社員からのネット誹謗中傷に悩む方へ 弁護士が教える投稿削除と損害賠償請求の方法

文責:木原 康雄

1 社員によるSNS等での誹謗中傷が企業に及ぼす深刻な影響・リスク

現代社会では、多くの人がSNSや掲示板(以下、SNS等といいます)を利用し、それを通じて日常的に出来事を伝達したり、自己の意見、感想などを表明しています。手軽に利用でき、しかも匿名での利用も可能であることから、他者を誹謗中傷する投稿がされることも少なくなく、社会問題になっています。

このような投稿は、匿名であることから、見知らぬ他者に対してだけでなく、見知った者に対するものもなされ得ます。自分が勤務している会社に誹謗中傷が向けられることもあります。

本人は、会社に対する怒りに任せて、あるいは困らせてやろうと、場合によっては面白半分に、後先考えずに投稿しているのかもしれません。しかし、その投稿は不特定多数人に閲覧され得るものですので、会社に経営に重大な影響を及ぼしてしまう危険性があります。

このような危険としては、まず、消費者、取引先などからの社会的信用が損なわれることが考えられます。

また、誹謗中傷が会社の商品に関するものであれば、商品を撤去せざるを得なくなり、売上の減少や株価の下落といった、現実的損害が発生する可能性もあります。

投稿内容が社内的問題、たとえば、ある上司がセクハラやパワハラを行っているなどといったものであったとしても、その上司の評価だけでなく、会社全体の社会的信用・評価にも関わりますし、社内の混乱、雰囲気の悪化にもつながるでしょう。当該投稿を目にした他の社員のモチベーションを低下させ、有能な人材が流出してしまうかもしれません。

そして、投稿内容の調査や、マスコミ対応のために費やされるコストも小さなものではありません。

このように、社員による誹謗中傷の投稿は、会社に看過し難い損害をもたらすおそれがあります。

2 誹謗中傷投稿の削除

(1)裁判外の手段

誹謗中傷投稿の内容が、会社や関係者の名誉・信用毀損に至っている場合、当該投稿の削除ができないか検討することになります。

削除手段としては、まず裁判外のものとして、コンテンツプロバイダ(SNSや掲示板の提供事業者)が公表しているメールアドレスや窓口宛てに削除依頼を行うというものがあります。

その際、「情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会」が策定しているガイドライン中の「侵害情報の通知兼送信防止措置依頼」の書式を利用する方法もあります。

(2)裁判上の手段

ただ、これらはコンテンツプロバイダに任意の対応を求めるものですので、削除がなされない場合もあります。

その場合、裁判上のものとして、コンテンツプロバイダを相手方に、投稿記事の削除請求の仮処分を申し立てることが考えられます(通常訴訟も可能ですが、判決が出るまで時間がかかってしまいます)。

3 投稿した社員の特定

(1)裁判外の手段

誹謗中傷投稿が社員によって行われた場合には、その社員が同様の発信を繰り返さないように、また、これを真似して他の社員が類似の発信を行わないように、当該社員に対して厳正に対処することが必要になります。

そのためには当該社員を特定しなければなりませんが、SNS等上で氏名が記載されていれば、当該社員を特定することは、ある程度容易といえます。では、匿名や仮名の場合には、どのように特定すればよいでしょうか。

情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)5条が、投稿によって権利を侵害された者のプロバイダ等に対する発信者情報開示請求権を定めていますので、まずこれを裁判外で行使することが考えられます。

具体的には、「情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会」が策定しているガイドライン中の「発信者情報開示請求書」の書式を利用して、コンテンツプロバイダに発信者のIPアドレスやタイムスタンプ等を、また、アクセスプロバイダ(発信者が契約している、投稿の通信を媒介した事業者)に、当該IPアドレスが割り当てられた発信者の氏名、住所等の開示を請求することになります。

(2)裁判上の手段

もっとも、その際、プロバイダは発信者に開示に同意するかどうか意思確認することとされていますし、また、情報流通プラットフォーム対処法5条の要件に該当し開示すべきかどうかの判断が難しいことから、発信者情報の開示がなされない場合も少なくありません。

その場合には、裁判上の手続として、コンテンツプロバイダに対して発信者情報開示の仮処分を申し立て(時間がかかるため、通常訴訟はあまり利用されません)、そこで得たIPアドレス等をもとに、アクセスプロバイダに対し、発信者情報開示請求訴訟を提起することが考えられます。

