教育機関・学校における非違行為と法的対応について弁護士が解説

文責:松本 貴志

1 非違行為とは

1-1 非違行為の定義

法令や就業規則等に違反する行為のことを非違行為といいます。使用者は、非違行為を行った労働者に対しては、懲戒処分を行って、職場秩序の回復を図ることが考えられます。

1-2 教育機関・学校における非違行為の具体例

教育機関・学校の教職員の非違行為の具体例としては、以下のようなものがあります。

・生徒に対する暴言や体罰等の不適切な指導

・生徒や同僚に対するハラスメント

・生徒との不適切な関係(性的な関係など)

・修学旅行や部活動の積立金を着服する行為

・業務中のSNS利用

2 非違行為の法的責任

2-1 民事責任

教職員が上記のような非違行為を行った場合でも直ちに民事上の不法行為に該当するわけではありませんが、当該非違行為に違法性が認められ、被害者が損害を被っており、当該非違行為と被害者の損害との間に因果関係が認められる場合には、当該教職員は民事上の不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負います。

上記の具体例では、例えば業務中のSNS利用により、会社の社会的信用を棄損したようなケースでは、当該教職員は勤務先の教育機関・学校に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

一方で、生徒に対する不適切な指導やハラスメントを行った場合には、当該教職員は被害者である生徒に対して不法行為に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。また、当該教職員が「事業の執行について」不適切な指導やハラスメントを行った場合には、当該教職員の勤務先である教育機関・学校も、加害者である生徒に対して使用者責任に基づく損害賠償義務(民法715条1項)を負う可能性があります。

以上は、私立の教育機関・学校の場合の教職員の民事責任についてですが、国公立学校の場合には、公務員たる当該教職員がその職務を行うについて生徒に損害を与えた場合には、国または地方公共団体は、当該生徒に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

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2-2 刑事責任(法令違反による罰則)

例えば、教職員の生徒や同僚に対するハラスメントが強制性交罪、強制わいせつ罪、傷害罪、脅迫罪、強要罪、ストーカー行為等の規制に関する法律上のつきまとい行為等に該当する場合には、刑事責任を追及され、刑事罰を受ける可能性があります。被害者が生徒の場合、生徒に訴追意思がない場合でも、被害者の親が刑事告訴をする可能性もあります。

2-3 行政責任(教育委員会や学校法人による処分)

教職員が非違行為を行った場合には、勤務先である教育機関・学校や教育委員会から懲戒処分を受ける可能性があります。

当該教職員が公務員の場合には、国家公務員法や地方公務員法の定める懲戒事由に該当する場合には、懲戒処分を受ける可能性があります。

一方で、私立学校の教職員は、労働者であり、当該非違行為が就業規則上の懲戒事由に該当する場合には、就業規則上の懲戒処分を受ける可能性があります。ただし、当該非違行為が形式的に懲戒事由に該当したとしても、懲戒処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上の相当性が認められない場合には、権利の濫用として無効となります(労働契約法15条)。

公務員の場合も、私立の教育機関・学校の場合も、懲戒処分をするにあたっては、非違行為の態様・悪質性・結果の重大性、行為者のこれまでの処分歴、反省の程度、被害賠償の有無・内容、被害者の処罰感情、示談の成立の有無、職場秩序に与える影響の度合い等を総合的に考慮した上で、相当な処分を下す必要があります。

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3 公務員の非違行為は懲戒処分できるのか?

3-1 懲戒処分の対象となる行為(職務上の義務違反・私生活上の非違行為)

公務員の懲戒処分の事由としては、①国家公務員法等や地方公務員法等に違反した場合、②職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合、③全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合が挙げられています(国家公務員法82条1項1号~3号、地方公務員法29条1項1号~3号)。私生活上の行為であっても、職務遂行と密接に関連し、職場秩序に影響を与えるような場合には、懲戒処分の対象となり得ます。

3-2 処分の種類と基準(戒告、減給、停職、免職の違い)

懲戒処分には、免職、停職、減給、戒告の4種類があり(国家公務員法82条1項、地方公務員法29条1項)、いずれも不利益処分としての行政行為であり、行政不服審査や行政訴訟の対象となります。

免職は、当該教職員の公務員の地位を失わせる最も重い処分であり、重大な法令違反や公務員として著しく不適切な行為がある場合等にされる処分です。免職になると、退職金の全部または一部が不支給になります。

停職とは、一定期間、職務に就くことを禁止される処分であり、免職に次いで重い処分です。国家公務員の場合、停職処分とは、1日以上1年以下の期間、職務に従事させず、給与は支給されないことをいいます(人事院規則12-0)。地方公務員の場合、各地方公共団体の条例において、停職期間が定められています。

減給とは、一定期間、給与の減額を受ける処分であり、免職や停職についで重い処分となります。国家公務員の場合は、1年以下の期間で、基本給の月額5分の1以下に相当する額が減給されます(人事院規則12-0)。一方、地方公務員の場合は、各地方公共団体の条例で減額期間と減額金額が定められています。

戒告とは、文書または口頭で非違行為を戒め、将来を厳重に注意する処分で、公務員に対する懲戒処分の中で最も軽い処分です。

3-3 処分の手続きと法的根拠(地方公務員法・国家公務員法)

懲戒処分の基準については、国家公務員については、人事院が「懲戒処分の指針について」(平成12.3.31職職-68)という通知を発出しており、処分量定の決定にあたっての基本的考慮要素が掲げられているほか、非違行為と処分量定との対応関係が示されています。

