病院・クリニック

1 病院・クリニックの業界の特徴

 病院には、医師、看護師、技師、事務局などの様々な職種の方が働いています。

 そのため、それぞれの職種の実態に合わせて、就業規則、賃金規程等を整備する必要があります。

 また、宿直等、通常の会社とは異なる就労の仕方がありますので、そうした働き方に対するルール作りや、対応する規程の作成も必要となります。

 病院では、患者との身体的な接触があることもあって、患者からのクレームもあります。もちろん、クレームには真摯に対応する必要がありますが、中には社会通念上不相当なものもあり、そうしたクレームに適切に対処していく必要もあります。

 

 また、医師や看護師は人材の流動性が高く、新規採用や退職が発生することもままありますが、その時々の法令・裁判例等の状況を踏まえて適切な契約書を締結していく必要があります。例えば、契約書に固定残業代が定められているケースは多くなっていますが、固定残業代の有効性に関する判例・裁判例は日々蓄積されていますので、最新の判例・裁判例を踏まえて適切な内容にすることが必要となります。

 

2 病院・クリニック業界で重要な労務問題

労働時間管理・2024年問題

 病院には、医師、看護師、技師、事務局などの様々な職種の方が働いています。

 使用者には、労働時間を適切に把握し、管理する義務があります。労働時間を適切に把握し、法定労働時間を超過する労働となる場合には、適切に36協定を締結して、運用する必要があります。

 医療機関には、いわゆる2024年問題があります。これまで、医師は働き方改革で導入された労働時間の上限規制の例外とされていましたが、2024年4月から時間外労働の上限規制が導入されます。具体的には、36 協定上の上限及び、36 協定によっても超えられない上限をともに、原則年間960 時間(A水準)・月間 100 時間未満(例外あり)とした上で、地域の医療提供体制の確保のために暫定的に認められる水準(連携B・B水準)及び集中的に技能を向上させるために必要な水準(C水準)として、年 1,860 時間・月 100 時間未満(例外あり)の上限時間数が設定されるなどします(いずれについても休日労働を含みます。)。

 そのため、こうした規定を順守する必要があります。

 また、上記規定を順守することは当然ですが、過労によって労災になってしまう場合もありますので、医師の心身に配慮しつつ、過剰な心身の負担にならないよう留意する必要があります。時間外労働の上限規制内であっても、安全配慮義務の観点から労働時間の抑制等必要な措置を講じる必要があります。

 

 医療機関には、宿日直制度が設けられていることがあります。宿日直制度は、労基法に定める断続的労働として、労働時間規制の対象外になる可能性があります。すなわち、労基法41条3号は、「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」については、労働時間規制の対象外としています。宿日直制度は、上記の断続的労働の対象になりうるため、適切に労働基準監督署の許可を得ることができれば、労働時間規制の対象外となり、割増賃金の支払い対象ともならないなどの効果が生じます。そのため、宿日直制度がある場合には、適切に制度設計をして、労基署の許可を受けることが大切です。

 

 また、いわゆるオンコール待機を行う場合にも注意が必要です。オンコール待機とは、連絡を受けた場合にすぐに対応できるように自宅等で待機しておくことを言いますが、これについては労働時間として扱っていないケースが多いと思われます。しかしながら、オンコール待機の労働時間性が争われた裁判例もあり、オンコール待機を使用者側が義務付けているか、オンコール待機で呼び出される頻度、オンコール待機中の制約の程度等によっては、労働時間と認定される可能性もあります。そのため、オンコール待機が労働時間に該当しないよう、オンコール待機の労働時間性を判断した裁判例などに照らして、適切な制度設計になるよう留意する必要があります。

残業代請求

 病院の(元)職員の方から残業代請求がなされる場合があります。特に、医師の場合には、基本給が非常に高額であること、また、病院によっては長時間労働となっている場合があり、何の対策も行わない場合には残業代請求が非常に高額になることが想定されます。

