大学非常勤講師の労働者性を認めた国立大学法人大阪大学事件大阪高裁判決に見る「無期転換ルール」と「労働者性」の判断基準について弁護士が解説

大学非常勤講師の労働者性を認めた国立大学法人大阪大学事件大阪高裁判決に見る「無期転換ルール」と「労働者性」の判断基準について弁護士が解説

文責:中野 博和

本記事では、大阪大学事件を題材に、業務委託契約等における「労働者性」の判断基準や、労働契約法に基づく「無期転換ルール」および「雇い止め法理」について解説しています。労働者性は契約名称ではなく、指揮監督の有無や労務対償性といった実態から判断されます。法的トラブルや敗訴によるリスクを回避するため、雇い止め等の判断を下す前に、法的根拠や裁判例を踏まえて弁護士に相談し、適切な対応策を策定することが重要です。

1 事案の概要:国立大学法人大阪大学事件

近時、教育機関や一般企業などにおいて、実質的には労働者であるにもかかわらず、業務委託などの契約形態をとることで、労働関係法令の適用を免れようとする事例が社会問題化しています。今回ご紹介する国立大学法人大阪大学事件(以下「本事件」といいます。)は、大阪大学で長年勤務してきた非常勤講師らが、大学側による契約不更新に対し、労働契約法に基づく無期雇用への転換を主張して争った非常に注目すべき労働事件です。

⑴ 通算5年を超える有期雇用と無期転換の申し出をめぐる経緯

本事件の原告は、大阪大学で語学などの授業を担当していた4名の非常勤講師です。彼らは、被告である国立大学法人大阪大学との間で委嘱契約を反復更新しながら通算5年を超えて勤務していました。

労働契約法18条では、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者の申し込みによって無期労働契約に転換できる、「無期転換ルール」が定められています。原告らはこれに基づき、大学側に対して無期転換の申し込みを行いました。

しかし、大学側は、原告らとの契約は労働契約(雇用契約)ではないため、労働契約法は適用されず、無期転換は認められないと主張し、無期転換の申し込みを拒否したうえで、期間満了を理由に原告らを雇い止めとしました。そこで、原告らは、労働契約上の権利を有する地位の確認や雇止め後の未払賃金の支払いを求めて民事訴訟を提起に至りました。

⑵ 一審・二審で分かれた「指揮監督下(労働者性)」の判断と高裁判決の結果

この裁判における最大の争点は、原告らが労働契約法上の労働者に該当するか否かです。

一審(大阪地判令和7130日)

一審の大阪地裁は、主として、以下の事情から原告らを労働契約上の労働者と認めず、請求を棄却しました。

①具体的仕事の依頼、業務従事の指示に対する諾否の自由の有無

委嘱契約で合意した業務を超えた業務の依頼等がなされてもこれに応じる義務がないため、原告らに業務従事の指示等について諾否の自由があると判断しました。

②業務遂行上の指揮監督の有無

非常勤講師である原告らは、授業の担当について広範な裁量を有することを考慮しても、あらかじめ本件委嘱契約で定められたところに従って業務を遂行するにとどまり、業務の遂行に当たり、被告から一般的のみならず、具体的な指揮監督を受けることが想定されていないことがうかがわれるのであり、業務遂行上の指揮監督を否定する方向に働くものといえる。

原告らが、シラバスと授業計画の内容に従って授業を行い、成績評価等を行うことは、委嘱契約の義務の履行そのものであるほか、成績評価の方法等の指定があったとしても、非常勤講師である原告らは、被告の授業を提供するという業務を行う以上、多数の学生を公平に取り扱い、被告の求める一定の水準を満たす授業内容を提供することが求められるという業務の性質上不可欠なものといえる。

③勤務場所及び勤務時間に関する拘束性の有無及び程度

大学の授業は一定の日時に一定の場所で行うものであることからすると、業務の性質上、必然的に上記の場所及び時間の指定がされているにすぎないのであって、原告らが委嘱契約によって強い時間的かつ場所的な拘束を受けていたということはできない。

④原告らの報酬が労務提供の対価として支払われたか(労務対償性)

