
文責:岩野 高明
勤務態度が不良な問題社員と一口に言っても、自身の問題点を自覚している場合と、そうでない場合とがあります。前者の場合には、会社が当該社員とよく話し合い、問題点や改善策について共通認識を持つことによって、良い方向へと進んでいくこともあるようですが、後者の場合には、経験上そのようなことも多くないように感じます。本稿では、退職勧奨や解雇を見据えつつ、このような社員に対する改善策や弁護士に相談すべきタイミングについてみていきます。
対処が難しい勤務態度が不良な問題社員の類型
対処が難しい問題社員の類型としては、以下のようなものが挙げられます。
①自己中心型・協調性欠如型
・面倒な作業は自分でしようとせず、周囲にやらせる、やってもらうという姿勢が強い。
・「これは私の仕事ではない」、「私の仕事の範囲はここまで」と線を引く傾向があり、自分に割り振られたはずの仕事もいつの間にか同僚や後輩の仕事になっている。仕方なく上司が代わりに対処することもある。
・結果として楽をしているので、職員間の不公平感が高まってしまう。
・自己中心的という評価が固定してしまい、職場でも孤立していることが多いが、当人は意に介さない。
・自身に対する批判には過敏に反発し、非を認めない。
②独善型
・実際の能力に対して自信過剰であり、周囲が無能であると考える傾向がある。
・作業の方針や進め方等に関して自分のやり方が最善であると確信しているので、上司の指示に従わず、周囲とも頻繁に衝突してしまう。
・「上司では話が通じない」という考えの下、幹部や経営層に対して直接メールを送信してしまうことも。
・被害意識が強く、自分に対する叱責や非難はパワハラと受け止める。
・会社のほうでも「戦力にならない」と匙を投げてしまい、仕事を与えずに放置してしまっていることが少なくない。一方、当人は給与の支給を受けつつ仕事を与えられない状況を心地よく感じている。
③対決型
・勤務態度の不良等について会社から責任追及されるのを回避するため、反撃に転じる。
・会社との関係修復はもはや困難な段階に達しており、合法的な手段を用いて会社に損害を加えることを考えている。
・会社の法令違反等の弱点を探索し、これを公表したり、会社との交渉の材料にしようとしたりする。
・合同労組(個人で加入できる社外の労働組合)に加入し、街宣活動やインターネットでの動画の配信等を通じて会社に圧力をかけてくる。
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対処が難しい勤務態度が不良な問題社員の類型別の改善策
①自己中心型・協調性欠如型の問題社員の改善策
①の類型の問題社員は、内心では、自分の業務上の負担が周囲よりも軽くなっていることや、本来は自分がなすべき作業を周囲に押し付けてしまっていることを認識している場合が多いように思われます。そうでありながら、当人は自分の行動を正当化するための何らかの理屈を用意していたりもします。
会社としては、指示された作業は自分で遂行しなければならないことや、担当業務の範囲は会社が決定することであって従業員が独断すべきものではないこと、法令で認められている範囲内では残業の指示にも従わなければならないことなど、労働契約に基づく法律関係をよく説明し、納得させる努力をすべきです。理屈の上で不利だという現実を突き付けられれば、はじめは不承不承ながら、徐々に態度が改まっていくこともあります。また、「態度を改めなければ懲戒処分を受ける可能性がある」旨を伝えることが効果的な場合もあります。大変なエネルギーを使いますが、根気強く説得することが重要です。
それでも態度が改まらないようであれば、ハードな対応に切り替えていくしかないでしょう。厳重注意→懲戒処分→解雇という流れです。当然ながら、懲戒処分や解雇をする際には、事実関係を証明することができるか、また、懲戒処分や解雇が問題行動のレベルに照らして相当かを、十分に吟味する必要があります。遅くとも、ハードな対応に切り替える方針を検討する段階で、弁護士に相談するのがよいでしょう。
なお、上記のように根気強く説得を試みたことは、後々に生きてきます。「説得したにもかかわらず態度が改善しなかった」という点は、裁判所が懲戒処分や解雇の効力を判断する際、有利にはたらきます。この観点から、面談時の会話や電子メールのやりとり等の内容は、記録に残しておくべきです。
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②独善型の問題社員の改善策
一方、②の類型の問題社員については、話し合いや説得によって態度が改善することは少ないように感じます。当人は自身の見解が正当だと確信していますので、話し合ってみても共通認識を得ることは難しいでしょう。「見解の違いはあっても、従業員は雇用契約上、会社の指揮命令に従う義務がある」ことを説明したうえで具体的な業務指示を出し、これに従わなかったり、指示とは異なる作業をしたりした場合には、厳重注意や懲戒処分をしていくことになります。最終的には解雇(普通解雇や懲戒解雇)も視野に入ってきますが、これに先立ち退職勧奨を試してもよいでしょう。
もっとも、この類型の問題社員の中には、上司との相性次第では能力を発揮できる場合が稀にあるようです。当人の意見を独善的で独りよがりな考えと決めつける前に、社内でその能力を発揮できる部署や、能力を引き出すことができる上司がないかどうかを、検討してみてもよいかもしれません(そのような配転が可能であればの話ですが)。配転先でも同じような問題が生じるようであれば、会社ではなく当人の側に問題があることが推認されますので、万が一訴訟になった場合でも、配転が奏功しなかったことは、会社側に有利な事情になり得ます。
ところで、上記のような対応をするには(特に上司の方が)多大なエネルギーを要することから、当人に対して具体的な業務指示を出すのではなく、戦力外と判断して何も指示を出さなくなってしまっている事案がしばしば見受けられます。作業を指示することによって、かえって余計な仕事が増えてしまうので、上司としても、それならば何もしてくれないほうがよいと考えてしまうようです。しかしながら、業務指示を出さなければその違反もない以上、懲戒処分を科すことはできません。仕事をせずとも給与を受け取れるという、当人にとって快適な環境が温存されるだけで、何ら根本的な解決には至りません。
②のような確信的な問題社員は、自身が正しいと信じていることから、一般的に、懲戒処分や解雇をした場合に裁判でその効力を争ってくる可能性が高いといえます。問題社員に手を焼いている段階で、弁護士に相談してみるのがよいでしょう。
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③対決型の問題社員への対応策
③の類型の問題社員が出てしまったときは、直ちに弁護士に相談すべきです。最も厄介な類型の問題社員といえます。早急に会社の弱点を克服し、態勢を整えることが肝要です。表現の自由や正当な労働組合活動の範囲、会社がしてはならない不当労働行為など、法律的・専門的な判断が非常に重要になってきます。1時間の相談だけでも、これからやるべきこと、やってはらならないことが、かなりクリアになるはずです。
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Last Updated on 2025年6月9日 by loi_wp_admin