業務改善命令とパワハラの違いとは?適切な指導方法を弁護士が解説

文責:中野 博和

1 業務改善命令とは

⑴ 業務改善命令の意味及び目的

業務改善命令についての法的な定義はありませんが、判例(電電公社帯広局事件・最一小判昭和61年3月13日労判470号6頁)では、「業務命令とは、使用者が業務遂行のために労働者に対して行う指示又は命令」であると判示されています。

これを前提とすると、業務改善命令とは、概ね、使用者が、労働者の業務遂行能力、成果及び態度等、労働者の業務遂行に問題があると判断した場合に、その改善を当該労働者に対して指示し、又は命じるものであるといえるでしょう。

業務改善命令の主な目的は、労働者の能力開発を促し、業務効率や品質の向上を図り、最終的には企業の業績向上に繋げることにあります。これは、あくまで、適正な範囲内での指導・育成を意図するものです。

⑵ 業務改善命令が発令される主な理由

業務改善命令が発令される主な理由としては、例えば、以下のようなものが挙げられます。

目標の未達成:労働者が設定された目標を達成できていない場合。

業務遂行能力の不足:労働者がにつき務遂行上必要な知識、スキル、経験が不足していると判断される場合。

業務プロセスの逸脱:労働者が定められた手順やルールを守らずに業務を行っている場合。

品質不良やミス:労働者の業務の質が低く、又はミスが多い場合。

協調性の欠如:労働者がチームワークを阻害するような行動が見られる場合。

⑶ 業務改善命令の限界

業務改善命令は、上記の業務命令の一つの態様としてなされるものですが、この業務命令権は無制限ではなく、業務上の必要性の程度、労働者の不利益の程度、目的の合理性等を総合考慮し、権利の濫用となる場合には、当該業務改善命令は無効となります。

2 パワーハラスメント(パワハラ)とは

⑴ パワハラの定義と種類

パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場における優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものをいいます(労働施策総合推進法30条の2第1項)。

パワハラは、その態様によって以下の6類型に分類されてます。

①身体的な攻撃:殴る、蹴る、相手に物を投げつけるなど。

②精神的な攻撃:脅迫、名誉毀損、侮辱、人格を否定する発言など。

③人間関係からの切り離し:無視、仲間外し、隔離など。

④過大な要求:明らかに遂行不可能な業務の強制など。

⑤過小な要求:能力や経験とかけ離れた程度の低い業務しか与えない、仕事を全く与えないなど。

⑥個の侵害:私的なことに過度に立ち入る、プライベートな情報を本人の了解を得ずに他の労働者に暴露するなど。

⑵ パワハラに関する企業の責務

ア 労働施策総合推進法との関係

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(労働施策総合推進法30条の2第1項)。

厚生労働省が定めた「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)では、この雇用管理上必要な措置について、概要、次のとおり定めています。

① 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

 ・パワハラの内容・行ってはならない旨の方針を明確化、周知・啓発すること。

 ・行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること。

② 相談(苦情を含む)に応じ適切に対応するために必要な体制

 ・相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。

③ 職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

 ・事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

 ・(ハラスメントの事実を確認できた場合)速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。

 ・(ハラスメントの事実を確認できた場合)事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと。

 ・(いずれの場合であっても)再発防止に向けた措置を講ずること。

④ ①~③までの措置と併せて講ずべき措置

 ・相談者や行為者等のプライバシー保護するための必要な措置を講じ、その旨を周知すること。

 ・相談等を理由とした不利益取扱いを禁止し、その内容を周知・啓発すること。

なお、事業主は、労働者が相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはらない点には留意が必要です(労働施策総合推進法30条の2第2項)。

イ 職場環境配慮義務との関係

使用者は、労務遂行に関連して労働者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来す事由が発生することを防ぎ、又はこれに適切に対処して、職場が労働者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する義務(職場環境配慮義務)を負います(福岡セクシャル・ハラスメント事件・福岡地判平成4年4月16日労判607号6頁)。

この職場環境配慮義務の具体的な内容として、使用者は、労働者からパワハラの申告があった場合には、速やかに事実関係を調査し、調査結果に従い、加害者等に対して配転等を含む適切な措置を講じる等の義務を負い、かかる義務に違反した場合には、労働者に対して損害賠償義務を負う可能性があります。

