
文責:松本 貴志
タイムカードの開示義務について
使用者は、従業員に対して未払いの残業代などがある場合には、未払い割増賃金等を請求されることがあり、その際には、従業員からタイムカードの開示を求められることがあります。
賃金の支払いの対象となるのは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間、法的には実労働時間と呼ばれる時間になります。そして、実労働時間の立証責任は、労働者側にあるため、タイムカードは、労働者が実労働時間を立証するための重要な証拠となり得ます。
実労働時間を立証するための証拠としては、タイムカード以外にも、業務に使用しているパソコンのログイン・ログアウト記録、オフィスの入退館記録、業務日報における始業時刻・終業時刻等の記載、仕事仲間や上司とのメッセージ履歴の送信時刻・通話履歴等も労働時間を推認させる証拠となりますが、タイムカードは、労働時間を直接証明する証拠として、より重要度が高いです。
一方で、使用者にとっては、タイムカードを開示することで、それが未払い残業代の発生の証拠となるため、開示を拒否したいと考えるケースもあるでしょう。
しかし、裁判例においては、使用者は労働者からタイムカードの開示を求められた場合には、これを開示する義務があるとされており、特段の事情がない限り、これを拒否することは不法行為に該当するとされた例があります(大阪地判平22.7.15労判1014号35頁)。すなわち、使用者は、特に理由もなくタイムカードの開示を拒否すると、不法行為に該当するとして、慰謝料の支払いを命じられる可能性があります。
仮に交渉段階でタイムカードの開示を拒否したとしても、その後残業代を巡って訴訟を提起された際には、文書送付嘱託(民事訴訟法226条)や文書提出命令の申立て(同法221条)によりタイムカードの開示を求められる可能性が高いです。また、訴訟提起前においても、証拠保全という手続きがあり、使用者が交渉段階で開示を拒否し、タイムカードを破棄・隠匿するおそれがあると判断された場合には、労働者の証拠保全の申立てが認められ、タイムカードが開示されてしまうことになります。
以上を踏まえると、従業員からタイムカードの開示を求められた場合には、基本的には開示に応じるべきです。
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タイムカードの保管義務について
使用者は、労働者の安全に配慮するため、また、賃金算定義務の関係上、労働者の実労働時間を把握する義務があります(労働安全衛生法66条の8の3)。そして、使用者は、タイムカード等の実労働時間を把握するための資料を5年間保管する義務があり(労働基準法109条。ただし、「当分の間」は3年間とされています。同附則143条1項)、保管しなかった場合には30万円以下の罰金が科される可能性があります(同法120条1号)。
したがって、例えば、従業員からの未払残業代請求等を免れるために、法定の保管期間を過ぎていないタイムカードを破棄するなどの対応はリスクがありますので、注意が必要です。
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残業代請求対応におけるタイムカードの役割
前述の通り、タイムカードは、労働者の実労働時間を推認させるものとして、未払残業代の計算をする上で重要な証拠となります。
多くの裁判例においては、タイムカードの証拠としての価値は高く認められており、使用者がタイムカードによって労働時間を管理していた場合には、特段の事情がない限り、タイムカードに打刻された時刻をもって出勤・退勤の時刻と推認することができ、これらの時刻に基づいて労働時間を算定するのが合理的であるとされています(金沢地判平26.9.30労判1107号79頁等)。使用者は、タイムカードの打刻以外が始業時刻、終業時刻として認められるためには、タイムカードの打刻時刻が実労働時間と乖離しているという「特段の事情」があることを立証する必要があり、そのハードルは高いです。
また、裁判例の中には、労働者が未払残業代を請求する期間のうちの全ての期間についてはタイムカード等の証拠がなく、一部の期間のみ証拠がある場合でも、証拠がない期間についても残業代の発生を認めた例もあります(大阪高判平12.6.30労判792号103頁等)。
残業代請求対応について当事務所がサポートできること
従業員から未払残業代請求をされる際には、タイムカードの他にも、タイムカード以外の労働時間管理に関する記録、賃金台帳、雇用契約書、賃金規程等の資料の開示を求められるケースがあります。
使用者としては、労働者から開示を求められた全ての資料を開示するべきなのか、それとも一部に絞るべきなのか、悩まれるケースもあるかと思います。
また、そもそも残業代の計算方法に自信がない場合には、従業員やその代理人弁護士から請求された残業代の額が妥当なものなのか、また提示された和解案に応じるべきなのかどうかの判断に困る使用者もいるでしょう。
当事務所では、残業代請求対応について経験豊富な弁護士が多数在籍しておりますので、従業員から残業代請求をされた際の対応方法や未払残業代の発生を防ぐための制度構築や就業規則・賃金規程の定め方に関するアドバイスをすることも可能です。
未払残業代請求対応にお悩みの際には、是非一度当事務所にご相談ください。
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Last Updated on 2025年2月20日 by loi_wp_admin