地方公務員については、各地方公共団体ごとに懲戒処分の指針が定められていますが、人事院の懲戒処分に準じて作成されていることが多いです。

また、懲戒処分の手続きについては、国家公務員の場合は人事院規則12-0、地方公務員の場合は各地方公共団体の条例によって定められています。

懲戒処分をするにあたっては、当該行為者から具体的な事実関係に関して聴取を行い、弁明の機会を与えることが必要となります。

このような手続きを全く行っていなかったり、不十分であったりした場合には、手続的相当性を欠くとして、懲戒処分が取り消される可能性があります。

3-4 判例・実例(過去の懲戒処分事例)

教職員に対する懲戒処分の事例としては、Y市教育委員会事件(秋田地判令3.7.9労経速2461号24頁)は、レスリング部の監督を詰める高校教員が入学志願者の保護者である女性に対してキスをするなどの行為をして懲戒免職処分を受けた事案において、保護者女性の同意があったとの当該教員からの主張について、被害者が事態を深刻化させないよう迎合する態度をとることはままあるとして排斥し、懲戒免職処分は適法であるとしました。

また、長野県・県教委(公立中学校教員・酒気帯び・懲戒免職処分)事件・東京公判平25.5.29)は、公立中学校の教員が、前日午前6時半頃から午後11時半過ぎまでの間に飲酒し、就寝した後、翌朝財布が見当たらなかったことから、午前7時頃に自己所有車両を運転して近くの交番に赴き紛失届の手続きをした際、警察官から酒臭を指摘されて呼気検査を行ったところ、呼気1Lあたり0.3mlのアルコールが検出され、罰金30万円に処せられた事案において、アルコールの影響を自覚していなかったとしても不合理ではなく、呼気検査結果の数値から直ちに故意に等しいほどの重大な過失があったと評価することはできないとして、懲戒免職処分を取り消しました。

4 学校・教育機関・学校の対応

4-1 初動対応(窓口対応・事実確認・関係者ヒアリング)

最初の窓口対応においては、相談者が委縮により相談を躊躇する例もあることから、例えば相談者がハラスメントを主張する事案において、ハラスメントに該当するかどうかが微妙な場合であっても、広く相談に対応するべきです。

窓口対応の際は、センシティブな内容であることが多いため、原則として対応は個室で行い、報復措置等を恐れる相談者の心情に配慮して、相談による不利益な取り扱いを受けないことや、聴取した情報は漏らさないことなどを伝えることが肝要です。

また、相談者(被害者)からの事実確認においては、例えばセクシャル・ハラスメントの事案等においては、聞き手を相談者と同性にするなどの配慮も必要です。

さらに、相談者や関係者に対する事実確認においては、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、どのように行い、それはなぜか)を意識して整理しておくべきです。その上で、証拠の有無及びその内容についても確認しておくべきです。

相談者及び行為者からの聴取を行い、双方の主張が矛盾するなど、事実関係を確認する必要がある場合には、目撃者等の第三者への事実確認が必要となることがあります。第三者への事実確認の後、再度相談者や行為者に対して事実確認をすべきケースもあります。

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4-2 内部調査の実施

内部調査においては、相談窓口の担当者や人事部門が調査にあたるほか、重大な事件の場合には、専門の第三者委員会を設置して調査を実施することもあります。 

また、聞き取りにあたっては、中立的な立場の者が聞き取る必要がありますので、事件の関係者が調査の実施主体となるべきではないことは当然です。

4-3 懲戒処分の検討

調査の結果、行為者の非違行為が確認できた場合には、行為者に対する注意・指導のほか、非違行為の態様が悪質で職場秩序への影響が大きい場合には、懲戒処分を実施することも検討するべきです。

懲戒処分の量定については、私立学校の場合は就業規則に則って決定する必要があります。

一方で、公務員の場合には、前述のとおり、人事院の指針や各地方公共団体の懲戒処分の指針に則って量定を決定する必要があります。

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4-4 被害者・関係者対応(保護者・生徒・教職員への説明)

当該非違行為の被害者が生徒であった場合には、行為者の生徒や保護者に対する謝罪の他、当該教育機関・学校への信頼回復のため、報道機関や保護者に向けた説明会を開催するべきケースもあるでしょう。

併せて、かかる事態が二度と発生しないよう、各教職員に対して、当該非違行為に対する教育機関・学校の方針を改めて周知し、注意喚起を行うことも重要です。また、再発防止策として、コンプライアンス研修等の研修を実施することも考えられます。

5 弁護士の役割と必要性

5-1 法的アドバイスの提供

弁護士は、教育機関・学校における非違行為について、教育機関・学校側に対し、当該事案により学校側がどのような法的リスクを負うか、また、教育機関・学校側がどのような対応をとればかかる法的リスクを回避することができるか、といった法的アドバイスを提供することが可能です。

5-2 調査・処分手続きのサポート

非違行為の事案が発生した際の対応を誤ると、教育機関・学校側は被害者から民事責任を追及されるおそれもあるため、慎重な対応が必要となります。

弁護士は、相談者から相談を受けた際の初動対応、事実調査の方法、懲戒処分の量定の決定、再発防止策の検討について、法的なアドバイスをすることが可能です。

また、対応に慣れていない場合など、必要に応じて事実調査に弁護士を同席させることも検討されるところです。

6 当事務所のサポート内容

当事務所は、労働問題に経験豊富な弁護士が多数在籍しておりますので、教育機関・学校における非違行為が発生した際に備えるための内部通報・相談体制の整備、就業規則の整備、実際に事案が発生した際の対応方法に関するアドバイス、教職員向けのハラスメント研修の実施等、様々なサポートが可能です。 教育機関・学校における非違行為にお困りの際は、是非当事務所に一度ご相談ください。

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Last Updated on 2025年7月18日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。