1 よくある労務問題
業種にかかわらず、企業の方からご相談を受けることが特に多い労務問題としては
・問題社員(能力不足や勤務態度不良など)への対応
・従業員からの残業代請求
・従業員間のハラスメント
などが挙げられます。
⑴ 問題社員対応
能力不足や勤務態度が不良等の従業員がいると、それ自体が会社の生産能率を減少させるのみならず、周囲の他の従業員のモチベーションも低下させ得ることから、会社全体の生産能率を減少させるリスクがあります。そのため、そうした問題社員については、放置することなく、厳正に対処を検討する必要があります。
他方で、問題社員であるからといえども、直ちに解雇等の処分をなし得るわけではなく、労働関係法令に照らし慎重に、段階的な対応が必要です。
会社としては、最終的に解雇等の退職を目的とした措置も見据えるとしても、従業員に改善の機会を与えることが肝要です。
そのために求められる教育・指導の内容・程度は事案によって様々であり、また、配転等をすべき事案もあります。
⑵ 残業代請求
残業代請求に関して、訴訟上、時間外労働時間の立証責任は、従業員側にあります。しかし、現実的には、従業員側において労働時間を明確に把握し、資料を保存するのは容易でない一方で、使用者側は労働者の労働時間を管理すべき立場にあり、その資料の保存は容易といえます。こうした証拠の偏在等の観点から、企業が適切な労働時間管理を怠った場合には、裁判所に不利に扱われるケースもあります。企業としては、使用者の労働時間の客観的把握義務に基づき、適切な労働時間の管理方法を確立しておく必要があります。
また、企業によっては、特定の役職等について管理監督者として扱うために残業代を支払わないという運用をしています。法律上、管理監督者に当たるかは「部長」や「課長」等の形式的な役職名ではなく、その権限等から実質的に判断されるものであり、その要件は厳格です。そのため、管理監督者として扱われている役職等が、実際には法律上の管理監督者の要件を満たしていないことも少なくありません。
さらに、企業によっては、固定残業手当という形で、一定の残業時間に相当する残業代を固定的に支払うという運用をしています。固定残業手当については、判例上それが有効というために一定の要件があるところ、要件を満たす形で適切に設定されていなければ、固定残業手当として認められません。固定残業手当として認められなかった場合、①固定残業手当として扱っていた全額について残業代の支払いとは認められないという不利益に加えて、②固定残業手当として扱っていた全額が残業代の算定の基礎に含まれる(=時間当たりの単価が増える)という不利益の2つの不利益(いわゆる「ダブルパンチ」)を受けることとなります。
上記のように、労働時間の管理に問題がある、管理監督者として認められない等のために残業代が発生している場合、当然その期間が長ければ長いほど、残業代は多額に上ります。しかも、一部の従業員だけでなく、問題が共通している場合には、多数の従業員により同時多発的に残業代請求がなされる可能性もあり、総額として莫大な金額となり得ます。
そのため、残業代について従業員による請求として顕在化する以前に、平時より対策をしておくことが肝要です。労働時間の管理方法、管理監督者や固定残業手当含む、労働時間規制に関連する企業の制度や就業規則等について、適正さが確保されているか確認しておく必要があります。
また、実際に従業員から残業代請求を受けた場合、それが訴訟にまで発展すると公開の法廷で主張・立証活動が行われ、他の従業員にも波及するリスクがあるため、その交渉においては慎重な対応を要します。
⑶ ハラスメント
セクハラ・パワハラなどのハラスメント問題は、従業員の就業環境を悪化させるとともに、会社が適切な対応をしないと従業員の会社への信頼が損なわせ、従業員全体のモチベーションの低下に繋がります。
加えて、ハラスメントが起こると、会社は、使用者責任により高額な損害賠償責任を負うリスクがあるだけでなく、マスメディアでの報道等やSNSでの拡散によって会社の社会的評価が失墜することがあります。
このように、ハラスメントは多様かつ重大な損害を企業に与えるリスクがあります。
リスク回避のためには、ハラスメントを予防すること、及び発生した場合の対応を確立することが重要です。平素より、ハラスメントの教育、研修を行うとともに、相談窓口の周知・啓発等を徹底すべきです。
また、実際にハラスメント被害の申告があった場合には、迅速かつ適切な対応が要求されます。申告に基づく、再発防止等のための対応を怠れば、被害者に二次被害を生じさせ、問題をより拡大させる危険があります。他方で、加害者とされる従業員について、十分な調査や検討なくしてハラスメントを認定すると、加害者とされる従業員との間においても問題が拡大する可能性があります。
ハラスメント行為の有無に関しては、その証拠が被害者等の供述が主となり、客観的な証拠が乏しいことが多く、事実認定に苦慮することが少なくありません。また、ある行為がハラスメントに当たるかは、その方法、態様、回数等の事情のみならず、目的等を含め総合的に判断されるものであり、抽象的に評価できるものではありません。さらには、ハラスメントと認定できたとしても、その軽重は様々であり、加害者への処分の内容や、被害者救済の方法は一義的には定まりません。
こうした事実認定・評価・それに基づく措置いずれの過程においても微妙な判断を要することから、それら過程において専門家に相談することが望まれます。また、専門家を、従業員の外部のハラスメント相談窓口として設定することも有効といえます。
2 企業の方に顧問弁護士がサポートできること
上記の各問題含め、労務問題に関しては、未だ紛争が顕在化していない平時において、予防的な対策を行うことが何より肝要です。この点、企業に顧問弁護士がいれば、労務管理上の不安等について日常的に気軽に相談し、解決策の提案や、法的リスクのチェックを受けることができます。これにより、法的トラブルの発生を未然に防止できる可能性も高まるでしょう。
また、実際に紛争に発展した場合に、スポット的に法律事務所に相談するとなると、その事案の内容以前に、その企業の内情について共有するための時間的コストがかかります。対して、顧問弁護士であれば、日頃から相談を受けている故にその企業の内情に対する理解が深いことから、より迅速で的確な対応が期待できるでしょう。
労働問題を専門とする当事務所は、長年にわたり、様々な企業の顧問弁護士として、労務に関する相談を受け、また労働紛争に携わった実績があります。
労務管理に不安のある企業の方は、当事務所に一度お気軽にご相談ください。
Last Updated on 2024年8月30日 by loi_wp_admin