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⑶ パワハラの具体例とその影響

パワハラの具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

・「こんなこともできないのか」「給料泥棒」などの人格を否定するような発言。

・長時間にわたる執拗な叱責や、他の労働者の前での一方的な叱責。

・無視や仲間外しなど、職場で孤立させるような行為。

・明らかに無理なノルマを課し、達成できない場合に厳しく追及する。

・プライベートな情報をSNSで暴露したり、嘲笑の対象にしたりする。

パワハラは、被害者に以下のような深刻な影響を与えます。

精神的な苦痛:抑うつ、不安、不眠、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など。

身体的な不調:頭痛、腹痛、食欲不振など。

就業意欲の低下:モチベーションの低下、集中力の低下、業務効率の低下など。

休職・退職:精神的な苦痛に耐えかねて休職や退職に至るケースなど。

企業にとっても、パワハラの発生は、労働者の退職、訴訟リスク、企業イメージの低下など、大きな損失に繋がる可能性があります。

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3 業務改善命令とパワハラの違い

⑴ 目的の違い

業務改善命令の目的は、主として業務遂行能力の向上、業務効率・品質の改善などにあります。

パワハラの目的は、主として嫌がらせ、精神的な苦痛を与えること、職場環境を悪化させることなどにあります。ただし、目的が業務遂行能力の向上、業務効率・品質の改善などにありながらも、熱意のあまり、行き過ぎた指導となってしまう例もあります。

⑵ 指導方法の適切性と具体性

業務改善命令では、具体的な改善点を指摘したり、達成可能な目標設定やサポート体制などが設けられたりすることがあります。

パワハラでは、抽象的で感情的な指導が多い、改善のための具体的な指示やサポートがないといったことが多いです。

⑶ メンタルヘルスへの配慮

業務改善命令では、指導対象の労働者の成長を促すための建設的なフィードバックを重視し、精神的な負担に配慮しているのが通常です。

パワハラでは、精神的な攻撃や人格否定的な言動が多く、対象労働者のメンタルヘルスへの配慮に欠けている例が多いです。

4 適切な業務改善命令の出し方

⑴ 具体的な改善点等の明示

業務改善命令を出す際には、その指導内容が曖昧だと、その受け手である労働者にとっても、どのような点をどのように改善すれば良いのかが分からず困惑してしまいます。

例えば、報告書の内容を改善する指導を行う場合、「報告書の内容が雑だったから、もう少ししっかり作ってください。」とするのではなく、「今回の報告書ですが、結論に至る理由が曖昧で読み手に伝わりにくくなっていました。次回からは、冒頭に要点を簡潔にまとめたうえで、根拠となるデータや事実を段階的に説明する構成にしてください。」など、改善点や改善方法を明確にしておくと良いでしょう。

⑵ 達成可能な目標設定とサポート体制

個々の労働者の能力や経験を考慮し、無理のない目標を設定します。目標達成に必要な知識やスキルが不足している場合は、研修の機会を提供するなど、サポート体制を整えましょう。

⑶ 適切なフィードバック

一方的な指示ではなく、進捗状況を確認しながら、建設的なフィードバックを定期的に行いましょう。良い点も認め、改善が見られた場合は適切に評価することが重要です。

⑷ 労働者とのコミュニケーションの重要性

なぜ改善が必要なのか、改善によってどのような効果が期待できるのかを丁寧に説明し、労働者の理解と納得を得ることが大切です。一方的な命令ではなく、対話を意識しましょう。

5 パワハラと受け取られないための注意点

⑴ 侮辱的な言動の回避

人格否定、能力を否定するような発言、嘲笑、陰口などは絶対に避けましょう。

⑵ 感情的な指導の抑制

感情的に怒鳴ったり、威圧的な態度を取ったりするのではなく、冷静かつ客観的に、事実に基づいて指導しましょう。

⑶ 公平・公正な評価と対応

特定の労働者に対してのみ厳しく当たる、個人的な感情で評価を変えるといった不公平な扱いは避けましょう。

⑷ 法律や社内規程の理解促進

管理職向けの研修を実施するなど、労働施策総合推進法等のパワハラ防止に関する法律や社内規程を理解してもらいましょう。

6 パワハラの申告があった場合の対処法

⑴ 事実関係の確認と記録

申告された内容について、当事者や関係者等から丁寧に話を聴き、客観的な事実関係を確認します。日時、場所、具体的な言動などを詳細に記録しましょう。

⑵ 懲戒処分等の検討

調査の結果、パワハラの事実が認められる場合には、パワハラの加害者に対し、懲戒処分や配転等の対応を検討することになります。なお、パワハラが認められない場合、加害者として申告された者(被申告者)の配転等は必要ありませんが、申告者の体調が悪化しているようであれば、申告者を配転し、可能な限り被申告者と関わらないようにすることも検討するべきでしょう。

⑶ 申告者へのフィードバック

調査結果やこれを踏まえた使用者の対応等について、申告者へフィードバックすることが必要です。

パワハラ該当性の有無とその理由については、被申告者や関係者等のプライバシーに配慮する必要があるため、詳細には説明することはできませんが、可能な限り、申告者の納得を得られるように説明をする必要があります。

⑷ 法的リスクとその対応策

特に、パワハラの事実が認められる場合、損害賠償請求等の法的リスクが生じる可能性があります。弁護士等の専門家と連携し、適切な対応策を検討しましょう。

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Last Updated on 2025年5月12日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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