従業員を解雇する際の注意点について!弁護士が解説-普通解雇・懲戒解雇について-

従業員を解雇する際の注意点について弁護士が解説

文責:岩野 高明

解雇が無効とされた場合に使用者が受けるダメージ

解雇とは、従業員との間の雇用契約を使用者が一方的に終了させることです。我が国の労働法制の下では、従業員の解雇は客観的に合理的な理由がない限り無効とされてしまいます。客観的に合理的な理由というのは、例えば、従業員の能力不足が極めて著しいとか、勤務態度が極めて不良であるとか、あるいは会社の経営状況が非常に悪化して倒産のおそれが生じているとかいった事情です。そのような重大な事情がないにもかかわらず、安易な考えで従業員を解雇してしまうと、後で被解雇者に解雇無効の裁判を起こされることがあります。こうなると、使用者は一転して大きな危機に陥ります。

仮に被解雇者から訴訟を提起された場合には、一審判決が出るまで1年半程度はかかります。判決で解雇が有効と判断されれば問題はないのですが、解雇が無効と判断された場合には、使用者は被解雇者に対し、解雇日以降の全期間の給与を一時に支払う必要が生じるうえ(バックペイ)、被解雇者が職場に復帰すると主張すれば、これを拒むことができません。解雇の無効によって使用者が受けるダメージは計り知れません。

このため、どのような事情があれば解雇が許されるのか、解雇のリスクがどの程度なのかを見極めることが非常に肝心です。

解雇の種類-普通解雇と懲戒解雇とは?-

解雇は、普通解雇と懲戒解雇に分類されます。このうち、懲戒解雇は非違行為を理由に懲罰する趣旨の解雇です。最大の懲罰ですので、処罰の対象となる非違行為も、非常に悪質なものである必要があります。諭旨解雇というのもありますが、これは、懲戒解雇に準じる懲戒処分ですので、やはり懲戒解雇に準じるような重大な懲戒事由が必要です。

なお、懲戒処分としての解雇(懲戒解雇・諭旨解雇)は、就業規則に根拠規定がなければできませんし、就業規則を定めていなければ、もとより懲戒処分をすることはできません。就業規則を定めていない小規模な企業においては、将来の懲戒処分に備えて、まずは就業規則を作成しておく必要があります。

以上に対し、普通解雇は、懲戒解雇(及び諭旨解雇)以外のすべての解雇を包含しますので、解雇の事由も多岐にわたります。従業員の能力不足、勤務態度不良、健康状態の不良などのほか、会社の業績の悪化なども含まれます(整理解雇)。

また、非違行為を理由として(懲戒解雇ではなく)普通解雇をすることも可能です。一般論として、裁判では懲戒解雇は普通解雇以上に厳格に審査されますので、「懲戒解雇としては無効だが、普通解雇としては有効」と判断されることもたまにあります。実際、非違行為を理由に従業員を解雇する場合には、懲戒解雇に加え、「予備的に」普通解雇をしておくべき場合があります。

以下は、普通解雇について解説してきます。

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解雇権濫用法理と普通解雇理由の4つの類型

普通解雇をするためには、「客観的に合理的な理由」が必要とされており、これがない場合には、解雇は無効とされます(労働契約法第16条)。解雇権濫用法理と呼ばれるものです。

労働契約法

第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

この「客観的に合理的な理由」は、次の4つに分類できるといわれています。

①労働能力の不足や労務提供の不能、勤務成績の不良など

②職場の規律違反や勤務態度の不良

③会社の経営の悪化や人員整理の必要性

④ユニオンショップ協定に基づく組合の解雇要求

①については、試用期間終了時の解雇(本採用拒否)や、即戦力として中途採用した労働者の期待外れ解雇、私傷病による労務提供の不能(不足)を理由とする解雇などが、よく問題となります。

②については、業務命令違反(指示した作業を拒否するなど)を理由とする解雇や、横領等の不正行為を理由とする解雇、飲酒運転等の私生活上の非違行為を理由とする解雇などについて、相談を受けることが多いです。これら②の解雇理由は、懲戒解雇の理由とも重なりますので、上記のとおり、懲戒解雇と併せて通知されることもあります。

