
文責:岩出 誠(弁護士・東京都立大学法科大学院非常勤講師)
Ⅰ コールセンターのカスハラの現状
Ⅰ-1.カスハラとはー一般用語とカスハラの法的定義
カスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」という)ととは、顧客等からの著しい迷惑行為として言及されています(「心理的負荷による精神障害の認定基準」令5・9・1基発 0901 第2)。
既に、厚労省からも、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(以下、「カスハラ・マニュアル」という)も公表され、東京都では、既に、令和6年に東京都カスタマー・ハラスメント防止条例を制定し、厚労省の建議内容とほぼ同様な定義の下で(同条例2条5号)、令和6年12月19日に「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針」(6産労雇労第1524号も発出し、令和7年4月1日から施行する予定で、同年3月4日には「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル(業界マニュアル作成のための手引)」も公表されています。
その集約として、令和7年3月11日閣議決定し、通常国会で、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下、「労働施策法」という)改正により、法的規制を加えられる「カスハラ」の定義では、「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(以下、「顧客等」という。)の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境が害されること」として定義されています(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案要綱)。
従前の上記各マニュアルの趣旨が要約的に反映されています。
Ⅰ-2.コールセンターでのカスハラ具体例
コールセンターでのカスハラ具体例については、様々な調査報告が示さあされています。その中で、比較的大規模(企業50社、従業員2,493名の有効回答)な実態調査報告をしている一般社団法人日本コンタクトセンター協会2024年11月12日「コールセンターにおけるカスタマーハラスメントに関するアンケート調査」によりますと、下記のように要約されています。
☆コールセンターにおける従業員が受けたカスハラの類型としては「暴言・怒声」が68%で最多「クレームの過剰な繰り返し」「話のすり 替え・揚げ足取り・執拗な責め立て」が続き、ともに約5割であった。 企業がセンターの現場から報告を受けたカスハラの類型で最も多かったのは「長時間拘束」であった。つぎに「暴言・怒声」「クレームの過剰な繰り返し」と続き、上位3類型は7割に達した。なお、上位4つの類型は従業員と同様であった。 ☆カスハラを受けた従業員の約6割が「強いストレスを感じた」と答え、軽いストレス等も含め9割の方が心理的な影響を感じていた。 カスハラを受けた時の対応では、「話を聞きつづけた」というケースが最も多く約6割、「謝りつづけた」というケースが約5割と続き、カスハラを受けた従業員が対応を続ける状況が窺えた。 ☆カスハラのきっかけとなった理由は「お客様の無理な要求」が71%、「お客様の勘違い」が50%で、トップ2は顧客側の起因 一方、「従業員の接客態度・言葉遣い」「商品サービスの欠陥等」など企業側の起因も約3割あり、企業努力・改善により発生を3割抑止できる可能性もある ☆企業が考えるカスハラの原因は「ストレスのはけ口になりやすい」が70%、「消費者のサービスへの過剰な期待・意識」が66%の他、上位4項目は顧客側の問題が挙げられた ☆「カスハラの基準の明確化」「カスハラの対応方針・マニュアルの策定」に“既に対応済み”とした企業は約3割で、対策が後手になっていることが窺えた。回答企業の約7割が「コールセンター・エージェンシー/アウトソーサー」であったことから、その他記述では「クライアント方針に沿う」という回答があり、受託企業主導による対策の難しさも窺えた。 ☆カスハラに対する必要な措置として、「法律・条令による防止」「消費者への啓発活動」のトップ2は従業員・企業で一致。一方、従業員は「企業姿勢を示すこと」の必要性が多く挙げられた。 ☆従業員・企業同様の質問をしたところ、直近1年間でカスハラが「増えている」とした従業員は28%、企業は18%で両者に10ポイントの乖離があり、従業員の方が高い傾向にあった。企業では「あまり変わらない」が72%あり、「増えている」と合わせると90%に達し、世の中の関心が高まっている状況において もカスハラ発生の実態に変化がないことが窺えた。 <実際に体験したカスハラの具体的事例> ⚫ クレーム対応の際に企業理念を読まされ、それができていると思うのか、誰が決めたのか、執拗に繰り返し同様の内容のやり取りが続いた ⚫ 「キャンセルできますか?」との問い合わせに、「はい、キャンセルについてのお問い合わせですね」と 復唱した際、「今あなた、はいと言ったからキャンセルしてもらえるんですよね」と揚げ足取りをされま した ⚫ 録音してますのでSNSにさらしますがいいですか?といった脅し ⚫ 支払い対象外となる旨を説明したが、ご納得いただけず長時間叱責された。一度電話がつながらなかったため1時間ほど時間をおいて発信したところ、1時間以内にかけなおすのが普通と非常に立腹され1時間半ほど暴言を吐かれる、無理な要求を繰り返す、こちらの発言に対して揚げ足を取るなど 中身のない話を延々と繰り返された ⚫ 「お客様は神様なんでしょ。対応してよ」と無理な特別待遇を要求
