従業員から残業代請求をされてしまった!対処法について弁護士が解説

従業員からの残業代請求について

文責:木原 康雄

近時の傾向

会社に対して未払い残業代を請求するケースが増加しています。

その原因としては、終身雇用制が崩壊し始め、退職者を中心として、在職中には言えなかったことが主張しやすくなったことがあります。

また、働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制がなされたり(中小企業にも2020年4月1日から適用されています)、月60時間超の残業割増賃金率が50%に引き上げられたり(中小企業にも2023年4月1日から適用されています)、さらに最近では、いわゆる2024年問題(2024年4月1日からは、自動車運転業務、建設業務、医師にも時間外労働の上限規制が実施されること)がクローズアップされたりすることで、残業(代)に対する関心が高まっていることが要因としていえるでしょう。

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未払い残業代請求対応を放置するリスク

未払い残業代を請求された場合に、これを放置していると、まず遅延損害金が加算されていってしまいます。遅延損害金の年率は、現在も雇用している従業員からの請求では年3%ですが(民法404条2項)、退職者の場合、退職日の翌日以降の部分は年14.6%になります(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項)。

また、紛争が訴訟に至った場合には、裁判所は、労働者の請求により、未払い金と同一額の付加金の支払いを命じることができることとされており(労働基準法114条)、その負担も生じ得ます。

さらに、労働者の申告等を契機として、労基署(労働基準監督官)の臨検監督(調査)の対象となり、是正勧告を受ける可能性があります。もし是正勧告を受けても放置を続けていると、刑事手続が開始され、捜査の対象となり、検察官送致されるおそれも生じてしまいます。

そうなれば、前記の経済的(金銭的)なリスクだけでは済まなくなります。未払い残業代を請求された場合には、これを放置せず、速やかに適切な対応を採る必要があります。

従業員から未払い残業代請求をされた場合

従業員から未払い残業代を請求された場合、まずは、従業員の請求根拠(労働時間、計算)を確認することが重要です。

計算に誤りがあるような場合には、その旨説明します。

労働時間については、会社が保有している、タイムカードや、オフィスの出入館記録、パソコンのログ情報など、労働時間算出のための資料と突き合わせを行います。

これらの資料で判明するより以上の労働時間が請求されている場合には、従業員に、どのような労働(作業)を行ったのか説明を求めるとともに、当該従業員の周囲にいる者(上司など)にも、当時従業員がどのような具体的業務をしていたのかや、従業員の労働時間について知っていること等について、調査を行う必要があります。その当時、従業員が作った成果物の質・量から、どれくらいの労働時間が必要であったかを推測できる場合もあります。

その結果、支払うべきものがあると判断される場合には、その金額を支払うなど適切な対応をとります。

また、調査の過程で、当該従業員についてだけでなく、従業員全体について、労働時間の把握が、厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に則って十全に行われておらず、サービス残業が常態化してしまっているといった問題点が発覚するかもしれません。この場合には、速やかに、労働時間の把握方法について見直す必要があります。

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労働基準監督署からの指導・監督が入った場合

残業代の未払いは労働基準法37条違反となりますので、前記のとおり労基署の臨検監督の対象となりますが、臨検監督に応じなかったり、虚偽の内容の帳簿・書類を提出した場合には、30万円以下の罰金刑を受けるおそれがあります(労働基準法120条4号)。

たとえば、臨検監督において、タイムカードや、オフィスの出入館記録、パソコンのログ情報などの資料の提出が求められる場合があります。これに対し、一度協力的でなかったからといって、直ちに罰則が適用されることはないとしても、労働条件に関する法令遵守や、労働者をはじめとするステークホルダーの人権デュー・ディリジェンスの一環としても、臨検監督には誠実に応じる必要があります。

また、不誠実な対応を続けていると、労働基準法37条違反事件として検察官送致されてしまうおそれも出てきます。

事情聴取、報告、資料提出に誠実に対応し、正すべきところは正すという姿勢で臨むことが重要です。

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従業員に弁護士が就いていた場合

従業員に弁護士が代理人として就いて請求が行われる場合があります。

この場合、弁護士から、就業規則や給与規程のほか、タイムカードや、オフィスの出入館記録、パソコンのログ情報などの資料の提出が求められることがあります。

この場合、資料を提出すべき法的義務があるわけではありません。しかし、これらの資料は、両者がともに依拠すべき客観的資料ですし、これらの資料が開示されないと、当該弁護士にとって、会社側の主張が客観的根拠に基づくものかどうかわからず、争いをいたずらに紛糾させてしまうおそれが生じてしまいます(長期化するのはもちろん、労働審判や訴訟といった法的手続きが提起されるなど)。

また、会社側の対応を従業員が不誠実だと感じてしまった場合、以後の労使関係や労務管理全体にも大きな影響を及ぼしかねないでしょう。

会社側としては、客観的資料を開示して、自らの主張を積極的に裏付けていくことにより、紛争を早期かつ適正に解決するという態度で臨むことが肝要です。

企業側勝訴判例を分析した未払い残業代請求に対する企業側の反論と紛争予防のポイント

従業員による請求に対して吟味すべきポイントは、その主張に係る時間が「労働時間」に該当するかどうかという点です。

労働時間とは、会社の指揮監督・命令下に従業員が置かれている時間をいいますが、裁判所がこれを認定する場合、タイムカード、オフィスの出入館記録、パソコンのログ情報等の客観的な証拠があるときはそれらに依拠することが多いといえます。これに対して、従業員本人が記載した日報やメモなどは機械的正確性を欠いているため、その信用性が吟味されます。

そこで、上記タイムカード等の客観的な証拠による反論を可能とすべく、日々の労働時間を、客観的な形で記録しておく必要があります(これは、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を遵守することにもなります)。

つぎに、従業員に対して、明示的に残業を命じていなくとも、黙示の指示・命令があったと認定されてしまうと、「会社の指揮監督・命令下に従業員が置かれている」労働時間であるとされてしまうことになります。

そこで、黙示の指示・命令があったと判断されないように、残業をするには事前の許可を必要とし、許可のない残業は認めないという事前許可制を徹底することが考えられます。また、オフィスで業務をしないで、持ち帰り残業をしていたという主張もあり得ますので、それに対する対策としては、持ち帰り残業を一律禁止するか、事前許可制とし、残業開始時間と終業時間を報告させるということが考えられます。

さらに、残業をする業務上の必要性がなかったということを明確にすることができれば、「会社の指揮監督・命令下に従業員が置かれている」とはいえず、労働時間には該当しないという判断につながります。

そこで、業務日報・週報をその都度提出させ、承認するという運用を厳格にするということが考えられます。どのような業務を行っていたのか、その成果物にはどの程度の時間がかかるのかを明確にすることができれば、「従業員が主張するような時間がかかるはずがない」という反論につなげることができるでしょう。

 

残業代請求対応について当事務所でサポートできること

残業代請求を受けた場合、前記のとおり、速やかに、かつ適正に対応しないと多大なリスクを生じさせることになってしまいます。また、労働時間に係る証拠収集のほかにも、「会社の指揮監督・命令下に従業員が置かれている」時間であったかどうかという法律の解釈問題も検討しなければなりませんが、特にこの点については、労働事件・労務管理について多くの経験を有する弁護士に相談するのが有益です。

前記のリスクを顕在化させないため、また、未払い残業代を請求されるといった紛争を予防する労務管理体制を構築するためにも、当事務所にご相談いただければと思います。

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Last Updated on 2024年2月1日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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