なお、2022年10月1日施行の情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)の改正により、発信者情報開示命令の手続が新設されています。この手続においては、裁判所が、まずは緩やかな要件の下で、コンテンツプロバイダに対し、アクセスプロバイダの名称等の提供を命じることができるものとされています。申立人は、当該名称等に係るアクセスプロバイダに開示命令の申立てをし、それを受けた裁判所は、両プロバイダに対する開示命令事件を併合して審理することになります。つまり、改正前まで、法的手続きを2段階で順次行わなければならなかったのですが、この開示命令手続では1つの手続きで審理されることになりますので、迅速な開示が期待できることになったのです。

ただし、この手続きでは、上記2の投稿記事の削除請求を一緒に審理することができないので、削除請求も同時に行いたい場合などは、まずはコンテンツプロバイダを相手方として、投稿の削除とIPアドレス等の開示を求める仮処分を申し立てることが必要になります。

(3)2025年4月1日施行の改正法について

ちなみに、同法の2025年4月1日施行の改正により、総務大臣が指定する大規模プラットフォーム事業者(現在、Google LLCやLINEヤフー株式会社、X Corp.などが指定されています)は、削除申請への対応の迅速化のための措置(削除申出窓口の整備・公表など削除申出方法を定めて公表すること、削除申出に対する調査など)、及び、削除等の運用状況の透明化のための措置(削除指針や運用状況の公表など)を講ずることとされています。

コンテンツプロバイダが大規模プラットフォーム事業者である場合には、当該事業者が設置した削除申出窓口に、上記2の裁判外の削除依頼を行うことになります。

4 特定された社員に対する損害賠償等

以上の手段により誹謗中傷投稿を行った社員が特定された場合には、誹謗中傷によって生じた損害について、損害賠償請求を行うことが考えられます。

また、懲戒処分や、誹謗中傷の度合いが酷い場合には、名誉棄損罪(刑法230条)、侮辱罪(同法231条)、信用毀損・業務妨害罪(同法233条)などでの刑事告訴も検討されます。

これらについては、「会社に対する誹謗中傷を行う問題社員への対応方法とは?労務に精通した弁護士が解説」もご参照ください。

▼関連記事はこちら▼

会社に対する誹謗中傷を行う問題社員への対応方法とは?労務に精通した弁護士が解説

5 誹謗中傷トラブルを予防するための就業規則とSNSポリシー

以上、事後的な措置について述べてきましたが、そもそも誹謗中傷投稿がなされないように、事前の予防的措置を講じておくことが重要といえます。

誹謗中傷トラブルを予防する方法としては、まず、就業規則において、SNS等を利用して会社や関係者、取引先等を誹謗中傷してはならないとの規定を設け、それに違反した場合、懲戒処分の対象となる旨を明記することが重要です。

ただ、日常的に様々な投稿がSNSでなされている状況においては、上記のような抽象的な禁止規定だけでは、具体的にどのような行為を行ってはならないのかや、行ってしまった場合のリスクが社員にうまく伝わらないおそれがあります。

そこで、就業規則を補完するものとして、SNSを私的に利用する際のガイドラインを制定し、禁止行為や注意すべき行為、誹謗中傷を行った場合のリスクを具体的に周知することが考えられます。

さらに、個々の社員の認識を深めるべく、定期的な社内研修を行う必要もあるでしょう。

就業規則やガイドラインの内容を認識し、これを遵守する旨の誓約書を社員に提出してもらうことも、効果的な予防方法の一つといえます。

6 当事務所がサポートできること

以上のとおり、社員によるSNS上の誹謗中傷に対しては、事後的に行為者を特定して、損害賠償や懲戒処分等を行うことと、そのようなことが起こらないよう、予防的に就業規則等を整備し、その内容を社員に十分に周知することが考えられます。

ただ、それらの方法は、裁判所を利用するものであったり、また、判例に関する知識をベースに、名誉・信用毀損に該当する内容なのかどうか、損害賠償や懲戒処分を行うとして、適切な重さ・金額はどの程度なのかを判断しなければなりません。社内研修においても、実際の判例を説明・紹介できれば、予防効果を高めることができるでしょう。

判例に関する知識や法的手続の経験を有する弁護士がお手伝いできますので、お気軽にご相談いただければと思います。

▼関連記事はこちら▼

問題社員対応(モンスター社員対応)について弁護士に依頼するメリットとは?対応の流れを解説!

Last Updated on 2025年9月8日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。