文責:石居 茜
能力不足・成績不良の問題社員とは、企業が求めている勤務成績や成果を上げることができない問題社員をいいます。
能力不足・成績不良の問題社員の解雇は、どのような場合に認められるのでしょうか。
能力不足を理由に解雇できる要件
解雇無効例
裁判例においては、長期雇用システム下で長期にわたり勤続してきた正社員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、労働者の不利益、長期間の勤務継続の実績に照らし、それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ、または重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、かつ、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず改善の見込みがないこと、会社の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して解雇の有効性を判断すべきとしています(エース損害保険事件・東京地判平成13年8月10日)。
この事案は、勤続20年以上の正社員が2名解雇された事案ですが、解雇事由がさして重大なものではない上に、会社の人員削減や統廃合の計画の中で実施した希望退職の募集後、リストラの一環として行われた配置転換により、本人の希望も考慮されずに地方支店に初めて配転され、支店長から繰り返し些細な出来事で侮辱的に非難され、退職を強要され、恐怖感から落ち着いて仕事ができる状況ではなかったとされました。その後、任意に退職しなければ解雇するとして退職を迫りつつ長期間の自宅待機を命じており、労働者に宥恕すべき事情が存在するとして、解雇を無効と判断しました。
次に、大学院卒正社員が入社から8年後に解雇された事案で(給与月額26万円)、人事考課が、労働者の中で下位10%未満であることを理由に退職勧告をし、これに応じなかったことから特定業務のないパソナルーム勤務を命じ、退職勧告に応じないため、能力不足として解雇したことについて、解雇無効とされた事案があります(セガ・エンタープライゼス事件・東京地決平成11年10月15日)。
この事案では、能力不足による解雇も、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないとされ、会社の評価は客観的ではあるが、人事考課は、相対評価であり、絶対評価ではないことから、直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとはいえないとされました。
そして、会社としては、労働者に対し、さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあったがこれを怠ったとされました。
解雇有効例
能力不足・成績不良の社員の解雇を有効と判断した例もあります(H社事件・東京地判平成22年4月9日)。
医療機器販売会社の営業社員が(月給25万円)、顧客の手術立会い中にあくびをしたり手術室のドアを開閉させる行為を繰り返し、顧客病院から出入り禁止とされました。複数の病院からクレームがあり、営業同行を外したが、顧客を交えての会議で居眠りを繰り返して退席を命じられたり、連絡なく遅刻し大騒ぎになったが反省せず、レポートの提出を滞らせ、製品知識のテストも赤点であったので、営業職から外されました。
その後、人事室で電話・訪問者の受付業務、郵送関係を担当させましたが、伝言内容の聴き取りを間違えたり、電話を伝えないなどし、郵送物も間違った送付物を封入するなど定型業務も任せられませんでした。
その後、倉庫勤務へ配置転換させましたが、再三の指導にもかかわらず、出勤簿を期間内に提出せず、倉庫勤務とその後の自宅待機中に再就職支援サービスの利用や転職活動を勧めるなど、8か月間転職の準備期間として便宜を図っていたこと等も考慮し、解雇有効と判断されました。
次に、NECソリューションイノベータ事件(東京地判平成29年2月22日) では、以下の事案で、解雇有効と判断されました。
約37年間正社員として雇用された従業員(月給約21万円)の事案で、当初はシステム事業部に配属されましたが、入社8年目頃から間接部門(バックオフィス)に配属されていました。会社では職能資格制度を採用していましたが、入社16年目においても3級職(入社5年目相当)にとどまり、その後、最終的に1級職(入社1、2年目相当)に降格されました。その従業員にシステム開発を命じたこともありましたが、最初の工程を終えることもできませんでした。
その後、ドキュメントセンターへ配属、下請会社に在籍出向させましたが、その従業員は、ちょっと複雑になるとコピーも満足にできずミスが発生し任せられない、パソコンの基本的な用語も理解できない、思い込みで作業をする、コミュニケーションがとれない、チェックで2倍の作業時間がかかるなどの苦情で出向先から出向解除の要請を受け、会社に戻さざるを得なくなりました。