Ⅱ カスハラによって発生するコールセンターの損失
Ⅱ-1 通常業務の遂行への悪影響
令和6年3月「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によれば、以下の図表のように、損害や被害の内容としては、「通常業務の遂行への悪影響」(63.4%)が最も多くなっています。
Ⅱ-2. 労働者の意欲・エンゲージメントの低下、離職率増加等
カスハラによって発生するコールセンターの損失の、2番目に多い、「労働者の意欲・エンゲージメントの低下」(61.3%)と、3番目の「労働者の休職・離職」(22.6%)で、人手不足の現下の雇用状況においては、深刻な損害となっています。
Ⅲ コールセンターでカスハラされた際の対応
コールセンターでカスハラされた際の対応のついては、前述の東京都「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル(業界マニュアル作成のための手引)」も参考とすべきですが、これを踏まえつつ、コールセンターに特化したものとしては、一般社団法人日本コンタクトセンター協会が令和7年3月12日に公表した「「コンタクトセンター/コールセンターにおけるカスタマーハラスメント対策ガイドライン」」(以下、「コールセンター指針」という)が実務的対応に直結するので、その要旨を紹介しておきます。
Ⅲ-1.会社側での対応
東京都「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル(業界マニュアル作成のための手引)に基づき、以下の事項に取り組む必要があります。
〇基本方針等の策定
・カスハラ対策の基本方針・基本姿勢の周知
・カスハラを行ってはならない旨の方針の周知
〇相談体制の整備
・相談窓口の設置・周知
・適切な相談対応の実施
・プライバシー保護に必要な措置を講じて周知
・相談を理由に不利益な取扱いを行ってはならない旨の方針の周知
〇手引きの作成
・現場での初期対応の方法や手順の作成
・内部手続(報告・相談、指示・助言)の方法や手順の作成
〇カスハラ発生時・発生後の対応方針
・場面別の対応方針
・警察との連携
・カスハラ発生時の対応フロー
・顧客等の出入禁止
・就業者のケア
〇カスハラの未然防止・再発防止
・就業者への教育・研修等
・カスハラの再発防止に向けた取組
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Ⅲ-2.電話でのカスハラ対応上の留意点
電話において顧客等の話し方(声の大小・高低・強弱、スピード等)、言葉遣い、イントネーション等により顧客の感情等を判断してしまう傾向があります。
また、電話においては、原則従業員と顧客等は 1 対1での対応となり、クレームやカスハラに対して 複数名で対応できない場合があます。
組織で対応することを明確にするため、原則、顧客等には複数人で対応するのが望ましいのですが、電話の場合は、リアルタイムモニタリングを行い、適宜指示を出したり、状況に応じて対応者を代えることも工夫すべきです
電話の場合、初期対応した従業員による対応を原則としつつ、顧客等の要求が著しく相当性を欠く内容であれば、1人で抱え込まず対応者を代わることも必要です。
Ⅳ コールセンターでのカスハラ対策
コールセンター指針では以下のような対処法が紹介されています。
1.顧客等への基本姿勢 協会が実施したアンケート調査によると、カスハラの起因として企業・団体側の問題が 3 割あった。言い換えると、企業努力・改善で 3 割のカスラを減らせる可能性があるということである。中でも通常の問い合わせやクレームから応対クレーム、カスハラに発展したケースにおいては、会話や対応履歴を分析し、言葉遣い(例えば、「うん、うん」「はい、はい」「ええ」等)や対応(事務的、言葉を遮る、頭ごなしに否定する、調べたり確認したりしない等)の問題が見られた際には指導し、再発を防止しなければならない。 企業努力や改善は顧客等の要望にできる限り応えるということではなく、顧客の声を製品・サービスや 手続き等の改善に活かし、CS/CX 向上につなげるというコンタクトセンター本来の役割であることを認識しておかなければならない。 カスハラに対する組織としての基本方針・基本姿勢を明確にし、周知・公開するとともに、 従業員の理解・浸透に努めなければならない。 それにより、組織がカスハラから守ってくれているという従業員の安心感につながり、毅然とした態度で臨むことができるようになる。 2.未然防止法 通話を録音し、また録音していることを通話開始時にアナウンスする カスタマーハラスメント行為を繰り返す顧客等のリストを作成し、当該者の着信を拒否する 非通知設定の着信を拒否する 問い合わせ窓口に応じて着信者課金サービスを設定する(発信者側の費用負担とする。ただし、その場合も通常対応において保留を極力減らし、必要に応じ折り返し対応等の配慮を行う) カスハラへの対策(カスハラに該当すると判断した際には対応を終えること、警察への通報等)を通話開始時にアナウンスする 3.