
文責:中野 博和
1 団体交渉が「長期化」する典型パターン
団体交渉を長期化させる原因としては、①労働組合の要求事項が多い、②労働組合が無茶な要求に固執している、③企業側が誠実に交渉しない、④企業側の交渉担当者に決定権限がない、などが挙げられます。
⑴ 労働組合の要求事項が多い
団体交渉では、1回あたり2時間程度の時間を設けて実施するのが一般的です。
労働組合の要求事項が多い場合、1回の団体交渉ですべての要求事項についてまで話し合うことができず、結果的に何度も団体交渉の期日を設ける必要が生じ、団体交渉が長期化してしまう可能性があります。
⑵ 労働組合が無茶な要求に固執している
労働組合が法的には認められないような事項を要求し、これに固執しているような場合、企業側は当該要求に応じることができない根拠や資料などを示す必要があり得るため、団体交渉が長期化してしまう可能性があります。
⑶ 企業側が誠実に交渉しない
企業側がなかなか団体交渉の期日を入れなかったり、関係資料を小出しに開示したりするなど、誠実に交渉しない場合、団体交渉が長期化してしまう可能性があります。
⑷ 交渉担当者が事情を把握できていない
企業側の交渉担当者が事情を把握できていない場合、団体交渉において労働組合が主張する内容について、その場で回答できず逐一持ち帰って確認するという回答になりかねません。
このような状況では話し合いがなかなか進まず、何度も団体交渉の期日を設ける必要が生じ、団体交渉が長期化してしまう可能性があります。
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2 団体交渉における誠実交渉義務とは何か
団体交渉において、企業側は誠実交渉義務を負います。
誠実交渉義務の具体的な内容は、カール・ツアイス事件(東京地判平成元年9月22日労判548号64頁)において、「使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務がある」と判示されています。
すなわち、使用者は、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務を負うことになります。
例えば、労働組合から組合員の賃上げを要求された場合、単に「賃上げはできない」と回答するのみでは団交拒否になってしまいます。
結論として賃上げができないとしても、なぜ賃上げをすることができないのかの根拠を、決算資料等の資料を提示しつつ具体的に説明することが必要となるのです。
また、団体交渉の時間・場所、団交中の録音制限など団体交渉の実施にあたって不合理な条件を提示してそれに固執する場合なども、誠実交渉義務に違反することになります。
使用者が誠実交渉義務に違反した場合、団交拒否の不当労働行為(労働組合法7条2号)当たります。
不当労働行為を行ってしまった場合、労働組合が労働委員会に対して救済申立てを行い、労働委員会から誠実交渉命令などの救済命令が発出されたり、労働組合から損害賠償を請求されたりするなどのリスクがあります。
労働組合が労働委員会に対して救済申立てを行った場合、労働委員会において救済命令を発出するか否かの審理を行うことになるので、救済命令の発出という不名誉が生じるだけでなく、審理への対応を余儀なくされるという負担が生じることについても留意が必要です。
3 交渉拒否可能な要求か否かの判断基準
労働組合の要求に対して、必ずしもすべての事項の交渉に対応しなければならないわけではありません。
交渉に応じなければ団交拒否の不当労働行為に該当する交渉事項と、団交拒否の不当労働行為にはならない交渉事項とがあります。
前者を義務的団交事項といい、後者を任意的団交事項といいます。
義務的団交事項とは、①組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営(ユニオン・ショップ協定、便宜供与、団体交渉ルール、労使協議、争議行為の手続等)に関する事項であって、②使用者に処分可能なものをいいます。
例えば、個々の労働者の解雇、懲戒、人事考課、配転などが義務的団交事項に該当します。
上記①又は②を満たさない事項は任意的交渉事項であり、交渉それ自体を拒否することができます。
例えば、経営方針や生産計画などについては、原則として義務的団交事項に該当しません。
もっとも、このような経営に関する事項であっても、労働者の労働条件に関連する場合には、義務的団交事項に該当します。
例えば、特定の業務を外注化する場合、それが労働者の労働条件に重大な影響を与えるようなときは、義務的団交事項となり得ます。
また、労働組合が、その組合の組合員でない者の労働条件について団体交渉を求めてきた場合、組合員の労働条件の問題と共通、もしくは密接に関連するものである場合、又は組合員の労働条件に重要な影響を与えるものである場合、使用者は組合員でない者の労働条件の問題について、団体交渉義務を負うものと考えられています。
そのため、新規採用者の初任給や管理職の労働条件なども、義務的団交事項に該当し、使用者が団体交渉義務を負う可能性があります。
ただし、義務的団交事項に該当するとしても、それは交渉自体を行わなければならないというものにすぎず、労働組合の要求を受け入れなければならないということではありません。
4 主導権を握るための進行
⑴ 団交事項の事前確定
団体交渉を行うにあたっては、事前に労働組合が団体交渉の申し入れをする際に、要求事項を併せて申し入れるのが通常です。
そこで、労働組合と団体交渉の日時・場所等の事務折衝をする際に、団体交渉で話し合う事項を確定しておくとよいでしょう。
⑵ 宿題と書面回答の活用
団体交渉において、その場で即答が難しい質問や、根拠資料の提示を求められた際に、焦って不正確な回答をすることは絶対に避けるべきです。
このような場合は、一旦持ち帰り、関連部署等と協議の上、次回までに書面等で回答する旨回答するべきです。
これにより、冷静に法的・実務的な検討を行う時間を確保し、回答内容を文書化することで、後で「言った・言わない」の紛争を防ぐ、というメリットがあります。
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5 労働委員会・訴訟に備えておくべき証拠
交渉が決裂し、労働組合が労働委員会への不当労働行為救済申立てや訴訟に踏み切った場合、客観的な証拠が非常に重要になります。
労働委員会や裁判所は、証拠に基づいて事実を認定します。そのため、団体交渉の録音データ、組合に対する回答書、組合に開示した資料等の客観的な資料を残しておく必要があります。
6 当事務所のサポート内容
当事務所では、労働組合との団体交渉の豊富な解決実績があります。
これらの実績を活かして、団体交渉事案に関するアドバイスはもちろん、代理人としての法的手続等への対応等をさせていただくことが可能ですので、お気軽に当事務所にご相談ください。
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Last Updated on 2025年10月14日 by loi_wp_admin



