
文責:織田 康嗣
突然、裁判所から「労働審判手続申立書」が届き、驚かない経営者や人事担当者はいません。不当解雇であり、従業員であることの地位の確認を求める、未払賃金の請求、慰謝料請求など、会社にとって厳しい要求が並んでいることがほとんどであり、動揺してしまうのもやむを得ません。
しかし、ここで対応を誤れば、多額の解決金の支払いや、問題社員の復職という、会社にとって最悪のシナリオを招いてしまいます。労働審判は通常の訴訟とは異なり、スピード感を持った対応が求められます。本記事では、不当解雇を主張された際の会社側の対応について解説します。
1 労働審判で不当解雇を主張された場合、会社が最初にすべきこと
不当解雇を主張する労働審判の申立てがなされた場合、会社としては、①どのようなリスクを負っているのか、②対応に向けたスケジュール感を確認する必要があります。
(1)企業が直面するリスクと早急な対応の必要性
まずは、労働審判申立書の冒頭に記載のある申立ての趣旨の内容を確認しましょう。当該欄には、申立人(労働者)がどのような審判を求めるのかが記載されています。
不当解雇を主張されている場合、「申立人が相手方に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する」という地位確認と、「相手方は、申立人に対し、令和〇年〇月○日から本労働審判確定の日まで、毎月〇日限り各金○万〇円及びこれに対する各支払日の翌日から年3分の割合による金員を支払え」というバックペイ(解雇後の賃金)の請求がなされていることがほとんどではないかと思います。
解雇が無効ということになれば、法的には、従業員としての地位が継続していることとなり、解雇した日以降の賃金の支払い義務が生じます。そのため、上記のような申立ての趣旨になっていることがほとんどとなります。
なお、労働審判の手続き選択がなされる場合、その手続きの特性上、多くは金銭的解決で決着するため、実際に復職に至ることは少ないです。とはいえ、労働審判委員会に解雇無効の心証を持たれた場合には、多額の解決金の支払を要する可能性がありますし、労働審判の手続きで決着せず、訴訟に移行することもあります。訴訟に移行した場合、時間の経過とともに、解雇後の賃金請求も段々膨れ上がっていくことになります。
会社としては、自社が置かれている状況、リスクを把握したうえで、労働審判への早急な対応を進めていく必要があります。
なお、労働審判が申し立てられ、呼び出しを受けた相手方等が正当な理由なく出頭しないときには、過料の制裁が可能になっています(労働審判手続法31条)。また、呼び出しを受けた相手方が期日に出頭しないときであっても、労働審判手続は進行し、申立人側の主張立証で審判を下せる場合には、第1回期日でも審判が出ます。
申し立てられた内容に不満があるからといって、呼び出しを無視するべきではありません。
(2)労働審判の進行は想像以上にスピード重視
通常の労働訴訟は、審理に時間を要することが少なくなく、不当解雇を理由とした地位確認訴訟においても、1~2年の審理期間を要することがあります。
この点、労働審判制度は、労働紛争を迅速に解決するために作られた制度です。そのため、「原則として3回以内の期日で審理を終える」いうルールが設けられており、長くても3回以内に結論が出ることになります。
また、申立後の流れも以下のとおりであり、対応する会社側のスケジュールもタイトな内容になっています。
申立て
↓
期日指定・呼び出し
(申立てから約40日以内に指定されます)
↓
答弁書の提出
(第1回期日の7~10日前を提出期限とされることがあります)
↓
第1回期日
↓
第2回期日
↓
第3回期日
↓
労働審判
↓
異議申立てした場合、訴訟移行
このように、会社に裁判所から書類が届いてから反論をまとめるまでに、実質的に2週間〜3週間程度しか猶予がないケースがほとんどです。この短期間で、過去数年間の指導記録を掘り起こし、証拠を揃え、法的な反論を組み立てる必要があります。
また、労働審判では、第1回の期日が心証形成において、最も重要な期日であって、答弁書の内容が不十分である場合、会社に大きく不利になります。タイトなスケジュールへの対応や、答弁書を法的に充実した内容にするためにも、すぐに弁護士に相談することが重要であるといえます。
2 会社側が確認すべき3つの重要ポイント
不当解雇の訴えに対し、会社が「解雇は有効である」と主張するためには、法的なハードルをクリアしなければなりません。
不当解雇を主張されている場合、以下の3点を確認する必要があります。
①解雇理由に客観的・合理的な根拠はあるか?
