1 製造業・メーカーの特徴
製造業は、日本の労働総人口約6700万人に対し、1000万人以上が就業しており、日本経済の中心とも言える産業です。
一口に製造業と言っても機械製品、金属製品、電子部品、化学製品、食品など様々ですが、本稿では、製造業一般で問題となり得る法律問題について、以下で解説いたします。
2 製造業特有の労務問題
(1) 労働災害
製造業では、製品の製造過程での事故や、長時間労働に伴う過労死・過労自殺などが起こりやすい傾向にあります。
労災が発生した場合、労働者側から安全配慮義務違反等を根拠に多額の損害賠償請求がなされることがあります。
そのため、機械の定期的な整備等の管理体制の徹底や、長時間労働を未然に防止できる体制の整備が必要です。
特に、長時間労働については、労災の判断における労働時間の算定は、暦月ではなく、発病時から起算しますので、暦月での計算ではいわゆる過労死ラインに達していなくとも、発病時から遡って労働時間を計算すると過労死ラインに達してしまうことがありますので、注意が必要です。
(2) 労働時間管理(シフト制・残業代請求)
製造業では、シフト制による出勤体制が組まれたり、時間外労働(残業)が発生したりすることが多い傾向にあります。
シフト制については、どのようなシフトを組むのかは、基本的に会社側の裁量が認められますが、恣意的なシフトの決定をしてしまうと裁量権の逸脱・濫用として、損害賠償請求が認められる可能性がありますので、注意が必要です。
時間外労働(残業)については、場合によっては残業代の支払とは別に、付加金(金額としては残業代と同額となることが多いです。)の支払を命じられる可能性もあります。残業代を支払っていなかったことにより、未払の残業代だけでなく、それと同額の付加金を別途支払わなければならなくなることは、経営上、かなりの痛手ともなり得ますので注意が必要です。
また、労働者側の残業代請求に対する会社の反論として、いわゆる固定残業代を支払済みであるといった主張や、管理監督者に該当するため残業代を支払う理由はないといった主張をすることがよくあります。
しかし、固定残業代や管理監督者の主張が有効として認められるためには、一定の要件を満たす必要があります。この主張が認められない場合、固定残業代として支払っている手当や管理職手当などは、残業代を計算するための基礎賃金に算入され、残業代が想定よりもかなり多額にわたってしまう可能性もあります。
そのため、固定残業代や管理監督者該当性が認められ得るかなどを事前にチェックしておく必要があります。
(3) 情報管理・競業避止
製造業では、製品の情報や製造のノウハウなどが外部に漏れてしまうと、模倣品が製造される等により損害が生じかねませんので、これらの情報を外部に漏らさないように管理する必要があります。
そのため、労働者に対して秘密保持義務や競業避止義務を課した就業規則を定めたり、誓約書への署名・押印等をさせたりすることがよく見受けられます。
しかし、就業規則や誓約書があるからといって、必ずしも秘密保持義務や競業避止義務が認められるわけではありません。例えば、秘密保持義務については、その企業において保護の対象としている「秘密」というのはどのような内容なのかを具体的に定めたり、秘密とされている情報等を実際に社外秘として取り扱っていたりする必要などがあります。また、競業避止義務については、競業避止の目的、在職中の従業員の地位、禁止の地理的・期間的制限の有無、代償措置の有無等を考慮して有効性が判断されます。
そのため、条項の定め方によっては、これらの義務の定めが無効となることがあります。
したがって、就業規則や誓約書の定めが有効となり得るのかなどについて、事前にチェックしておく必要があります。
(4) 雇用形態の多様性
製造業は、一般的に人手不足であると言われていますので、いわゆる正社員のみならず、有期雇用社員などを雇い入れたり、派遣社員や出向社員などを受け入れたりしているところも多い傾向にあります。
有期雇用社員などについては、雇止めや期間途中の解雇、同一労働同一賃金、派遣社員や出向については、派遣元・出向元及び派遣社員・出向社員との契約関係や偽装請負、偽装出向など様々な法律問題が生じ得ます。
まず有期雇用社員の雇止めについては、契約更新の合理的期待の有無や雇止めをする客観的合理的理由及び社会的相当性の有無などが考慮され、場合によっては、雇止めが違法となることがあります。また、有期雇用社員の期間途中解雇についてはやむを得ない場合に限って認められており、一般的に、正社員を解雇する場合よりもハードルが高いため、慎重な判断が求められます。
派遣元・出向元及び派遣社員・出向社員との契約関係については、派遣先・出向先の企業の派遣社員・出向社員への懲戒処分の可否、安全配慮義務の有無、労働基準法の適用関係など様々な問題があります。
偽装請負や偽装出向についても、形式的には請負や業務委託契約としていても実質的には注文者が直接指揮命令をしている場合には偽装請負となり、また、雇用維持目的、経営指導、職業能力開発、人事交流等の適正な目的によらずに出向を装って実質的な労働者供給を目的とするような場合には偽装出向となり違法となります。
(5) 工場閉鎖に伴う人員整理
採算の取れない工場を閉鎖する場合には、これに伴い、その工場で働いていた従業員を解雇することもあり得ます。
このような経営上の理由による解雇(整理解雇)は、従業員には落ち度がないにもかかわらず行われるものであるため、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の履践、③対象者選定の合理性、④解雇手続の妥当性などを総合的に考慮して有効性が判断されます。そして、このうち、①から③については、企業側に立証責任があるものと考えられております。また、④については、一般的には従業員側に立証責任があるものと考えられておりますが、裁判実務上は企業側も積極的に立証活動を行うのが通常です。そのため、整理解雇を行うにあたっては、①から④について、事前に検討しておくだけでなく、しっかりと客観的な証拠を残しておく必要があります。
3 製造業の方に顧問弁護士がサポートできること
上記をはじめとした法律問題は、実際に問題が発生してから対応を検討するよりも、問題が発生する前に対応する方が、未然に問題の発生を防ぐことができ得ると考えます。そのため、事前にご相談をいただくことにより、事前の対応策等をアドバイスすることが可能です。
また、実際に問題が発生してしまった場合においても、善後策をアドバイスさせていただいたり、代理人として交渉、調停、裁判等の対応をさせていただくことなども可能です。製造業でお悩みの方はお気軽に当事務所にご相談ください。
Last Updated on 2024年8月30日 by loi_wp_admin