オペレーションルールによる対処法 対応時間があらかじめ定めた上限時間を超えた際、これ以上対応できない理由を明確に告げた上で、 自社・センターのルールに従い、コミュニケーター/オペレーターが対応を終える(電話を切る)、もしくは、 エスカレーションする(対応者を代える) 同様のクレームや問い合わせ等があらかじめ定めた上限回数を超えた際、これ以上対応できない理由を明確に告げた上で、自社・センターのルールに従い、コミュニケーター/オペレーターが対応を終える(電話を切る)、もしくは、エスカレーションする(対応者を代える) 威嚇・脅迫といった明らかな犯罪行為に遭遇した際には、すぐに上席者にエスカレーションする(対応者を代える)。必要に応じて、警察への通報等を行う 対応した従業員が特定できることを前提に、ビジネスネーム(本名以外)を使用する(※) ※ 業務によっては関係法令で戸籍上の氏名の使用を規定している場合もあるので、業務ごとに個別に確認する 4.技術的対処法 あらかじめ定めた上限時間の超過、威嚇・脅迫といった明らかな犯罪行為、暴言・怒声に当たる発言を音声システム等で認識した際に、上席者に通知が届く 威嚇・脅迫といった明らかな犯罪行為を音声システム等で認識した際に、自動的に通話が遮断される あらかじめ定めた上限時間の超過、威嚇・脅迫といった明らかな犯罪行為、暴言・怒声に当たる発言を音声システム等で認識した際に、カスハラに該当する旨の録音音声に切り替わる(言葉をさしはさむ余地がないケース) 発声式(音声認識)の IVR により用件や顧客等の心情を概ね把握し、顧客等の要望や状態等に応じて 特定の対応者(従業員)につなげる 5.警察との連携 カスハラには、威嚇・脅迫など刑法等による処罰対象となる行為が含まれます。明らかな犯罪行為が確認された場合、コミュニケーター/オペレーターをはじめとする従業員を守るために、以下を参考に警察への通報・相談を躊躇せず行ってください。また、警察や弁護士など外部専門家との連携について、各社・各センターにおけるカスハラへの基本方針・基本姿勢に明記することを推奨します。 警察への通報・相談の流れ 対応の中止を伝える 従業員の心理的負担や就業環境への影響を考慮し、対応の中止を顧客等に伝える。 組織的な判断とするため、対応の中止は上席者・現場の管理監督者を含めた複数名で判断することが 望ましい。 (2)言動の中止を求める 迷惑行為を止めるよう顧客等に伝える。 2、3度繰り返す。 (3)警察に通報・相談する 迷惑行為の中止を求めても止めない場合、最終警告する。(例:このまま止めていただけないようなら、 警察へ連絡させていただきます。) それでもなお止めない場合、対応を中止し(電話を切り)警察に通報・相談する。(コンタクトセンター業 務の特性上、所轄の警察署への通報・相談が想定される。相談時は#9110 番、緊急時は 110 番) (4)警察官に状況を説明する 警察官にこれまでの状況を説明し、録音がある場合は、内容を確認してもらう。 迷惑行為を行う顧客等を指導するよう依頼する。(例:厳重に注意して欲しい。) 再度コンタクト(電話がかかってくる)の恐れがある場合は「再度電話がかかってくる恐れがある」として情報連携しておく。
Ⅴ 弁護士の必要性
カスハラ対策における弁護士の必要性は、上記に紹介した、〇基本方針等の制定、〇相談体制の整備と窓口業務、〇手引きの作成 、〇カスハラ発生時・発生後の対応方針、警察との連携(被害届、告訴手続きを含む)、〇カスハラの未然防止・再発防止のための就業者への教育・研修等の全てにおいて、法的知見の反映が求められるところにあります。
また、再発防止の観点からの、カスハラ加害者への法的措置の対応もあり得ます。
他方、企業は、他の企業に雇用する労働者等からのカパワハラや顧客等からの著しい迷惑行為たるカスハラに関し、雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう安全配慮義務を負っていますので、適切な対応をしないことにより、被害を受けた従業員から労災申請や賠償責任責任を追及される可能性があり、これらへの対処には弁護士の協力は不可欠です。
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Ⅵ カスハラ、特にコールセンターにおけるカスハラ対策への対応について当事務所でサポートできること
カスハラ、特にコールセンターにおけるカスハラ対策への対応については、コールセンター指針でも、詳細な解説がなされています。
しかし、具体的作業においては、同指針に沿った諸規程やマニュアルの整備、既存の規定との整合性の確保、不利益変更などの非難を回避したり、そのリスクを軽減するためのアドバイスや諸規程やマニュアルの策定自体と従業員への説明会への助言、指導が必要です。また、職員やコールセンター利用者や、カスハラ被害での心身の障害を負った従業員とのトラブルも発生するリスクへの対の必要もあります。
これらの点については、労働事件・労務管理について多くの経験を有する弁護士に相談するのが有益です。
前記のリスクを顕在化させないため、例えば、カスハラへの相談対応が懈怠し、精神障害の労災認定を回避するための紛争を予防する労務管理体制を構築するためにも、当事務所にご相談いただければと思います。
また、カスハラ対策遂行のための各段階でのセミナー講師などでにおいても、ご相談いただければと思います。
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Last Updated on 2025年4月14日 by loi_wp_admin