
文責:福井 大地
本記事では、アルハラ(アルコールハラスメント)の定義や該当する行為、アルハラが発生した場合に企業(会社)が負う法的責任とリスク、そして企業が取るべき具体的な対策について、労務問題に詳しい弁護士が解説しています。アルハラは、飲み会の場の問題として見過ごされがちですが、パワハラとして企業の責任が問われることもあります。社内ルールの策定、就業規則への明記、研修、相談窓口の整備を組み合わせ、組織として予防と早期対応の体制を整えることが重要です。
1.アルコールハラスメント(アルハラ)とは
1-1. アルハラの定義と、職場のパワハラにも該当し得る点について
アルハラとは、アルコールハラスメントの略称で、飲酒に関連して相手に嫌がらせをしたり、相手の人権を侵害したりする行為をいいます。アルハラは法律上の用語ではありませんが、一般に、飲酒を断りにくい立場にある者に対して飲酒を強いる行為や、飲酒の場での迷惑行為などを広く指す言葉として用いられています。
企業(会社)にとって特に注意が必要なのは、職場の上司・先輩が部下・後輩に対して行うアルハラは、職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)に該当し得るという点です。労働施策総合推進法30条の2は、パワハラを、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、と整理しています。上司から「俺の酒が飲めないのか」と迫られれば、部下としては断ることが難しく、業務上の必要性もない飲酒を強いることは、上記の要件を満たし得ます。
また、懇親会や歓送迎会などの社外の飲み会であっても、業務の延長として実質的に参加が求められている場であれば「職場」に含まれると解されるため、「業務時間外の私的な場だから会社は関係ない」とはいえない点に注意が必要です。
1-2. アルハラに該当する行為
アルハラに該当する典型的な行為としては、次のようなものが挙げられます。
① 飲酒の強要
上下関係や場の雰囲気を利用して、飲みたくない人に飲酒を迫る行為です。「乾杯の一杯くらいは飲むべきだ」「飲まないと評価に響く」といった言動のほか、断った相手を罰ゲームの対象にするなど、心理的に断りにくい状況を作ることも含まれます。
② イッキ飲ませ
短時間で大量のアルコールを摂取させる行為です。急激な血中アルコール濃度の上昇を招き、急性アルコール中毒により生命に危険が及ぶおそれがある、特に危険性の高いアルハラです。
③ 意図的な酔いつぶし
相手を酔いつぶすことを目的として飲ませる行為です。酔いつぶれた人を放置することは、場合によっては刑事責任にも直結します。
④ 飲めない人への配慮の欠如
体質的にアルコールを受け付けない人、持病や服薬中の人、妊娠中の人、宗教上の理由で飲酒しない人などに対し、ノンアルコール飲料を用意しない、飲まないことをからかう、といった配慮を欠いた言動です。
⑤ 酔ったうえでの迷惑な発言・行動
酒席でのセクハラ発言や身体接触、暴言・暴力など、酔いを理由にした迷惑行為もアルハラの一類型として捉えられます。「酔っていたので覚えていない」という弁解は、責任を免れる理由にはなりません。
1-3. アルハラを起こしやすい人・受けやすい人の特徴と思考の傾向
アルハラの行為者には、「酒の席は無礼講であり、多少羽目を外すのは当然」「酒を酌み交わすことでチームの一体感が生まれる」「自分も若い頃は飲まされて強くなった」といった考え方が見られる傾向があります。本人に悪意がなく、むしろ「場を盛り上げている」「部下と打ち解けようとしている」と認識しているケースも多く、それゆえに問題が表面化しにくいという特徴があります。
一方、アルハラを受けやすいのは、新入社員や若手社員、異動直後の社員、取引先との関係で立場の弱い社員など、場の空気に逆らいにくい立場の人です。また、真面目で周囲に気を遣う人ほど、無理をして飲んでしまい、被害が深刻化する傾向があります。
企業としては、個人の資質の問題として片付けるのではなく、組織の飲酒文化そのものがアルハラを生みやすい土壌になっていないかを点検する視点が求められます。
2.アルハラが発生した場合の法的責任と企業リスク
2-1. 企業が負うリスク(安全配慮義務違反、使用者責任に基づく損害賠償責任)
アルハラが発生した場合、行為者本人だけでなく、企業(会社)も法的責任を問われる可能性があります。
第一に、使用者責任(民法715条)です。従業員が「事業の執行について」第三者に損害を与えた場合、会社は使用者として損害賠償責任を負います。会社主催の懇親会や、業務上の関係を背景とした飲み会でのアルハラは、「事業の執行について」なされたものと評価される可能性があります。
