
文責:岩出 誠
はじめに
遅刻や欠勤を繰り返す問題社員への対応は、単なる労務管理の範疇を超え、労働契約上の債務不履行や企業秩序の維持という法的論点を内包しています。遅刻や欠勤を繰り返す問題社員を放置することは、職場の士気低下や業務上の経済的損失を招くリスクがあり、使用者は適切な指導・警告とその証拠化、さらには労契法に基づく解雇権濫用法理を遵守した段階的な対応が求められます。特に、遅刻や欠勤を繰り返す背景にメンタルヘルス不調が疑われる場合には、安全配慮義務の観点から慎重な見極めが必要となります。最終的に解雇を検討する際も、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を備えるためのプロセスが不可欠です。
1 遅刻・欠勤の繰り返しが企業経営に与える法的・実務的リスク
(1)職場秩序の乱れと他社員への「不公平感」による士気低下
遅刻や欠勤を繰り返す問題社員による事前の届出のない勤怠不良は、企業の業務運営や職場秩序に混乱を生じさせるものです。東京プレス工業事件・横浜地判昭57・2・25判タ477号167頁においても、無断での遅刻や欠勤は職場秩序を乱すものであると明示されています。また、遅刻や欠勤を繰り返す問題社員の業務を他の従業員が肩代わりせざるを得ない状況は、組織全体の労働能率や士気に悪影響を及ぼします。
(2)業務の遅延や顧客からの信用失墜が生む経済的損失
遅刻や欠勤を繰り返す問題社員の存在は、会社の事務能率上、無視できない支障を及ぼします。長期欠勤や頻繁な遅刻により、担当業務が指示通りに遂行されない場合、会社業務の停滞を招き、結果として経済的な損失や対外的な信用失墜につながるリスクがあります(東京海上火災保険(普通解雇)事件・東京地判平12・7・28労判797号65頁)。
(3)労働契約上の義務違反(債務不履行)
労働者は雇用契約に基づき、誠実に労務を提供する義務を負っています(労基法2条2項、労契法3条4項は、労働者の誠実義務を明記しています)。遅刻や欠勤を繰り返す問題社員が正当な理由なくこれを行わないことは、労働契約上の債務不履行に該当します。単なる債務不履行に留まらず、企業の指揮命令に従わない点において企業秩序への違反行為(規律違反)としても評価されます。
2 問題社員をめぐるトラブル予防・対応アドバイス
(1)まずは「理由」を特定する
(ア)メンタルヘルス不調が隠れている場合の注意点
単なる怠慢か、病気(うつ病等)かで見極めと対応が変化します。
遅刻や欠勤を繰り返す問題社員に対し、改善指導を行う前提として、その欠勤理由が合理的かどうかを特定する必要があります。単なる職務怠慢であれば懲戒処分の対象となり得ますが、精神疾患等の健康被害が原因である場合、対応は大きく異なります。会社は、遅刻や欠勤を繰り返す原因が健康状態の変化によるものか、注意深く観察し、必要に応じて弁明の機会を与えるなどのプロセスを踏むべきです。
例えば、日本ヒューレット・パッカード事件・最二小判平24・4・27労判1055号5頁では、被害妄想的な言動を繰り返し、出勤督促をしても欠勤40日に及んだ者への諭旨退職につき、「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想され……使用者……としては、……精神科医による健康診断を実施するなどした上で……、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、(注上記欠勤)から直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い」として、「欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たら……ず、……就業規則所定の懲戒事由を欠き、無効」としています(同判示は、懲戒処分への判示ですが、普通解雇における解雇の客観的合理性と社会的相当性および解雇手続に関する解雇権濫用法理の適用としても参酌され得る含みをもつものと解されます。岩出誠「判批」ジュリ1451号116頁参照)。
