ハラスメント相談窓口が機能しない場合の弁護士の活用方法

文責:織田 康嗣

労働施策総合推進法においては、職場におけるパワーハラスメント防止のために講ずべき措置として、事業主に対し様々な義務を課していますが、その一つに「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」が挙げられています。そのために考えられる対応として、相談窓口を予め定め、労働者に周知することがあります。

また、従業員300人以上の組織では、公益通報者保護法による相談窓口の設置と適切な対応をとることが義務付けられています(従業員300人以下の組織においても、努力義務です)。さらに上場企業においては、コーポレートガバナンス・コードにより、内部通報に係る適切な体制整備が要求されているところです。

このように、ハラスメント相談窓口、通報窓口の設置が求められているところではありますが、窓口を設けたものの、「相談が全く来ない」「相談しても何も解決しなかった」といった状況に陥り、相談窓口が形骸化してしまっては意味がありません。

本記事では、多くの企業が抱えるハラスメント相談窓口の課題を明らかにし、弁護士を活用することで、いかに実効性のある体制を構築できるかを解説します。

1 ハラスメント問題の現状

厚生労働省の「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間のハラスメントの相談有無に関して、パワハラが最も多く(64.2%が相談あり)、次いで、セクハラ(39.5%)、カスハラ(27.9%)と続いています。

また、企業がハラスメントの予防・解決のために実施している取組としては、「相談窓口の設置と周知」の割合が最も高く(7割)、次いで「ハラスメントの内容、職場におけるハラスメントをなくす旨の方針の明確化と周知・啓発」が続いています(6割以上)。

なお、「相談窓口の設置と周知」を行っている企業のうち、相談窓口を「社内のみに設置している」企業は 55.7%、「社内と社外の両方に設置している」企業は 41.2%、「社外のみに設置している」企業3.0%という状況です。

しかしながら、従業員がハラスメントを受けた後の行動として、社内の同僚に相談した、社内の上司に相談した従業員が一定割合以上いるものの、何もしなかった従業員の割合(パワハラについて36.9%、セクハラについて51.7%)も相応にある状況です。

ハラスメント被害を受けながら、会社への相談を躊躇したり、行為者からの報復(セカンドハラスメント)を恐れて従業員が声を上げられないケースは後を絶ちません。ハラスメントは、被害者の尊厳を傷つけるだけでなく、職場全体の生産性低下や貴重な人材の流出に直結する、深刻な経営問題であることを認識する必要があります。

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2 ハラスメント相談窓口が機能していない企業が抱える課題

機能しない相談窓口は、企業に様々なリスクをもたらします。

(1)相談窓口を設置しているにもかかわらず、実際に相談が寄せられない

従業員が「相談しても無駄だ」、「プライバシーが守られるか心配」、「行為者からの報復が怖い」といった理由から、従業員が相談をためらい、相談窓口への相談を躊躇してしまうケースがあります。

職場でハラスメント問題が実際に発生しているにもかかわらず、問題を早期発見、解決できなければ、更なる深刻なハラスメント問題に発展してしまう危険があります。

(2)相談があっても、適切な対応が取れず従業員の不信感を招いている

相談窓口に相談があったとしても、会社が適切な対応を採らなければ、従業員の不信感を招きます。相談担当者が適切な知識を持たず、事実確認を怠ったり、一方的な思い込みで対応したりすると、被害者をさらに傷つけることにもなりかねません。

パワハラ指針においては、次のように指摘されています。

相談窓口においては、被害を受けた労働者が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。例えば、放置すれば就業環境を害するおそれがある場合や、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題が原因や背景となってパワーハラスメントが生じるおそれがある場合等が考えられる。

(3)形式的な設置に留まり、企業リスクの管理ができていない

相談窓口を形式的に設置し、適切な運用がなされなければ、企業リスクを高めることになります。ハラスメント問題が放置されれば、会社の安全配慮義務違反を問われることになります。

典型的には、ハラスメント問題が生じ、会社の安全配慮義務違反を問う場面が考えられますが、使用者側がハラスメント等の調査結果につき、申告者への回答遅延が安全配慮義務及び信義則に違反するとして、損害賠償義務を認めた裁判例もあります(学校法人茶屋四郎次郎記念学園事件・東京地判令和4・4・7労経速2491号3頁)。

同事件では、「労働契約における使用者は、労働者に対し、労務の提供に関して良好な環境の維持確保に配慮すべき義務を負い、ハラスメントなど従業員の職場環境を侵害する事案が発生した場合、事実関係を調査し、事案に誠実かつ適正に対処し、適切な時期に申告者に報告する義務を負っているというべきである」と述べ、審議不能との結論を出してから、申告してから8ヶ月あまりが経過していることにつき、5万円の慰謝料請求を認めました。

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3 なぜ機能しないのか?よくある失敗例

多くの企業で相談窓口が機能不全に陥る背景には、共通した失敗例が見られます。

(1)社内への周知が不十分

せっかく相談窓口を設けても、従業員への周知が不十分であったり、アクセスしにくい場合、十分に機能しません。従業員が窓口の存在を知らなければ、相談できないまま事態が悪化する可能性がありますし、相談するための事務的な手続が複雑であったり、手間がかかる内容であれば、相談を躊躇してしまうこともあります。