第二に、安全配慮義務違反(労働契約法5条)・職場環境配慮義務違反です。会社は、労働者が生命・身体の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する義務を負っています。アルハラの申告を受けながら放置した場合や、過去にも同様の問題があったのに何らの対策も講じていなかった場合には、会社自身の債務不履行責任が問われることになります。
さらに、労働施策総合推進法は、事業主に対しパワハラ防止のための雇用管理上の措置(方針の明確化・周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応等)を義務付けています。アルハラ対策の不備は、この措置義務の不履行として、行政指導の対象ともなり得ます。
2-2. 行為者本人が問われる可能性のある刑事責任(傷害罪、強要罪、保護責任者遺棄罪など)
アルハラの態様によっては、行為者本人が刑事責任を問われることもあります。例えば、次のような犯罪が成立し得ます。
・傷害罪(刑法204条):飲酒の強要により急性アルコール中毒に陥らせた場合など
・傷害致死罪(刑法205条):上記の結果、死亡させた場合
・強要罪(刑法223条):脅迫や暴行を用いて飲酒を強いた場合
・現場助勢罪(刑法206条):イッキ飲みをはやし立てるなど、傷害の現場で勢いを助けた場合
・保護責任者遺棄罪・同致死傷罪(刑法218条・219条):酔いつぶれた人を介抱すべき立場にありながら放置した場合
特に、酔いつぶれた同僚をそのまま放置し、結果として重大な事態に至った場合には、飲ませた本人だけでなく、その場にいた者の責任が問題となる点にも留意が必要です。また、飲酒運転をするおそれがあることを知りながら酒類を提供した者や同乗した者は、道路交通法上の処罰対象となります。
2-3. アルハラが問題となった事例・事件(死亡事故や損害賠償に発展したケース)
職場のアルハラが不法行為と認定された裁判例として、ホテル運営会社の事案(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件・東京高判平25・2・27労判1072号5頁)があります。この事案では、上司が出張先で、アルコールに弱い部下に対して執拗に飲酒を勧め、部下の体調が悪化した後も配慮のない言動を続けたことなどが問題とされました。裁判所は、こうした一連の言動を部下の人格を侵害する違法なパワハラと評価し、慰謝料の支払を命じています。
また、大学のサークルや部活動の新歓コンパ等で、イッキ飲みにより学生が急性アルコール中毒で死亡し、遺族が飲酒を勧めた関係者に対して損害賠償を求める訴訟を提起する事例も繰り返し報じられています。職場の飲み会でも同様の事故が起これば、企業も当事者として責任を追及されることは避けられません。
2-4. 従業員の生産性低下や離職率の上昇、企業イメージの低下リスク
アルハラの影響は、法的責任にとどまりません。被害を受けた従業員は、飲み会への参加そのものに強いストレスを感じ、職場の人間関係に不信感を抱くようになります。その結果、メンタルヘルス不調による休職や、優秀な若手人材の離職につながるおそれがあります。
また、アルハラの実態がSNSや口コミサイト等で拡散されれば、「古い体質の会社」「ハラスメントを放置する会社」との評価が定着し、採用活動や取引関係にも悪影響が及びかねません。アルハラは、企業価値そのものを損なうリスクといえます。
3.アルハラを防ぐために企業が取るべき対策
3-1. 飲み会やアルコールに関する社内ルールの策定と基準の明確化
アルハラ対策の出発点は、何が許されないのかを明確にすることです。例えば、次のような社内ルールを定めることが考えられます。
・飲酒の強要・イッキ飲み・酒の注ぎ回りの強制を禁止する
・懇親会への参加は任意であり、不参加を理由とした不利益な取扱いをしない
・ノンアルコール飲料を必ず用意し、飲まない選択を尊重する
・会社主催の飲み会では開始・終了時刻を定め、二次会以降への参加を強制しない
・幹事や上席者に、体調不良者の把握・介抱・帰宅手段の確保の役割を持たせる
・飲酒運転の防止(運転予定者への酒類提供の禁止)を徹底する
ルールは「常識の範囲で節度をもって」といった抽象的な表現にとどめず、具体的な行為を示すことで、従業員が判断に迷わない基準とすることが重要です。
3-2. 就業規則等による禁止方針の明記および従業員への周知・啓発