非常勤講師である原告らの報酬は、1コマを2時間相当として、授業1回につき1 万3370円と算定されていることからすると、時間給を基礎として算定されているとみる余地があるが、授業の事前準備としてどの程度の作業をどの程度の時間をかけて行うかは原告らに委ねられていること、被告における授業の実施は、出来高等の成果によって報酬を決定することが性質上困難であることも踏まえると、単位時間当たりの金額を基礎として、報酬を定めざるを得ない側面も否定できないため、上記の報酬の算定方法をもって、直ちに労務対償性があると評価することはできない。

控訴審(大阪高判令和8515日)

控訴審である大阪高裁は、主として、以下の事情から原告らを労働契約上の労働者と認め、一審判決を取り消し、一審原告らの労働契約上の権利を有する地位の確認及び雇止め後の未払賃金の支払請求を認める判決を下しました。

①具体的仕事の依頼、業務従事の指示に対する諾否の自由の有無

委嘱契約に含まれる業務について諾否の自由は制約されている一方で、委嘱契約外の業務を命じられることはなかったといえるものの、そのこと自体は、委嘱契約上職種や業務内容が限定されていることに由来するものであり、労働者性を否定する意味を持つものではないと判断しました。

②業務遂行上の指揮監督の有無

非常勤講師は、作成したシラバスの審査を受け、このシラバスに基づく授業を実施する必要があること、成績評価について、大学側の指揮監督を受ける専任講師により必要に応じて変更、訂正されることがあることから、一審原告らが大学側の指揮監督を受けていることを認めました。

③勤務場所及び勤務時間に関する拘束性の有無及び程度

勤務場所や勤務時間が指定され、勤務時間につき一定の管理がされていたということができるが、これらの事情は、少なくとも労働者性を否定する方向で考慮されるべきものではないと判断しました。

④原告らの報酬が労務提供の対価として支払われたか(労務対償性)

上記②に挙げられた事情からして、報酬が一定の授業時間を基礎として算定されている面があり、その限りで労務対償性が認められると判断しました。

2 「無期転換ルール」の基本と「雇い止め法理」の適用要件

本件の法的根拠となった「無期転換ルール」(労働契約法18条)と、労働契約の打ち切り(不更新)を制限する「雇い止め法理」(労働契約法19条)は、有期雇用労働者を保護するための極めて重要な制度です。

⑴ 労働契約法18条に基づく無期転換ルールの仕組みと条件

無期転換ルールは、有期労働契約(パートタイマー、アルバイト、契約社員など名称は問いません)が更新されて通算5年を超えた場合、労働者が使用者に対して無期労働契約への転換を申し込むことができる制度です。

【成立の要件と効果】

無期転換の要件: ①同一の使用者との間で締結した2つ以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超えること、②現に締結している有期労働契約の契約期間が満了するまでの間に、使用者に対し、期間の定めのない労働契約の締結の申込みをすること。

申込みの効力: 労働者が無期転換の申込みを行った時点で、使用者の承諾の有無にかかわらず、無期労働契約が成立します。使用者は申込みを拒むことはできません。なお、無期転換においては、期間が無期になるだけであり、給与や業務内容などの労働条件は、就業規則等で別段の定めがない限り、直前の有期契約と同一の条件が引き継がれます。

⑵ 労働契約法19条に基づく雇い止めの制限の2段階の要件

有期労働契約は、原則として期間満了により終了します。しかし、次の2段階にわたる要件を満たした場合、雇止めは認められず、有期労働契約が更新されたものとみなされます。

【第1段階】

まず、次の①、又は②のいずれかに該当することが必要です。

①有期労働契約が過去に反復して更新され、当該有期労働契約を更新しないことにより契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者を解雇することと社会通念上同視できると認められること。

②労働者が契約の更新を期待することに合理的な理由があると認められること。

【第2段階】

第1段階での要件を満たした場合でも、有期労働契約の締結の申込みを使用者が拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、かつ社会通念上相当であると認められないこと。

そのため、この段階においては、使用者としては、客観的合理的理由があり、かつ社会通念上相当であることの双方が認められると主張・立証していく必要があります。

3 労働契約法上の「労働者」性を分ける使用従属関係

⑴ 労働契約法における「労働者」の定義とは

労働契約法2条1項において、「労働者」とは「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義されています。