しかし、メンタルヘルス不調と問題の非違行為が関連付けられない場合は懲戒が有効とされます(ヒタチ事件・東京地判平25・3・6労経速2186号11頁〈メンタル上の問題がある労働者の配転命令違反を理由とする諭旨解雇が有効とされた〉)。
(イ)安全配慮義務の観点
日本ヒューレット・パッカード事件最判が指摘しているように、会社が受診勧奨や休職検討をすべきケースがあります。即ち、使用者は、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています(労契法5条)。遅刻や欠勤を繰り返す問題社員の言動が、精神疾患に起因する可能性がある場合、安易な就業禁止や処分をせず、産業医による面談や精神科への受診勧奨、通院加療の命令などの措置を講じることが重要です。裁判例(さいたま市事件(環境局職員)事件・東京高判平29・10・26労判1172号26頁、三洋電機サービス事件・東京高判平14・7・23労判852号73頁)では、上司が部下の精神的健康状態を把握し、適切に対処する義務を怠った場合の法的責任が認められています。
逆に、ビックカメラ事件・東京地判令和元・8・1LEX/DBでは、会社が労働者も問題行動に対して懲戒処分や指導を行っていたほか,精神科医への受診及び通院加療等を命じるなどしているのに対し,労働者が,継続的な通院を怠り,問題行動を繰り返していることを考慮され、会社において休職の措置をとることなく解雇に及んだとしても,解雇権を濫用したものということはできないとされています。
(2)診断書が提出された場合の復職支援と労務管理のポイント
遅刻や欠勤を繰り返す問題社員から診断書が提出され、休業制度が適用された後の職場復帰判断においては、単なる疾患の回復度合いだけでなく、業務遂行能力や主治医・産業医の意見、本人の意向を総合的に勘案しなければなりません。職場復帰後は、フォローアップや必要に応じた業務軽減など、安全配慮義務の一環としての職場環境調整が求められます(さいたま市事件(環境局職員)事件・東京高判平29・10・26労判1172号26頁)。
3 指導・警告の正しい進め方と証拠化の徹底
(1)改善勧告書や指導記録の作成の必要性
遅刻や欠勤を繰り返す問題社員への指導において、最も基本的な要素は改善の機会を与えることです。指導は最初は口頭で行われますが、改善が見られない場合は「注意書」や「警告書」、改善指導票などの書面を交付し、いつ、誰が、どのような注意をしたのかを記録化することが不可欠です。これにより、遅刻や欠勤を繰り返す問題社員本人が自身の非違行為を明確に認識できる教育的効果も期待できます。
(2)裁判で勝つための客観的証拠の揃え方
裁判においては、証拠に基づいた事実認定が行われます。遅刻や欠勤を繰り返す問題社員の非が大きくても、客観的な証拠(メール、業務日誌、指導記録等)が不足していれば、懲戒処分や解雇は無効と判断される恐れがあります。遅刻や欠勤の具体的な回数、注意・指導の経過、それに対する本人の反応などを形に残しておくことは、実務上極めて重要です。
(3)「指導を無視し続けた」という事実が解雇の正当性を支える
遅刻や欠勤を繰り返す問題社員に対し、上司が繰り返しの注意や警告を行ったにもかかわらず改善が見られなかったという事実は、解雇の有効性を判断する際の重要な考慮要素となります。裁判例(東京プレス工業事件・横浜地判昭57・2・25判タ477号167頁、グラビティ事件・東京地判令4・2・25労ジャ127号48頁東京プレス工業事件、日立製作所事件)でも、段階的な懲戒処分や再三の指導を経てなお態度が継続された場合に、解雇が有効とされています。
昭和電線電纉事件・横浜地川崎支判平16・5・28労判878号40頁でも、勤務成績不良を理由とする解雇有効性の判断にあたっては、解雇をもって臨まなければならないほど、質的にまたは程度的に重大な事実であるかどうか、使用者側が労働者に改善矯正を促したのに改善がなされなかったかどうか、指導による改善可能性が見込めないかどうか、職場の規律維持に重大な支障を与えたかどうか、使用者側に落ち度がなかったかどうかを総合考慮して決すべきとされ、それらの改善矯正措置ないことが会社に不利な判断を導く根拠とされています。