その後、他社への在籍出向を命じましたが、その従業員は拒否し、何度か説得したが応じなかったことから解雇となりました。
裁判所は、従業員の勤務成績の著しい不良は長年にわたるものであり、その程度は深刻であり、もはや改善・向上の余地がないと評価されてもやむを得ないと判断しました。
会社は、従業員に対し、人事考課、賞与考課のフィードバック等を通じて注意喚起を続け、在籍出向を命じるなどして解雇を回避すべく対応しているとされ、解雇は有効と判断されました。
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能力不足・成績不良社員の解雇のポイント
能力不足・成績不良社員の解雇のポイントは、次の通りです。
- 長期雇用を前提として勤務している中で、単に能力不足、成績不良、勤務態度不良、適格性欠如というだけでなく、その程度が重大であり、注意・指導し、改善の機会を何度も与えているにもかかわらず改善しないなど、解雇以前に会社が相当な労力をもって注意・指導等しているけれども改善しないといえる状況でないと解雇有効とは認められない傾向にある
- 解雇の前に、解雇回避の努力として、配転、業務変更、降格、懲戒処分などの実施を問われることが多い(特に他部署がある会社)。ほかに取りうる方法がなく、解雇は最後の手段であったことを示すことが重要
- 最初の業務改善指導、警告書からさほど改善の時間を与えずに拙速に解雇すると、教育・改善指導の余地があったのに怠ったとされやすい
- 単に能力不足、成績不良だけでは解雇有効とすることは難しく、協調性欠如、業務命令違反、上司への反発、トラブル頻発、反省を示して態度を改めないなどの要素があると解雇有効に判断が傾きやすい
能力不足・成績不良の問題社員への対応方法について
(1)対応方法のポイント
能力不足・成績不良の問題社員は、放置せず、業務改善指導を繰り返し、記録を残していくことが重要です。
記録(証拠)を残すことで、裁判の際に、問題社員であることや、会社が再三にわたり、業務改善指導したことの立証が可能となります。
(2)業務改善指導の方法・記録の残し方
ポイントは以下のとおりです。
- 本人ができていない点、改善すべき点(能力不足・勤務成績不良)を具体的に示す。会社が求めるレベルや行動を具体的に示し、そのギャップを改善するよう指導する
- 書面で、定期的に記録を残し、時系列、5W1Hで記録を残す
- 第三者が読んで問題点がわかるように記載する。業務内容など前提については、なるべく簡潔に、わかりやすく表現する(図表や証拠などを使ってもよい)。
- 一定期間を区切って指導、記録し、期間経過後にフィードバックすることを繰り返す
- 本人に書面を渡す、メールを送るなど伝えた証拠を残す(裁判では、何度も、本人にできていないことを具体的に伝え、改善を促したことを立証する必要がある)
能力不足・成績不良の問題社員を辞めさせる際のポイントと注意点
解雇は裁判所の判断が二者択一であり、無効となったときのリスクが高いので、業務改善指導を繰り返しても改善しない問題社員に対しては、退職勧奨のステップを踏むことが必要となります。
退職勧奨とは、会社から従業員に対する「強制を伴わない退職の働きかけ」をいいます。
退職勧奨な手段や方法が適切でない場合、違法な退職勧奨であるとして、
①雇用契約終了が無効となって、契約が存続していると判断される
②損害賠償請求が認められる
といった、リスクがあります。
退職勧奨についても、部署のみの判断では行わず、人事総務部や弁護士と緊密に連携して、慎重に対応を進める必要があります。
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問題社員対応について当事務所でサポートできること
当事務所では、労働問題に精通した弁護士が多数在籍しておりますので、問題社員対応に関するご相談、業務改善指導や記録の残し方のご相談やサポート、管理職向けの指導対応の研修、マニュアル作成などのご依頼を受け、行うことが可能です。
また、退職勧奨のご相談、指導、マニュアル・書面の作成やサポートを行うことも可能です。
問題社員対応は、将来、解雇となったときの裁判を意識して具体的な業務改善指導を繰り返しているか、従業員に指導した記録を残しているかが重要となりますので、解雇してからではなく、問題社員の初期対応から、当事務所のような労働問題に精通した弁護士に相談し、連携して対応をすることをお勧めいたします。
顧問契約でもよいですし、顧問契約でなくても、案件ごとのスポット対応のご提案も可能です。
当事務所では、交渉や裁判等の案件の代理人となるだけでなく、人事部等と常に連携し、助言しながら、問題社員に対する業務改善指導、記録、退職勧奨をサポートしますので、裁判に至らず、退職するケースも多くあります。
顧問契約や、スポット案件サポートパックなどによる随時の連携、助言や、代理人としての紛争解決、研修、マニュアルや書面の作成など、多方面からサポートが可能ですので、問題社員対応に不安がある企業は、当事務所にご相談ください。
Last Updated on 2024年2月7日 by loi_wp_admin