労働者であるか否かは、契約の名称ではなく、実態を見て判断することとなっています。そのため、当事者間で「業務委託契約」「請負契約」「委任契約」といった書面を取り交わし、税務上も個人事業主として扱っていたとしても、実態として使用者の指揮命令を受けて労務を提供していれば、法的には「労働者」に該当します。

⑵ 労働者性を判断するうえでの重要な要素

労働者性の有無については、1985年(昭和60年)の労働省(現・厚生労働省)の労働基準法研究会報告(以下「労働基準研究会報告」といいます。)において判断基準が挙げられており、裁判所も同様の基準に基づき判断しています。

労働基準研究会報告では、労働者であるか否かは、使用従属性の有無により判断するものとし、使用従属性の有無は、大きく分けて、以下の①と②の2つの要素から判断するとしました。

① 指揮監督下の労働であるか否か

会社から具体的な指揮命令を受けて働いているかを、以下のア~エの4つの視点で判断します。

ア 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無: 仕事の依頼や指示に対して断る自由があるか否か。断る自由がない場合は指揮監督下の労働であることを肯定する方向に働きます。

イ 業務遂行上の指揮監督の有無: 仕事のやり方、手順などに具体的な指示・命令を受けているか否か。指示・命令を受けている場合には指揮監督下の労働であることを肯定する方向に働きます。

ウ 拘束性の有無: 働く時間や場所を指定され、管理されているか否か。働く時間や場所を指定、管理されている場合には指揮監督下の労働であることを肯定する方向に働きます。

エ 代替性の有無: その仕事を他の人に任せてもよいか否か、また、本人の判断で補助者を使うことが認められているか否か。自分自身で仕事をしなければならない場合は指揮監督下の労働であることを肯定する方向に働きます。

② 報酬の労務対償性

支払われるお金が、仕事の完成に対する対価ではなく、働いたことそれ自体に対する対価としての性質を持っているか否か。時給で計算されていたり、遅刻や欠勤をした場合に報酬が減額されていたりする場合には報酬の労務対償性を肯定する方向に働きます。

⑶ 労働者性を判断するうえでの補強的な要素

労働基準研究会報告では、上記の要素だけでは判断が難しい限界的な事例の場合には、さらに、事業者性の有無、専属性の程度、その他の事情(選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であるか、報酬について給与所得の源泉徴収をしているかなど)の補強要素を総合的に考慮して判断するとされました。

4 労働者性をめぐるトラブルに関して弁護士に相談・依頼するメリット

⑴ 法的根拠に基づいた労働者性に対する評価

上記のとおり、労働者性については、契約の名称ではなく、実態をみて判断されます。また、その具体的な判断基準としては、実務上、労働基準研究会報告において挙げられている基準によるのが通常です。

弁護士に相談をすることにより、労働基準研究会報告や過去の裁判例などから、個別の事案ごとに、労働者性が認められるか否かの見立てをしてもらうことができ、これを踏まえて、契約更新を終了するか否かの判断をすることができます。

⑵ 法的紛争に発展した際のリスク評価と対応策の策定

雇い止めをめぐって労働者側の代理人弁護士から書面(受任通知書など)が届いたり、民事訴訟が提起されたりした場合、企業単独で対応するのは困難でしょう。

万が一、民事訴訟に発展し、企業側が敗訴した場合、バックペイ等の金銭的リスクやレピュテーションリスクが現実化してしまいます。

弁護士に代理人を依頼した場合、かかるリスクの具体的な内容がどのようなものかや、敗訴し、リスクが現実化する可能性がどの程度あるかなどを評価しつつ、対応策を提案してもらうことが期待できます。

5 当事務所のサポート内容

当事務所では労働者性や雇止めの問題について豊富な解決・対応実績があります。

これらの実績を活かして、労働者性や雇止めに関するアドバイスはもちろん、代理人としての法的手続等への対応等をさせていただくことが可能ですので、お気軽に当事務所にご相談ください。

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Last Updated on 2026年7月31日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。