
文責:福井 大地
「ある日突然、裁判所から労働審判の呼出状が届いた」
「元従業員から数百万円の未払い残業代を請求された」
こうした事態に直面した際、経営者様や人事担当者様が最初に抱く不安の一つが、「弁護士に依頼すると費用はいくらかかるのか?」という点ではないでしょうか。
労働審判は、原則として3回以内の期日で審理が終了するスピード重視の手続きです。そのため、企業側は短期間で集中的な対応を迫られ、弁護士費用も通常の訴訟とは異なる構造になります。
本記事では、企業側における労働審判の弁護士費用の相場、その内訳、そして費用をかけてでも弁護士に依頼すべき「費用対効果」について、具体的な数字を交えて解説します。
1 労働審判対応で会社が支払う弁護士費用の全体像と相場
まずは、労働審判対応を弁護士に依頼した場合のトータルコストと、その内訳について解説します。
1-1. 企業側の労働審判費用の目安
結論から申し上げますと、企業側(被申立人)が労働審判対応を依頼する場合、着手金と報酬金を合わせたトータルの弁護士費用相場は、およそ60万円~120万円程度(計総利益300万円~500万円程度の場合)が一般的です。
「高い」と感じられるかもしれませんが、労働審判は第1回期日までの約30日間~40日間で勝敗の行方がほぼ決まります3。この短期間に弁護士のリソースを集中的に投下する必要があるため、専門的な準備への対価として上記の相場が形成されています。
1-2. 費用の内訳
弁護士費用は主に以下の4つの項目で構成されます。
① 法律相談料
・相場
30分 5,000円~1万円(税別)程度
・概要
正式依頼前の初動相談費用です。近年は「初回無料」の事務所も増えていますが、企業法務を専門とする事務所では、高度な戦略立案の対価として、タイムチャージ制(1時間あたり1万円~3万円等)を採用しているケースも多く見られます。
② 着手金
・相場
30万円~60万円(税別)程度
・概要
案件の受任時に発生する費用で、結果にかかわらず返還されません。労働審判は短期決戦であり、弁護士が他の案件を止めてでも優先的に対応しなければならないため、この価格帯が標準的となっています。
③ 報酬金
・相場
経済的利益の10%~20%程度
・概要
解決時に発生する成功報酬です。企業側の場合、「相手の請求額をどれだけ減額できたか(排除できたか)」を成果として計算します。
④ 実費・日当
・相場
10万円~15万円程度
・概要
弁護士が裁判所へ出廷する際の日当(1回3万円~5万円×3回分程度)や、交通費などが含まれます。
1-3. 裁判所への申立費用(実費)はいくらか?
弁護士費用とは別に、裁判所に納める実費も必要です。ただし、労働審判は通常の訴訟に比べて手数料が安く設定されています。
①印紙代(申立手数料)
請求額に応じて変動します。例えば500万円の請求であれば15,000円、1,000万円であれば25,000円です。
②郵便切手代(予納郵券)
数千円程度(相手方の人数等による)です。
2.弁護士費用を左右する要因
提示される見積もりが相場より高い、あるいは安い場合には理由があります。労働審判の費用は、事案の性質によって大きく変動します。
2-1. 事案ごとの着手金の相場
同じ労働審判でも、争点によって弁護士の工数は劇的に異なります。
・ 未払い残業代請求(相場:30万~40万円程度)
主な争点は労働時間の計算や、固定残業代制度の有効性です。証拠が客観的であるため、比較的費用は安定している傾向にあります。
・ 不当解雇・ハラスメント(相場:40万~60万円程度)
「解雇に正当な理由はあったか」「ハラスメントの事実はあったか」といった事実認定が主戦場となります。関係者へのヒアリングや陳述書の作成など、膨大な定性的作業が発生するため、費用は高額化しやすい傾向にあります。
2-2. 「経済的利益の額」が報酬金をどう決定するか?
