運送業(物流業)における2024年問題について弁護士が徹底解説

文責:村林 俊行

運送業における2024年問題とは

「運送業における2024年問題」とは、時間外労働の上限規制等を含んだ働き方改革関連法が2024年4月1日から施行されることにより、運送業界に発生する諸問題の総称です。つまり、運送業に関しては、2010年施行の改正労基法により、1か月に60時間を超える時間外労働に対する割増率が25%以上から50%以上に引き上げられ、2023年4月からは中小企業にも適用されていますが、2024年4月1日からは、①年間960時間(特別条項)の時間外労働の上限規制等を規定する改正労基法も施行されようとしており、②改正改善基準告示により、1か月の拘束時間の短縮等も施行されようとしています。

労基法と改善基準告示の改正内容は、以下の通りです。

(1) 労基法の改正について

時間外労働の上限規制を規定した改正労基法につき適用猶予されていた「自動車運転の業務に従事する労働者」についても、2024年4月1日より適用されることになります。具体的には、時間外労働上限規制については、月45時間、年間360時間の原則適用を除けば、主に36協定の特別条項を使っても年間960時間に制限されることになります。但し、一般則である時間外・休日労働合計で月100時間未満、2~6ヶ月平均で月80時間以内、月45時間超は6ヶ月が限度などの月間規制は適用されないことに注意が必要です。

(2) 改善基準告示の改正について

改善基準告示は、正式名称を「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」といい、トラック、バス及びタクシー・ハイヤーのドライバーの労働時間に関する上限などを定める基準です。今回の改善基準告示の改正については、タクシー・バス・トラックの業態別に基準に相違がありますが、拘束時間の短縮と休憩時間の延長をしている点では共通しています。実務上は、改善基準告示により、実質的には時間外労働時間の上限時間数が1日、1か月、1年の単位で決まってくるので、労基法改正よりも改善基準告示の改正の影響の方が大きいものといえます。

また、勤務間インターバル制度も義務となりました。勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に、一定時間の休息時間を確保することですが、2024年4月から休息時間9時間以上が義務であり、11時間以上の確保が努力義務となります。

タクシー・バス・トラックの業態別の改善基準告示の見直しの内容については、以下の厚労省の「『改善基準告示』見直しのポイント」をご参照ください。

運送業における2024年問題による影響

(1) 運送業者の売上・利益の減少、業務の増大

労働時間の上限規制が施行されると、運転手の労働時間が減少する可能性が高く、1日に運べる荷物の量も減少し、運送業者の売上や利益の減少につながることが予想されます。また、財務的に余裕のない企業も多いといわれる運送業界では、労働時間管理等に多大な影響が及ぶとともに、元々の人手不足に加えて労働時間の短縮を余儀なくされ、それに伴う業務が増えることにもなります。

(2) 運転手の収入の減少

労働時間の上限規制に伴い、運転手の残業時間が削減されるとすると、運転手の収入が減少する可能性が出てきます。運転手の収入が減少すると、運転手が離職するリスクが出てくるとともに、新たに運転手を採用することも難しくなります。

(3) 運賃の増額

運送業者が運賃を上げて利益を確保しようとすれば、荷主側の物流コストが上がってしまい、顧客離れが起こる可能性もあります。

運送業者の2024年問題への対処法について

(1) 労働時間管理の適正化

運送業に限らないことですが、会社としてはまず何よりも運転手の労働時間管理を適正に行う必要があります。運送業においては、①特に長時間労働が常態化している会社では、運転手の労働時間を管理・記録することによりその実態が明らかになることを回避する会社も少なくないですし、②賃金につき運んだ物や距離に応じて変動させる「歩合給」を採用している会社も少なくないことから、労使ともに労働時間を管理する必要性を感じていない会社も散見されます。しかし、会社が運転手の労働時間管理を怠るときには、多数の運転手から過大な未払賃金の請求をされる可能性が増大し、労基署からの是正勧告(最悪の場合には刑事罰)を受ける可能性があるだけではなく、3年間遡る多額の未払賃金や遅延損害金の支払を余儀なくされることにもなりえます(詳細については、【未払賃金・残業代請求】の項をご参照ください)。そのため、会社としては、このような多額の未払賃金請求を回避するためにも適正な労働時間管理を行う必要があります。

運転手の労働時間管理の方法としては、①使用者が自ら現認することにより確認し、適正に記録する方法、②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間等の客観的な記録に基づき確認する方法、③例外的な方法として運転手の自己申告により確認する方法がありますが、②が主流になって来ているものと思われます。今後は、会社が出庫時刻を安易に運転者に委ねているのであればそれを是正し、出庫時刻を明確に指示すること、タイムカードやデジタコでは運転している時間しか把握できないのに対して、アルコールチェックでは乗車前後の時刻も把握することができることから、デジタコ及びタイムレコーダーのほか、アルコールチェック等の客観的な機器を併せて活用して労働時間を管理することが検討されてもよいものと思います。

さらに、労働時間管理を行うに際しては、運送業特有の問題として、①休憩時間の把握が困難であること(運転手の手待ち時間と休憩時間の区別を含む)、②洗車・車両点検の時間の把握があります。

