文責:石居 茜
専門業務・高給の問題社員とは?
専門業務・高給の問題社員とは、特定の資格や能力、英語・パソコンなどの特殊なスキル、高度の管理能力やキャリアを前提として、能力に見合った比較的高額な給与で中途採用した社員について、期待された能力レベルを有していない、能力不足・成績不良の問題社員をいいます。
これら専門業務・高給の問題社員の解雇は、一定の能力を前提として雇用したものの、期待された能力に届かないような場合であるため、能力がほとんどないことを立証できれば、解雇が有効と認められる可能性も高いといえますが、専門業務・高給社員であれば解雇が認められるということではなく、一定の要件を満たしている必要があります。
では、どのような場合に解雇が有効と認められるのでしょうか。
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専門業務・高給社員の能力不足を理由に解雇できる要件
(1)解雇有効例
日本ストレージ・テクノロジー事件(東京地判平成18年3月14日)は、外資系企業が、英語、パソコンのスキル、物流業務の経験を買われて中途採用された従業員(月給約39万円)を、業務遂行能力が著しく低く勤務態度不良として、入社後約3年で解雇したことについて、解雇有効と判断された事案です。以下のように、従業員が上司の指導・注意に従わず、協調性が欠如していたことも解雇有効の要因となっていると思われます。
この事案では、従業員は、業務上のミスを繰り返し他部門や顧客から苦情が相次ぎましたが、上司の注意に従わず、報告義務を果たさず、顧客に不誠実な対応を取ったため苦情が相次ぎ、再三改善を求めたが改善されませんでした。
また、担当業務の習熟が遅く、業務処理速度の向上を促されていました。
従業員は、上司の指示に従わないとして譴責処分を受け、データ入力業務担当とされましたが、その後も、上司が指示したミーティングへの出席を拒否し、再三の指導・注意にかかわらず、自己の態度を反省して改善することがなかったことから、解雇有効と判断されました。
次に、日水コン事件(東京地判平成15年12月22日)は、豊富な経験と高度な技術・能力を有することを前提にSEの即戦力として中途採用された従業員(月給51万円)を能力不足と勤務不良を理由に、入社後10年目で解雇したことについて、解雇有効とされた事案です。
労働者は、単に技術・能力・適格性が期待されたレベルに達しないというのではなく、著しく劣っていて、その職務の遂行に支障を生じており、それは簡単に矯正することができない持続性を有する従業員の性向に起因しているものと認められるとされました(従業員は、上司に反抗的な態度を示したり、同僚と意思疎通できず、自分の能力不足による業績不振を他人に責任転嫁していました)。
従業員が会計システム課に在籍した約8年間に通常であれば6か月程度で完了する作業を完成させたこと等、実績や成績が著しく劣っているといわざるを得ないとされ、会社の指導教育によって改善の余地がないとして解雇は有効と判断されました。
(2)解雇無効例
専門業務・高給社員であっても、解雇が無効と判断された裁判例もあります。
ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京地判平成24年10月5日)では、米国金融情報通信社が、入社5年目の中途採用の記者(月給67万円)に対し、PIP(業績改善プラン)を3回実施し、解雇を警告し、退職勧奨と自宅待機を命じた後に行われた、勤務能力ないし適格性の低下を理由とする解雇が無効とされました。
従業員の採用選考や試用期間中に、格別の審査・指導等がなされていないこと、従業員への指示・指導の内容から、社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められる職務能力と異なる能力が求められていたとは認められないとされました。
会社が、具体的改善矯正策を講じていたとは認められず、PIPで達成された目標に対する達成度合いからすれば、記者が指示に従って改善を指向する態度を示していたと評価し得るとされ、解雇は無効と判断されました。
次に、クレディ・スイス証券事件(東京地判平成24年1月23日)では、複数の証券会社勤務を経て入社した営業部の日本株担当の男性(基本給2000万円以上)の入社6年目の解雇が無効と判断されました。
解雇される1年前に、重要顧客の会社に対する評価を5位以内とすることが営業担当の必達目標として設定され、第1四半期の原告が担当する4つの重要顧客のうち2つが6位であったことから、従業員に対し、警告書、その2か月後に最終警告書を交付し、その面談で、事実上退職勧奨され、アクセスカードも回収されて、従業員はその後出勤していないという事案でした。双方代理人を通じて復職の交渉をしましたが合意に至らず、会社は、従業員が職場復帰命令を拒否しているとして、その後3か月の休職を命じ(その後3か月延長し、6カ月)、解雇しました。