 これに対して、適法に固定残業代を導入することにより、残業代の削減をすることが可能です。固定残業代の有効性については、日本ケミカル事件(最判平成30・7・19労判1186号5頁)などがあり、こうした判例・裁判例に沿って適切に制度設計する必要があります。

 固定残業代を有効に導入すれば、時間外労働を行った場合であっても、固定残業代に対応する金額については支払い済みとなります。また、固定残業代自体は残業代の単価に含まれませんので、残業代の単価を抑える効果もあります。固定残業代を適切に導入することは効果的です。

 実際、医師の給与を設定する場合には、ある程度の残業が不可避的に発生することを前提として、その分も含めて年俸で支給するという合意が結ばれることがままあります。しかしながら、そのような口頭合意をしたとしても、契約書や就業規則・賃金規程にしかるべき記載がなければ、当初に口頭の合意が存在していたとしても、追加的に残業代を支払わなければならない事態に陥る可能性があります。

 しっかりと規定化しておけば不要であった支出を避けるためにも、契約書、就業規則や賃金規程への適切な記載が不可欠となります。

様々な専門職ごとの労働条件の整理

 病院には、医師だけでなく、各種技師の方など、専門職の方も在籍しています。

 それぞれの専門職の方の就労時間の設定方法やそれを踏まえた賃金の設計(上記の固定残業代の問題を含む)を、実態に即して、かつ適法に行う必要があります。

問題社員対応

 遅刻・欠勤等の勤怠不良、協調性の欠如、指示を聞かない、独断で対応する、能力不足等、いわゆる問題社員への対応が必要となる場合があります。

 こうした問題社員に対しては、懲戒処分、退職勧奨や解雇等を検討することになります。ただし、懲戒処分や解雇については、ベースとなる事実の認定や、指導等が十分に行われていたか、改善の機会が十分に与えられていたかといった点が問題となります。懲戒処分、退職勧奨や解雇等を検討する場合には、指導の記録を適切に残すなどして、事実や証拠を適切に積み重ねていくことが必要です。

職員間のトラブル等

 職員間でハラスメント等のトラブルが生じることもあります。使用者は、ハラスメント等を防止し、ハラスメントが発生した場合には適切に対処するなどし、働きやすい環境を整備する義務を負っています。ハラスメントが発生してしまった場合には、使用者責任(民法715条)や安全配慮義務違反(民法415条)によって病院に損害賠償責任が生じる可能性があります。

 こうした事態を防ぐため、ハラスメント研修や通報窓口を設置するなどし、実際に通報があった場合にはハラスメント調査や調査結果を基に必要な措置を講じることになります。

カスタマーハラスメント

 患者から職員の方がクレームを受ける場合があります。クレームには真摯に対応すべきではありますが、中には社会通念上不相当な要求もあります。こうしたものについては、病院として組織的に対応できる制度作りを行い、それに沿って適切に運用していくことが必要になります。カスタマーハラスメントを放置し、それが原因となって職員の方が精神疾患等を発症してしまった場合には、労災となる可能性もあり、病院の損害賠償責任が問われることもあり得ます。カスタマーハラスメントには、適切に対処できる体制を整備しておくことが必要です。

 

3 病院・クリニックの方に顧問弁護士がサポートできること

 病院・クリニックには医師をはじめとした様々な専門職の方が在籍しています。それぞれの職種に沿ったルール作りを行い、それを基に就業規則・賃金規程等に定めることが必要となります。安全配慮義務の観点から、各種ハラスメント対策や労働時間の把握・管理も必要となります。

 そうしたことができていない場合には、労基法違反を問われたり、民事上の損害賠償責任を問われたりする事態にもなりかねません。

 上記の制度作りや、日々発生する労務管理をはじめとした諸問題について、顧問弁護士としてサポートさせていただきます。

Last Updated on 2024年8月30日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。

病院・クリニックの関連記事はこちら