4 懲戒処分から解雇へ至る法的手順
(1)いきなりの解雇が「無効」になる理由
遅刻や欠勤を繰り返す問題社員に対し、適切な勤怠管理や事前の指導・懲戒を行わずに突如解雇を行うと、解雇権の濫用として無効とされる可能性が非常に高いです。裁判例では、日常的に遅刻・欠勤を繰り返していても、会社が警告や軽度の懲戒処分を行っていなかったために、解雇が無効とされています(昭和電線電纉事件・横浜地川崎支判平16・5・28労判878号40頁も同旨を判示しています)。
(2)裁判所で「解雇有効」と判断されるためのハードル(解雇権濫用法理)
労契法16条により、解雇は「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」と認められない場合は無効となります。遅刻や欠勤を繰り返す問題社員の事案では、勤怠不良の程度が著しく、改善の機会を与えても向上の見込みがなく、かつ業務に重大な支障を与えている場合に、初めてこのハードルを越えることができます。
最近のグラビティ事件・東京地判令4・2・25労ジャ127号48頁でも、多数回にわたる業務指示・命令の拒否等の元従業員の行為は、就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するといえ、そして、元従業員は、長期間にわたって業務指示や服務規律に違反する行為をし続けており、その指示違反、規律違反の程度は著しいと言わざるを得ず、会社は、元従業員が問題行動を起こすたびに注意し、問題点を指摘し、指導した上、派遣業務指示違反について懲戒処分を行い、段階的に処分の強度を強めて元従業員に改善の機会を与え続けたにもかかわらず、元従業員は不合理な主張を繰り返し、会社からの指導を受け入れる姿勢を見せず、最終的には案件への派遣指示・命令を拒絶し続け、会社の社員が、元従業員について嘆願書を会社に提出して、元従業員の対応に改善を求めるに至っており、会社において元従業員を他の部署に異動させるなどの対応をとることが困難となっていることも踏まえれば、会社には解雇以外に採り得る手段はなかったといえるから、本件解雇は、客観的に合理的な理由があるもので、社会通念上相当性もあり、有効であるとされています
(3)勤怠不良を理由とした「普通解雇」と「懲戒解雇」の違いと選択基準
普通解雇は能力不足や適格性の欠如(債務不履行)を主な理由とし、懲戒解雇は企業秩序違反に対する制裁として行われます。遅刻や欠勤を繰り返す問題社員の規律違反が極めて悪質な場合(例:2週間以上の正当な理由のない無断欠勤)には懲戒解雇が検討されます。一方、意欲の欠如や能力不足が主眼であれば普通解雇が選択されることが一般的ですが、いずれも事前の注意指導や弁明の機会の付与が前提となります。
なお、懲戒解雇は会社内の人事上の措置としての極刑に当るところから、裁判所により、その有効性が極めて厳格に判断されるため、労働者を会社から排除することが最優先課題である場合には、会社として、訴訟に至った場合のリスクを下げるべく、普通解雇を選択すべきです。
5 トラブルを未然に防ぐ就業規則の見直しポイント
(1)勤怠管理規定と懲戒事由(遅刻・欠勤の回数等)の明確化
就業規則には解雇事由や懲戒事由を具体的に記載し、労働者に周知しておく義務があります(労基法89条、労契法7条)。遅刻や欠勤を繰り返す問題社員への対応を念頭に、勤怠不良の頻度や継続性、指導に対する不応などの評価項目を明確にし、「その他前各号に準ずる事由」といった包括的条項を設けることも実務上有効です。
(2)試用期間中の本採用拒否が認められる条件と手続き
