ハラスメントで労働審判を申し立てられた場合の会社側の対応について弁護士が解説

文責:中野 博和

1  ハラスメントで労働審判を申し立てられたら会社が最初にすべきこと

ハラスメントで労働審判を申し立てられた場合、申立人が作成した労働審判手続申立書などが裁判所から届きます。裁判所から労働審判手続申立書などが届いたときは、その後の初動対応が重要です。内容を確認した上で、速やかに弁護士に相談しましょう。

⑴ 会社にとってのリスク

ハラスメント事案の場合、労働者の請求内容は基本的に損害賠償請求となりますが、ハラスメントで労働審判を申し立てられることは、必ずしも、お金を払うかどうかという問題だけに留まりません。金銭的なリスクをはじめとして、例えば、以下のようなリスクを孕んでいます。

① 金銭的リスク

慰謝料だけでなく、未払残業代の請求などを伴うケースも多く、場合によっては解決金が数百万円規模に膨らむことがあります。

② レピュテーションリスク

労働審判の手続自体は非公開ですが、労働審判の手続内で解決することができなかった場合、基本的に民事訴訟へ移行します。民事訴訟では手続が行為されます。また、敗訴判決が出た場合、世間の会社に対する評価が下がり、採用活動や取引などに悪影響を及ぼす可能性があります。

③ 組織内への波及

ハラスメントへの対応を誤れば、ハラスメントが発生しても会社は加害者を守るのでは、という不信感が他の労働者に広がり、離職や士気の低下を招く可能性があります。

⑵ 初動対応の遅れが不利になる理由

労働審判では、裁判官1名のほか、労働者側・使用者側の労働審判員2名の合計3名で労働審判委員会を構成します。

労働審判は、原則として3回までしか期日が開かれないこととなっており、1回期日では、労働審判委員会が、それまでに労働者と会社から提出された申立書、答弁書、証拠を踏まえて、事実関係を当事者や関係者に口頭で確認します。一通り確認が終わると、それ以降は、基本的に労働審判委員会が、和解をすることができるかについて、労働者と会社それぞれに対して、意向を確認することになります。

そのため、労働審判においては、第1回期日までの対応で労働審判委員会の心証のほとんどが決まってしまいます。民事訴訟の場合には、後から主張や証拠を追加することもできますが、労働審判では第1回期日での心証が、そのまま調停案(和解案)などに直結してしまいます。

第1回期日は、原則として、申立人が申立書を裁判所に提出してから40日以内の日となっています(ただし、実務上は、会社側出席者の日程の都合などの理由から、40日以内とならないことも多いです。)。

会社側が労働者側の申立書に対する反論等をまとめた答弁書や証拠を提出する期限は、第1回期日の1週間前です。裁判所が労働者側の申立書を会社に送達するまでに一定の時間を要することからすると、実質的に会社の準備期間は1ヶ月もないことになります。

そのため、いかに初動対応を迅速に行うことができるかが重要となります。

2 会社側が確認すべき3つの重要ポイント

申立書などを受け取ったら、ただちに以下の3点について事実確認を行うべきです。

⑴ 事実関係の把握(発言・行為の内容・頻度・場所など)

申立書において申立人が主張しているハラスメント被害が、いつ、どこで、誰によって、どのような形で行われたものと記載されているのかを確認するべきです。

⑵ メールや録音等の客観的証拠、加害者、目撃者の供述・証言の確認

メール、チャットツール、録音等の客観的な証拠の有無及び内容を確認することが重要です。

ハラスメントの加害者とされる者に対し、申立人の主張するハラスメント被害について、事実であるか、事実でないとすれば加害者とされる者が認識している事実関係はどのようなものであるか等を確認することも重要です。

また、申立人が主張するハラスメント被害について目撃者がいるか否かを確認することも重要です。目撃者がいる場合には、目撃者に対しても、当該ハラスメント被害が事実であるか、事実でないとすれば目撃者が認識している事実関係はどのようなものであるのか等を確認する必要があります。

⑶ これまでの対応記録の有無及び内容の確認

会社には、パワハラ、セクハラ、マタハラ、パタハラ及びケアハラ等のハラスメントについて、相談窓口を設置する等の措置義務があります。

労働者が労働審判を申し立てる前の段階において、会社の相談窓口に問い合わせ等を行うことも多いので、相談窓口への問い合わせの有無、内容及び問い合わせへの会社の対応内容等について、確認するべきです。