①については、運転手が荷主からの指令に備えて、早めに荷主先で待機することがありますが、会社とすれば荷主との間で手待ち時間と休憩時間のルールを決めて労働時間管理することが考えられます。

②については、不合理に長い作業時間を解消する必要がありますが、適正な労働時間管理を通じて公平性を確保するためには、労使間であらかじめ車種等ごとの標準所要時間を取り決めて労働時間管理を行うことも検討されてよいものと思います。但し、特別な事情により標準所要時間を超える場合には、会社に申請して許可を受けて労働時間の補正をすることができるようにしておくことも必要です。

忘れてはならないことは、運行管理者や運転手への教育・指導です。労基法や改善基準告示の改正内容、それらの会社に与える影響と今後の対策等を周知し、現場管理者に対しては運行計画の見直しや労働時間管理の徹底を図るとともに運転手とのコミュニケーションを強化させ、会社全体で法令順守の意識を共有することが必要であることは言うまでもありません。

(2) 賃金体系の見直し・労働時間削減等

運送業が直面している最大の経営課題は、人材確保です。そのため、会社とすれば、前述の労基法や改善基準告示の改正により労働時間の削減を図る必要があるとしても、単に賃金を減らすだけではなおさら人材の確保に窮することになることを肝に銘ずる必要があります。

まずは各社における長時間労働の原因と対策を検討する必要がありますが、以下主だった方策について説明します。

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① 賃金体系の見直し

賃金体系の見直しを行うに際しては、前述の労基法や改善基準告示の改正を踏まえたものにすることが必要となりますが、同時に現状の賃金体系が抱える課題を解決して、運転手にやりがいを持たせるような見直しを図る必要があります。その意味では、前述の通り、労働時間の短縮に伴い、運転手の賃金が大幅に減額となることは避けなければなりません。

また、頑張った運転手が報われるような賃金体系を構築することが検討されるべきですが、その観点より出来高払い制度(歩合給)の採用や適用拡大が検討されてもよいものと思います。基本給を中心とした固定給制度では時間外労働に対する割増率が125ペーセントであるのに対して、出来高払い制度(歩合給)では25%となり割増賃金の削減にも役立つとともに、出来高払いを中心とする賃金体系にすることにより、固定給制度では不慣れな運転手ほど時間がかかり賃金が高くなるという不公平な状況も減らすことができるからです。

さらに、職場全体の生産性を高め、運転手が効率的に働くモチベーションを持てるような賃金体系に見直す必要があります。具体的には、趣旨があいまいな手当の廃止、個別の職務の価値によって定まる職務給(たとえば、小型〇万円、中型〇万円、大型〇万円、トレーラー〇万円、運行管理資格保有者〇万円等)の導入、労働時間のみで賃金が決まる賃金体系ではなく、「法令順守」「努力の度合い」を人事評価項目に加えるとともに、実績や会社への貢献度を反映する処遇体系の構築も、場合によっては不利益変更であることを考慮しなければなりませんが、検討されてよいものと思います。

加えて、月60時間を超える部分の時間外労働について、50%以上の割増賃金の一部の支払いの代わりに有給休暇を与える代替休暇制度の活用も考えられます。しかし、①代替休暇は労使協定が必要であるとともに休暇と賃金の清算、時間数の端数管理等の経理・総務の事務の煩雑さを招くだけではなく、②現実的には人材不足が顕著な運送業界においては、ドライバーに休暇を与える際の代替要員の確保が困難であることから、繁忙期に自由に代替休暇を取得されると事業が回らない会社も多いと思われるので、代替休暇の活用は難しいかもしれません。

なお、会社によっては固定残業手当を支給している会社もあると思いますが、運転手が「やってもやらなくても同じ金額がもらえる」というモラルハザードが生じないような手立てを検討する必要があります。

② 労働時間の削減策

ア 待機時間の削減

多くの運送会社においては、待機時間の削減が大きな課題となっています。この点については荷主との交渉が不可欠となりますが、待機時間は非効率な時間であることにつき共通認識としやすいことから、他の交渉事項と比べればまだ交渉がしやすい課題といえます。まずは荷主と、待機が発生する原因について情報共有し、待機時間削減による荷主側のメリット(着荷主への早期配達の実現、荷主構内の順番待ちによる混雑回避、運転手の拘束時間短縮による料金の削減等)を説明した上で、標準貨物自動車運送約款等の改正時や国土交通省が定めた「標準的な運賃」を運輸支局へ届出る際に、「待機時間料」を設定し、その支払を求めることが考えられます。

また、荷主において予約受付システムの導入をすることで、待機時間を短縮することも検討対象となりえます。

イ 運転手の多能工化の推進

複数の車種・車格のトラックを運用する会社においては、複数の仕事ができて、複数の車種・車格に乗務できる運転者を育成することが検討されてしかるべきです。これにより、特定の業務に対して特定の運転主に負荷が集中することを回避することを通じて、時間外労働時間を削減することができるからです。

