【弁護士が解説】パタハラに関して企業がとるべき対策について

【弁護士が解説】パタハラに関して企業がとるべき対策について

文責:岩野 高明

1 パタハラ(パタニティ・ハラスメント)とは

パタハラ(パタニティ・ハラスメント)という言葉を目にするようになってきました。パタハラとは、育児休業、子の看護等休暇、時間外労働や深夜業等の制限、時短勤務といった育児介護休業法で認められている子の養育のための制度を男性労働者が利用しようとする際、上司や同僚がこれを妨げようとしたり、嫌がらせをしたりして、当該男性労働者の就業環境を害することをいいます。

女性労働者に対するマタハラ(マタニティ・ハラスメント)に比べると、まだそれほど社会に浸透している言葉ではないように思われますが、法令上は、すでにパタハラを防止すべき義務が企業に課せられています。男性労働者の育児休業が増えていくにつれて、パタハラの防止も、マタハラの防止と同様に、企業の重要な課題になってくるでしょう。

2 マタハラとの違い

女性労働者については、(育児介護休業法で)子の養育に関する企業のハラスメント防止義務が定められているほか、(男女雇用機会均等法で)妊娠や出産に関するハラスメント防止義務が定められており、一般的に、これら両方のハラスメントをまとめてマタハラと呼んでいます。一方、男性労働者については、自身の妊娠・出産に関するハラスメントは想定されませんので、パタハラは、(育児介護休業法で認められている)子の養育に関する制度の利用を妨げる態様の男性労働者に対するハラスメントということができます。

3 出生時育児休業

ここで、令和4年10月にスタートした出生時育児休業という制度について解説します。

出生時育児休業(育児介護休業法第9条の2)とは、子の出生から8週間の期間内に4週間以内の期間を定めてする休業をいいます。このような制度がなくても、女性労働者(母親)には産後休業の制度(労働基準法第65条2項)が用意されていますので、出生時育児休業は、実質的には男性労働者(父親)のための休業の制度ということができます。出生時育児休業は、「産後パパ育休」などとも呼ばれています。出生時育児休業の創設によって、男性労働者による制度の利用は今後増々増えていくことが予想されます。

4 法律上の根拠

上記のとおり、マタハラ(のうち子の養育に関するもの)とパタハラは、育児介護休業法で防止措置をとることが企業に義務づけられていますが、同法はマタハラとパタハラを区別して規定しているわけではありません。

育児休業や子の看護等休暇、時間外労働や深夜業等の制限、時短勤務などの制度は、男性(父親)・女性(母親)の区別なく、子を養育する「労働者」が利用できることになっています。企業には、これらの利用が妨げられることのないよう必要な措置をとるべき義務が課せられています。

5 パタハラの具体的な態様

パタハラ(マタハラにも共通します)の具体的な態様として、厚生労働省は、指針の中で以下のような例を挙げています(「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」)。

・労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を上司に相談したところ、上司が当該労働者に対し、当該申出等をしないよう言うこと

・労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、上司が当該労働者に対し、当該申出等を取り下げるよう言うこと

・労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該申出等をしないよう言うこと

・労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該申出等を撤回又は取下げをするよう言うこと

・労働者が制度等の利用をしたことにより、上司又は同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等(嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと又は専ら雑務に従事させることをいう)をすること

これらの言動を防止することが企業の責務となってきます。

6 企業がとるべき対策

育児介護休業法第25条は、パタハラ(及びマタハラ)に関して企業がとるべき措置について、次のとおり定めています。

育児介護休業法

第二十五条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

下線部の「厚生労働省令で定める制度又は措置」には、子の養育に関するものとしては、以下が挙げられています(育児介護休業規則第76条)。

◆育児休業

◆子の看護等休暇(子が小学校第三学年を修了するまで)

◆所定外労働の制限(子が小学校就学の始期に達するまで)

◆時間外労働の制限(子が小学校就学の始期に達するまで)

◆深夜業の制限(子が小学校就学の始期に達するまで)

◆所定労働時間の短縮措置(子が3歳に達するまで)

◆始業時刻変更等の措置や在宅勤務等(子が3歳から小学校就学の始期に達するまで)

「雇用管理上必要な措置」としては、具体的には、次のような措置が考えられます。

① 男性労働者の育児休業等に対する否定的な言動がパタハラに該当し得ることについて、労働者の理解を深めるべく研修や啓発をする

② 企業として「パタハラをしてはならない」旨の方針を策定し、管理監督者を含む従業員に周知する

③ パタハラを服務規律違反や懲戒事由に定める旨の就業規則の変更をする

④ パタハラに関する相談窓口を設置し、労働者に対して周知する

⑤ パタハラに関する相談がされた場合の対処方針や手順を整備する

育児介護休業法には、パタハラに関する国や企業、労働者の各責務について、次のような規定も置かれています。

育児介護休業法

第二十五条の二 国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行ってはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「育児休業等関係言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。

2 事業主は、育児休業等関係言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。

3 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。

4 労働者は、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。

企業は、その雇用する労働者が他の労働者に対してパタハラをしないよう、研修を実施したり、国の広報活動や啓発活動に協力したりする義務を負うとともに(法第25条の2第2項)、自らもパタハラに関する関心と理解を深め、労働者に対する言動に注意しなければなりません(同条第3項)。

7 不利益取扱いの禁止

パタハラの多くは、上司や同僚の(法律効果を伴わない)言動によるものですが、これとは別に、解雇等の法律行為によるパタハラは、育児介護休業法第10条で禁止されています。同条が禁止する解雇等は、民事上も効力を生じないと解されています。。

育児介護休業法

第十条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

指針では、次のような取扱いが「解雇その他不利益な取扱い」に該当し得るものとされています。

◆解雇や雇止め

◆有期雇用契約の更新回数の引下げ

◆正社員から非正規社員への変更の強要

◆自宅待機命令

◆時間外労働の制限等

◆降格

◆賃金の減額や賞与に関する低査定

◆昇進・昇格の人事考課における低査定

◆不利益な配置の変更

8 まとめ

育児休業等を利用する男性労働者は、今後も増え続けるでしょう。企業としては、利用を阻害しないよう従業員の啓発活動に努める必要があります。また、これらの制度の利用が一般的になるにつれて、そのしわ寄せを受ける可能性のある周囲の従業員への配慮も必要になってきます。パタハラ研修や具体的な事案への対処に関して、何かお困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。

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