3 弁護士と連携して進める実務対応

⑴ 申立書・答弁書での主張の整理と期限遵守

申立人の主張を一つずつ確認し、認めるか認めないか、認めない場合にはどのような理由で認めないのか、申立人の主張に対してどのような反論ができるか等を検討します。この検討に際しては、弁護士に相談しながら進めるべきでしょう。

また、裁判官(労働審判官)と労働審判員は、事前に申立書、答弁書及び証拠等を確認し、第1回期日に臨みます。

労働審判官と労働審判員が申立書、答弁書及び証拠等を確認する段階において、できるだけ、会社側に有利な心証を持ってもらうことが重要です。

そのためには、答弁書等の内容を充実させることはもちろんですが、提出期限までに答弁書等を提出し、労働審判官と労働審判員に、きちんと内容を確認、検討してもらう時間を作ることが重要です。

⑵ 調査の実施と弁護士による内容チェック

事前に相談窓口への問い合わせや会社との任意交渉等を経ずに労働審判の申立てが行われた場合、会社は事実関係について調査できていないのが通常であると思われます。このような場合、速やかに調査を実施する必要があります。

調査の方法次第で、調査を効果的に行うことができない場合もありますので、適宜、弁護士に確認しながら調査を進めるべきでしょう。

⑶ 期日への出席者の選定

労働審判では、会社の代表者や人事部長など、決裁権を持つ人の出席が強く求められます。また、申立人の主張内容に関する事実関係を熟知しており、かつ冷静に受け答えができる担当者を選定します。

4 弁護士視点で見る「初動でやってはいけない」ミス

⑴ 調査等の事実関係の確認をおろそかにすること

すでに述べたとおり、労働審判においては初動対応に遅れが生じた場合、労働審判において、会社に不利に手続が進んでしまう可能性があります。

日々の業務が忙しいことなどを理由に、申立人が主張する事実関係の確認をおろそかにしてしまうと、答弁書等の準備が間に合わず、不十分な反論内容となってしまう可能性があります。

⑵ 答弁書等で反論をせずに期日当日に反論をしようとすること

第1回期日では、労働審判委員会が、事実関係等を当事者や関係者に口頭で確認しますので、第1回期日で申立人の主張に対して反論をすれば良いと考える方もいるかもしれません。

しかしながら、労働審判委員会が心証を形成するにあたっては、第1回期日当日において確認した事実関係だけでなく、それまでに提出された申立書、答弁書及び証拠等が非常に重要な考慮要素となります。

そのため、答弁書や証拠等を提出せずに、又は提出したとしても、不十分な内容で提出した場合には、労働審判委員会が心証を形成するにあたって会社側に不利に働く可能性があります。

5 チェックリスト(期限確認・事実把握・制度確認・証拠整理・出席者準備など)

カテゴリチェック項目確認状況
期限管理答弁書の提出期限(期日の約1週間前)を把握したか
第1回期日の出席者のスケジュールを確保したか
事実把握申立書に記載された各事実について認否を整理したか
申立人と加害者の人間関係、過去のトラブルを調べたか
制度・規程就業規則、ハラスメント防止規程があるか
社内相談窓口の対応記録はあるか
証拠整理関連するメール、チャット、社内SNSのログ等を保存したか
日報、業務指示書、指導記録などの書面を集めたか
医師の診断書や欠勤届などの状況を確認したか
人的対応加害者とされる労働者への聞き取りを行ったか
目撃者の有無と証言内容を確認したか
出席準備解決金支払いの決済権限を持つ出席者を決めたか

6 弁護士相談のメリットと相談すべきタイミング

⑴ メリット

① 見通し等の提示

ご相談内容を踏まえて、勝訴の見込みはどの程度あるか、どの程度の解決金(和解金)が妥当か、という落とし所について助言することができます。

② 感情的対立の緩和

弁護士が間に入ることで、当事者同士の感情的な衝突を防ぎ、冷静な話し合いが可能になります。

③ 説得的な書面作成

弁護士は、法律、指針、裁判例等を踏まえて、それぞれの事案に即した説得的な答弁書を作成します。

⑵ 相談すべきタイミング

裁判所から申立書等が届いてから、なるべく早いタイミングで相談するべきでしょう。

7 当事務所のサポート内容

当事務所では、ハラスメント問題や労働審判手続について豊富な解決・対応実績があります。

これらの実績を活かして、ハラスメントに関するアドバイスはもちろん、代理人としての法的手続等への対応等をさせていただくことが可能ですので、お気軽に当事務所にご相談ください。

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Last Updated on 2026年3月19日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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