ウ その他

その他の労働時間の削減策としては、荷主との交渉が前提とはなりますが、「発注時刻の前倒し」、「運行ルートの改善」、「中継輸送の導入」、「荷役作業を荷主側で行う」等が検討対象となりえます。

特に長距離配送の場合には、改善基準告示で定める限度時間内で配送することが困難なケースも増えてくることが想定されるので、1人の運転手が担当していたケースでも、「中継輸送」、「中継拠点の整備」、「運行計画に中1日入れて設定し直すこと」、「高速道路の利用促進」、「鉄道・フェリーの利用検討」等も検討対象となりえます。

(3)  ITシステムを活用した業務効率化

会社とすれば、前述の労基法や改善基準告示の改正により労働時間の削減を余儀なくされても、利益が減少しないようにするためには、業務効率を向上させることが不可欠です。そのための一つの方策としては、ITシステムを活用することが考えられ、例えば以下のような方策が検討されてもよいと思います。

・配車・配送計画のデジタル化

・勤怠管理システムの導入

・車両運行管理システムの導入

・トラック予約システムの導入

・伝票・送り状等のデータ化

(4) 適正な運賃・料金への改定

会社とすれば、前述の労基法や改善基準告示の改正により労働時間の削減を図ると、生産性の向上や貨物の減少がない限り、1人の運転手がこなせる業務量は制限されることから、その分だけでも他の運転手を採用する必要が出てきます。このことは、他の運送会社も同様であり、運転手不足による人材確保は喫緊の問題といえます。そのため、会社とすれば、人員確保をするために、賃上げや休日増加等の労働条件を改善することが必要となります。そして、会社において賃上げを実現するためには、賃上げの原資となるのは荷主から支払われる運賃ということになるので、荷主に対して、適正な料金への改定を要請することが必要となります。

運賃については、国土交通省が「標準的な運賃」を告示していますが、会社とすれば、これを利用して「標準的な運賃」を基に自社の運賃を計算し、荷主と交渉することを通じて、適正な運賃を確保することが必要となります。「標準的な運賃」とは、賃金水準の引上げや労働条件改善を目的として、地域や車種等に応じた基準となる運賃をいいます。運賃増額の交渉に際しては、なぜ運賃の値上げが必要なのかについて具体的なデータ(例えば、最近の賃上げ実績、時間外割増賃金上昇による影響の試算、労働時間短縮・休日増加等によりかかる費用の試算、ガソリン価格の推移等)を示して説明することが不可欠となります。なお、「標準的な運賃」については、2024年3月末までの時限措置ですが、現在与党において延長に向けた法案提出の準備がなされています。

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運送業界の人事労務問題(特に「2024年問題」)への対応について当事務所でサポートできること

運送業界の人事労務問題(特に「2024年問題」)への対応を巡っては、上記のとおり、企業にとって留意すべきポイントが多く、企業を悩ませる様々な問題が生じます。

これらの対応を誤ると、会社は、労基法の労働時間上限規制違反では6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金という罰則が課せられる可能性があるとともに、改善基準告示違反では罰則はないものの、国土交通省監査の結果により車両停止・事業停止、事業許可取消等の処分を受ける可能性が出てきます。また運転手からは、高額の未払賃金・残業代の支払を余儀なくされるとともに、他の従業員からの未払賃金・残業代請求を誘発することにもなりえます。また、SNSの拡散や報道により会社の威信(対外的・対内的信用)の低下を来たし、採用力が低下しまた取引先が減少して売上げが低下するリスクもあります。

運送業界の人事労務問題(特に「2024年問題」)に対しては、重要な判例・裁判例や豊富な実務経験に基づく対応上の留意点を踏まえて、社内規程(就業規則、給与規程等)・社内契約書(雇用契約書等)の整備、人事評価制度の整備、労働時間管理ほか各種制度の運用方法等を再検討の上、しかるべき対応が求められることから、労務問題に強い弁護士に相談することが推奨されます。特に、労働時間管理については、経営者の労働時間に関する意識改革が不可欠であることを踏まえると、労務問題に強い弁護士を活用していただく必要が高いものといえます。

当事務所は、事務所創設から42年以上に渡り労務問題を積極的に取り扱っており、①就業規則・給与規程、社内契約書の作成・改定、人事評価制度の改定等を通して法律に沿った賃金制度の構築や労働時間管理の見直し等を行い、これらの新しい就業規則・給与規程、社内契約書や人事評価制度の説明や正しい労働時間管理について指導することにより、不毛な争いを回避するとともに、②荷主との協議の進め方について、各社ごとにオーダーメイドの進め方をアドバイスし、③個別の未払賃金請求がなされた場合にも、法律・裁判例を踏まえた適格なアドバイスを行うことができます。

当事務所に所属する弁護士は、顧問企業様等から運送業界の人事労務問題(特に「2024年問題」)への対応についてご相談も受けており、実務上の留意点や最新の判例・裁判例を踏まえたアドバイスをご提供することが可能ですので、お困りの際は是非一度ご相談ください。

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Last Updated on 2024年10月1日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。