③は、いわゆる整理解雇です。整理解雇の4要素と呼ばれる事柄について、入念な検討が必要になります。

④は、労働組合との間で締結した協定に基づき、組合を脱退した労働者を解雇するという特殊な解雇です。

①及び②の解雇は、労働者側の事情によるものであり、③は使用者側の事情によるものです。1人の労働者が複数の類型に該当することもあり得ますので、①~③の解雇理由を複合的に適用して解雇することもあります。

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普通解雇に必要な合理的理由の程度

上記のうち①、②、③のいずれの場合でも、解雇は様々な回避策を講じたうえでの最終手段でなければなりません。①については業務に関する教育や指導、もしくは療養に専念するための配慮を、②については指導や注意、懲戒処分を、③については配置転換など可能な限りの解雇回避の努力を、それぞれ尽くしたうえでなければ解雇を決断すべきではありません。それぞれの類型について、解雇が有効とされた裁判例、無効とされた裁判例の膨大な蓄積があるので、これらの裁判所の判断を踏まえて、解雇の是非を決断すべきです。

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解雇をするための手続(解雇の予告)

普通解雇をする場合には、少なくとも30日前に解雇の予告をするか、もしくは、即時に解雇する場合には、少なくとも30日分以上の平均賃金を被解雇者に支払わなければなりません(解雇予告手当 / 労働基準法第20条1項本文)。この解雇までの予告日数は、1日分の平均賃金を支払うごとに1日ずつ短縮することができます(同条2項)。

ただし、懲戒解雇など労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合には、解雇予告手当を支払うことなく即時の解雇が可能です(同条1項ただし書き)。もっとも、この場合には、労働基準監督署の認定(解雇予告除外事由の認定)を受けなければならないとされています(同条3項・第19条2項)。

労働基準法

第20条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

第19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

ところで、30日前の解雇予告をせず、かつ解雇予告手当の支払もせずに解雇を通知してしまった場合には、当該解雇は有効でしょうか。この点について、最高裁(細谷服装事件・最二小判昭和35年3月11日・民集14巻3号403頁)は、上記の場合には、解雇の通知は即時解雇としては効力を発揮しないけれども、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後30日の期間を経過すればその時点で、または、30日経過前に解雇予告手当の支払をしたときはその時点で、解雇の効力が生じるとしました。

では、使用者が、労働者の責めに帰すべき事由に基づく解雇であると考えたものの、解雇予告除外事由の認定を受けることなく、かつ解雇予告もせずに、即時に解雇してしまった場合はどうでしょうか。この点について、裁判所(上野労基署長〔出雲商会〕事件・東京地判平成14年1月31日・労判825号88頁)は、解雇の効力は、もっぱら労働基準法20条1項ただし書きの定める客観的な解雇予告除外事由(労働者の責めに帰すべき事由)の存否によって決せられると判示しています。労働基準監督署の認定がなくても、客観的な解雇予告除外事由があれば、解雇予告を省いた即時解雇は有効ということになります。これに対し、客観的な解雇予告除外事由がないと判断された場合には、解雇予告を欠く解雇ということになりますので、上記の最高裁判決に従い、通知後30日の期間が経過すれば解雇の効力が発生しうることになりますが、多くの場合、客観的な解雇予告除外事由(労働者の責めに帰すべき事由)がないのであれば、当該解雇については、客観的に合理的な理由(労働契約法第16条)もないことになりそうですので、結局は、解雇は無効と判断されてしまうでしょう。

なお、解雇予告手当の不払は、付加金の対象になるうえ(労働基準法第114条)、罰則の適用もあるので(同法第119条1号)、注意が必要です。

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従業員の解雇について当事務所でサポートできること

解雇の可否の判断は、簡単ではない場合が大半です。被解雇者が裁判での勝算を見出せば、紛争リスクは格段に高まります。裁判になれば、裁判官の個性によっても結果が異なることから、見通しは非常に不透明になってきます。まずは、被解雇者の訴えを提起する意欲を失わせることが肝要です。

当事務所は、従業員を解雇するまでの間に、使用者が可能な限り有利なポジションを確保できるよう長期的で効果的なサポートをいたします。解雇までの手順を誤らずに、十分な準備をすることができれば、かなりの割合で紛争化を避けることが可能です。

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問題社員対応

Last Updated on 2024年8月8日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。