労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。
単に「やる気がない」「協調性が欠ける」といった主観的な評価だけでは、裁判所は不当解雇と判断してしまいます。例えば、以下のような具体的な主張が必要となります。
【例】
能力不足の場合: どの業務において、どの程度のミスが、何回発生したのか。それが他の従業員と比較して著しく劣っていると言えるか。
規律違反の場合: 無断欠勤、業務命令違反、セクハラ・パワハラなど、具体的な事実関係が特定されているか。
経営上の理由(整理解雇)の場合: 経営が悪化し、人員削減の必要性があるか。希望退職の募集など、解雇を避けるための努力を尽くしたか。
②解雇手続きに問題はなかったか
内容が正当であっても、解雇手続に不備があれば、解雇の相当性の枠内で考慮されたり、不利に働くことがあります。
【例】
改善機会の付与: 解雇する前に、注意・指導(叱責だけでなく、具体的な改善案の提示)を行ったか。
弁明の機会: 本人の言い分を聞く場を設けたか。
解雇予告: 30日以上前に予告したか。即時解雇の場合は30日分以上の解雇予告手当を支払ったか。
③ 証拠(書類・記録・メール等)は揃っているか?
労働審判委員会(裁判官1名と、専門知識を持つ審判員2名)は、書面と証拠で事実を判断します。「口頭で厳しく注意した」という主張も、証拠がなければ、十分に認定してもらえない恐れがあります。以下の証拠が揃っているか、社内をくまなく探す必要があります。
【例】
・指導日報、面談メモ、指導メール
・改善勧告書、警告書、始末書
・タイムカード、PCのログ(勤怠不良事案における出退勤や業務実態の証明)
・他の従業員の陳述書(パワハラ・セクハラ等の場合)
3 労働審判に備えて弁護士と進めるべき準備
労働審判手続では、書面(書証)の検討だけでなく、期日に出頭した関係人の審尋を行い、争点に対する司法判断を行っていきます。そのため、充実した書面、証拠の提出、審尋の準備を事前に行っておくことが重要となります。
(1)答弁書の作成と提出期限を守る重要性
労働審判では、第1回期日にすべての主張と証拠を出し切ることが求められます。「後から証拠を出せばいい」という考えは通用しません。
裁判所から答弁書の提出期限が定められますが、提出期限に遅れてしまえば、裁判所の心証を害するだけでなく、労働審判委員会が事前評議を行うことの妨げにもなりかねません。充実した答弁書を期日通りに提出することが必要不可欠となります。
(2)提出する証拠の整理と弁護士のレビュー
集めた証拠の中には、実は会社にとって不利に働くものが混ざっていることがあります。例えば、指導のつもりが過度な暴言を含んでいたメールなどは、逆にパワハラを認める証拠になりかねません。
弁護士に相談のうえ、証拠としての価値を精査した上で、有利なものを選別して提出することが重要です。
(3)期日に出席する社内担当者の準備
労働審判では、当事者本人の出席が原則です。会社側からは、解雇の経緯を最も詳しく知る直属の上司や、人事責任者が出席するのが一般的です。
期日当日は、労働審判委員会から、当事者や関係者に対し、争点に沿って事実関係に関する質問がなされていきます。前述したように、労働審判手続においては、第1回期日が勝負となるので、「なぜ配置転換で解決しようとしなかったのか?」、「この指導のとき、本人は何と言っていたか?」など、労働審判委員会からなされる質問に対し、的確に答えられるよう準備して臨まなければなりません。
期日前に弁護士も含めて、相手方が提出した書面の内容を踏まえ、想定される質問を検討し、どのように対応するか事前準備しておくことが肝要となります。
4 弁護士視点で見る「初動対応でやってはいけない」ミス
労働審判という慣れない場において、良かれと思ってやった行動が、結果として会社を窮地に追い込むことがあります。
(1)期限ギリギリの提出・内容の薄い主張
「忙しいから」「まだ整理がつかないから」と答弁書の提出を遅らせることは、審判官の心証を著しく害します。また、中身が薄く、抽象的な反論では、第1回期日で労働者側に有利な心証を固められてしまいます。
