不当解雇で訴えられた企業が取るべき対応とリスク管理について弁護士が解説

文責:福井 大地

解雇とは、従業員との間の雇用契約を使用者が一方的に終了させることです。「不当解雇」として従業員から訴訟を提起されるケースは、企業にとって深刻な経営リスクとなり得ます。解雇が無効と判断された場合、多額の金銭支払い(バックペイや解決金)が発生するだけでなく、訴訟対応に要する時間や労力、さらには企業イメージの低下といった、有形無形の損害を被る可能性があります。

本稿では、人事労務問題を専門とする弁護士の立場から、企業経営者や人事労務担当者の皆様に向けて、不当解雇で訴えられた場合の具体的な対応策とリスク管理等について解説します。

1 解雇の種類

解雇は、普通解雇、懲戒解雇に分類されます。

このうち、懲戒解雇とは労働者の企業秩序侵害行為に対する懲罰としての趣旨で行うものであり、それ以外の趣旨による解雇は一般に普通解雇に包含されます。

普通解雇の理由としては、従業員の能力不足、勤務態度不良、健康状態の不良等のほか、会社の経営不振による人員整理(いわゆる整理解雇)など多岐にわたります。

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2 解雇に関する法的規制

⑴ 解雇権濫用法理

労働契約法第16は、以下の条文の通り、解雇についての規律として解雇権濫用法理を定めています。

労働契約法 第16条(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

同法理に基づき、解雇には、客観的合理的な理由、社会通念上の相当性が要求されます。これが認められるか否かは、解雇の業務上の必要性の有無・その程度(例えば、能力不足を基礎づける事実、その程度、指導により改善可能性を与えたか否か等)、解雇回避努力(配転等によって解雇を回避する努力)の履践の有無、手続的保障の有無(当該従業員との協議の有無)等諸般の事情から総合的に判断されます。

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⑵ 手続的規制

解雇を行う際には、労働基準法第20条に基づき、原則として以下の手続きを守る必要があります。

解雇予告:使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。

解雇予告手当: 30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。この解雇予告手当を支払えば、予告期間を短縮することができます。例えば、解雇日の10日前に予告した場合は、20日分の解雇予告手当を支払うことで解雇が可能です。

ただし、懲戒解雇など労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合や、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には、解雇予告手当を支払うことなく即時の解雇が可能です(同条1項ただし書き)。もっとも、この場合には、労働基準監督署の認定(解雇予告除外事由の認定)を受けなければならないとされています(同条3項・第19条2項)。

⑶ その他の規制

上記の解雇権濫用法理や解雇予告制度のほかにも、個別の労働法令によって、特定の状況や事由に基づく解雇が明確に禁止されています。これらに該当する解雇は、それ自体が違法であり無効となります 。業務上の負傷・疾病による休業期間及びその後30日間(労働基準法第19条)

  • 産前産後休業期間及びその後30日間(労働基準法第19条)
  • 国籍、信条、社会的身分を理由とする差別的解雇(労働基準法第3条)
  • 労働基準監督署等への法令違反の申告を理由とする解雇(労働基準法第104条)
  • 労働組合への加入や正当な組合活動を理由とする解雇(労働組合法第7条)
  • 性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法第6条)
  • 女性労働者の婚姻、妊娠、出産、産前産後休業等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法第9条)
  • 育児・介護休業等の申出・取得を理由とする解雇(育児・介護休業法第10条)

3 不当解雇を訴えられた場合の対応

従業員から不当解雇であるとして何らかの法的措置(書面による裁判外の請求、労働審判の申立て、訴訟提起など)が取られた場合、企業は迅速かつ適切に対応しなければなりません。対応を誤ると、企業の金銭的負担が増大するだけでなく、企業イメージにも悪影響を及ぼしかねません。