試用期間中の解約権行使は通常の解雇よりも広い範囲で認められますが、やはり客観的合理性と社会通念上の相当性が必要です(三菱樹脂事件・最大判昭48・12・12民集27巻11号1536頁)。採用時に知ることができなかった資質や能力の不適格性が、遅刻や欠勤を繰り返す行動として現れた場合、それを理由とした本採用拒否が有効とされる可能性があります。ただし、有期雇用契約の場合はさらに「やむを得ない事由」が求められる点に留意が必要です(労契法17条1項、民法628条)。
リーディング証券事件・東京地判平25・1・31労経速2180号3頁でも、有期労働契約と無期労働契約とでは、解雇規制という点では、有期労働契約の方がより厳しい要件が課せられているものと解され、有期労働契約の中途解約おいては、客観的に合理的な理由および社会通念上相当である事情に加えて、同法17条1項所定の雇用期間の満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の事由の存在を要するとされれています。そこで、労働者を会社から排除することが最優先課題である場合で、かつ、期間満了が近い場合には、会社として、訴訟に至った場合のリスクを下げるべく、解雇ではななく、雇止めを選択すべきです。
(3)無断欠勤が続く場合の「自然退職」規定の活用
行政通達(昭和23年11月11日基発1637号等)によれば、原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合は、即時解雇の目安となります。就業規則において、一定期間の無断欠勤を自然退職事由として定めておくことも、遅刻や欠勤を繰り返す問題社員への対策として検討に値します。
たとえば豊田自動織機製作所事件・名古屋高判昭48・3・15労判183号50頁では、「事故欠勤が1カ月以上で特別の事由が認められないときは、自然退職となる」という定めは使用者の解雇の意思表示を待つことなく、1カ月の事故欠勤期間満了と同時に自然退職となることを定めたものとされています(詳細は、岩出誠「労働法実務大系」第2版〔民事法研究会〕540頁参照)。
6 遅刻・欠勤問題の解決を弁護士に依頼するメリット
(1)過去の裁判例に基づいた見通し
遅刻や欠勤を繰り返す問題社員への対応には、膨大な裁判例の蓄積があります。解雇が有効とされた例や無効とされた例を分析し、自社の事案が法的にどのような評価を受けるか、正確な見通しを立てることが可能です。
(2)泥沼の訴訟を避けるための退職勧奨(合意退職)の交渉代理
一方的な解雇は法的な紛争リスクが高いため、遅刻や欠勤を繰り返す問題社員に対しては、まず退職を促し合意によって契約を解消することを試みるべきです。弁護士による適切な退職勧奨は、後の「解雇権濫用」との主張を回避し、円満な解決を図るための有力な手段となります。
(3)労働基準監督署による是正勧告や労働審判への迅速な対応
遅刻や欠勤を繰り返す問題社員が労働基準監督署へ駆け込んだ際、蓄積した指導記録等の証拠をもとに会社側の対応の正当性を理路整然と説明する必要があります。労働審判や訴訟においても、指導の経過を具体的に立証することが重要であり、専門家による答弁書の作成は、迅速かつ適切な解決を支えます。
7 当事務所のサポート内容
遅刻や欠勤を繰り返す問題社員への対応に関する45年以上の顧問企業への日常的アドバイスの経験を踏まえて、上記6「遅刻・欠勤問題の解決を弁護士に依頼するメリット」の全てを享受できます。
つまり、懲戒処分や解雇に至る過程での改善指導の仕方、処分前後の退職勧奨シナリオの作成、立会、折衝、更には、法的紛争や、労働組合との団交に至った場合の対応などすべてに対応させていただきます。
さらに、最新労働法制と最新判例研究に即した問題社員対応に対応し易い就業規則等の諸規程やマニュアルの整備、既存の就業規則等の見直し、改正への助言や作成について多くの経験を有する当事務所にご相談いただければと思います。
また、問題社員対応についての幹部研修セミナー講師などでにおいても、ご相談いただければと思います。
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Last Updated on 2026年5月29日 by loi_wp_admin