(2)準備不足による証言の不一致・信用失墜
答弁書に書いた内容と、当日出席した担当者の発言が食い違うことは、会社側の主張の信用性を棄損します。「書面では『何度も指導した』とあるが、何回指導をしたのか?」と質問された際、言葉に詰まるようでは、会社の主張に揺らぎが生じます。想定される質問に対しては、答えられるよう事前準備を怠らないようにすべきです。
(3)証拠の欠落や改ざんと誤解される行動
後から「指導記録がなかったから」と、記憶を頼りに当時の日付でメモを捏造するような行為は許されません。
労働者側が持っている録音データ等により、捏造は容易に発覚します。一度でも「証拠を偽造する会社」というレッテルを貼られれば、不当解雇かどうかの議論以前に、社会的な責任を厳しく追及されることになります。
5 労働審判で企業が損をしないために弁護士と行うべき対応
労働審判の最終的な着地点には、大きく分けて「調停(話し合い)」と「労働審判(裁判所の判断)」の2つがあります。実務上、8割近くが調停によって解決しています。
不当解雇と認定されるリスクが僅かでもある場合、あるいは訴訟に移行して泥沼化することを避けたい場合、「適切な金額での早期解決」は、経営判断として合理的です。
解決金の相場は、解雇の有効性と相関関係によって定まります。弁護士は、過去の事例等に基づき、「この事案なら最大でこれくらいの支払いリスクがある。だから、今の段階でこの金額で和解するのが会社にとって合理的である」といった判断のもと、手続きを進めることが可能となります。
6 初動チェックリスト(理由・手続・証拠・人選・期限)
申立書が届いたら、直ちに以下のリストをチェックし、現状を把握してください。
【解雇理由の再確認】
・解雇通知書に記載した理由は、客観的な証拠で裏付けられるか?
・その理由は、他に従業員が同じことをした場合でも解雇するほど重いものか?
【手続の再点検】
・解雇予告または解雇予告手当の支払い、社会保険の手続きは適正に行われているか?
【証拠の網羅的収集】
・メール、チャット(Slack/Teams等)、日報、議事録等の客観的記録が残っているか?
・当時の担当者からヒアリングを行い、概要を確認できるか?
【適切な出席者の選定】
・第1回期日に出席する担当者を誰にするべきか?
【期限の厳守】
・第1回期日、答弁書の提出期限はいつか?
7 弁護士に早期相談することで対応の精度とスピードが上がる理由
上記のとおり、労働審判は、短期間に集中して準備を行う必要がある手続です。弁護士を早期に介入させるメリットは十分にあります。
・充実した答弁書の作成
第1回に全ての争点に対する反論が述べられるよう、弁護士が答弁書を作成することで、法的に充実した答弁書を作成することができます。
・有利な証拠の整理
前述のように、証拠には有利にも不利にも解される証拠があります。弁護士が当該証拠の法的な意味を分析し、有利な証拠を整理し、提出することができます。
・審尋の事前準備
これまでの労働審判の経験等から、想定される審尋の内容を予測し、審尋の事前準備を入念に行うことができます。
・落とし所の早期見極め
「このケースは勝てる」のか「早期に和解すべき」なのかを、経験則から判断し、期日当日の和解交渉を進めることができます。
8 当事務所のサポート内容
当事務所は、これまで数多くの企業に対し、労働紛争の解決をサポートしてきました。会社側の労働審判の対応経験も多数ございます。
貴社の担当者様からじっくりとお話を伺い、主張を法的に整理するだけでなく、陳述書の作成などを通じ、会社側の言い分を最大限に引き出します。
また、労働審判が終わった後においても、紛争原因を分析し、就業規則の改定や、管理職向けの労務管理研修を行い、二度と不当解雇を主張されない強い組織作りを支援することも可能です。
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Last Updated on 2026年3月6日 by loi_wp_admin