(2)担当者の対応への不安

ハラスメント問題は、法律の知識だけでなく、被害者の心情に配慮した高度なコミュニケーション能力が求められます。相談担当者が、「何から聞けばいいのか分からない」、「どう対応すれば公平性を保てるのか」と不安を抱え、適切な対応ができないケースは少なくありません。

(3)相談者が「報復や評価への影響」を恐れて通報しづらい環境

加害者が上司や影響力のある人物である場合、相談したことが本人に伝わり、不利益な取り扱いを受けるのではないかという恐怖から、相談することを躊躇してしまうケースがあります。相談者のプライバシー保護や不利益取扱いの禁止が徹底されていなければ、窓口は機能しません。

また、窓口が独立性・中立性を担保できていなければ、上位者からの影響力によって、プロセスが歪められてしまう懸念があります。

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4 弁護士の関与で機能する窓口体制を構築する方法

これらの課題を解決し、実効性のある相談窓口を構築するために、弁護士を活用することが極めて有効です。

弁護士への相談体制を構築したり、内部通報の外部窓口先として、法律事務所を選定することが考えられます。

(1)適時に法的助言を得られる体制を構築する

弁護士は、法的な観点から、相談受付から事実調査、解決策の検討、再発防止策の検討を行うことができます。

特にハラスメント問題では、客観的証拠に乏しく、ヒアリングから認定するにしても、当事者の言い分が異なることが多く、事実認定の問題が生じることが多いです。また、ハラスメント認定できるとして、懲戒処分の量定の問題も生じます。

こうした場合に、適時に弁護士に相談できる体制を整え、必要なアドバイスを受けられるようにしておくことが重要です。

(2)従業員が相談しやすい体制を構築する

ハラスメント被害者が上長からの報復を恐れ、相談窓口への相談を躊躇してしまうことが前述のとおりです。こうした場合、行為者から報復禁止の誓約書を取得するなど、安心して相談を受けられる状況を作っておくことが肝要となります。

どのような誓約書を取得すればよいかなど、相談しやすい体制づくりにおいても、弁護士への相談は有用です。

(3)社内研修の実施

ハラスメント問題について、社内研修を行うことで、従業員の意識を改革し、相談窓口を活用することを勧めることも可能です。

弁護士が社内研修を実施することで、法的観点から、各ハラスメント問題を解説することが可能となります。

(4)外部窓口の設置

法律事務所を内部通報の外部窓口として設置することも可能です。

社内の人間には話しにくい内容であっても、社外の弁護士であれば、社内の人間関係を気にすることなく、安心して相談してもらうことが可能となります。

弁護士にハラスメント調査まで依頼すれば、中立的かつ法的な裏付けのもと、調査を進めることができます。

ただし、顧問弁護士に、外部窓口を依頼する場合、利益相反等の問題に注意する必要があります。

弁護士が従業員から受けた相談案件については、同じ弁護士が会社からの依頼・相談を受けることが出来ません。

顧問弁護士に外部窓口を依頼する場合には、会社からの依頼(相談)につき、どういった制約が生じ得るのか、事前によく確認しておくべきです。

5 ハラスメント相談窓口は設置して終わりではありません

ハラスメント相談窓口は、一度設置すれば完了というものではありません。従業員へ定期的に窓口の存在を周知し、研修を通じてハラスメントへの意識を高め続けることが不可欠です。

また、寄せられた相談内容を分析し、職場の実態に合わせた再発防止策を継続的に講じていくことで、真に働きやすい環境が実現します。弁護士は、そうした継続的な運用についても、法的な専門知識に基づいたアドバイスを提供します。

6 当事務所のサポート内容

当事務所では、企業のハラスメント対策を全面的にサポートするため、以下のようなサービスを提供しております。

(1)外部窓口の受託

貴社の従業員からのハラスメント相談を、当事務所の弁護士が直接お受けします。

多くのハラスメント案件に対応した知見をもとに迅速かつ適切に対応いたします。

(2)ハラスメント規程(内部通報規程) の策定・レビュー

各種規程の整備を行うことは、実効的な相談窓口を行ううえでの前提となります。通報に係る規程の整備、ハラスメント規程の整備のほか、既存規程のリーガルチェックも承ります。

(3)各種研修の実施

ハラスメントに係る啓発を行うべく、全社員向けのハラスメント研修のほか、管理者向けのハラスメント研修も承ります。

ヒアリングにおける留意点や、事実認定の進め方等についても、解説させていただきます。

(4)ハラスメント事案発生時の個別対応

個別のハラスメント案件について、相談、調査等のご依頼をお受けすることも可能です。

事実調査(ヒアリング等)の実施、助言のほか、懲戒処分の量定に関する助言も行います。

ハラスメント問題が深刻化する前に、ぜひ一度、法律の専門家である当事務所にご相談ください。 貴社の実情に合わせた最適なハラスメント対策をご提案し、従業員が安心して働ける職場環境づくりをサポートいたします。

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Last Updated on 2025年10月6日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。