【弁護士が解説】スポットワーク導入時の盲点|労働契約の成立時期とキャンセルに伴うリスク

【弁護士が解説】スポットワーク導入時の盲点|労働契約の成立時期とキャンセルに伴うリスク

文責:岩野 高明

近年、必要な時に必要な労働力を確保できるスポットワークを取り入れる企業が急増しています。しかし、「1日限りのアルバイトだから」、「マッチングアプリを介しているから」と安易に考えていると、思わぬ労務トラブルに発展することがあります。

実際、タイミーなどのスポットワーク仲介サービスを利用する飲食店やホテルを相手取り、スポットワーカーが未払賃金や損害賠償の支払を求めて訴訟を提起するという事態が相次いでいます。ワーカー側は、マッチング成立後のキャンセルは労働契約の違法な解雇に当たるなどと主張しています。2026年1月30日の神奈川簡易裁判所の判決では、原告の請求どおり、飲食店に対して約2900円の支払が命じられました。

このような状況を踏まえ、本記事では、スポットワークにおける労働契約の成立時期や、直前キャンセルによって発生する法的義務、そしてトラブルを未然に防ぐためのリスク管理について、弁護士の視点から詳しく解説します。

1 スポットワークにおける労働契約の成立時期と雇用主としての法的責任

スポットワーク仲介サービスを利用した場合の労働契約は、システム上で「マッチングが成立した瞬間」に、その特定の日時・条件での労働契約が法的にも結ばれたことになります。実際に稼働を開始していなくても、合意があった時点で企業には雇用主としての責任が発生しているのです。

【厚生労働省の見解】
スポットワークでは、雇用仲介アプリを用いて、事業主が掲載した求人に労働者が応募し、面接等を経ることなく、短時間にその求人と応募がマッチングすることが一般的である。面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人に労働者が応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するものと一般的には考えられる。

2 雇用主都合のキャンセルによって発生する責任

⑴ 休業手当の支払義務(労働基準法第26条)

労働契約が成立した後で、雇用主である企業がその都合によって労働者を休業させた場合には、企業は労働者に対し、少なくとも平均賃金の100分の60以上の休業手当(労働基準法第26条)を支払う義務を負います。

労働基準法第26条(休業手当)
 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

スポットワークであっても、例えば、タイミーなどの仲介アプリ上でマッチングが成立した後、企業側の都合でキャンセルした場合には、企業はワーカーに対し、少なくとも上記の休業手当を支払わなければなりません。

⑵ 賃金全額の支払義務(民法第536条2項)

「少なくとも」としたのは、場合によっては、企業は100分の60ではなく、本来支払うはずであった賃金全額の支払を強いられる可能性もあるからです。

休業手当の「使用者の責に帰すべき事由」というのは、本来、急激な景気の悪化や新型コロナ禍のように、企業にとって労働者に休業を強いるのがやむを得ないような場合を想定しており、このような場合でも、労働者の最低限の生活を保障するために支払を義務づけられているのが休業手当です。

休業手当とは別に、民法第536条2項では、「債権者の責めに帰すべき事由」によって債務を履行することができなかったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない旨が規定されています。「労務の提供」という「債務」についてみれば、この場合の「債権者」は飲食店などの企業であり、労務を提供する義務を負う「債務者」は、スポットワーカーということになります。債権者である企業の責めに帰すべき事由によって債務者であるワーカーが労務を提供することができなくなったときは、ワーカーは、「反対給付」、すなわち賃金全額の支払を求めることができるということになります。この条項が適用される場合というのは、キャンセル等によってワーカーを休業させることについて、企業側にやむを得ないような事情がなかった場合です。

民法第536条2項
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

⑶ 休業手当か賃金全額か

キャンセルが休業手当の「使用者の責に帰すべき事由」と評価されるか(この場合は100分の60)、もしくは「債権者の責めに帰すべき事由」と評価されるか(この場合は賃金全額)は、キャンセルをした際の事情が考慮されますが、単に「当日の客足が伸びなかった」とか、「他のワーカーと契約したので不要になった」とかいうのがキャンセルの理由であれば、当該キャンセルは後者の事由に当たると評価される可能性が非常に高いと考えられます。

一方、前者の事由に該当する場合というのは、例えば、飲食店やホテルで団体の予約が急にキャンセルされてしまったために、当初は必要であった人員が不要になってしまった場合などが考えられます。

キャンセルの時期も考慮されるでしょう。人員の余剰が生じる可能性があるのにスポットワーカーにキャンセルを通知せず、直前になって初めてキャンセルを通知したような場合には、休業手当の支払では済まされず、賃金全額の支払が必要になる可能性があります。

3 スポットワーク活用のリスクとトラブル回避策

弁護士の視点から強調したいのは、どれほど短時間の単発労働であっても、スポットワーク契約は労働契約であり、労働基準法が全面的に適用されるという点です。たとえスポットワーク仲介サービスの利用規約に「キャンセルをしてもペナルティはない」旨の規定があったとしても、スポットワーカーとの関係では上記の法律が優先しますので、規約等を盾に義務を免れることはできません。

スポットワークを安全に活用するために、企業は以下の2点を見直す必要があります。

⑴ 募集プロセスの見直し

マッチングが成立した瞬間に労働契約が成立し、企業の側もこの契約に拘束されるため、「とりあえず人を確保して、後からシフトを調整しよう」という安易な運用は避けるべきです。本当にその人数が必要か、シフトに間違いがないかを事前に社内で精査することが肝要です。

⑵ キャンセル時の迅速かつ誠実な対応

やむを得ない事情でキャンセルせざるを得ない場合は、即座にワーカーへ連絡し、休業手当の支払を含めた誠実な対応をするという運用体制を整えておきましょう。

4 スポットワークの労務管理に関して弁護士に相談するメリット

スポットワークは比較的新しい働き方であり、法整備や行政のガイドラインも日々アップデートされています。自社だけの判断で運用することには、一歩間違えれば大きなリスクが伴います。

労務管理について、弁護士などの専門家に相談することには以下の大きなメリットがあります。

① 新しい働き方に伴う法的リスクの正確な把握

直前キャンセルの問題のほかにも、スポットワークについては、ワーカーの側からは「従事する業務が約束と違う」とか、「業務について十分な説明がない」といった苦情が、また、企業の側からも「ワーカーのスキルや態度に問題があり、かえって負担が増してしまう」といった不満が寄せられるなど、多くの課題が生じています。ワーカーとの間のトラブルは、SNSへの投稿による炎上や、マッチングプラットフォーム側からの利用停止処分に繋がるリスクがあります。弁護士へ相談することで、自社の運用が現在の法律に合致しているかを正確に把握することができます。

② 労働契約上のトラブルを未然に防ぐ「予防法務」の実現

トラブルが起きてから対処する(紛争解決)のではなく、「トラブルが起きない仕組みを作る(予防法務)」ことが重要です。事前に利用規約の読み込みや、自社向けの社内運用のマニュアル(ガイドライン)を弁護士と共に策定しておくことで、現場の担当者が迷わず、かつ法的に安全な採用活動を行えるようになります。

5 まとめ:便利なツールだからこそ、正しい法的知識で安全な活用を

スポットワークは人手不足を解消する強力な武器になりますが、その根底にあるのは「人と人との労働契約」です。「この運用で法律上問題ないだろうか」、「直前キャンセルが発生してしまい対応に困っている」といった不安や疑問がございましたら、トラブルが深刻化する前に、ぜひ一度当事務所までお気軽にご相談ください。貴社のビジネスモデルに合わせた最適な労務管理をご提案いたします。

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Last Updated on 2026年6月26日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。