残業代請求を複数の従業員から行われた!会社側の対処法について弁護士が解説

残業代請求を複数の従業員から行われた場合の対処法について弁護士が解説

文責:松本 貴志

1 複数の従業員からの残業代請求について

労働問題でも特に紛争化することが多いのが、残業代請求です。

そして、長時間労働が常態化している企業は、従業員からの残業代請求により多大な経済的打撃を受ける可能性があります。 

また、在職中の従業員が労働組合を通して残業代請求をしてくるケースや、一度に大量に退職したケースでは、複数の従業員から同時に残業代請求を受ける可能性があります。

残業代は、一人だけでも数百万円に達することが多く、複数の社員からの残業代請求は、企業に多大な経済的ダメージを与えることがあります。

また、複数人からの残業代請求のケースでは、労働者同士が情報共有を行い、一人による請求の場合よりも強硬な姿勢を見せる傾向にあります。

さらに、在職中の社員から集団で残業代請求をされた場合には、職場の雰囲気が悪くなるだけでなく、残業代請求をしていない他の社員との平等も図る必要が生じるという実害も生じます。

そこで、本記事では、複数の従業員からの残業代請求を行われた場合の企業側の対処法及び予防策について解説いたします。

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従業員から残業代請求をされてしまった!対処法について弁護士が解説

2 複数の従業員から残業代請求をされた場合の対処法

⑴ 残業代計算の正確性の調査

従業員から残業代請求をされる場合、当該従業員に代理人がついている場合、受任通知書の段階でいきなり残業代の額が明示されるのではなく、タイムカード、就業規則、雇用契約書等残業代請求の根拠となる資料の開示を求められるのが通常です。労働者の代理人は、資料の開示を受けた上で、きょうとソフトという裁判等の際に残業代請求に用いられる計算ソフトを使って残業代を計算します。

一方で、当該従業員に代理人がついておらず、本人が直接請求してくる場合には、当該従業員のメモや家族とのLINE履歴等客観性に乏しく、信用性が疑わしいような資料を根拠として残業代が計算され、また残業代計算ソフトを使用せずに割増賃金の計算に誤りがあるケースや、消滅時効分についても請求に加えられているケースも少なくありません。

そして、複数の従業員からの残業代請求においては、実労働時間数や割増賃金の計算に誤りが生じる可能性が人数分だけさらに高まります。

したがって、企業側の対応としては、まずは複数の従業員が請求する残業代の計算の正確性について、弁護士の支援を受けながら、客観的な資料に基づき調査を行い、残業代計算ソフトを用いて残業代を計算することが肝要です。

例えば、通知書到着から1週間以内に残業代を支払うよう求める旨の内容証明郵便が労働者から届き、企業が未払残業代の存在自体については認識している場合であっても、労働者側の残業代請求の計算の正確性をよく調査しないで慌てて振り込んでしまうというような対応は避けるべきです。労働者側が設定した支払期限には法的な効力はないため、弁護士に相談した上で回答する旨労働者側に連絡すればよいでしょう。

⑵ 従業員からの資料の開示の要求に応じるべきか

上記のとおり、当該従業員に代理人がついている場合には、まずは残業代請求の根拠となるタイムカード等の資料の開示を求めてくるのが通常です。これに対し、企業側としては、資料の開示を拒否することは得策ではありません。なぜなら、資料を開示すれば、両当事者が同じ資料をベースに各々残業代を計算し、それらを突き合わせることで、妥協点を見つけ、早期解決の望みが広がるのに対し、資料の開示を拒否すれば、労働者側はやむを得ず訴訟提起や労働審判の申立て等の裁判手続きに移行する可能性が高いからです。また、裁判手続きに移行した場合には、いずれにしろ裁判所から資料の開示が求められる可能性が高いです。

さらに、タイムカードについては、裁判例において、企業は、労働契約上の付随事務として、労働者からタイムカードの開示を求められた場合には、特段の事情のない限り開示すべき義務を負うとされており(医療法人大生会事件・大阪地判平22.7.15 労判1014号35頁)、かかる義務に違反した場合には慰謝料の支払いが命じられる可能性があります。

以上の理由により、労働者側から残業代計算のために必要な資料の開示を求められた場合には、基本的には応じるべきです。特に、複数の従業員からの残業代請求は、裁判手続きに移行した場合の企業側の負担や他の従業員への影響が大きいため、なるべく早期解決を図りたいところです。

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⑶ 企業側の反論の準備

従業員から残業代請求をされた場合には、裁判手続きも見据えて反論の準備をしておく必要があります。

特に、複数の従業員から残業代請求をされた場合には、労働者によって反論のポイントが異なりますので、入念な準備が必要となります。

企業側の反論としては、例えば、労働者側の残業代請求に対応する労働時間の一部について労働時間に該当しないとの主張、当該労働者が管理監督者に該当するため残業代が発生しないとの主張、固定残業代を支払っているとの主張、事業場外みなし労働時間制が適用されるため残業代が発生しないとの主張、消滅時効の援用等、様々な主張が考えられます。

複数の従業員が残業代請求をしている場合には、それぞれの従業員の役職・職位、業務内容、給与等が全て同じというケースは稀で、各々の従業員の労働条件や勤務実態等に応じて反論のポイントが異なる場合があります。

複数の従業員の残業代請求に対して、企業が自力で反論していくことは極めて困難ですので、弁護士に相談の上、反論の準備をしておくのがよいと考えます。

⑷ 合意書の締結

労働者側から求められた資料を開示し、双方の主張を突き合わせた上で、合意に至った場合には、従業員らとの間で書面の形式で合意書を締結することが肝要です。口約束のみでは、例えば合意した残業代を支払った後に不足分を請求される可能性があります。

合意書の内容としては、残業代請求については合意書に記載された解決金の支払いにより全て解決済みである旨の清算条項を入れる必要があります。

また、これ以上他の従業員に派生することや、SNSへの投稿等を防ぐため、合意書の内容や締結過程について他者に口外しない旨の守秘義務条項を入れることも重要です。

合意書の内容は、個別具体的なケースに応じて、入れるべき条項や文言が異なってきますので、労務問題に精通した弁護士の点検を経た上で提案するべきでしょう。

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3 残業代請求について当事務所でサポートできること

上記のとおり、従業員からの残業代請求は、複数人からの残業代請求の場合は特に、企業にとって多大な経済的ダメージを与えますので、適切に対応することが求められます。

一方で、残業代の計算は複雑で、企業側の反論も多岐にわたるケースが多いので、従業員から残業代請求をされた場合、企業が自力で対応するのは極めて困難です。また、残業代請求に対応するためには、事前の予防策として、裁判になっても耐えられる厳格な残業許可制の規定化・運用や有効な固定残業代の設定等が必要となります。

当事務所には、残業代請求について経験豊富な弁護士が多数在籍しておりますので、従業員から残業代請求をされた場合の初動対応や解決方法、そして事前の予防策等についてアドバイスをすることが可能です。また、交渉や訴訟等の代理人をご依頼された場合には、依頼者様のご意向・ご状況に応じて適切な解決方法をご提案いたします。従業員からの残業代請求でお困りの際は、是非一度当事務所にご相談ください。

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Last Updated on 2024年2月2日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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