解雇理由の勤務成績不良については、警告書の交付時点で第2四半期の評価期間が50日程度残っていることに照らすと、4社のうち1社の四半期の会社に対する評価が低いことを解雇理由とすることは、改善可能性に関する将来的予測を的確に考慮した解雇理由であるということができず、合理性を欠くとされました。
従業員の収益貢献度は相当程度低いとされましたが、本来収益貢献度の多寡は翌年の年俸に反映されるもので、年度の途中で解雇理由とするのは極端に低い場合に限られるなどと指摘されました。
従業員が、外資系企業において高い能力が期待されてしかるべきいわゆる中途採用の高額所得者であることを前提としてもなお、解雇は客観的合理性を欠くというべきとされました。
(3)専門業務・高給社員の解雇のポイント
専門業務・高給社員の解雇のポイントは、次の通りです。
- 管理職、技術者、営業社員などが、高度の技術・能力を評価、期待されて特定の業務のための即戦力として、高額な給与で中途採用されたが、期待した技術・能力がほとんどなかったような事案では、解雇有効と認められやすい。
- 労働契約時にどのような水準の能力を求めるのか、具体的に労働契約で定めておく必要がある。
- 解雇の理由が抽象的であったり、合理性がなかったり、あるいは、解雇に至るまでの会社の対応が筋が通っておらず、従業員だけが悪いわけではないと判断されると、解雇無効の判断に傾きやすい。
- 改善指導の余地があるのに、退職勧奨を始め、退職ありきの対応であると、解雇が無効と判断されやすい(退職勧奨がパワハラとされる)。
- 周りとトラブルを起こす従業員、上司に反発する従業員、業務命令に従わない従業員に対し、会社が辛抱強く改善指導をしているのに改善しないと、従業員に非があると認められやすい
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専門業務・高給の問題社員への対応方法について
(1)対応方法のポイント
能力不足・成績不良の問題社員は、放置せず、業務改善指導を繰り返し、記録を残していくことが重要です。
記録(証拠)を残すことで、裁判の際に、問題社員であることや、会社が再三にわたり、業務改善指導したことの立証が可能となります。
(2)業務改善指導の方法・記録の残し方
ポイントは以下のとおりです。
- 本人ができていない点、改善すべき点(能力不足・勤務成績不良)を具体的に示す。会社が求めるレベルや行動を具体的に示し、そのギャップを改善するよう指導する
- 書面で、定期的に記録を残し、時系列、5W1Hで記録を残す
- 第三者が読んで問題点がわかるように記載する。業務内容など前提については、なるべく簡潔に、わかりやすく表現する(図表や証拠などを使ってもよい)。
- 一定期間を区切って指導、記録し、期間経過後にフィードバックすることを繰り返す
- 協調性欠如・上司への反発・業務命令違反は、書面やメールで反発の証拠を残す 録音なども有効
- 本人に書面を渡す、メールを送るなど伝えた証拠を残す(裁判では、何度も、本人にできていないことを具体的に伝え、改善を促したことを立証する必要がある)
専門業務・高給の問題社員を辞めさせる際のポイントと注意点
解雇は裁判所の判断が二者択一であり、無効となったときのリスクが高いので、業務改善指導を繰り返しても改善しない問題社員に対しては、退職勧奨のステップを踏むことが必要となります。
退職勧奨とは、会社から従業員に対する「強制を伴わない退職の働きかけ」をいいます。
退職勧奨な手段や方法が適切でない場合、違法な退職勧奨であるとして、
①雇用契約終了が無効となって、契約が存続していると判断される
②損害賠償請求が認められる
といった、リスクがあります。
退職勧奨についても、部署のみの判断では行わず、人事総務部や弁護士と緊密に連携して、慎重に対応を進める必要があります。
問題社員対応について当事務所でサポートできること
当事務所では、労働問題に精通した弁護士が多数在籍しておりますので、問題社員対応に関するご相談、業務改善指導や記録の残し方のご相談やサポート、管理職向けの指導対応の研修、マニュアル作成などのご依頼を受け、行うことが可能です。
また、退職勧奨のご相談、指導、マニュアル・書面の作成やサポートを行うことも可能です。
問題社員対応は、将来、解雇となったときの裁判を意識して具体的な業務改善指導を繰り返しているか、従業員に指導した記録を残しているかが重要となりますので、解雇してからではなく、問題社員の初期対応から、当事務所のような労働問題に精通した弁護士に相談し、連携して対応をすることをお勧めいたします。
顧問契約でもよいですし、顧問契約でなくても、案件ごとのスポット対応のご提案も可能です。
当事務所では、交渉や裁判等の案件の代理人となるだけでなく、人事部等と常に連携し、助言しながら、問題社員に対する業務改善指導、記録、退職勧奨をサポートしますので、裁判に至らず、退職するケースも多くあります。
顧問契約や、スポット案件サポートパックなどによる随時の連携、助言や、代理人としての紛争解決、研修、マニュアルや書面の作成など、多方面からサポートが可能ですので、問題社員対応に不安がある企業は、当事務所にご相談ください。
Last Updated on 2024年2月7日 by loi_wp_admin