪も重大な犯罪であることから、被害者たる会社としては、告訴を行い、刑事罰を求めることが考えられます。

告訴をすることにより、以下のようなメリットが想定されます。

・ 社内での再発防止

従業員が横領等を行い、金銭を収受していたにもかかわらず、これを会社が厳しく対処しないとなると、他の従業員の勤労意欲を弱め、横領等に限らず不正行為への意識に悪影響を及ぼし得るでしょう。対して、告訴を行い、厳正に対処することより、従業員に対し、不正を許さない組織風土を示し、不正行為の予防に資すると考えられます。

・ 被害弁償の促進

一般に、横領等に関する刑事裁判での量刑における情状として、被害弁償の有無は一要素となります。ゆえに、横領等を行った従業員としては、刑を軽くするために、どうにかして被害弁償に努めるインセンティブがあります。

他方で、告訴をすることにより、以下のようなデメリットも想定されます。

・ レピュテーションリスク

告訴に基づき、検察官が起訴し、公判が開かれると、公開の判廷で審理がなされることとなります。その結果、当該従業員の横領等の内容のみならず、会社の経理の適性を確保するための管理・監督体制等について公になります。特に、会社の杜撰な管理体制が原因となっているような場合には、当該従業員のみならず、会社への社会的信用も害され得、投資判断等にも影響を及ぼす可能性は否めません。この場合、横領等についての調査内容や再発防止策について適時開示を行い、信頼回復に努める必要があるでしょう。

・ 捜査への協力に伴う負担

告訴が受理された後、捜査機関による独自の捜査が行われることになります。捜査の中では、会社の内部的な領域にも立ち入り、関係者への事情聴取や資料の提出等対応も要することとなり、業務運営それ自体に影響を及ぼすことが予想されます。

会社としては、上記のようなメリット・デメリットも考慮した上、告訴を行うか検討する必要があります。

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3 横領を行った社員への対処法-事実の調査・専門家の活用-

⑴ 事実の調査・確認

会社としていずれの対応を行うにせよ、事前に当該横領等の事実について、調査・確認をし、その存在の証憑を確保しておく必要があります。

調査においては、証拠隠滅のおそれ(領収書や帳簿等の偽造・廃棄や、関係者とのメールの削除、関係者との口裏合わせ等)に常に注意する必要があるでしょう。

そのため、まずは、本人に事情を聴取するではなく、客観的な資料を確保し、また他の従業員への事情聴取を先行させるべきでしょう。調査方法として、興信所を利用することも考えられます。

本人が横領等の行為について認めている場合には、横領等の内容、金額、経緯など詳細について顛末書を作成させるべきです。

本人が横領等の行為について認めていない場合には、他の客観的な資料や、他の従業員の供述などに照らし、慎重に事実認定を行う必要があります。

⑵ 弁護士など外部専門家の利用

通常、社内で上記のような調査を行うのは人事部が多いと思われます。

ただ、事案が複雑で専門的な知見を要する等の場合には、調査チームに弁護士など外部の専門家も加えた上、調査を行うことも推奨されます。

また、役員など社内で重要な地位を有する者の関与が疑われるような場合や、多額の横領が疑われる場合などには、特に調査の公正・客観性を要することから、外部委員会や第三者委員会を設置することが推奨されます。

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4 問題社員対応について当事務所でサポートできること

上記のとおり、横領については、調査⇒事実認定⇒懲戒処分等の対応の各過程で慎重な判断が要求される上、誤った対応をした場合の影響は当該横領による損失に留まりません。また、横領が生じた場合には、当該横領への対応を検討するとともに、再発防止策も検討する必要があります。

労働問題を専門とする当事務所は、横領を含め従業員の不正行為への対応について、企業から多くの相談を受けてきた実績があります。また、従業員の不正行為について外部調査委員会の調査に携わった経験もあります。

従業員が横領など不正行為を行った疑いのある企業の方は、当事務所に一度お気軽にご相談ください。

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Last Updated on 2024年7月2日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。