医師の働き方改革とは?2024年施行の内容について弁護士が分かりやすく解説!

文責:福井 大地

2018年、働き方改革関連法により、労働関係法令は大きな変更が加えられました。もっとも、医師に関しては、時間外労働の上限規制等について経過措置が講じられましたが、2024年4月より施行されることとなり、医療機関において対応が求められています。当事務所においても、医療機関の方々から、「当院の時間外勤務の在り方が働き方改革に対応できているか」等ご相談いただくことがあります。

1 医師の働き方改革とは?

医師の働き方改革とは、医師等の労働環境改善と健康確保を目的として、長時間労働の制限を行う取り組みです。2024年4月1日から施行される改正医療法により、医師に対する時間外労働の上限規制が適用されることになりました。

医師の長時間労働は当たり前のように行われ、休日の取りにくさも常態化しています。医療ニーズが増加する一方で、医師不足が加速しているのが現状です。人材確保のためにも、医師の働きにくさの解消が求められています。

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2 医師の働き方改革における時間外労働の上限規制とは

2018年の働き方改革関連法の改正前において、いわゆる36協定で定める時間外労働の限度に関しては、厚生労働大臣の告示で定めていました。告示においては、協定当事者に対し必要な助言・指導を行うための基準として位置づけられ、罰則等による強制力がない上、臨時的な特別の事情に基づく特別条項により、限度時間を超える時間外労働を上限なく可能としており、実効性を欠くものでした。

そこで、2018年の働き方改革関連法は、労働基準法を改正し、このような告示内容を法律に格上げした上、よりその内容を厳しくしたものとなっています。すなわち、改正労働基準法においては、時間外労働の上限が、原則として、月45時間かつ年360時間であることが、法律上定められています。また、臨時的な特別の事情による特別条項に基づき、上記原則的な上限を超えて労働させることは認められているものの、その限度が設けられています。年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)が限度とされています。そして、これらのルールに違反し、時間外労働の上限を超えて労働させた場合には、刑罰の対象となります。

上記の働き方改革関連法における時間外労働の上限規制は、同改正以降においても、医師を含む一部業務については、その全部又は一部の適用が免除されてきました。

もっとも、2024年4月1日より、医師についても上記働き方改革による労働基準法が適用されることとなり、時間外労働の上限規制が及びます。

ただし、医師について一律に上限規制を適用した場合、地域医療や夜間医療体制の維持が困難になる等の弊害が生じ得ることから、一般的な労働者とは異なり、医療機関の性質ごとに満たすべき水準が別途定められています。

3 医師の働き方改革における「ABC水準」とは

ABC水準とは、医師の時間外労働規制に関し、A・B・Cのパターンで設定したものです。それぞれ対象となる医療機関の性質、及び特別条項に基づく時間外労働の制限の内容は、次のように定められています。

医療機関に適用される水準適用される事由時間外・休日労働時間の上限
A水準原則960時間
連携B水準医療機関が医師の派遣を通じてその地域の医療提供体制を確保するため1860時間(各院では960時間)
B水準救急医療等1860時間
C-1水準臨床・専門研修
C-2水準高度技能の習得研修

また、一般の労働者に適用される時間外労働の条件を超えて医師が働かざるを得ない場合、いわゆる追加的健康確保措置として、以下の措置が要求されます。

① 休息時間の確保(連続勤務時間の制限、勤務間インターバル、代償休息)

連続勤務時間の制限として、宿日直許可を受けている場合を除き、連続勤務時間は28時間が上限となります。

また、勤務間インターバルとして、

・ 通常の日勤および宿日直許可のある宿日直に従事させる場合には、始業から24時間以内に9時間の連続した休息時間を確保

・ 宿日直許可のない宿日直に従事させる場合には、始業から48時間以内に18時間の連続した休息時間を確保

が要求されます。

その上で、9時間または18時間の休息時間中にやむを得ない理由により発生した労働に従事した場合は、その労働時間に相当する代償休息を付与することが求められます。

② 面接指導、就業上の措置

使用者は、1か月の時間外・休日労働が100時間以上となることが見込まれる医師に対し医師による面接指導を実施することが求められます。

面接指導の結果、必要と認める場合には遅滞なく労働時間の短縮、宿直の回数の減少その他の適切な措置を実施することが求められます。

以上の追加的健康確保措置のうち、連続勤務時間の抑制・勤務間インターバルの確保・代償休息の付与については、A水準以外の医療機関においては義務ですが、A水準においては努力義務となります。

医療機関に適用される水準①連続勤務時間の抑制・勤務間インターバルの確保・代償休息の付与②面接指導・就業上の措置
A水準努力義務義務
連携B水準義務
B水準
C-1水準
C-2水準

4 病院が対応すべきポイント

病院は、医師の働き方改革に対応するために、以下のポイントを踏まえる必要があります。

⑴ 都道府県知事への水準指定の申請

上記ABC水準に関し、原則としてはA水準が適用され、その他の特例水準の適用を受けるには、都道府県知事の指定が必要となります。

そのため、A水準以外の適用を求める場合には、都道府県知事に特例水準指定の申請をする必要があります。

⑵ 追加的健康確保措置の実施

上記のとおり、追加的健康確保措置として、①休息時間の確保(連続勤務時間の制限、勤務間インターバル、代償休息)、②面接指導、就業上の措置については、いずれの医療機関が求められます。

A水準においては、①休息時間の確保(連続勤務時間の制限、勤務間インターバル、代償休息)について努力義務ではありますが、健康確保の観点からは遵守することが望まれます。

5 働き方改革について当事務所がサポートできること

当事務所は、労働事件専門の事務所として、働き方改革関連法を含め、各種法令の改正等の内容に精通し、各企業の実情に応じて、制度の見直し、就業規則の点検、改正内容についてのセミナー等を行ってきた実績があります。

また、顧問契約においては、随時、お客様に最新の法改正や判例等に関する情報を提供し、最新の法改正や判例等に関するセミナーも行っております。

働き方改革関連法含む法改正に対応できているか不安な方は、一度ご相談ください。

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Last Updated on 2025年2月18日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。

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