⑴ 事実関係の調査、証拠の収集・保存

まず、解雇に至った経緯や理由について、客観的な事実関係を詳細に調査・確認することが不可欠です。そして、その解雇が正当であることを裏付けるための証拠を収集し、保全する必要があります 。  

収集・保存すべき証拠としては、以下のようなものが挙げられます。

〇労働契約関係書類: 雇用契約書、労働条件通知書など

〇解雇手続き関連書類: 解雇通知書、解雇理由証明書など

〇解雇理由を裏付ける客観的証拠

・能力不足・成績不良の場合: 人事評価記録、過去の指導記録、他の従業員へのヒアリング結果等

・整理解雇の場合: 経営状況を示す財務資料(決算書等)、労働組合や従業員との協議の議事録など

⑵ 専門家への相談

従業員から不当解雇の主張があった場合、できる限り早い段階で、労働問題に精通する弁護士に相談することが極めて重要です。  

そもそも、解雇が前記の解雇権濫用法理に抵触するか否か等、解雇の有効性に関しては、杓子定規に定まるものではなく、裁判例等に基づいた“微妙”な評価が求められます。そのため、前提として、当該事案における解雇に関し、労働審判・訴訟等に至った場合に有効・無効いずれと判断されるかについて見通しを立てるために、専門家に相談することが重要です。

また、バックペイについては、解雇から時間が経過すればするほど必然的に増加していくものであって、迅速な事案解決による損失の増大防止という観点からも、早期の専門家への相談は重要となります。

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⑶ 早期の話合い

訴訟や労働審判に発展する前に、当事者間の話し合いによって解決を図ることも重要な選択肢です。特に、解雇の有効性に疑義がある場合や、紛争の長期化によるコスト・リスクを避けたい場合には、和解交渉を検討すべきです。

⑷ 労働審判・訴訟等への対応

解雇に関し、裁判外での交渉により解決しなかった場合には、労働審判または訴訟に移行するのが一般的です。

労働審判とは、裁判官1名と労働関係の専門家である労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理し、調停(話し合いによる解決)を試みるか、それが不可能な場合は事案の実情に応じた判断(労働審判)を行う手続きです。

労働審判の場合には、会社側は第一回期日の1週間前に答弁書を提出する必要があるのが通常であるところ、第一回期日は申立てから40日以内に設定されるのが原則です。そのため、答弁書の作成時間の猶予は十分とはいえず、迅速な対応を求められることに注意する必要があります。

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4 従業員の解雇について当事務所でサポートできること

当事務所では、人事労務問題を専門とする弁護士が、企業側の立場から、従業員の解雇に関する様々な問題について、以下のようなサポートを提供しております。

・解雇についての事前のリスク評価: 特定の従業員の解雇を検討されている場合に、その解雇が法的に有効と判断される可能性、潜在的なリスク(不当解雇と判断された場合のバックペイや慰謝料の目安など)について、具体的な状況を伺った上でアドバイスいたします。

・退職勧奨の進め方に関するアドバイス

解雇ではなく、従業員との合意による退職(退職勧奨)を目指す場合の、適切な進め方や注意点についてアドバイスいたします。違法な退職強要とならないよう、慎重な対応が必要です。

・解雇紛争(交渉、労働審判、訴訟)における代理人活動:

従業員から不当解雇を主張された場合に、企業の代理人として、従業員側との交渉、労働審判手続き、訴訟手続きに対応いたします。専門的な知識と経験に基づき、企業にとって最善の解決を目指します。

・再発防止のための社内体制構築支援

不当解雇紛争を経験された企業に対して、その原因を分析し、同様の問題が再発しないようにするための社内体制(人事評価制度の見直し、管理職研修の実施、相談窓口の設置など)の構築をサポートいたします。

従業員の解雇は、企業にとって非常にデリケートで法的なリスクも高い問題です。安易な判断は避け、問題が深刻化する前に、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。貴社の状況を詳細に伺い、最適な解決策をご提案させていただきます。

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Last Updated on 2025年5月21日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。