飲食業におけるカスタマーハラスメントの特徴とは?企業が対策すべきことを弁護士が概説

飲食業におけるカスタマーハラスメントの特徴とは?企業が対策すべきことを弁護士が概説

文責:織田 康嗣

本記事では、飲食業に特有のカスタマーハラスメント(カスハラ)の特徴と、飲食業を営む企業が講じるべき対策を解説しています。飲食業のカスハラは、アルコールを提供する場であること、「お客様は神様」という接客文化、そしてSNSによる拡散という三つの要素が絡み合うことで、深刻なカスハラに発展する場合があります。正当なクレームとカスハラを切り分ける判断基準をあらかじめ社内で共有したうえで、基本方針の明文化・対応マニュアルの整備・録画録音環境の整備という対策を、トラブルが起きる前の平時から進めておくことが重要です。

1 はじめに

「酔ったお客様に土下座を求められた」、「料理にクレームをつけられ、代金を払ってもらえなかった」、「対応に不満だと言われ、店名入りでSNSに書き込まれた」等、飲食業の現場では、こうしたカスハラの相談が後を絶ちません。

カスハラは、従業員の心身を傷つけるだけでなく、従業員のパフォーマンス低下や、健康への影響、離職の増加、店舗の評判低下といった形で、経営そのものに直接的な打撃を与えます。さらに、2025年6月に成立した改正労働施策総合推進法により、カスハラに関する雇用管理上の措置を講じることが事業主の義務とされ、飲食業においてもカスハラ対策が求められるようになっています。

本記事では、飲食業のカスハラにどのような特徴があるのかを整理したうえで、具体例、正当なクレームとの線引き、具体的な対応策を順に解説します。

2 飲食業におけるカスタマーハラスメントの特徴

カスハラはあらゆる業種で発生しますが、飲食業における特徴を挙げていきます。

特徴①:アルコールによる理性の欠如

飲食業、とりわけ居酒屋、ダイニングバーなど酒類を提供する店舗における最大の特徴が、アルコールの存在です。

飲酒により判断力・自制心が低下した顧客は、普段であれば口にしないような暴言を吐き、些細な行き違いにも過剰に反応することがあります。声量が大きくなり、店内の他の客を巻き込んだ騒動に発展しやすいのも、酔客特有の傾向です。また、酩酊した客は「言った・言わない」の争いになったときに自分の発言を記憶していないことも多く、後日の事実確認が困難になります。

さらに深刻なのは、アルコールが絡むカスハラは、暴言にとどまらず身体的接触へと発展するリスクが高い点です。従業員の腕をつかむ、肩を抱く、押す、といった行為は、それ自体が暴行罪(刑法208条)にも該当し得る行為です。飲食業のカスハラ対策では、こうした業態特有のリスクを織り込んだ備えが欠かせません。

特徴②:「お客様は神様」という誤った文化の残存

飲食業には、「お客様は神様です」という言葉に象徴される、過剰なサービス志向が根強く残っています。

当然ながら、「客であれば何をしても許される」という意味ではありません。しかしながら、こうした言葉が独り歩きし、従業員側も「お客様に反論してはいけない」と萎縮してしまう構図が生まれがちです。

こうした文化が残ってしまうと、現場の従業員が「断ってはいけない」と考え、本来応じる必要のない要求まで受け入れてしまうことが考えられます。一度応じた前例は「あの店はやってくれた」という既成事実となり、要求はさらにエスカレートします。

特徴③:密室性とSNS拡散の脅威

飲食業のカスハラは、「見えにくい場所で起きる」一方、SNSによる拡散の対象になりやすいという二つの性質を併せ持っています。

一つ目は密室性です。個室、レジ裏、バックヤード、店舗外へ呼び出されての「話し合い」など、飲食店にはカスハラが第三者の目に触れにくい場所が数多く存在します。目撃者がいなければ、後になって「そんなことは言っていない」と否定され、従業員の証言しか証拠がないという状況に陥ります。

二つ目がSNSと口コミサイトによる拡散です。飲食業は、Googleマップの口コミ、グルメサイトの評価、XやInstagramでの投稿が、集客に直結する業種です。客はそのことを知っているため、「SNSに書くぞ」「星1をつけるぞ」という言葉が、事実上の脅し文句として機能してしまいます。

