東京都カスハラ防止条例について企業労務に詳しい弁護士が解説

文責:石居 茜

1. カスハラとは

カスハラとは、「カスタマー・ハラスメント」の略称で、顧客や取引先が従業員に対して行う不当な要求や暴言、威圧的な言動を指します。例えば、飲食店での過度なクレームや、コールセンターでの執拗な苦情、サービス業における理不尽な要求などが該当します。これらの行為は、従業員の精神的・肉体的負担を増大させ、職場環境の悪化や離職の原因となるため、企業として適切な対策が求められています。

カスハラは、近年社会問題として注目されるようになり、多くの企業がその対応に苦慮しています。特に、サービス業、小売業、医療・介護業界など、消費者を対象とした顧客対応を伴う業種では、従業員が日常的にカスハラを受けるリスクが高まっています。そのため、企業は事前の対策を講じることが重要です。また、従業員が安心して働ける職場環境を整えることで、企業の生産性向上やブランドイメージの向上にもつながります。

▼関連記事はこちら▼

カスタマーハラスメント対策とは?対応のポイントを弁護士が解説!

2. 東京都カスハラ防止条例

2-1. カスハラ防止条例の具体的な概要

東京都は、カスハラ問題の深刻化を受け、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を制定し、2025年4月1日から施行しました。

この条例は、カスハラに関する用語を定義し、事業者(企業)や顧客、従業員それぞれの責務を明確にし、カスハラの防止と適切な対応を促進することを目的としています。

ガイドラインでは、条例の内容・定義について解説するとともに、カスタマー・ハラスメントの代表的な行為類型、顧客への配慮について記載し、顧客、従業員、企業それぞれの責務、都の責務、施策の推進、企業の取るべき措置等について解説しています。

具体的には、企業に対して以下の責務が定められています。

① カスハラ防止への積極的な取り組み:企業は、カスハラ防止の基本理念に基づき、主体的かつ積極的に対策を講じることが求められます。

ガイドラインでは、企業と従業員との間で雇用関係がない場合(例:派遣労働者、無償ボランティア、インターンシップ生、フランチャイズ加盟店の経営者・従業員など)であっても、その就業者は企業の事業に関連した業務に従事していることから、雇用関係がある従業員等と同様に取り扱うことが必要であるとしています。

② 従業員の安全確保と適切な対応:従業員がカスハラを受けた場合、企業は速やかに安全を確保し、加害者である顧客等に対して行為の中止を求めるなど、必要な措置を講じる努力義務があります。

ガイドラインでは、企業は、カスタマー・ハラスメントが発生した場合、行為者である顧客に対して、従業員への行為を止めるよう要請するとともに、あらかじめ定めた対応方針に従い、現場監督者等からの退去要請や出入り禁止、商品やサービスの提供停止の通告等の対処を行うことが求められるとしています。

③ 従業員によるカスハラ防止:企業は、自社の従業員が顧客等に対してカスハラ行為を行わないよう、必要な措置を講じる努力義務があります。

ガイドラインでは、就業者は、カスタマー・ハラ スメントを受ける立場である一方、例えば、取引先との関係では顧客等であるなど、カスタマー・ハラスメント を行う立場にもなり得ることを指摘し、企業においては、事業に従事する者が、カスタマー・ハラスメントを行わないよう、カスタマー・ハラスメント防止に関する啓発や教育等を行っていくことが求められるとしています。

なお、この条例には罰則規定は設けられておらず、企業に対して具体的な罰則を科すものではありません。しかし、カスハラは従業員に精神的・肉体的な負担をかけ、職場環境の悪化や離職の原因となるため、企業として適切な対策が求められています。

3. 企業がカスハラ対策に注力するべき理由

3-1. 離職率の増加を防ぐことができる

カスハラは、従業員のストレスやモチベーション低下を招き、結果として離職率の増加につながる可能性があります。特にサービス業や小売業など、消費者を対象とした顧客対応が主な業務となる業種では、カスハラによる離職が深刻な問題となり得ます。適切な対策を講じることで、従業員の働きやすい環境を整え、優秀な人材の定着を図ることができます。

また、カスハラを受けた従業員が精神的なダメージを負い、長期の休職や退職を余儀なくされるケースも少なくありません。企業は、従業員のメンタルヘルスを守るためにも、カスハラ対策を積極的に進める必要があります。さらに、カスハラ対策を講じることは、企業の法的リスクを軽減することにもつながります。カスハラを放置した結果、従業員が企業に対して損害賠償を請求するケースも考えられるため、未然に防ぐ対策が求められます。

▼関連記事はこちら▼

コールセンターにおけるカスハラ対応について企業労務に詳しい弁護士が解説!

医療機関におけるカスハラ対応について企業労務に詳しい弁護士が解説

【弁護士が解説】カスタマーハラスメントとは?介護業でよくある事例を弁護士が解説!

4. マニュアル作成の必要性

カスハラ対策として、企業は具体的な対応マニュアルを作成することが重要です。このマニュアルには、カスハラの定義や具体例、発生時の対応手順、上司や専門部署への報告方法、法的対応の手続きなどを盛り込むべきです。また、従業員への定期的な研修を実施し、マニュアルの内容を周知徹底することで、現場での適切な対応が期待できます。具体的なケースを従業員間で共有し、話し合う機会を設けるなども有効です。一人で抱え込まず、職場における問題として、チームで解決する問題であるという認識を育てます。

カスハラ発生時には、企業側が適切な対応を取らなければ、被害を受けた従業員がさらに苦しむことになります。例えば、従業員がカスハラの被害を訴えても、会社側が適切に対応しなかった場合、労働環境が悪化し、企業の評判にも悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、マニュアルの作成とともに、企業内の意識改革も重要です。適切な対応策を講じることで、従業員の安心感を高め、企業のブランドイメージ向上にも寄与します。

5. 当事務所のサポート内容

当事務所では、企業のカスハラ対策に関する以下のサポートを提供しております。

カスハラ防止マニュアルの作成支援:企業の業種や特性に合わせたオリジナルのマニュアル作成をサポートします。

従業員向け研修の実施:カスハラに関する知識や対応方法を習得するための研修を提供します。

カスハラ事案発生時の法的対応:万が一カスハラが発生した際の適切な法的対応について、迅速かつ的確なアドバイスを行います。

カスハラ問題は、企業の健全な運営と従業員の働きやすさに直結する重要な課題です。当事務所の専門家が、貴社の状況に応じた最適なサポートを提供いたしますので、お気軽にご相談ください。

▼関連記事はこちら▼

カスタマーハラスメント対策とは?対応のポイントを弁護士が解説!

従業員のメンタルヘルス対応を弁護士に依頼するメリットとは?対応の流れを解説!

就業規則の作成・チェックを弁護士に依頼するメリットとは?対応の流れを解説!

Last Updated on 2025年4月14日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。