
文責:岩野 高明
1 建設業界におけるパワハラの特性
パワハラはどの業界でも問題になりますが、建設業におけるパワハラの相談は、他の業界に比べるとやや多いように感じます。建設現場においては、事故の危険と常に背中合わせという事情もあって、厳しい指導がパワハラへと発展してしまうことがあるように思われます。厳しく育てられた世代がそのままの感覚で部下を持つ立場になると、パワハラの問題が起きやすいといえるでしょう。
また、元受け→一次下請け→二次下請けというふうに、多重下請け構造が特徴の建設業界においては、自社内だけでなく、他社の従業員に対するハラスメントや、他社の従業員によるハラスメントも頻発しています。工事現場には、とび職などを筆頭に、個人事業主の立場で建設作業にかかわる職人もいるので、これらの関係者の間で行き過ぎた指導や叱責がされないよう、現場所長等の管理職者の管理能力が問われます。
自社外の者が関与するハラスメントは、カスタマーハラスメントの範疇に属するものですが、この点に関しては、令和7年の労働施策総合推進法の改正により、事業主に相談体制の整備やハラスメントへの対応措置が義務付けられました(令和8年4月1日施行)。
建設工事では、工事現場の近くに工事事務所(現場事務所)という仮設の建物が設置されるのが一般的です。建設作業に従事する関係者は、この工事事務所で事務作業や会議をしたり、休憩や仮眠をしたりします。比較的少数の労働者が日夜工事事務所に勤務するという状況は、外部の目によるチェックが働きにくい状況といえるかもしれません。
このような性質のある工事事務所においてひときわ重要になるのが、現場所長を筆頭とする管理職者の管理能力です。管理職者は、自らがハラスメントをしないことはもちろん、「従業員間の指導がパワハラに該当するか」、「パワハラに該当しないとしても、指導として適切か」といった観点で現場全体を見渡し、不適切な言動が認められれば、行為者に対して随時是正指導していかなければなりません。ハラスメントに関する感度を高くしておくことが、管理職者の資質として重視されるべきです。
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2 パワハラ被害の申告がされた場合の対応
従業員からパワハラの申告がされた場合には、会社のとるべき対応は、他の業種と何ら変わるところはありません。
まずは被害者から事情を聴取し、被害の事実を裏付ける資料があればその提出を求めます。並行して、配置転換や休養の要否、加害者に対する処罰の要否、補償などについても被害者の意向を確認します。被害申告をしたことにより不利益な取扱いを受けることがない旨も、説明すべきでしょう。
次に、加害者とされている者や事情を知り得る他の者にヒアリングを実施します。ヒアリングの順番は、事案の性質や証拠の状況などに応じて柔軟に決定すべきでしょう。加害者とされている者に対しては、被害者への一切の接触を禁止することや、禁止を破った場合には厳格な処罰があり得る旨を伝える必要があります。
⒜ 加害者が加害行為を認める場合
加害者とされている従業員が事実関係を認めれば、基本的には加害行為を認定してよいでしょう。加害者の処罰や被害者の職場環境の調整、再発防止策の策定などを進めます。もっとも、事実関係が認められても、当該行為がパワハラとは評価できない場合もありますので、事実の認定とその評価はきちんと分けて考える必要があります。被害者に対しては、調査結果(事実の認定とその評価)を説明する必要があります。
⒝ 加害者が加害行為を否認する場合
一方、加害者とされている者が加害行為を否認する場合には、会社は難しい立場に置かれることになります。客観的な証拠や関係者の証言などを踏まえ、加害行為が実際にあったのかを判断しなければなりません。証拠が十分ではないのに「加害行為あり」として行為者を罰すれば、被処分者が懲戒処分の無効を主張して訴訟を提起してくる可能性が出てきます。反対に、加害行為を認定しない場合には、会社に不信感を抱いた被害者が、使用者責任(民法第715条)を理由に会社に対して損害賠償を求めてくることもあり得ます。会社は板挟みのような状況に陥りますが、どちらのリスクをも避けようとして、事実認定をあいまいにするのは得策ではありません。後の訴訟において、このような態度は裁判所の批判を受けることになります。
ここで、会社が判断すべきは、「加害行為あり」か「加害行為なし」かではないことに注意が必要です。「加害行為がなかったこと」を証明するのは不可能に近いうえ、このような認定は、被害者が嘘をついているというに等しいものです。被害者の会社に対する不信感は極度に増大してしまいます。
そうではなく、会社が判断すべき事項は、「加害行為あり」か「加害行為ありとは認められない(認定できない)」のどちらかです。後者は、「実際には加害行為があったのかもしれないけれども、証拠上はそのような事実があったことを認定できない」という趣旨です。「証拠上、認定できるかできないか」というのが会社のなすべき判断です。
とはいえこの判断は、事案によっては容易ではなく、事実認定や裁判実務に関する知見を要することも少なくありません。加害行為の存否について、両者の言い分が食い違う状況になった場合には、弁護士などの専門家の助言を求めるべきでしょう。
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Last Updated on 2025年9月17日 by loi_wp_admin