2.飲食店におけるカスタマーハラスメントの具体例

ここでは、飲食業の現場で実際に問題となりやすい典型的なカスハラの類型を三つ紹介します。

(1)些細なミスを口実にした「過度な謝罪」の強要

注文の取り違え、提供の遅れ、ドリンクをこぼしてしまった等、飲食店の現場では、一定のミスはやむなく発生してしまいます。生じてしまったミスに応じ、必要な謝罪等の対応は検討しなければならないでしょう。もっとも、以下のように、ミスに乗じて過剰な謝罪要求がなされる場合があります。

(例)

・土下座を要求する

・店長を呼びつけ、深夜まで数時間にわたって説教を続ける

・「誠意を見せろ」と繰り返し、何を求めているかは明言しない

これらは、ミスへの対応として社会通念上相当な範囲を超えています。土下座の強要は強要罪(刑法223条)に、長時間の居座りは不退去罪(刑法130条後段)や威力業務妨害罪(刑法234条)に該当し得ます。

(2)「味・質」への主観的な不満を盾にした無銭飲食・過度な値引き

飲食業においては、味や質といった個人の主観によって、提供する商品の評価が変わる点に特徴があります。そのため、以下のようなカスハラが発生しやすいといえます。

(例)

・料理をほぼ完食した後で「まずい」と主張し、代金の支払いを拒む

・「こんな味で金を取るのか」と述べ、大幅な値引きを要求する

・明確な異物混入の証拠がないまま、「異物が入っていた」として全額返金を求める

味の好みが合わなかったこと自体は、法的な債務不履行とはいえません。適切に調理された料理を提供した以上、店舗は債務を履行しており、客には代金支払義務があります。

それにもかかわらず、代金を支払わないことは法的に許されず、カスハラに該当し得ます。

(3)「SNS晒し」を武器にしたデジタル・ハラスメント

SNSと口コミサイトに投稿することを脅したり、実際に投稿を行い誹謗中傷する類型です。

(例)

・今すぐ返金しないとSNSに投稿すると要求する

・従業員の顔や名札を無断で撮影し、SNSに投稿する

・実際に事実と異なる内容を口コミサイトに投稿し、削除と引き換えに金銭や無料飲食を求める

「SNSに投稿するぞ」と告げて金銭や利益を要求する行為は、恐喝罪(刑法249条)に該当し得ます。また、事実と異なる内容を投稿して店舗の評判を落とす行為は、名誉毀損罪(刑法230条)や信用毀損罪(刑法233条)の問題となり、民事上も不法行為(民法709条)として損害賠償請求の対象となります。

3 どこまでが「正当なクレーム」で、どこからが「カスハラ」かの判断基準

飲食業のカスハラ対策で最も難しいのが、この線引きです。すべての苦情をカスハラ扱いすれば、サービス改善の機会を失い、真面目な顧客を失うことになります。

カスハラ指針(令和8年厚労告51号)によると、職場におけるカスタマーハラスメントとは、職場において行われる①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいいます。

②については、社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は手段や態様が相当でないものを指すとされ、「言動の内容」及び「手段や態様」に着目し、総合的に判断することが求められます。

(1)言動の内容

言動の内容としては、注文ミスがあった場合に、料理を作り直す、その料理の返金をするという要求は妥当といえる一方、一定の落ち度はあっても「会食全体の代金を無料にしろ」「慰謝料を払え」と求めるのは、対応困難な要求であり、不当な損害賠償請求といえます。また、当然ながら、サービスと関係のない性的な要求や店員のプライバシーに関わる要求も社会通念上強要される範囲を超える内容です。

(2)手段や態様

たとえ店舗側に落ち度があっても、それを伝える方法には限度があります。

身体的な攻撃(殴る、蹴る、叩く等の暴行を行う、物を投げつける等)、精神的な攻撃(土下座の強要、SNSへの拡散をほのめかして要求、盗撮や無断での撮影をする等)、威圧的な言動(大声での罵倒、暴言等)、継続的・執拗な言動(同じ質問を執拗に繰り返す等)、拘束的な言動(長時間に渡る居座り、電話での拘束等)といった行為は、社会通念上相当な範囲を超えるといえます。これらの手段が用いられた時点で、要求内容の当否にかかわらずカスハラと評価されます。