アルハラを含むハラスメントの禁止を就業規則に明記し、違反した場合には懲戒処分の対象となることを定めておく必要があります。懲戒処分を有効に行うためには、懲戒の種別と事由を就業規則に定め、従業員に周知しておくことが前提となるためです。
あわせて、ハラスメント防止規程やガイドラインを整備し、アルハラが具体例として含まれることを明示することが効果的です。経営者自らがアルハラを許さない方針を発信すれば、社内の意識改革を後押しすることにもなります。年末年始や歓送迎会シーズンの前に、社内報やメールで改めて注意喚起することも有効な対策です。
3-3. アルハラに関する社内研修や教育プログラムの実施
アルハラは、行為者に「悪いことをしている」という自覚が乏しいことが多いため、継続的な教育が欠かせません。研修では、アルハラに該当する具体的な行為、急性アルコール中毒の危険性、体質によってアルコールの分解能力に大きな個人差があること、法的責任の内容などを、事例を交えて解説することが効果的です。
特に、飲み会を主催する立場になりやすい管理職層に対しては、一般社員向けとは別に、部下への配慮や、アルハラを目撃した際の止め方、事後対応の手順について重点的に教育することが望まれます。
3-4. ハラスメント相談窓口の設置と、事案発生時の迅速な対応体制の整備
アルハラは上下関係の中で起こるため、被害者が声を上げにくいという特徴があります。そのため、社内の相談窓口に加え、外部の弁護士等による相談窓口を設けるなど、相談しやすい環境を整えることが重要です。相談者のプライバシーを保護し、相談したことを理由とする不利益な取扱いを禁止することも、規程上明確にしておく必要があります。
相談を受けた場合には、速やかに事実関係の調査を行います。調査では、相談者・行為者・目撃者から個別にヒアリングを行い、「強要された」といった評価ではなく、いつ、誰が、どのような言葉や行動をとったのかという具体的な事実を確認することが大切です。事実が確認された場合には、行為者への懲戒処分や配置転換、被害者へのケア、再発防止策の実施まで、一連の対応を迅速に進める体制をあらかじめ整えておきましょう。
4.アルハラ問題の対応や予防策の構築を弁護士に依頼するメリット
アルハラへの対応を誤ると、被害者からの損害賠償請求を受けるだけでなく、行為者に対する懲戒処分が重すぎるとして、今度は行為者から処分の無効を争われるおそれもあります。アルハラ対策を実効的なものとするには、法的な観点からの検討が不可欠です。
弁護士に依頼することで、まず、自社の実情に即した社内ルール・就業規則・ハラスメント防止規程を、法的に有効な形で整備することができます。また、アルハラの申告があった際には、事実調査の進め方、ヒアリング記録の作成方法、懲戒処分の相当性について、裁判例を踏まえた助言を受けることができます。
さらに、被害者やその代理人から損害賠償請求を受けた場合や、行為者から処分の有効性を争われた場合には、交渉や労働審判・訴訟の対応を任せることができます。外部相談窓口を弁護士に委託すれば、従業員が安心して相談できる体制を構築でき、問題の早期発見にもつながります。
5.当事務所のサポート内容
アルハラに関するご相談は、問題が表面化してから寄せられることがほとんどです。「歓送迎会で部下に無理に飲ませた管理職をどう処分すべきか」「被害を受けた社員の代理人弁護士から通知書が届いた」「懇親会の後に社員が体調を崩し、家族から会社の責任を問われている」といった場面では、事実関係をどう確認し、最初にどのような手を打つかが、その後の展開を大きく左右します。
当事務所は、事務所創設から42年以上にわたり、企業側の立場で労務問題に取り組んでまいりました。ハラスメント事案についても顧問先企業様から日常的にご相談をお受けしており、ヒアリングの進め方や記録の残し方といった調査段階の助言から、懲戒処分の量定の検討、被害者側との交渉、労働審判・訴訟への対応まで、一貫してお手伝いしております。
もっとも、アルハラは、飲み会のあり方や社内の慣行を見直すことで防ぐことのできる問題でもあります。就業規則やハラスメント防止規程の改定、懇親会に関する社内ルールの作成、管理職向けの研修といった予防の取組みについても、各社の業種や社風を踏まえてご提案いたします。
「昔からの慣習だから」と見過ごしてきた飲み会の習わしが、社員にとっては耐えがたい苦痛であったというケースは少なくありません。社内での対応に迷われた際には、問題が大きくなる前に当事務所までご相談ください。
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Last Updated on 2026年10月19日 by loi_wp_admin