企業側における報酬金は、「経済的利益(=減額できた金額)」を基準に計算されます。多くの法律事務所では、かつて日本弁護士連合会が定めていた「旧報酬規程(旧報酬基準)」を現在も報酬算定のベースとして採用しています。 この基準では、経済的利益の額に応じて、以下のように段階的な料率が設定されています。
【旧報酬規程に基づく報酬金の目安(民事事件)】
経済的利益の額 着手金の料率 報酬金の料率 300万円以下 経済的利益 × 8% 経済的利益 × 16% 300万円を超え 3000万円以下 経済的利益 × 5% + 9万円 経済的利益 × 10% + 18万円 3000万円を超え 3億円以下 経済的利益 × 3% + 69万円 経済的利益 × 6% + 138万円
※ いずれも税別。あくまで基準であり、事務所により異なります。また、着手金には最低額(例:10万円~30万円)が設定されるのが一般的です。
このように、争う金額(確保した利益)が大きくなるほど報酬総額は増えますが、適用される料率(%)自体は逓減する仕組みになっています。
2-3. 実際の計算シミュレーション
では、実際に元従業員から500万円の残業代請求を受け、弁護士の対応により100万円での和解(解決)に至ったケースで計算してみましょう。
① 着手金の計算(請求額500万円を基準とする場合)
着手金は「相手からの請求額(=対象となる経済的利益)」をベースに計算します。
・計算式:500万円 × 5% + 9万円 = 34万円(税別)
② 報酬金の計算(減額分400万円を基準とする場合)
報酬金は「減額できた金額(=確保した経済的利益)」をベースに計算します。
・減額分:500万円(請求額)- 100万円(支払額) = 400万円
・計算式:400万円 × 10% + 18万円 = 58万円(税別)
このように、着手金は「争う規模」に、報酬金は「成果の大きさ」に連動する仕組みとなっています。
2-4. 労働審判から訴訟に移行した場合の追加費用と総額リスク
労働審判で調停が成立しない場合(異議申し立てがあった場合)、自動的に「民事訴訟」へと移行します。
この場合、多くの事務所では「訴訟移行時の追加着手金」が発生します(例:10万円~20万円程度、あるいは当初着手金の半額程度など)。
初動の労働審判で解決できず訴訟までもつれ込むと、期間は1年以上に及び、追加費用もかさむことになります。だからこそ、最初の労働審判で決着をつけることが、トータルの費用を抑える最善策なのです。
3 弁護士費用を「コスト」ではなく「投資」と捉える理由
「弁護士費用100万円は高い」と感じる経営者様もいらっしゃるでしょう。しかし、適切な対応をしなかった場合に企業が負うリスク(敗訴コスト)と比較すれば、それは極めて合理的な「投資」であることが分かります。
3-1. 弁護士なしで敗訴した場合のコスト:解決金、遅延損害金、企業の信用失墜
もし弁護士費用を惜しみ、自社のみで対応して敗訴(解雇無効)となった場合、どのような損失が発生するでしょうか。
・ バックペイ(未払い賃金)の支払い
解雇期間中の賃金を全額支払わなければなりません。月給40万円の社員と1年半争って負けた場合、約720万円の支払い義務が生じます。
・ 遅延損害金の加算
上記の金額に加え、年3%~程度の遅延損害金が上乗せされます。
・ 社内への波及
安易に労働者の言い分を丸呑みすると、「会社はゴネれば金を出す」という噂が広まり、他の従業員からの追随請求を誘発するリスクがあります。
3-2. 弁護士依頼による請求額の減額幅と経済的利益の最大化
専門家が介入することで、これらの損失を回避(利益を最大化)できる可能性が高まります。以下は、解雇事件における具体的な費用対効果のシミュレーションです。
【ケーススタディ:不当解雇で500万円相当を請求された場合】
項目 弁護士なし(敗訴想定) 弁護士あり(解決金で和解) 会社が支払う解決金等 約750万円 (バックペイ等) 150万円 (解決金) 弁護士費用合計 0円 約115万円 (着手金+報酬金等) 会社の実質負担総額 約750万円 約265万円 差額(削減効果) – 約485万円の支出減
※ 上記は一例であり、実際の金額を保証するものではありません。
このように、弁護士費用として115万円を支払ったとしても、敗訴時と比較して約500万円近い損失を防ぐことができるのです。これが、弁護士費用は「コスト」ではなく「企業防衛のための投資」である理由です。
3-3. 顧問弁護士を活用した場合の割引制度と平時のリスク対策費用
普段から顧問契約を結んでいる場合、多くの法律事務所では労働審判の着手金を一定割引するなどの優遇措置を設けています。
また、日頃から顧問弁護士に相談し、就業規則の整備や適切な労務管理を行っていれば、そもそも労働審判のような紛争発生自体を防ぐことができます。これは最も費用対効果の高いリスク対策と言えます。
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4.弁護士選びの重要性
労働審判においては、「どの弁護士に頼んでも同じ」ではありません。費用だけでなく、能力を見極める視点が重要です。
4-1. 労働法務の専門性と労働審判の実績を確認する
労働審判は、通常の裁判とは全く異なるルールで動いています。
特に重要なのが「第1回期日」です。通常の裁判は何度もやり取りを重ねますが、労働審判は第1回期日で裁判官の心証(勝敗の行方)がほぼ決定づけられます。
一般民事(離婚や交通事故等)を中心に行っている弁護士では、このスピード感や労働法特有の専門知識に対応しきれず、結果として解決金が高額になる恐れがあります。そのため、「企業側の労働問題」に強い弁護士を選ぶことが推奨されます。
4-2. タイムチャージ方式、定額制など費用体系を比較検討する
見積もりを取る際は、総額だけでなく「課金方式」も確認しましょう。
・ タイムチャージ制: 稼働時間に応じて請求される方式。納得感は高いですが、時間がかかれば青天井になるリスクもあります。
・ 定額(着手金・報酬金)制: 一般的な方式。事前にコストの上限が見えやすいため、予算管理がしやすいメリットがあります。
「着手金が安い」という理由だけで選ぶと、後から追加費用を請求されるといったトラブルにもなりかねません。提示された費用の根拠をしっかりと確認することが重要です。
5.当事務所のサポート内容
当事務所は、企業側の労働問題解決の実績とノウハウを有しています。
「迅速な初動対応」と「明確な費用体系」で貴社をサポートいたします。 経営視点での最適解(和解か、徹底抗戦か)をご提案し、不当な請求から会社の資産を守ります。
労働審判への対応はスピードが命です。まずは一度、当事務所の初回法律相談をご利用ください。
弁護士 福井 大地
Last Updated on 2026年1月23日 by loi_wp_admin