4 カスハラ対策のために飲食店が取るべき対策

飲食業の企業・店舗が実際に取り組むべき対策を3点ご紹介します。

(1)カスハラに対する基本方針の明文化と掲示

会社としてのカスハラに対する基本方針を文書にすることです。カスハラ指針においても、事業主が雇用管理上講ずべき措置として、「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」が挙げられています。

カスハラを許さないという会社の姿勢の宣言、カスハラの定義と具体的な行為の例示、カスハラを受けた従業員を守ること等を明確化します。社内報、パンフレット、ホームページ等に掲載することが考えられます。

明文化し広く掲示する、例えば、レジ横や店頭に「当店は従業員へのハラスメント行為に対し、毅然とした対応をとります」という掲示があるだけで、一定の牽制効果があります。また、従業員の安心感にも繋がるといえます。

(2)対応マニュアルの導入

基本方針を具体的に機能させるのが、現場の対応マニュアルです。初期対応の方法や、本部や警察に通報する基準などを具体的に定めておくことが考えられます。

例えば、一次対応は必ず複数名で行う(一人にさせない)、個室や店舗外に呼び出された場合は応じず、他のスタッフの目がある場所へ誘導する、本部への連絡ルートを作る、具体的なトーク例を定めておく等の対応が考えられます。また、日時、場所、対応者、客の言動、要求内容、対応内容を記録するフォーマットを作り、後々の証拠とできるよう、統一的な記録様式を作っておくことも有用です。

ところで、農水省、厚労省では、飲食店におけるカスハラ対策について、ガイドラインを策定しています(※農水省HP:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gaisyoku/kasuhara_taisaku.html)。

同ガイドラインでは、具体的な場面とともに、トーク例を掲載しており、現場の対応マニュアルを策定するうえで非常に参考になります。

(3)防犯カメラと音声録音による環境整備

前述のように、飲食業のカスハラでは、「密室性」による証拠不足となるケースがあります。これを解消するべく、録画・録音の環境整備をすることが考えられます。

例えば、防犯カメラをレジ周り、入口といった、トラブルが起きやすい場所をカバーするように設置します。カメラの存在自体が抑止力となるため、「防犯カメラ作動中」の掲示も併せて行います。また、電話クレームを録音できるよう、録音機能(「品質向上のため通話を録音しております」の自動音声)を導入することも考えられます。

もっとも、防犯カメラや録音機器の設置については、顧客のプライバシーにも配慮する必要があります。導入時に弁護士に確認することもご検討ください。

5 カスハラについて弁護士に相談するメリット

飲食業のカスハラ対策において、弁護士が関与することには次のようなメリットがあります。

①対応の線引きを法的根拠に基づいて示せる

法的な観点から、どこまでなら応じられるかを明確にできるため、現場が過剰に譲歩することも、逆に不当に突き放してトラブルを拡大させることも防ぐことができます。

②基本方針・マニュアルの適法性を担保できる

基本方針の内容や掲示物の文言等がカスハラ指針に即した内容といえるか、事前に確認できます。

③交渉の窓口を代わることができる

悪質なカスハラに対しては、弁護士が窓口となることで、従業員が直接矢面に立たずに済みます。弁護士名義の通知書を送付することで、収束できる場合もあります。

また、交渉で収束しない場合には、損害賠償請求訴訟を提起したり、民事保全法の仮処分を申し立てることも考えられます。また、SNS・口コミの削除請求、発信者情報開示請求や、刑事告訴の支援等にも関与することができます。

6.当事務所のサポート内容

当事務所では、飲食業を営む企業・店舗のカスハラ対策について、平時の体制構築サポート(カスハラ基本方針の策定支援、掲示物や対応マニュアルのチェック、就業規則、社内相談窓口規程の見直し等)や、社内研修・教育、交渉窓口としての対応等のサービスを提供しております。

現実にカスハラが生じていない段階でも、突然カスハラが発生したときに慌てることのないよう、事前策を講じることは極めて有用です。初回のご相談では、現在の体制をお伺いしたうえで、優先的に取り組むべき対策をご提案します。

まずはお気軽にお問い合わせください。

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